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【八岐大蛇の戦巫女】消えた乙女たち(第3話/全3話)

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【八岐大蛇の戦巫女】消えた乙女たち(第3話/全3話)
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●精神の海原で

「あらあら、ずいぶん寂れた世界ねえ。ほとんど焼け野原って感じじゃない。むしろ見捨てられた荒野……なんか昔は栄えてたけど今はその栄華の欠片もないって感じ?」
 精神世界に第一歩を踏み入れ、雷霆リナリエッタは肩をすくめて見せた。
 忍野ポチの助はフンと鼻を鳴らした。
「こんなチープな仮想現実なんてこの超優秀なハイテク忍犬たる僕に言わせれば大した事ありませんね!」
 そして、あっ、と声上げ行く手を指した。
「皆さんがあそこに!」
 アルセーネ・竹取の姿がある。龍杜那由他も。
 アルセーネはぐったりして座り込んでいる。那由他のほうはそんなアルセーネを揺すって意識を保たせようとしているようだ。
 さらに黄泉耶大姫、奇稲田神奈、鬼久保偲がいる。三人の頭上には大きな傘があり、これが空に現れた巨大な掃除機とあらがっていたが、すぐに掃除機は戦闘機ほどもアルマシンガンに変身し弾丸を乱れ打ちしはじめた。だがこれに、傘は鉄製のボウルになって抵抗する。しかしボウル程度では銃を防ぐにはあまりに薄いだろう。
 眼鏡をかけた小柄な少女が、五人を前にしてなにか言っている。嘲笑っているようにも見えた。リナリエッタらはその名を知らないが、彼女がこの世界における敵であることだけは容易にわかった。(この『敵』が加古川みどりであることはシナリオガイド部で述べた通りだ)
「精神世界の法則はすべて想像力にかかっていると聞きました。とにかく負けぬよう色々考えれば良いのですね……!」
 というフレンディスに、
「ご主人様、僕にお任せ下さい。あんな下等で頭数だけ多い蛇には、己が犬以下だと思い知らしめてやりましょう。あ、エロ吸血鬼とチャラ忍は僕の引き立て役として働くのです」
 ワオンと闘志を燃やす豆柴犬、それがトランスヒューワン(ヒューマンではなく!)ポチの助。ポチの助はだったったと駈けだした。
「ならばむむむ……蛇を踏みつける巨大犬、それが僕だと想像を……!」
 だがそれは、一本の棒に阻まれる。ポチの助は、急に地面から飛び出してきた木の棒に嫌と言うほど顔をぶつけてしまった。
「なにが僕の引き立て役として……だ。これが本当の『犬も歩けば棒に当たる』じゃねぇか」
 ベルク・ウェルナートが呆れ気味に言うも、彼の足元からも突然、泥だらけの丸太が飛び出してきて跳び退ることになった。
「フハハ、小悪党らしい小細工だな! これで我々を妨害したつもりか! 想像したものが具現化するという、八岐大蛇の精神世界……早速、我が想像力で戦力を具現化するとしようか!」
 ハデスは妄想もとい想像力を全開にした。彼の能力である記憶術、博識、メンタルアサルト、それに固有結界『厨二病』(注:そんなものはないが)を総動員する。
「おおっ、さすがは!」
 耀助もこれには驚いた。
 ロボット、サイボーグ、改造人間にアンドロイドに怪人! そんなデンジャラスな軍勢に加えて、黒覆面の戦闘員!(「イー!」とか鳴くあれだ) もひとつおまけに戦闘員、さらに戦闘員、戦闘員、戦闘員戦闘員戦闘員戦闘員戦闘員戦闘員戦闘員戦闘員戦闘員戦闘員戦闘員戦闘員戦闘員……黒山の戦闘員!
