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リアクション
夜明け
「使い方さえ間違えなければ、この薬は医学に大きな可能性をもたらし得る!」
と、クレア・シュミット(くれあ・しゅみっと)は店員へ言う。しかし店員は口を開くこともなく、クレアの話を聞き流している。
能力強化の効果があるという点において、クレアはちーとさぷりを評価していた。副作用さえなければ、いくらでも使い道がありそうだと考えたのだ。
「副作用さえなければ、素晴らしい薬だぞ? ただ、今のままでは悪い方にしかならないから――」
クレアがそこまで言ったところで、朝倉千歳(あさくら・ちとせ)とイルマ・レスト(いるま・れすと)が来店してくる。
千歳は真っ直ぐ店員の元へ来ると言った。
「これ以上、薬を売らせはしない。今すぐ店をたため、商品はすべて没収する!」
店員は答えない。
「聞いてるの? すでに警察には伝えてある、何か言いなさい」
「……」
クレアはただその様子を見ていた。彼女と自分は全く違う考えのようだが、あまりの迫力に言葉が浮かばない。
「ちょっと、調べさせてもらいますわ」
と、イルマが勝手にカウンター内へ入り、捜索を始める。店員はこの状況をどう脱しようか考えていた。
すると、また客が店へ訪れてくる。
「ここかぁ? ちーとさぷりを売る店ってのは」
横柄な態度の国頭武尊(くにがみ・たける)は、千歳とクレアを無視して店員の正面へ立った。
千歳は武尊を睨み、クレアは気まずそうに目を逸らす。
「パラ実に筋を通さずに、舐めた真似してんじゃねーぞ」
武尊に睨まれ、店員は怖気づくように肩を震わせた。さすがにパラ実生は怖いらしい。さらに逃げ出すのが難しくなり、店員は慌てる。
「おい、何とか言えよ!」
と、武尊は店員の胸倉を掴んで引きよせた。
「っ……!」
その拍子に被っていたフードが外れ、店員の顔が露わになる。空色のショートカット、顔立ちはどちらかというと幼く、見た目では性別の判断が付きかねる。
「……んん?」
予想外に可愛らしい店員は顔を見られたことが嫌だったのか、すぐに武尊を突き飛ばすと逃げ出した――が。
「ぅぎゃっ」
扉から外へ出ようとして入ってきた相沢洋(あいざわ・ひろし)にぶつかってしまう。
「あ?」
これまた予想外に店員の背丈は小さかった。
「そいつを捕まえて!」
千歳の言葉に洋はすぐさまトミーガンを取り出し、店員へ向けた。「動くな、撃つぞ」
洋のパートナー乃木坂みと(のぎさか・みと)はイルマと同じように店内を捜索し始めた。薬について興味があるのだ。
「残念だったな、店員」
と、武尊が少しずつ歩み寄る。
商売人生もここまでか――店員が唇をかんだ時、店の奥から騒音が聞こえてきた。
裏口から侵入したリアトリス・ウィリアムズ(りあとりす・うぃりあむず)、メルヴィナ・ヴィルヘイム(めるびな・びるへいむ)とブライアン・ヴェルモンド(ぶらいあん・べるもんど)は、そこが店でないことに気がつく。
「これが、ちーとさぷりの原材料?」
と、リアトリスは大量に置かれている草を指さした。花が咲いているようで、床には花弁も散らばっている。
「変ネ、誰もいないヨ?」
せっかく戦う気でいたのに、とブライアンはがっかりする。
メルヴィナはふと壁に取っ手が付いているのを発見した。それとほぼ同時にリアトリスが言う。
「とりあえず、壊しちゃおう!」
そして部屋の中央に置かれた大きな釜を剣で殴り倒す。ものすごい音を立てて割れた時、メルヴィナが取っ手に手をかけた。
「あ、開きましたよ」
壁だったはずの場所からメルヴィナが顔を出す。
店員まであと一歩という時に武尊はそちらに気を取られてしまい、店員を逃がしてしまう。まさか、隠し扉があったとは――!
洋もまたメルヴィナに気を取られ、気づいた時には外へ逃げ出していた。
だが、一同が落胆する間もなく、天璋院篤子(てんしょういん・あつこ)が店へ入って来る。
「ショートカット同好会監察部、ただいま参上ですわ!」
その後ろでは、小松帯刀(こまつ・たてわき)が店員を抱えていた。
そして白舞(はく・まい)が一同を見て言う。
「やっぱりこれ、店員さんでしたか?」
店内が沸いた。
店は燃やされていた。舞の持ってきた火薬玉に、みとが火術で勢いをつけた上での処分である。
「ま、いいか」
武尊は瓶を片手にその場を去ろうとした。
「良くない」
と、クレアがすぐに武尊の手から瓶を取り上げる。
「あ、何すんだよっ!」
「これは商品だ。証拠品として警察に渡す」
強い口調でそう言って、クレアは武尊と睨み合う。
「名前と住所を教えなさい」
すっかり縄で縛られた店員は、千歳と目を合わせることもなく答えた。
「……トレル」
「それは名字? それとも名前? 住所も答えてもらわなきゃ!」
と、舞。
「答えたくないね」
店員はそう言うと千歳たちを睨みつけた。
「もうすぐで警察が来ますわ。答えてください」
と、イルマ。それでも店員は詳しく答えたくないようだった。
「では、年齢は?」
「永遠の中二病」
千歳たちが目を丸くする。視線を逸らして店員は言った。
「十四」
素直に信じていいか怪しかったが、聞いても答えそうにはない。見た目の通りウィザードであれば、実年齢はもっと上だろう。
「どうしてあのような薬を?」
「バグリ草に思い込みの効果があるって聞いて薬にしたら、要らない効果までついてきたんだ」
「最初から副作用があると知って、売っていたのか?」
と、洋。
「まさか、知らなかったに決まってるでしょ。気づいた時には大人気だったから、やめるにやめれなかったんだ」
「改良しようとは思わなかったんですの?」
薬の作り方が書かれている書類を手にしたみとがそう尋ねる。
「……めんどくさい」
その返答に、どこかから溜め息が漏れ聞こえた。
早くも空が白み始めた頃、マイトはようやく店のあった場所へたどり着いた。だが、時すでに遅し。
警察が店の周囲を囲んでおり、店員が警察へ連れられて行くところだった。
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