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【蒼空に架ける橋】第2話の裏 幕開けのエクソダス

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【蒼空に架ける橋】第2話の裏 幕開けのエクソダス

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――捕縛者が続出するその一方。ドッグへと向かっている者達は他に騒ぎがあったせいか、見つかる事は無く無事に到着する事が出来た。
「……よし、まずは到着か」
 周囲を警戒しつつ、ナオシ達がドッグへと侵入する。乗組員たちの他に、ついてきた桂輔、アルマ、唯斗に加え、後から合流したマルティナにフレイア、恭也が居た。
「どうやらそっちも到着したようだな」
 声に振り返ると、そこに居たのはモリ・ヤと部下の船員達であった。
「おい、そっちに同行してた奴らがいただろ。そいつらはどうした?」
 ナオシがそう言うと、申し訳なさそうにモリ・ヤは顔を背ける。
「……すまない。見つかって捕まってしまった……我々では助ける事が出来なかった……」
「……全滅よりかはマシだ。あまり気に病むな。それよりもアシを確保するぞ、今の所誰もいねぇみたいだからな」
 そう言ってナオシはドッグを見回す。巡回している傭兵らしき者はいないようだ。皆、別の騒ぎに向かったのだろう。
「よし、それなら武装艦を奪う準備は俺に任せてくれ。ナオシのおっさん、人手が欲しいんだが貸してくれるか?」
「操舵の方は私に任せてください。この手の艦は操縦したことはありませんが、何とかなるでしょう」
 桂輔とアルマがナオシにそう言うが、即座に「駄目だ」と断られる。
「何でだ? 漁船じゃ襲われた時に応戦もできない。このままじゃやられるぞ」
「時間が無い。人質の通信を聞いてる限りじゃ大体の奴らは捕まってるみたいだ。そうだろ?」
 ナオシが問うと、ウヅ・キは「え、あ、は、はい!」と頷く。
「このまま奴らがこっちに来るのは時間の問題だ。なら時間の早い漁船の方を出した方がいい……それに、だ。オレとお前らは友達じゃない。操縦なんて任せるわけがないだろ。立場を弁えろ、乗組員」
 ナオシに詰め寄られ、桂輔とアルマは渋々とだが頷く。
「解ったらとっとと準備するぞ野郎共!」
 ナオシの言葉に部下達が「応!」と声を上げ、即座に漁船へと乗り込む。それと同時にモリ・ヤも「お前達も準備に着け」と声をかけ、船員達も漁船へと入っていった。
 桂輔とアルマも準備を手伝うために漁船に入るが、唯斗、マルティナ、フレイア、恭也はどうした物かとナオシの後ろに続く。ウヅ・キもその場でどうしていいかわからずオロオロとしていた。

