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【蒼空に架ける橋】第2話の裏 幕開けのエクソダス

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【蒼空に架ける橋】第2話の裏 幕開けのエクソダス

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 一方その頃。囮、ドッグへ向かう者達とは別行動を取った者達がいた。

――倉庫。見張りは誰もおらず、朝霧 垂(あさぎり・しづり)ヴァンビーノ・スミス(ばんびーの・すみす)葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)コルセア・レキシントン(こるせあ・れきしんとん)は見つかることなく中へ入る事が出来た。

「あーくそ、肝心な物がありゃしねぇ」
 段ボールの蓋を乱暴に閉めて垂が毒づく。肝心な物、というのは彼女達が奪われた所持品である。
 最初は武器庫がある、という事から所持品はそちらにあるとも思ったが、一時的に保管するとしたら武器庫よりも倉庫だろうと考えた垂の読みは外れたようで、自分達の所持品は一切見つからなかった。
「あんたの方は収穫はなしかい?」
 ヴァンビーノが垂に話しかける。
「丸っきり、ってわけじゃないけどな」
 そう言って垂がちらりと視線を横に向ける。そこには食材が詰まった段ボールの箱があった。これはもう一つの垂の目的の物である。
「そういうあんたは……って聞くまでもねぇか」
 垂がヴァンビーノの顔を見て言った。その顔は満足げな笑みが浮かんでいる。
「ああ、これさえあればこの体験をメモする事ができるからな……おっと、忘れない内に記しておかねば」
 ヴァンビーノは見つけたメモ帳とペンで早速何かを書き出した。
「今そんな事してる場合じゃないだろうに」と呆れた様に垂が呟くが、「こんな事滅多に体験できる事じゃないからね」とヴァンビーノはペンを走らせる。
「それに、こっちも丸っきり考えてないわけじゃない」
 ヴァンビーノはそう言って段ボールの上に置かれた工具箱とライターに視線を向ける。この二つも彼が見つけた物である。
 その視線を垂も追い、「成程ね」と頷く。
「そう言うあんたこそ、食材なんて何に使うんだ?」
 ヴァンビーノがメモをする手を止め、垂が集めた食材の段ボールを見て問う。
「あん? 食材って言ったら料理して食う為に使うに決まってるだろ?」
「それこそそんな事してる場合じゃないだろう。そもそもこんな倉庫じゃ料理なんて出来そうにもないけどな」
「こっちも考えってもんがあるんだよ。まぁここじゃ料理なんてできないが、あのウヅ・キって娘の話を聞いた限りじゃ屯所に調理場はありそうだし、そこを借りる事にするさ。どっちにしろ行く予定だったしね」
 垂の言葉に、ヴァンビーノが「そうかい」とメモをする手を動かし始める。
「で、だ。あんたら……というかその娘は何をしているんだ?」
 垂が視線を向けた先に居るのはコルセアと吹雪である。
「ああ、あんまり気にしないで」
 そう言ってコルセアは呆れた様な表情を浮かべて、足元に転がっている吹雪に視線を向ける。
「はぁ……こうやっていると落ち着くであります……」
 吹雪が恍惚とした表情で溜息を漏らす。その身体には段ボールを撒きつけ、ゴロゴロと床を転がっている。
 吹雪にとって段ボールは大事な相棒である。それを奪われ、それはそれはこちらでは想像もつかないような不安感に襲われていたのであった。
 そんな吹雪を見かねたコルセアに倉庫へ行くことを勧められ、連れて来られた結果がこれだ。一応遊んでいるわけではないようで、バールや釘、ロープ、ワイヤーなどの工具が詰まった段ボールにガソリンが詰まったタンクがコルセアの足元に置かれていた。
「さて、あんまりここで長居してても碌な事にならねぇからな、目的の物が見つかったならそろそろ行かないか?」
 垂が右手で段ボールを抱えるとヴァンビーノとコルセアに言う。ヴァンビーノはメモの手を休めることなく頷いて返事をする。
「そうね……ほら、さっさと行くわよ!」
 コルセアは転がっている吹雪を蹴った。
「あぅっ……もうちょっとこうしていたかったであります……あ、コルセアこっちも持ってほしいであります」
 名残惜しそうにしつつも、吹雪は手に入れた物をコルセアと手分けして運ぶのであった。

     * * *

――武器庫。こちらも見張りはいなかった。
「……囮が機能してるのか? まぁ何にしろ助かったぜ」
 柊 恭也(ひいらぎ・きょうや)は辺りを警戒しつつ、武器庫の扉に手をかける。鍵はかかっておらず、すんなりと開きそっと身を滑り込ませた。
 中にはウヅ・キが持っていた銃のような装備を始め、色々と置かれている。
「さってと、とりあえず俺達の武装がありゃいいんだけどな……コイツもうまく動いてくれねぇみたいだし」
 恭也がそっと瞼の上から目に触れる。この目は【アドラステア】という名の義眼である。更に腕は【ヴェンデッタ】という武装細胞によるものだ。
 流石にナオシと言えども、義眼や武装細胞までは奪うようなことは無かった――というより気付かなかったのだろう。そのままにされていたのだが、ボロ船のいざこざの際の衝撃で武装としての機能を果たさなくなってしまったのである。あくまでも見かけを保つだけの義眼、義手となってしまっていた。
「片目片腕でないだけマシ、か……」
 そう呟きながら武器庫を色々と探ってみる。
「……駄目だ、大したもんねぇな」
 暫く中を探し、恭也が大きく溜息を吐いた。
 まず、奪われた武装は存在しなかった。置いてあったのはここの傭兵達が使う装備だけだ。
 そうと解れば自分達が使う為に武器を探したのだが、大半はウヅ・キが持っていた銃である。それを手に取ってみたが、
「……ん?」
試しに、と引き金を引こうとしてもびくともしない。安全装置でもかかっているのかと探してみるが、普通の銃とは構造が違うようでそれらしきものが一切見当たらなかった。
「使えねぇ、か……」
 その銃を諦めて他を探すが、見つかったのは実弾を使用する自動小銃とリモコン操作できる爆薬だけであった。
「これだけか……」
 落胆したように恭也が溜息を吐く。無反動砲やグレネードなんかを期待していたのだが、それらしき物は見つからなかった。
「まあ、無い物は仕方ねぇ。それじゃ後はこれを……っと」
 気を取り直し、恭也はあった爆薬を武器庫にセットしていく。武器庫を爆破して施設にダメージを与えるつもりなのだ。
 セットし終えると、手に入れた自動小銃を抱えて辺りを伺い外に出る。そして誰もいない事を確認してから距離を取り、リモコンのスイッチを入れた。
 直後、大きな爆発が起こり施設が揺れる。そしてけたたましいベルが鳴り響いた。火災報知機の物だろう。
「よっしゃ、後は見つからないよう逃げるだけだ」
 恭也は自動小銃を抱えると、聞いていたドッグへと足を向けた。