天御柱学院へ

蒼空学園

校長室

イルミンスール魔法学校へ

【蒼空に架ける橋】第2話の裏 幕開けのエクソダス

リアクション公開中!

【蒼空に架ける橋】第2話の裏 幕開けのエクソダス

リアクション



第二章 囮の意味を改めて問うRPG

「……ああ、落ちつく」
 牢から出て御空 天泣(みそら・てんきゅう)が安堵の溜息を吐いた。
「ほーんっと、あんな狭くて陰気くさいとこリーリちゃんもう行きたくなーい」
 背筋を伸ばしながらムハリーリヤ・スミェールチ(むはりーりや・すみぇーるち)がうんざりしたように言う。
「天ちゃんが落ち着いてるのは違う理由でしょ?」
 ラヴィーナ・スミェールチ(らびーな・すみぇーるち)の言葉に、天泣が頷く。
「ええ……あの狭い空間で、あれほどの男性に囲まれるのは生きた心地がしませんでした……」
 少し思い出したのか、天泣の顔が青ざめる。男性恐怖症気味の彼にとって、あの密集された空間は地獄だったのだろう。一応女性もいたのだが、男性率の方が圧倒的に高いあの空間では。
「生きた心地しないのは今も同じだと思うんだけどなー。囮だなんて……全く、何かあったら天ちゃんのせいだよ?」
 ラヴィーナが少し呆れた様に言う。天泣達は牢を出て何をしているのかというと、囮になる為に他の者と離れて行動しているのであった。
「仕方ないでしょう、正直な話僕達がドッグへ行く人達と行動しても戦力にはなれません。自分に出来る事をするまでです」
「出来る事、ねぇ……本当に天ちゃん考えてるの?」
「ええ、当然ですよ」
 ラヴィーナに天泣が自信を込めて言う。その時であった。
「そこで何をしている!」
 数名の傭兵と鉢合わせた。各々義手や義足を備えている傭兵達は天泣達に気付き、銃口を向けている。
「天ちゃん、どうするのさ?」
 ラヴィーナが囁く様に言うと、天泣はゆっくりと傭兵達に向かって歩み出す。
「え、天ちゃん?」
 余りに自然な動きに、ラヴィーナが呆気にとられた。
「動くな! そこで止まれ!」
 傭兵の言葉を無視し、天泣は歩み続ける。
「そこの君、その義足の調子が悪いんじゃないかい? 歩き方がおかしかった」
 天泣が口を開く。その眼は義足の傭兵を捉えていた。このように傭兵達に迫り、時間を稼ごうというのである。
「動くなと言っている! これ以上近寄る場合撃つ!」
「しかし中々いい義足じゃないか。良かったら直してあげましょうか? これでも科学者でしてね、君のその身体に興味がふぉッ!?」
 警告を無視し、ゆっくりと歩みを続けていた天泣の身体が、傭兵達の発砲と共に膝から崩れ落ちる。
 傭兵達の電撃銃の電撃を体に受け、意識を失ったのである。
「動くな、と言ったはずだ。おいそこのお前達も動いたら同じ事になるぞ!」
 傭兵達は銃口を向けたまま、ラヴィーナとムハリーリヤを拘束しようと近づく。が、
「えーい」
全く空気を読まずムハリーリヤは傭兵に抱きつこうとする。彼女の頭の中では「なんかいちゃつけばいいんじゃね?」という発想が出た様で、それに忠実に従ったようである。
 だが、その行為は傭兵達からしてみれば抵抗しようとしているようにしか見えない。一歩下がり、傭兵の義手によるボディブローがムハリーリヤの意識を奪う。
 ぐったりとしたムハリーリヤを拘束し、傭兵が担いだ。ちなみに天泣も既に拘束され担がれている。
「後はお前だ。バカな事をしない方が身のためだ」
 そう言って傭兵がラヴィーナを見る。すると彼は目を潤ませ、上目使いで傭兵を見つめていた。
「おねえさん……おねえさんは僕の事もいぢめるの……?」
 ラヴィーナが幼い子供の様に言う。勿論演技である。
 それに対しての傭兵の返答は、無言で銃口をラヴィーナの額に押し付ける事であった。
(あ、これ駄目だ)
 即座にこれ以上は危険と判断したラヴィーナは、大人しく両手を上げるのであった。

     * * *

「……くっ、何と言う事だ……追い詰められてしまったではないか」
「おのれ傭兵共め……!」
 物陰からシグルズ・ヴォルスング(しぐるず・う゛ぉるすんぐ)司馬懿 仲達(しばい・ちゅうたつ)が様子を伺うと、集まった傭兵達が銃口を向けていた。
 背後に逃げ場はない。無理矢理突破するには相手が多すぎる。完全に追い詰められていた。
「……見てみるがいい、奴ら完璧に殺る気満々だ」
 シグルズの言う通り、傭兵達は気が弱い者だったら見ただけでショック死を起こしそうなほど殺気立っていた。おこではない、激おこだ。
「くっ……わしらが何をしたというのだ……! 何故わしらがこのような目に遭わんといかんのだ……!」
「……いや、完全に自業自得だと思うのですが」
 忌々しげに吐き捨てる仲達に、アルツール・ライヘンベルガー(あるつーる・らいへんべるがー)が呆れた様に言った。

