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【十一 紅白戦 終盤】
 紅白戦も終盤の八回表。
 紅組のマウンドにはミューレリア・ラングウェイ(みゅーれりあ・らんぐうぇい)が光一郎の後を受けて、ロングリリーフで頑張っていた。
 ここまで四回をパーフェクトに抑え、ひとりの走者も許していない。
 白組はあれこれと策を練ってミューレリアを揺さぶろうと何度も試みてきたが、そのことごとくが失敗に終わっていた。
 伊達にホワイトキャッツのキャプテンを名乗ってはいない。その実力は、矢張り折り紙つきといって良いだろう。そして、この八回表である。
 マイトの代打として陽太が打席に立ったが、ミューレリアのジャイロボールを一度の打席だけで攻略出来る筈もなく、ほとんど配球らしい配球も要せずに討ち取られてしまった。
 続くソルラン、オットーも簡単に料理したミューレリア。ここまで五回を抑えた。
 先発でいえば責任投球回数を投げ切った勘定になる。
 シルフィスティと並んで一塁ダッグアウトに向かうミューレリアの頬には、満足げな笑みが浮かんでいる。
「ふー、やっぱ先発と違って、ロングリリーフは別の疲れがあるなぁ」
「まだまだいけそうじゃない。今のところ、ジャイロの制球も安定してるし」
「どうかなぁ。私の四球病はいきなり発症するからな。早めに逆転してくれると嬉しいんだが」
 そんなミューレリアの希望が叶ったのか。その裏、ようやくにして流れが紅組に傾いた。

     * * *

 八回裏、エリィの後をリリーフしていた巡が捕まった。
 もともと先発型であり、終盤の荒れたマウンドから投げ始めるのは不慣れな上に、同じホワイトキャッツのミューレリアが好投していたこともプレッシャーとなって、巡の肩に重くのしかかってきていた。
 カイ、リカイン、ブリジットと連続単打が続き、あっという間に無死満塁。
「うわっ、これはちょっと拙いかな〜」
 さしもの巡も、これではなかなかポジティブシンキングにはなれない。
 次の打者は春美である。彼女は打席に入る前に、捕手のあゆみに微笑みかけた。
「やっと、対戦出来るねっ。正々堂々、宜しくお願いしますっ」
「こちらこそっ。クリアーエーテル!」
 春美の差し出した右拳に、あゆみはウィンクしながら自らの右拳をちょこんと合わせた。お互い、悔いの無いよう精一杯力を出し切ろうという挨拶の印であった。
「春美ちゃーん、一発かましてあげな〜」
 一塁上からブリジットの声援。
 球審からプレイのコールがかかり、バッテリー間でサインが交わされる。まずはゴロを打たせて本塁封殺を狙うあゆみ。
 巡は、外角低めから僅かにボールゾーンへと逃げるカーブを投じた。
 一方春美は、あゆみがゴロを打たせたがっているのを既に見抜いており、泳ぎながらも必死に喰らいついた。 結果は、右翼の深い位置への犠飛。タッチアップには十分な距離だ。アレックスから内野に返球される間に三塁のカイは悠々ホームイン。二塁のリカインも三塁を陥れていた。
 紅組、遂に同点。
 そしてあゆみと春美の勝負が、いずれかの勝利だったのか、或いはドローに終わったのかは、当人達にしか分からない。
 一死一、三塁。白組のピンチはまだ続く。ここで併殺が取れれば同点止まりで済むのだが、次打者のミスティがここ一番の集中力を発揮した。
 併殺狙いの外角低めのチェンジアップをどんぴしゃのタイミングで捉え、一塁線を破る適時二塁打。
「やったぁ!」
 走塁の間に、我知らず歓声をあげるミスティ。一塁のブリジットも帰り、紅組は逆転に成功した。
 スコアは5−3で紅組リード。

 ここで、三塁ベンチは巡を諦め、やや遅きに失した感もあるが、火消し役に鳴神 裁(なるかみ・さい)を指名した。
「うにゅ〜。なぁんか貧乏くじ引いちゃった感じがしないでもないな〜」
 一見ぼやいているようにも見えるが、裁の口元には嬉しそうな笑みが僅かにこぼれる。
 マウンドに集まっていた内野陣が裁を出迎えた。裁はあゆみから白球を受け取る。弧狼丸と交代で遊撃手に入っていたクドが、心底嬉しそうな笑顔を見せた。
「おや、これまた可愛らしいお嬢さんの登板だねぇ。俺ってば後ろから可愛いお尻を続けて眺められて、超ラッキーかもねぇ」
「見てても良いけど、ちゃんと守っててよ」
 裁は守備に戻るクドの尻を右手にはめたグローブで追いかけるように叩きながら、八球だけ許されている投球練習に入った。
 ネクストバッターズサークルでその様子を眺めていたソーマは、裁のフォームに度肝を抜かれた。
「うわっ、何あれ……!」
 ソーマは初めて見た。裁は左のアンダースローだったのである。ソーマの後に打つシルフィスティもあの高さのリリースポイントでの左投げは初体験であり、どのように対処すべきかと大いに焦った。
 そして案の定、ソーマ、シルフィスティらは揃って凡退。手元で浮き上がってくるような軌道を描くストレートに、完全に翻弄されてしまった。

     * * *

 九回表。
 二点を追う白組は、クリーンアップから始まる絶好の打順であった。
「ほらほら〜! 折角ボクが抑えたんだから、きっちり逆転していこうね〜!」
 無事に自らの仕事を全うした裁が、三塁ダッグアウトから声を張り上げながらメガホンを叩く。
 だが、点差は二点。ここはじっくり攻めて、まずは塁を埋めていくことが肝要である。打席に立ったオットーは、前の回あたりから、ミューレリアの制球が微妙に乱れ始めている兆候を見抜いていた。
 その読みが見事に的中した。投手としては最もやってはいけない、先頭打者への四球。マウンド上で渋い表情を浮かべるミューレリアとは対照的に、オットーは淡々と一塁へ歩いた。
 ところがこの次のイングリットに対しては、ミューレリアは配球を変えてきた。
 それまで決め球として投げ続けてきたジャイロボールを見せ球に置き換え、外角低めに決まるカーブとフォークで勝負に出た。
 この戦術変更に、まずイングリットが引っかかった。併殺に倒れ、あっという間に二死走者無しとなった。
 打席には途中から五番に入っているクド。一発を浴びてもまだ一点差あるミューレリアは、ここで再びジャイロボールで押す投球に戻してきた。
 そして――。
「うぉほぉぅ!」
 クドの妙な雄叫びとともに、コンパクトに振った筈のバットが空を切る。空振り三振である。
「いよっしゃぁ!」
 マウンド上のミューレリアが小さくガッツポーズを作って吼えた。
 ゲームセット。結局、終盤で逆転に成功した紅組が、紅白戦を制した。