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【帝国を継ぐ者・第二部】二人の皇帝候補 (第2回/全4回)

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【帝国を継ぐ者・第二部】二人の皇帝候補 (第2回/全4回)

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【アキバ@カンテミール:3】




「だがまあ……兎も角、今はこの戦いを何とかしないとな」

 ドミトリエの言葉に、皆が一度は緩んだ表情を引き締めなおし、リンはブリザードを放って、接近する親衛隊の足元を凍りつかせた。話している間にも、数に頼んで押し切るつもりなのか、親衛隊が波のように押し寄せてきているのだ。
 幸いにして、先頭に立っているのは殆どが寄せ集めの一般人だ。撃退そのものよりも、大怪我させないように手加減する方が寧ろ難しいくらいの相手だが、簡単に押し返せるかといえば、なかなかそうもいかなかった。
「むー、しぶといなー」
 ドミトリエたち地上班の先頭に立ち、{ICN0003296#宝貝・補陀落如意羽衣}を纏った鳴神 裁(なるかみ・さい)が呟いた。各自連携して、親衛隊員たちを次々と蹴散らしているのだが、その穴を埋めてくるのも早いのだ。
「原因は多分、あれだ」
 ドミトリエが指差した先にあるのは、鬼籍沢 鏨(きせきざわ・たがね)の野戦築城ヴァッサーシュパイアー
だ。市街地の中に据えられたそれは、イコンも含める親衛隊の拠点としてはもってこいだ。しかも、ヴァッサーシュパイアーの砲撃は、妙に正確にエカテリーナ陣営をかき回すように狙って寄越されるのだ。対イコン傭兵のガードも堅く、短時間では落とせそうにはない。
「あっちはイコンのパイロットたちに任せて、兎に角こっちを蹴散らしちゃうっきゃないっしょ☆」
 そう言って、一般人の対処を、未憂や光一郎達に任せると、物部 九十九(もののべ・つくも)を体に憑依させ、親衛隊の後方に控える明らかに雰囲気の違う面々へと飛び掛った。
 魔鎧のドール・ゴールド(どーる・ごーるど)、ギフトの黒子アヴァターラ マーシャルアーツ(くろこあう゛ぁたーら・まーしゃるあーつ)を身に纏った完全武装の裁は、四天王たちが操る機晶姫のイメージ元だと思われるゲームのキャラクターをトレースする動きで、路地を突っ切り、時に壁を駆け上がりと、アトラクションヒーローさながらに、本職の戦士たちを相手に立ち回っていた。九十九のおかげで痛覚を遮断し、リジェネレーションの回復力をもって、四天王たちの機晶姫の無茶な動きにあわせることが出来ているのだ。
「『黒き影よ。我等が手を組むなど、戦いとはわからぬものだな』」
 裁の、どこかのキャラクターを意識した台詞に「くくく」と四天王の一人が低く笑った。
「『だが、某と貴様が手を組んだ以上、最早負けは有り得ぬ』!」
「「『『最速! 最硬! 最強ォオ!!』』」」
 二人の声がハモり、クロスアタックが戦士の一人を一撃で沈めた。
 それにしてもこやつらノリノリである。
「『さて次の獲物は――』……っと、とおうっ!?」
 そのノリのまま更に突撃しようとしていた裁は、横を通り過ぎたレーザーに慌てて飛び退いた。後方からの思わぬ攻撃(?)に、裁は振り返ると「おーい」と口を尖らせた。
「危ないなあ、ボクまで焼いちゃわないでよ?」
「わわわわ、わかっているのだよ!?」
 裁以上に慌てた声で答えたのは、ラルクデラローズのリリだ。エカテリーナに頼んでいたビットが完成したのは良かったのだが、いざ起動となると、これが大事だった。ラルクデラローズのマント型シールドが開いて、七本の薔薇の浮遊砲台が射出されたのだ、が。
「全然当たらないじゃないか」
 ララが息をつく横で、火器管制担当のリリは爆発寸前だった。
「無理無理無理無理無理ッ! 7台がバラバラに動いた上に照準つけるなんて土台無理だおッ!」
 四天王でさえ、一人一機の操作だ。当然と言えば当然である。
『だから大丈夫かって聞いたのだぜ……やる前に気付くだろjk』
「ぐぬぬ……っ」
 エカテリーナの言葉に唸るリリだったが、反論の余地はない。大人しく、浮遊砲台はエカテリーナ機預かりとなって、七人のドワーフ達が受け持つことになった。途端に生き生きと空中兵器と化したビットに、ララは目をきらきらと輝かせると、ラルクデラローズと共にポーズを決めたのだった。
「名付けてローズ・テンペスト! 我が洗礼を受けよ!」
「我等は何もやってないというのにその切り返し……流石だな、兄者」