     * * *

「なあ、少しいいか?」
 船員達が中に入るのを見届けると、モリ・ヤがナオシに声をかける。
「あん? ああ、勝手にアンタの船使わせてもらう事になるが文句は言うなよ。こっちも非常事態なんでね」
「いや、それは構わんが……どうするんだ?」
「どうする、だと?」
「ああ……捕まってる者達だ。さっきの話だと、囮になった者達は傭兵達に捕らえられたのだろう?」
「……そういえば、隊長は無事でしょうかねぇ」
 マルティナが空を仰いで呟く。隊長とはメルキアデスの事である。
「心配ないわよ、メルキアデスなんだし」
 フレイアがマルティナの肩を軽く叩く。すると安心したように、「そうですよね、あの人は二、三回程度なら殺しても死なないですよね」とマルティナが笑みを浮かべる。酷いもんである。
「……待った、まさか見捨てるわけじゃないよな?」
「それはちょっと聞き捨てならねぇんだがな」
 唯斗と恭也がナオシを睨む。それをモリ・ヤが「落ちつけ」と宥めようとする。
 ナオシはというと、困ったように頭を掻くと口を開いた。
「囮にもならねぇんじゃ見捨てたい所だが、そういうわけにもいかねぇんだよなぁ……勝手にこっちで巻き込んだ責任もあるし、奴らはこの後必要な戦力になるかもしれねぇからな」
「戦力? その、命を狙ってくる奴と戦うのか?」
「戦う事になるだろうよ。このままいくなら、な」
 モリ・ヤの問いにそう言うとナオシは言葉を止める。これ以上この事について話す気は無い、という様に。
 その様子にモリ・ヤも「そうか……」とだけ言う。
「ま、捕まった奴らに関してはどうにかするわ。その為にもまずアシを確保しないといけねぇんだよ」
「あ、あの……その事について問題があるんですが……」
 横で話を聞いていたウヅ・キがおずおずと手を上げる。
「あん? 問題?」
「は、はい……その……船を出したとしても、砲撃台があるんですが……」
「……ああそうか……アイツら、誰もこの事考えてなかったな」
 ナオシが舌打ちする。ウヅ・キがこの施設を説明した時、ドッグの近くに砲撃台があるという話が出た。
 本来であれば施設に近づく不審な船を撃墜するための物だが、ドッグから出てきた船を撃ち落とす事も可能だという。
 砲台を何とかしないとこのままでは漁船が撃ち落とされることは確実である。仮に武装艦でも砲撃を食らってはただでは済まないだろう。
 その時、スピーカーから声が流れてきた。

『総員に告げる。脱獄者達がドッグの船を狙う可能性が高い。ドッグへ向かえ。一人も逃がすな』

「……どうやら完全にバレてるみたいだな。状況はどうだ?」
 ナオシが問うが、モリ・ヤは渋い表情になる。
「全力で当たっているが船を出すまでもう少し時間がかかる」
「どのくらいだ?」
「恐らく、奴らがここに到着するまでには間に合わない」
 その回答にナオシが舌打ちする。
「……おい、そこのお前」
 ナオシが恭也に声をかける。
「あ、何だよ?」
「お前確か武器庫行って武器奪って来たんだったな? どんな物がある?」
「まぁ奪ってきたは奪ってきたが、大したもんはないぜ?」
 そう言って恭也が武器庫から持ってきた物――傭兵達が持っている電撃銃ではなく実弾を使う自動小銃のみであった。
「他に無反動砲とかがありゃ欲しかったんだけどな。後あの傭兵達が使ってる銃は使えなかったから持ってこなかった」
「大方個体識別システムとかでもついてるんだろ。この銃使うぞ」
「おい、まさかそんなので砲撃台壊してくるとか言うんじゃないだろうな?」
 唯斗の言葉に、ナオシが呆れた様に「バカヤロウ無理に決まってるだろこんなもんで」と答える。
「じゃあどうするんだよ?」
 唯斗の問いにナオシは答えず、ウヅ・キに向き直る。
「おい人質、聞きたい事がある」
「へ? は、はい何でしょう?」
 オドオドとしているウヅ・キに、ナオシは顔を寄せる。
「お前、ここでは可愛がられている方か?」
「……へ?」
「質問に答えろバカヤロウ!」
「ひっ!? は、はい! 皆には良くしてもらってます!」
 その言葉にナオシは「そうか」とだけ呟く。
「おいおい、もっと女の子には丁寧に接しろって言っただろ!? ウヅ・キに何させるつもりなんだ?」
「そうですよ、酷い事はしないでください!」
 唯斗とマルティナが非難する様に言うが、ナオシは小さく溜息をついて口を開く。
「なあ人質、牢にいた時人質に言った事覚えてるか?」
「牢にいた時? えーっと確か……いざという時……え……」
 ナオシの言葉で思い出したのか、ウヅ・キの顔がさっと青ざめる。
「どうやら覚えていたようだな」
 青ざめたウヅ・キの顔を見て、ナオシが笑みを浮かべて言った。
「今がいざという時だ。お前を盾にする」