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【光へ続く点と線】遥か古代に罪は降りて (第2回/全3回)

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【光へ続く点と線】遥か古代に罪は降りて (第2回/全3回)

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タコヤキ屋 ウゲン

 スポーンたちの街では、普段とそう変わらない生活が続けられていた。人間性の片鱗が顔をのぞかせ始めてはいるものの、こういった極限状況で人が陥りがちなパニックとはまだまだ彼らは無縁であったからだ。そしてまた、この状況の中で平然とタコヤキ屋台を営むウゲン・カイラス(うげん・かいらす)、それを手伝うジェイダス・観世院(じぇいだす・かんぜいん)もまた……。
 以前ホットドッグ売りをしていたウゲンがタコヤキ屋に何故転身したのか、そして何故ジェイダスがそれを手伝っているのか。ジェイダスはウゲンからなにか情報を引き出すつもりでいるのかもしれないが、はぐらかされようがなんだろうが、さほど気にしている様子もない。しばらくぶりにここを訪ね、当たり前のように店を手伝いながらシリウス・バイナリスタ(しりうす・ばいなりすた)はしばし思案にふけってみたが、彼女は行動の人で思索の人ではない。すぐにそれを投げ捨ててしまった。手慣れた手つきでたこ焼き返しながら、タコ刻むウゲンに声をかける。
「暢気に屋台やってていいのかねぇ。なぁウゲンよ? ゴダートはともかく、他の連中に出し抜かれちまうぜ?」
ウゲンは刻んだタコを保冷ケースに放り込むと、クスっと笑い、丁寧に手を洗った。
「教えねー、か……推理くらい勝手にしてもいいよな」
そう言って広場に隣接する臨時のイコン駐機場にそびえる{ICN0003938#シュヴェルト}を見やった。シリウスのパートナーで有数のイコン乗りでもあるサビク・オルタナティヴ(さびく・おるたなてぃぶ)が、イコンに機乗して待機という名の休憩を取っているのだ。サビクも、このタコヤキ屋台の前に設置されたガーデン・テーブルの一席について幸せそうにタコヤキを食べているリーブラ・オルタナティヴ(りーぶら・おるたなてぃぶ)も、ともに剣の花嫁だ。
「うーん、美味しいです。ホットドッグもそうでしたけど……この材料、どこからきているのでしょうね?」
「衣類、食品……全てこの湖でスポーンたちが培養している藻類を元に合成しているものだよ」
「……これも光条世界と関わりがあったりするのでしょうか?」
おっとりと尋ねるリーブラにウゲンはキッパリと言った。
「いや、何も関係ないね」
シリウスが畳み掛ける。
「なぁ、オレの読みじゃあ……ウゲン。お前、方法はわかっても実行はできないんじゃねーか?
 お前や、お前の相棒は光条兵器を使えない。
 だがよ? お前にできないこと、オレたちならできるぜ?」
だがそれを聞いてもウゲンは相変わらす面白がるような、すべてを把握しているようなの表情のままだった。
「光条世界の事もちょっとは知ってる……って程でもないけどよ、向こうの住人ご本人と話したこともあるしなぁ〜。
 どうだ一つ? 取引だ。
 光条世界目指すなら、必要そうなものはオレらは持ってると思うぜ?
 サビクは有数のイコン乗りだし、リーブラとオレは覚醒光条兵器も使える。
 ……そっちはちょっと難があるけどよ……。
 なぁウゲン、手を貸してやるから、一緒に光条世界まで連れていけよ」
だがウゲンは気に止める様子もなく、今度は青ネギを刻み始める。ジェイダスは焼きあがったタコヤキにソースと青海苔、鰹節を乗せながら、時折面白がるような表情でこちらを見ている。リーブラが立ち上がって屋台に皿を返しに来た。
「シリウスったら物言いが乱暴で……ですけど、気は悪くないんですのよ。
 それに……気になるのは本当ですわ。
 門を開くのに関係があるか不明ですが、わたくしは剣の花嫁。
 光条兵器と関係深い存在がいるのは光条世界に向かうに当たって役に立つと思いますよ?
 それに……あなたを一人にしていくのは心配です……お兄様と同じくらい無茶する人ですからね」
リーブラはウゲンを心底心配しているようだった。シリウスが畳み掛ける。
「なー、かたっくるしいことは言わねーよ。オレも見てみたいんだよ、光条世界ってヤツをさ!