 これはすべてハデス一人の想像の産物、彼が理想とする『世界征服を企む秘密結社オリュンポスの大軍勢』が具現化したものだ。
「フハハハ! 見よ! この数百体の改造人間たちと、数千人の戦闘員! これだけの戦力があれば、この精神世界の制圧も容易かろう! さあ行くのだ、我が軍勢よ!」
 さすがに数千はいないようだが勢いというものがある。それにハデスが断言すればそう見えるのも事実だ。
 これには加古川みどりも驚いたようで、神奈たちを攻撃する手を止めた。
「ハデス殿、来てくれたのか!」
 神奈ははっとなり、目を輝かせた。彼女の様子なんかハデスは全然見ていないようだが、神奈の位置からそれはわからない。
 ところでそのハデスの様子にデメテール・テスモポリスはなにやら思いついたようだ。
「なっ……!? こ、この世界、望むものが具現化できるのっ?! そうと分かれば、やることはひとつ!」
 なにやら不埒な笑みをのぼらせ、デメテールは正座したのである。
「神奈の救出はマスターに任せたっ!」
 彼女は、、剥き出しの土に正座したのではない。
 温かいマットの上だ。
 それだけではない。デメテールが脚を伸ばすとそこはぽかぽかコタツの中で、天板の上にはミカンの乗った籠が輝いていた。おまけに目の前にはテレビとゲーム機があり、ちゃんと落ちものパズルのソフトが起動中だった。
「デメテールは、働きたくないのだ〜。ここから応援してるから、あとよろしくね〜」
 これぞ悪魔の所行、ニート地獄!(いや、むしろ天国!?)
「あ〜、もうここから動けなーい」
 ぬくぬくとゲームに興じながら、デメテールは恍惚とした笑みを浮かべた。
 ……お前、何しに来たんだとか訊いてはいけない。
「そ……それ、さすがにダメじゃないか?」
 本来どちらかといえばボケ役の耀助も、おもわずこれにはつっこまずには折れなかったのだが、
「いや、そうでもないね!」
 ローラが嬉しそうな声を上げた。
 立っていられないような地震が起きた。雷も落ちた。家一軒はあろうかという黒い鉄のハンマーが出現しふり落とされた。
 だがいずれをもってしても、デメテールの理想郷を崩すはおろか傷一つつけられない。デメテールは「幸せ〜」と半分寝たような目で、ぷよっとした落ちものパズルを延々楽しんでいるではないか。
 ハデスにしても同じだ。彪が降ったり津波が襲ったりしてして怪人も戦闘員も倒されるのだが、倒されても倒されても後続が出てくる。地割れが発生したら落ちる戦闘員もあるものの、それ以上の新手がまた地割れから出現する。
「見たか! これが世界征服の軍勢! ハデス脅威のメカニズムだ!」
「なるほど、なんだか勝ちパターンが読めてきたわ。ふふ……好きなことについて考えてるときって、みんな夢中になってしまうものだものね!」
 得たりとリナリエッタは立って、那由他らを救うべく駈けながら想像力をフル回転させた。
「いけてる男の子の一人でも召喚したいけど、それよりもまず、ここ、殺風景過ぎるのよ」
 荒野が消失した。
 世界は巨大な……それこそ端が見えぬほど広大なステージとなった。
 それも小劇場なんてものではない。黄金の花びらが舞い踊る、ブロードウェイミュージカルのような豪華絢爛なるステージである。
 緑と赤のライトを浴びながらリナリエッタは言う。
「ほらほら、綺麗でしょお? 蛇さんが何考えてるかわからないけど、もうちょっと美しいことやってくれなぁい?」
「あんたらなにやってくれるの……台無しよ! 台無し!」
 きーっ、とヒステリックに叫んで眼鏡の少女が飛び出してきた。
「破壊をもたらす大蛇様の頭に、気味の悪いものばかり想像しないで!」
「気味悪いのはどう考えてもそっちでしょう〜? 美人なお嬢様な私にはちょっとあわないのよお!」
 みどりは攻撃方法を変えてきたようだ。
 ニシキヘビほどの大きさのある黒い蛇を放ったのである。数え切れないほど。
 蛇は戦闘員にくらいつき、ステージを破壊すべくスポットライトに絡みつく。
 だがララは慌てなかった。
「ヴァンドール、カムヒア!」
 すると待機していたかのように、空を白いペガサスが駆け下りてきた。
「先に始めさせてもらうのだよ。リリも自分らしい想像の翼をはためかせるといい!」