 アルツール達は武器の現地調達を行おうとしていた。現地調達、と言っても武器庫などの他の場所へと向かうのではない。傭兵達から奪うという何とも無茶な計画であった。
 最初はアルツールはシグルズと仲達に「召喚術は使えるだろうから広い場所で【不滅兵団】の数によるゴリ押しか【バハムート】で物理的に脱出経路を切り開くのはどうだ」と提案した結果、
「「どっちも簡単(に終わってつまらな)すぎる、却下」」
と即座に却下されてしまったのである。
 では一体何をするのか、と問うた所出されたのが武器の現地調達であった。何故そんな危険、というよりも無謀な案を出したのかと言うと、
「「いい機会なんだからんなつまらねぇことしないでヒャッハァしようぜ(超意訳)」」
という事であった。
 シグルズは「女性と言えども傭兵なんだから戦場に立つ覚悟できてるって事で殴ってもいいよね!?(めっさ意訳)」とノリノリである。
 仲達はと言うと「武器や防具と一緒に下着も剥いでおけば追いかけて来ないだろう。ってことで下着奪おうぜ(大体そのまま)」と外道であった。
「しかし司馬先生。身体鍛えてる子って女性であっても腹筋割れてるから見てもあまり面白い物ではないと思うのだが」
 シグルズ、ツッコむところそこじゃない。
「いやいや、とりあえず顔良くて乳と尻が多少あれば腹筋割れとろうが別にいいわい
 流石仲達。側室に走って正妻冷たくした結果息子二人道連れに自殺されかけた癖に反省していない男は言う事が違う。だが反省しろ。
 そんな奴ら二人を「……えぇー」と止められないアルツールを一体誰が責められようか。コイツらじゃ仕方ない。
 そんな訳で、武器の現地調達(という名の追剥)を行う事にほぼ強制的に決定した。
 そして歩き回り、襲えそうな見た目が良い傭兵の少女を見つけると、一人になった瞬間を狙い襲い掛かった。
 シグルズが囮となり、隙を見てアルツールが【サンダーブラスト】を放って動きを止める。そしてシグルズが当身を当てて動けない所を仲達と共に剥ぐ。

「きゃああああああ! いやああああああ!」
「運が悪かったと思って諦めてくれ。僕らもあのナオシって男に命じられてて君達から武器とか防具とか、後財布とか取り上げなきゃいけなくてね。ゴメンネー」
「そうそう、あのナオシって男に命じられてて貴公達から下着も取ってこいって脅されててね、スマンネー」
「みえちゃうから! 色々見えちゃうからああああ! 誰かあああああ! 誰か助けてえええええ!」


 どっからどう見ても傭兵の少女が被害者になっていた。武器や防具はともかく、下着を何とか取られないように必死で抵抗する傭兵に「オラッ! 大人しくしろ!」とばかりにはぎ取ろうとするシグルズと仲達。何処の蛮族だお前ら。
 完全に棒読みで言い訳しながらもしっかりナオシに罪をなすりつけている辺りどうしようもない。
 アルツールはと言うと、「犯罪者に手を貸してしまった気分だ」と罪悪感に襲われていた。いえ、立派な共犯者です。
 だがそんな事をして天罰が下らないわけがない。
「どうしたの?」
「何か今悲鳴が聞こえたけ……ど……」
 悲鳴を聞きつけて、傭兵達が集まってきたのである。
 そこで繰り広げられている光景は、大の男二人が泣いて抵抗する少女の衣類を剥いでいるという物。何処からどう見ても犯罪真っただ中です。本当にありがとうございまs
『ブッ殺ぉぉぉぉぉぉぉぉす!』
 こうして、アルツール達は追われる羽目になったのである。

「大体貴公が足止めに【アシッドミスト】とかやっていればここまで追い詰められることは無かったのではないか!?」
「無茶言わんでくださいよ……追いかけられててそんな暇ありませんよ」
 振り返ってみるとどう考えても自業自得だというのに憤る仲達に、アルツールは疲れた表情で言った。
「しかしどうするのだ。この状況、いつまでももたんぞ」
 シグルズの言う通り、傭兵達は今にも突撃しそうであった。
「……やむを得ませんな」
 アルツールは溜息を吐くと、ゆっくりと物陰から歩み出る。
「やはり最初からこうしておけば良かったのですよ」
 アルツールは隠れているシグルズと仲達にそう言うと、傭兵達に向き直る。
「君達に一つ言っておこう。何も持たない、つまり素手の状況で、だ。一番火力があるのは――恐らく俺だ」
 そう言うとアルツールがゆっくりと手を伸ばす。その様子に傭兵達は身構える。
 だが、何も起きなかった。その様子に、アルツール以外の全員が困惑する。
「……お二人共、先程『恐らく召喚術は使えるだろう』と言いましたね」
 シグルズと仲達にそう言って、アルツールは口元に笑みを浮かべた。

「申し訳ありません、あれはどうやら嘘だったようでした」

 その言葉の直後、アルツールは一斉掃射の犠牲となった。電撃銃で無ければ即死だった――いや、単に運が良かっただけであろう。
 そしてそのままシグルズと仲達も捕まった、ただこの二人は拘束されて尚「これはナオシに脅されてやった事」と言い張っていた。おお、ゲスいゲスい。