 光条世界まで連れていけよぉ」
シリウスの飾り気のない本音を聞き、ネギを刻む手を止めるとようやくウゲンはシリウスのほうを見た。
「来たいなら、勝手についてくればいいよ。もちろん、僕に“ついてこれれば”の話だけどね。
 ……兄貴はたった一つの大陸を支えるだけの存在に収まった。だが僕は、ありとあらゆる世界をこの手に乗せてみせるつもりだ。
 俺をコケにしやがった全てのもののケツを蹴り飛ばしてやる」
嘲笑とも自嘲ともつかない表情を浮かべ、ウゲンは再びタコヤキの材料の作成に取り掛かる。3人の会話をシリウスからの通信で聞いていたサビクは、イコンのパイロット席に寄りかかった。エルキナたちとの戦いを思い出しながら。
「光条世界、ねぇ。……歓迎してもらえるもんならいいけどねぇ。
 どう見てもそういう感じじゃなかったね。傲慢不遜、ボクらを虫けらか何かみたいに見てた感じだ。
 そこいらの下等生物のことなんか知っちゃいない、そんな感じ。イヤだなー。
 さーて。さて、このあと何をしたらいいのかなぁ?」
しばし呆然と広場の端からタコヤキ屋を見て立ち尽くしていたリア・レオニス(りあ・れおにす)
(まさかとは思ったが……ウゲンと理事長がタコヤキを売っている……。
 きっと……本当は、事態の趨勢を見守ってるんだろうが……。そうに違いない。
 ウゲンは理事長に害をなすつもりもなさそうだ。だが理事長やウゲンにちょっかいを出す輩がいないとも限らない。
 ウゲンなー。やりたい事の説明をもっと面倒臭がらずにししてくれたらと思うんだが。
 そしたらもっと皆もウゲンを見る目が変わると思うんだ。ま、ウゲンは気にしてないだろうけど)
そして広場を横切ってタコヤキ屋に向かった。
「タコヤキ1つ。マヨネーズと鰹節は有りで……ところで儲かってる?」
「はいよ。……儲けにそんなに意味はないけどね」
そっけなくウゲンが応じ、皿に盛られたタコヤキにジェイダスがソースとマヨネーズ、青海苔と鰹節を散らす。リアはまじまじと二人を見つめた。
「理事長、ウゲン。客商売は笑顔ですよ、笑顔」
この屋台、割合人気はあるようで、ちょこちょこ駐在の研究員やスポーンたちも入れ替わり立ち代りタコヤキを求めていく。だがウゲンは相変わらずそっけなく、ジェイダスも黙々と作業と言った様子で盛り付けなどをしている。シリウスの所作は人懐こいが乱暴だ。リアは見ていられなくなり、ついに腕まくりをして立ち上がった。
「ちょいと俺に手伝わさせてくれませんかね」
そしててきぱきと動き始める。扇風機で焼いてる香りを流し、道行くスポーン達に笑顔で声をかける。
「最近皆変わってきたよね、タコヤキうまいぜ? よかったら買って行ってくれよな」
本来の目的、警護のために殺気看破、超感覚、イナンナの加護は目一杯働かせながら、にこやかに接客を行う。東 朱鷺(あずま・とき)はタコヤキ屋のテーブルについて、スポーンたちとの会話を試みていた。基本彼らは誰にでもフレンドリーで、話しかけられれば喜んで応対してくれる。
(よもや……スポーンと意思の疎通、そして友好的な交流が持てるとは思いませんでした。
 これは……新たな可能性があるかもしれませんね。新たな世界を垣間見たいものです)
朱鷺の銀色の波打つ美しい長髪にに興味を持ったのか、触れさせてほしいと一体が頼んできた。朱鷺は微笑んでそのスポーンがそっと髪に触れ、丁寧に礼を言って仲間と何か話しているのを暖かく眺めていた。朱鷺は長きに渡り未知なる知識、未知なる技術、未知なるアイテムを求めて生きてきた。そんなおり葦原で陰陽術に惹かれ、陰陽道を専攻し、陰陽道で学ぶものがなくなった頃、羅刹への道が開かれた。しかし刀を使う羅刹は主義に合わず、今は八卦術へその身を進めている。
(神獣のように、スポーンとも契約が可能なのだろうか……)
そんなことを思ってあたりを見回すと、そばのテーブルにいるスポーンが元気のない様子なのに気付いた。珍しいことだ。
「どうかしましたか?」
優しく声をかけてみる。
「……なんでも、この街を破壊するとか、戦いになっているとか……。
 この街が、壊れてしまったら……私たちはどうなるんでしょうか? これから世界はどうなるんでしょうか……」
未来への不安。それは生きるうえで必要な葛藤だ。よりいっそう人間の持つ感情に近いものを、彼らが取得し始めているのではないか。朱鷺は優しくそのスポーンに言った。
「大丈夫、皆で協力してあたれば、道は必ず開けるのだから」