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古代魔法書逃亡劇

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古代魔法書逃亡劇

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●第一章 動物と歌と炎の森 4ページ〜1000ページめ●

 かすかな木漏れ日と静かな鳴き声。
 深く、昼でも夜のごとく暗い空京の森の中メニエス・レイン(めにえす・れいん)が茂みをハーフムーンロッドで探る。成果は未だない。
「出てきなさいよ!」
 木をドンと叩く。と、揺れた木からぼとりと何か落ちた。
「ネズミ……?」
 近付いてみる。同じ形なのにどこか違う三つの影。
「魔法書のページ!」
 杖を二匹の紙ネズミに振り下ろすと紙ネズミは逃走。
「逃がさない!」
 即座に【氷術】を使用。茂みも巻き込み紙ネズミが止まる。最後の抵抗か近くの木の実を投げてきてぺちりと当たり、落ちる。
「あたしにそんな攻撃が効くと思ったの?」
 睨みをきかせ、二匹の紙ネズミの尾を取って結ぶ。
「全ては魔法書を読むため。逃げるなんて考えないことね」
 言い聞かせて捜索を再開したメニエス・レインの進む方向と逆に向かって神楽坂 有栖(かぐらざか・ありす)は双眼鏡片手に歩いていた。
「ページさん、いないですね」
 木の上を仰ぐが紙動物の姿は見えない。そのまま双眼鏡を覗きつつ歩く。と、誰かの肩にぶつかった。
「ご、ごめんなさい、、」
「こちらこそ、ごめん。シェーラ、気をつけて」
「うぅ……ごめんね」
 アルステーデ・バイルシュミット(あるすてーで・ばいるしゅみっと)シェーラ・ノルグランド(しぇーら・のるぐらんど)が頭を下げた。
「……君もページを探しているの?」
「あ、はい、、お二人もですか?」
「そうなの! でもなかなか見つからないのよね」
 どこにいるんだろう、と三人で考え込む。と、背後から足音。振り返る。
「個々で探すには限度があるようだね。よかったら四人で協力しない?」
 木々を見上げつつレオナーズ・アーズナック(れおなーず・あーずなっく)が近づいてきた。
「その方が効率良くなると思うんだけどどうかな」
 提案に、女性三人は大きく頷いた。
「は、はい是非お願いします!」
「そうだね、そうしよう!」
「よろしくね」
 握手を交わした後、アルステーデ・バイルシュミットはパートナーと共に腕を組んだ。
「でも、このまま探しても何も変わらないよね」
「何かいい方法はないかな?」
 するとぱちん、と神楽坂有栖が手を叩いた。
「ページさん達をちょっとびっくりさせちゃうのはどうでしょう」
「俺も同じことを考えていたよ」
「同時に仕掛けよう」
 頷きあって集中。全員の準備ができたことを確認しシェーラ・ノルグランドが声を上げた。
「いくよ、せーのっ!」
 神楽坂有栖の【バニッシュ】、アルステーデ・バイルシュミットの【チェインスマイト】、シェーラ・ノルグランドの光精の指輪の光の魔法、レオナーズ・アーズナックの【雷術】が炸裂。途端に茂みがざわつき影が飛び出す。
「あ、うさぎ!」
「後ろにいるのはページかな」
「見つけました!」
 喜ぶ女性陣を尻目に紙ウサギは他の茂みを目指して走る。
「逃がさないよ!」
 レオナーズ・アーズナックは【氷術】を紙ウサギ四羽の進行方向に使用。驚いたウサギは急停止。
「今のうちに囲もう!」
 駆け出すアルステーデ・バイルシュミットに三人も続く。
 紙ウサギは我に返り跳ねるが、四人に囲まれているため逃げられず退路を開こうと後ろ足で四人を蹴る。
「うわ!」
 腕でガードするが、続けざまに繰り出される攻撃に苦戦。
「ページさん、いい子ですから、大人しくしてください、、っ」
 言いながら神楽坂有栖は一羽を捕獲。レオナーズ・アーズナックは【雷術】を放ち、しびれた紙ウサギの耳を掴む。アルステーデ・バイルシュミットはシェーラ・ノルグランドと二羽のウサギを挟み打ちにして捕まえた。
「なんとか、だね」
「かわいい!」
「でも、これでは他のページさんを捕まえられそうにないです、、」
「あとは他の人に任せて今捕まえたページを逃がさないように気をつけよう」
 レオナーズ・アーズナックの言葉に全員で頷き、各々ページウサギをしっかりと抱えた。

