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コーラルワールド(第2回/全3回)

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コーラルワールド(第2回/全3回)

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 門番シバは、公言を守った。
 半ば強引に『死の門』の中へと放り込まれ、都築とテオフィロスはナラカへと至った。
 しくじった、と苦笑する都築の体を、テオフィロスが支える。
「くそ、ざまぁねえ……」
 激痛に意識が持って行かれる。ああ、これはやばいな、と、都築は何処か冷静に思った。
「しっかりしろ。こんなところで力尽きてどうする」
 焦りを抑えたようなテオフィロスの言葉に、ふ、と笑う。
「……お前、俺が死んだくらいで、大した影響を受けるなよ」
「下らないことを言うな」
 ふと、都築はあることを思い出す。そうだ、死ぬ前に、これは言っておかなくては。
「カサンドロス、生きてるぞ。……黙ってて悪かったが」
「……!?」
 空の遺跡からの帰還の後、どうせなら直接会わせて驚かせてやろう、と、トゥレンに唆されて、言わないでいた。
 結局、その機会がないままに、こんなことになってしまったが。
「生きて帰って再会しろ……不甲斐なくて、悪ぃな」
「都築!」
 ずるずると崩れ落ちる都築の身体を抱えて、テオフィロスは叫ぶ。
 死なせない。そう、約束したのだ。
 閉ざされた門を憎悪を込めて睨み、テオフィロスは都築を担ぎ上げて歩き出した。



第6章 ルーナサズにて


 ミュケナイ選帝神、イルダーナと話した後、ニキータ・エリザロフ(にきーた・えりざろふ)のパートナー、タマーラ・グレコフ(たまーら・ぐれこふ)は、ルーナサズに居残った。
 なるべく一緒にいたいという要望で、執務中も、執務室の来客用ソファに座っていたが、ふと虚空を見上げる。
 イルダーナへ面を向けると、それに気付いてイルダーナも視線を向けた。
「……龍騎士が、一人……ナラカから、帰れなくなった」
 イルダーナは、その言葉に僅かに眉間を寄せる。
 それは、【御託宣】によって知り得た事実だった。
「まさか」
 信じられない、という表情をした後で、彼は、どっちだ、と訊ねた。
「若い方か?」
 問いに首を横に振る。
 イルダーナは、ますます難しい顔をして考え込み、やがて小さく舌打った。
 微かな呟きが、静かな部屋、タマーラの耳に小さく届く。
「……キレるなよ、トゥレン。……連中を見捨てるな」



 ルーナサズにて、イルダーナから話を聞いた後にすぐ、ニキータは、パートナーの花妖精、カーミレ・マンサニージャ(かーみれ・まんさにーじゃ)と連絡を取った。
 その後のやりとりで、無事に聖剣アトリムパスを持ち出せたことを確認する。
「それじゃあ、あたしこのまま現地に向かってしまうわね。『死の門』で落ち合いましょう」
 よろしく急いでね、と言ったニキータに、カーミレは頷いた。
「解りました。急ぎますね」

 言葉通り、カーミレの行動は迅速だった。
 普段のおっとりした雰囲気とは違ってきびきびと行動し、ニキータから得た情報と都築中佐の状況を報告し、聖剣アトリムパスの帯出許可を得た。
 そして、ポータラカ人の三毛猫 タマ(みけねこ・たま)と共に、それをニキータの元へ運ぶ。
「今から聖剣を抱えてエリュシオンまで来いとは……人使いが荒いのである」
 大型飛空艇フライング・キャット号を操るタマ船長が、ぶちぶちと不平を漏らす。
「エリュシオン上空を移動するのに、飛空艇の方が違和感がないでしょうから……。
 ですが、皇帝の墓場までこれで乗り付けない方がいいと思います。
 麓で着陸して、そこからは装甲通信車で行きましょう」
「フン……加速するぞ」
 文句を言いつつも、手はしっかりと仲間の為に急ぐツンデレだった。



 温泉開発に情熱を懸ける聖・レッドヘリング(ひじり・れっどへりんぐ)は、ルーナサズの水事情に大いに興味を惹かれた。
「水が貴重とは……。
 歴史のある領地であるのに、解決に至っていない理由は何なのでしょう?」
 役所を訪れ、ルーナサズで仕事をする場合の手続きの方法などを聞くついで、世間話の話題にする。
「ルーナサズは水が貴重な土地だと聞きましたが、地形や地質的な問題でしょうか?」
「ええ、そうです。
 ルーナサズは、微妙に高地に位置していますので……。引水できる範囲に水源が少ないのです。
 過去に二度、二本の河川の流れをルーナサズに変える工事が行われ、その川はこの町で殆ど堰き止められる形になって、利用されていますが、ルーナサズは、それなりに大きな街ですから」
 パラミタ内海や、バージェスとの境にあるローレライ川は、ルーナサズよりも低地にあるし、距離的にも苦しい。
 年間を通して雨量も少なく、この季節なら雪解け水があるので他の季節よりも潤うが、積雪が特に多くも無い中途半端な土地なので、それに頼れる程でもない。
「イルダーナ様も、色々とお考えくださっているという話ではありますが」
「成程……」

「ぷぅー。ひじりんが真面目なお話ばっかりで、キャンティちゃん退屈ですぅ」
 聖が役所で話を聞いている間、パートナーのキャンティ・シャノワール(きゃんてぃ・しゃのわーる)はその周辺をブラブラしていた。
 隣接する選帝神の居城は、豪華というよりは質実剛健な印象で、それは、この街と、そして住民の気質をも表しているような気が、キャンティはした。
「お城ですかぁ……まあ、将来キャンティちゃんが作る、キャンティちゃんランドの構想に比べると、随分ちっちゃいですわね」
 門の外から、腕組みしつつ城を眺めて、そんなことを言っていると、聖が戻って来た。
「ぶうぶう。キャンティちゃんは退屈ですぅ」
「申し訳ありません。
 で、宿を引き払ってこの街を出ようと思いますが」
 いきなりの展開に、キャンティはぽかんとする。
「旅を続けるのですぅ?」
「というより、この街の周辺の地質を調べてみたいと思いまして」

 と、いう予定であちこちを歩き、移り気の激しいキャンティがあっちですわ、こっちですわと興味を示すままに進んでいた結果、何故かルーナサズを外れ、ミュケナイを出、霊峰オリュンポスに至ってしまい、一体何故こんな場所に? と呆然とすることになるのを、未だこの時の聖には知る由もなかった。