 そのときララの姿は、白銀の鎧姿に変わっている。すぐにララはペガサスの背に乗り、空から蛇を突き刺し倒していった。
「なるほど、自分らしい想像というわけなのだな」
 リリは完爾として言った。
「ララが白馬の騎士なら、リリは爆炎の魔導師で行くのだよ」
 リリの身にも変化が起こっている。身にまとうマントが生き物のようにうねり、両の袖からは炎の精霊サラマンダーが飛び出したのだ。さらにもう一度二頭のサラマンダーを呼ぶとリリは彼らに護りを命じた。つまり、リリの四方に火精が配置されたことになる。
 愛しい炎に頬を撫でられ、昂ぶった気持ちでリリは声を上げた。
「天頂に呼び出すは不滅の炎! フェニックスよ、灼熱の翼もてこの世界をまるごと浄化するのだ!」
 空が炎上した。
 そう見えた。
 空から炎の塊が降りてきたのだ。それがフェニックスであることがわかるまで、少し時間がかかった。
「そうはさせるか!」
 みどりは、蛇たちを一斉にリリに向けた。侵入者を直接攻撃すれば勝てると見たようだ。
「『そうはさせるか』? それはこっちのセリフだ!」
 桂輔が想像したものは盾、それも、ローラを守ることのできる頑丈で大きな盾だ。これを構え、左手には想像の剣を握って飛び出す。
「悪いが、ローラには傷一つ付けさせないぜ」
 たとえ自分がどれほど傷つこうと、彼女は絶対に守ってみせる。これは桂輔にとっての誓いであった。
「桂輔……!」
「ローラ、あなたも想像力で戦ってください。蛇は私たちが食い止めます」
 アルマも対応は早かった。想像力を駆使してショットガンを握り、蛇の塊に向けて遠慮なく弾を撃ち込む。想像の銃だから弾薬切れの心配はなかった。
「う……うん……」
 ローラは一生懸命頭を悩ませた。
 強い力……頼れる力……。
 そのとき忽然と出現した姿が、血のように赤い髪をした長身の男だったのはローラ自身も驚いた用だ。出現した男の姿は朧気で顔はない。だが、黒いジャケットを着ていることだけは解る。
 ローラの意識が安定しないのか、男の背は大きくなったり小さくなったりしたが、素手で蛇たちを叩き潰していった。
「那由他……! 那由他!」
 蛇をかきわけ地割れを乗り越えて、耀助は那由他の元にたどり着こうとするも難しい。蛇はそれほどに大量に溢れてくるのだ。
「乗り給え」
 耀助はその声の方向に跳躍した。着地したのは馬の背、といってもそれはペガサスだが。
「那由他のところへ連れていこう。これは私の想像だが……この精神世界でも龍の舞を踊れば内側と外側、その両面から大蛇を弱めることができるのではないか」
「冴えてるね! それは考えてもみなかった」
 ペガサスがそばに降り立つと、耀助は飛び降りて那由他を助け起こした。
「那由他……久しぶりだね」
「何言ってんだか! ずっと見てたんでしょ、耀助。私のこと」
「ちぇ、バレてら」
「まだまだ私のほうが一枚上手、ってことじゃない?」
「はは、まったくだ。……それはそうと」
 耀助は手短に、ここで龍の舞を舞ってほしいと伝えた。
「できるか?」
「できないって答えするなんて思ってないでしょ? ごめんね、みんな。アルセーネをお願い」
 那由他はアルセーネの身を偲に預けて立ち上がった。
「ええ、せめてこの場所に害が及ばぬよう、想像の力で敵を遠ざけましょう」
 偲は念じた。
 無心になる……それは難しいと解った。
 それならば無我になるというのはどうか。
 つまり、激情に身を委ねるというのは。
 瀬山裕輝そっくりのサンドバッグがまた、すごい音を立てて吹きとんでいった。飛んで落ちた場所で、蛇の軍団を押し潰して消してしまう。
「どうも私、こうするのが好きなのかもしれませんね……」
 偲は苦笑した。
 さらにその周辺、ララと耀助は背中あわせになり、蛇の集団と闘い遠ざける。
「こうやって君に背を預け共闘する日がくるとは思わなかったよ」
「あらら、ララちゃん? オレのこと信用してくれてるんだ? 嬉しいなあ」
「……君の真剣なところ、見させてもらったからだろうな」
「それでさ、戦いが終わったらもう一度背中同士を合わせない?」
「何のために?」
「あ、間違えた。今度は逆がいいな。お腹同士をくっつけ合わせて……」
「……やれやれ、少し君を見直しかけていたのだが……」