校長室
【八岐大蛇の戦巫女】消えた乙女たち(第3話/全3話)
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●虚空を開く 「よし! 今だ」 八岐大蛇と契約者たちの激闘のさなか、仁科耀助が声を上げた。 「ローラ!」 柚木桂輔が手にしたアタッシュケースを開けると、ローラ・ブラウアヒメルはそこから一本の剣を取り出して握った。 玄武の剣……そのなれの果てだ。 彼らは最前線ではなややその後方で、大蛇の注目を浴びないようこの『実験』に挑んでいた。実験と言ってもこれを、二度以上繰り返す時間も余裕もない。この一回で成功させなければならない。 昨年末まで何度もツァンダ界隈を騒がせた八本の魔剣。玄武はその一本だ。すでに砕けているとはいえ、これが魔剣であることに違いはない。 玄武の剣には今なお、握る者を支配する力があるという。免疫のない人間であればたちまち精神を縛られ、大蛇の意を反映する存在になり果てるだろう。 これに抗うには、剣の支配から逃れた経験のある者……つまりローラが最適とされた。 ローラもそれを志願した。 耀助は険しい顔をしてそれを見ている。ドクター・ハデスらもこれを見守っていた。 ――撃たせないでくださいね……。 アルマ・ライラックはサンダーショットガンを握った。万が一、ローラが剣に支配された場合は銃撃して武器を叩き落とす決意である。 ローラは剣を握ったまま小刻みに体を震わせている。 桂輔は息を飲んだ。そんな彼女がなんだか、愛おしく思えたから。許されるなら抱きしめてその震えを止めてやりたい。しかしそれが、剣と精神的に戦うローラの邪魔になっては……と危惧してこらえた。 ララ・サーズデイも息を飲んで行方を見守っていたが、やがて静かに息を吐いた。 「大丈夫……剣、握ってもワタシ、自分の意思あるよ」 ローラがそう言ったからだ。多少青ざめているが、取り憑かれたような目の色ではない。 「なら急ごう」 耀助はうなずいた。長い時間が経ったように思えたが、実際はローラが剣を手にしてから十秒余りしか過ぎてはいない。 ローラは玄武の破片を手に、大蛇の方角を睨んだ。 「できそうですか?」 フレンディス・ティラが恐る恐る問うと、 「フハハハ! 我が辞書に不可能の文字はなーい! できぬはずがない!」 なぜかハデスが哄笑したので、 「いや、あんたの話じゃないから……」 ベルク・ウェルナートは突っ込むのである。 だがハデスの宣言通りになった。 大蛇を視界にとらえ、柄の先は破片だけになった玄武をローラが振り下ろすと、なにもない空間にぱっくりと孔(あな)が口を開けたのだ。孔の向こうは複数の色が混じり合っており、しかも暗い。 だが耀助の顔はこれを見て輝いた。 「よし、計算通り! これが精神世界への入口だ! 飛び込むぞ!」 言うなり真っ先に、彼はその暗い世界へと身を躍らせた。 「さて、虎児を取りに行くのだよ!」 リリ・スノーウォーカーが続く。残るメンバーも先を争うようにして精神世界に飛び込んだ。 全員が入り終えて数秒もしないうちに、空間に開いた孔は現れたとき同様の突然さで消失したのだった。