 そんな彼女等と、目立ち具合で負けていないのは、高崎 朋美(たかさき・ともみ)達だ。
 朋美とウルスラーディ・シマック(うるすらーでぃ・しまっく)の乗るウィンダムは、敵イコンから地上の部隊を守るため、かつ、迎撃によって敵の位置を確認するための囮として動いているのだから、ある意味当然ではある。それに、目立つように動いていると言っても、あまり街に被害を出さないように、と、攻撃そのものは控え目なのだ。問題は高崎 トメ(たかさき・とめ)である。
「覚悟のないモンは、戦の場なんかに出てきたらあかしまへん!」
 そんな事を叫びながら、銃を乱射しまくる女性。しかもアキバだのシブヤだのと言う戦場に、おっかさん、と言ってしまいそうな良い年の女性が、若者に混じって走り回っているのだから、目立たない筈がない。
「こんなか弱い年寄りに、殺生なんかさせんとくれやすー!」
 そう言いながらトメがぶっ放つのはショットガンなのだが、生憎とツッコミ役は不在なのだった。


「ギャーッ、助けてぇえええ!!」
「お゛がーざーん゛っ!!」
 そんなこんなで、お互いの勢いに任せて、戦線を押し上げたり後退したりとを繰り返す、両陣の正面だったが、裏でエカテリーナ陣の勢いに貢献する武尊の行く先々は、阿鼻叫喚といった様相を呈していた。
 街のいたるところにある監視カメラの映像を元に、又吉が割り出した親衛隊の別働隊のいるポイントへ、光学迷彩や隠れ身を駆使して路地を渡り、影の中から、あるいは壁を横ばいに這いずってみたりと、神出鬼没かつホラーな登場のしかたをするおかげで、親衛隊たちは簡単に戦意を喪失して逃げ惑っているのだ。少しは骨のありそうな相手も、暗がりから突然チェーンソーを振り回されれば、冷静でいられるはずもない。
「つっても、この程度でこの有様ってんだから、本当に素人だよな……」
「でも素人にしてはさ、装備だけはかなりきっちりしてるんだよねー」
 武尊の呟くような言葉を通信で拾って、リンが首を傾げた。
「スポンサーでもついてるのかな、ティアラさんの後ろには」





 一方。
 そんな戦場を俯瞰で眺めながら「派手にやっているな」とマネキ・ング(まねき・んぐ)は満足そうに頷いていた。
 そんなパートナーの横顔を、セリス・ファーランド(せりす・ふぁーらんど)は複雑な顔で見やって息をつく。
「またロクでもない事を……この祭り騒ぎに乗じて商売とはな」
 言いながらセリスが取り出したのは、『大帝死後における軍事拡張路線と帝国傀儡化政策』と題された、大帝の崩御以前から、マネキが用意していた計画書だ。そこには、大帝の死後に起るだろう内乱と、皇帝候補者間の争いによって起こる帝国二分化の可能性、そしてそれを利用した帝国国内への軍事物資の流出の増加などについてが認められているのである。現実には内乱こそ無かったものの、正に今とこれからの状況が想定されているのに、セリスは呆れたように息を漏らした。
「まるで帝国が二つに割れると言っているようじゃないか」
「これほどの大国、そして国の性質上、その頭が居なくなれば実力行使の争いになるのは必然であろうよ」
 セリスの呟きに、マネキはくつくつと喉を鳴らして笑う。事実、次期皇帝候補をめぐって、このカンテミールでは表向き深刻には見えないものの、戦争状態に陥っているのだ。この状態は恐らくここだけに留まるまい、とマネキはその目を細める。
「予兆は既にあったのだよ。大帝が伏せた折から、何かとニルヴァーナ由来の武器に関して性能が知りたいと、声が掛かっていたからな」
 その言葉に、ぴくり、と反応したセリスがもの問いたげに視線をやったが、詳しくは語らずマネキは小さく笑いを漏らした。商品の性能は、目で見るのが一番手っ取り早い。本来ならその機会は商人側が用意するものだろうが、まるで狙ったかのようなタイミングでの今回の騒動だ。
「言わばこの戦場は、互いにとって良いデモンストレーション会場と言うわけだ」
 暗黙の了解の下で、あちらの狙いを悟ったマネキがそれに乗ったのだ、と理解してセリスは苦笑と共に肩を竦めた。
「全く……相変わらずの悪知恵だな。結局は利用だろ?」
「我々『陽竜商会』は欲しいと思うものに売るだけだ」
 セリスの呆れたような言葉に、マネキはしれりとそう答えたのだった。