 一方、森のはずれではガートルード・ハーレック(がーとるーど・はーれっく)が楽しそうに辺りを見回していた。
「さあ、探しますよ、ブレイロック!」
「おう、やってやるぜ!」
 ネヴィル・ブレイロック(ねう゛ぃる・ぶれいろっく)と共に【ドラゴンアーツ】を発動する。
「取って喰ったりしないから、出てこい!」
 言いながら二人で木に向け拳を突き出す。木は抉られるように倒れ生物がよろよろ出てきた。
「出ましたよ!」
「行くぜ!」
 飛びかかろうとすると木の実がぶつかる。紙リスと野生のリスは散らばっている木の実を次々と投げた。
「いてっ……親分、やるか?」
「ええ、ここはブレイロックがワンと吠えて脅かすのがいいと思います」
「お、おい親分。俺はブルドックじゃねえぞ!」
「冗談です。さあブレイロック、目には目を、ということで木の実をたくさんお見舞いしてやりましょう」
 にっと笑ってリス達の頭上、木の実のたくさんついた木を指した。
「了解!」
 二人で拳を木の上方へ突き出すと、ばらばらと木の実の雨が降り注いだ。リス達は逃げようとするが大きめの木の実が頭に命中。ふらりとバランスを崩す。
「潮時ですね」
 言いながら気を失った紙リスを回収。
「なんだかあっけねぇな」
「折角ですから、もっと派手に暴れましょう!」
「賛成!」
 二人は再び拳を繰り出し、森に轟音を響かせた。
「ん……来るようだねぇ」
【禁猟区】を張っていた清泉 北都(いずみ・ほくと)は近付く魔力を感じ、顔を挙げた。禁猟区の反応を確認する。
「こっちだねぇ」
 土を蹴りつつ木に近づく。魔力の気配は近い。引き寄せられるように木の上方にある穴に顔を近づける。
「ページさんこんにちはー」
 にっこりあいさつする。鳥の巣の中に紛れた紙の小鳥が驚いてつついてきた。
「わっ、痛い」
 翼や嘴による攻撃に傷を受けながらも手を伸ばす。
「おとなしくしてねぇー」
 優しく微笑み、脅かさないようゆっくり捕獲。
「よし、ちょっと読んでみようかなぁ」
 小鳥をどうやってページに戻すかを考え、清泉北都は首を傾げた。
 その近くの木の上で、フィル・アルジェント(ふぃる・あるじぇんと)シェリス・クローネ(しぇりす・くろーね)は身を潜めていた。
 目下に仕掛けるのは網。上にはパン屑の乗ったシートが乗っている。
「なぜこのような所で待たねばならんのじゃ!」
 待つことに飽きたシェリス・クローネは木の上でじたばたと暴れた。
「木を刈ってしまえば早いじゃろうに」
「地道に待ちましょう」
 待ち続けるフィル・アルジェントに痺れを切らし、シェリス・クローネが詠唱を始めた。
「出てくるのじゃ、ページ!」
【氷術】が茂みに炸裂。氷で葉が散っていく。
「駄目でしょう! あ、ネズミ?」
 飛びだしたものが網の上を通ったことに気づき慌てて網を引くフィル・アルジェント。袋状になった網が持ち上がる。かかったのは紙ネズミ二匹。
「網をかじらないでください! シェリスさん、手伝ってください」
 二人でゆっくりと網を下ろし、紙ネズミを確認する。
「二匹も捕まえました。やりましたね!」
「わしのおかげじゃな」
「う……まあ、そうなりますね」
 言葉に詰まるフィル・アルジェント。シェリス・クローネは紙ネズミを手に取った。
「ふぅむ、なかなか興味深いのう」
 紙ネズミを様々な角度から観察し、頷く。
「できれば他の検体も見てみたいものじゃ」
「いろいろ見れるといいですね」
 紙ネズミを抱え、二人は網を張り直した。
 二人がいる木から少し離れた位置。猫塚 璃玖(ねこづか・りく)は虫取り網を手に【隠れ身】を使用し木陰に隠れつつ茂みに顔を突っ込む。
「いないな」
 顔を上げると枝が揺れ何かが飛んで行った。
「魔法書のページ! 待て!」
 網を持ち追いかける。モモンガは尾をぶつけてきた。額をさすり、リターニングダガーを取り出す。
「……掠る程度なら大丈夫だよな」
 言い聞かせるように言ってダガーを投擲。驚いた紙モモンガに素早く網をかぶせ捕獲。 網から慎重に出し、頭を撫でてやる。木の実を差し出すと、食べた。
「食事もできるのか。飼えたら面白いだろうな……」
 ぼんやりと言い、猫塚璃玖は紙モモンガの食事を熱心に眺めた。