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サルサルぱにっく! IN南国スパリゾート!!

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サルサルぱにっく! IN南国スパリゾート!!

リアクション


第1章

「お猿さんに水着を……?」
泉 美緒(いずみ・みお)が驚きの声を上げる。
「しかしそんな事をするようには見えませんが」
 ラナ・リゼット(らな・りぜっと)が見上げた木の上には、二匹の青い体毛の猿がいた。二匹はこちらを見て首をかしげている。
「いや、あの猿ではないな」
 猿を見た金 鋭峰(じん・るいふぉん)が、眼を細めて呟く。
「あのお猿さんではない?」
「ああ、あんな青くなかった」
 その時、美緒達の背後を駆け抜ける影が二つあった。その影を目にした鋭峰は指を指し言った。
「ああ、あれだ。あれが持っていった」
「あら、あのお猿さん……毛が赤いんですね?」
 ラナがそう言った時だった。
「ま、まてぇ〜……ぜぇ……ぜぇ……」
 全身汗まみれになり、息も絶え絶えな藤井 つばめ(ふじい・つばめ)が現れた。
「ふ、藤井さん! どうしたんですか!?」
「み、美緒さん……い、今……お、お猿が来ませんでした……?」
「お、お猿さん? 今通りましたが……どうしたんですか?」
「さ、さっきバナナを買ったら、あのお猿が横取りしていったんです……捕まえようにも、すばしっこくて……」
「それは災難でしたね……」
「うぅ……あのお猿め……見つけたらお仕置きです……」
「その猿というのはあれか?」
 鋭峰が目を向けた先にあったのは、一本の木。その上に赤毛の猿が二匹、バナナを食べていた。
「アイツらだ! あ、ああ……もうあんなに……」
 猿の傍らには、食べた後である皮が積まれてた。恐らく、殆ど残っていない。
 それを眼にしたつばめの瞳が、赤く変わっていく。怒りの感情がつばめを支配していく。
「ゆ、許しません!」
 つばめが猿に向かって駆け出した。
「つ、つばめさん! プールサイドを走ったら危ないですよ!?」
「美緒、そういう問題じゃ……」
「お猿、覚悟ぉーッ!」
 つばめの姿を眼にした猿は、手に持っていたバナナの皮を投げつける。
「そんなもので僕は止められませんッ!」
 投げつけられる皮を避けつつ、猿との距離を縮めるつばめ。
――ぐにゅ、とした感触が、足に感じられた。
「へ?」
 バナナの皮を踏んだ、と気づく間もなく、つばめは足を滑らせた。
「きゃ――ぶっ!」
 ぐしゃっと顔面から着地。勢いは止まらず、そのままバウンド。そして錐揉み上に回転しつつ、盛大な水しぶきを上げプールへ頭からダイブ。
 その光景を見て、猿が何処からか取り出した『0.984』『0.877』と書かれた札を掲げていた。高得点だ。
「つ、つばめさぁーん!?」
「ほう……見事」
 鋭峰が感心したように呟く。
「言ってる場合ですか! つばめさんを助けないと!」
 ラナが慌ててつばめに駆け寄る。
 沈んでいたつばめが、うつぶせの状態のままぷかりと浮かんでくる。その様子を見て愉快そうに猿は笑い、逃げていった。
 
 プールに浮いたままピクリとも動かないつばめを救助した美緒達は、彼女をワイハーの救護室へと運び込んだ。
「それではよろしくお願いします」
 救助したつばめを預け、美緒達は救護室から出てきた。
「はあ……思っていたよりも怪我が軽くてよかったです」
 美緒が安堵の息を吐く。
「しかし、あれほど派手に転んで全身軽い打撲で済むとは……運がいいと言いますか、頑丈と言いますか……」
 ラナが呟く。医師の診断では、命に別状は無いらしい。
「それにしても騒がしいな」
 辺りを見回し、鋭峰が呟く。至る所で係員が駆け回り、忙しそうにしている。受付を見ると、客が詰め寄っている。ただ事では無い様子だ。
「うぅ〜! 全くぅ〜! オーナーさんどこよぉ〜!?」
 そんな中、師王 アスカ(しおう・あすか)が怒りを露わにしながら歩く姿が見えた。
「あら、アスカさんどうしたのですか?」
「あ、美緒さん! 見てくださいよぉこれぇ!」
 そう言って、アスカは手に持っていたスケッチブックを見せる。
「ここのスパの宣伝用のポスターを描いて欲しいって言われてスケッチしてたのにぃ!」
 美緒がスケッチブックを捲った。そこにはアスカが描いたであろうワイハーの風景のラフ画がある。
「……これは何でしょう……文章みたいですが……?」
 横から覗き込んでいるラナが眼にしたのは、ラフ画の上から書きなぐられてある文字だった。それはこう書いてあった。
『背景はともかく、人物描写に難有。またストーリーも典型的。流行を取り入れようとしている点は評価するが、オリジナリティが欲しいところ』
「なんで風景画が漫画みたいな評価されてるのよぉ〜!」
 うがー、とアスカが吼えた。
「こ、これは一体どうしたのですか!?」
「このお猿さんにやられたの!」
 そう言ってアスカが、もう一方の手で持っていた物を見せてくる。
 それは、真っ黒に焦げて辛うじて猿と解る物だった。
「……何故こんな丸焦げなのだ?」
「ビッグバン・ホルベックスでお仕置きした後だからよぉ!」
 鋭峰の問いに、アスカが怒りながら答える。
「お、お仕置きですか……」
 ラナが苦笑を浮かべつつ、猿を見る。間違いなくお仕置きの範疇を超えていた。というか、生きているのかすら疑わしい。
「こんな躾のなってないお猿さんを放置するだなんて、絶対文句言ってやるんだから〜!」
 そういうと、まだ怒りが収まらない様子でアスカは去っていった。
「……ふむ、どうやらあの猿が至る所で暴れているようだな」
「そのようですね。係員の方々はその対処で追われているのでしょう」
 ラナの言葉に鋭峰が頷く。
「いつつ……酷い目に遭った……」
 そんな時、救護室から佐野 亮司(さの・りょうじ)が出てきた。所々痛々しく絆創膏や包帯が巻かれている。
「あら、貴方は……」
「ん? ああ、あんたらか」
 美緒達に気づいた亮司が話しかけてくる。
「ど、どうしたんですかその怪我は?」
 美緒が聞くと、亮司は苦い顔をして呟いた。
「ああ、多分聞いてると思うが……例の猿に店を襲われたんだ」
「何……! 闇商人の店が襲われただと!?」
 鋭峰が顔を強張らせる。
「闇商人じゃねぇよ!」
「何を扱っていたんだ。場合によっては対策が必要になる」
「だから俺は闇商人じゃねぇっつーの!」
「あ、あの……実際何を扱っていたのですか?」
 話が進まない、とラナが横から割り込む。
「あ、ああ。こんな暑い日だからな、飲食物とか……あと酒も売れそうだから販売してたんだ」
「そこを猿に襲われたんですの?」
「ああ、店の準備をしていて一人だった時にやられたんだ。あの野郎共いきなり現れたかと思いきや、酒を俺にぶっ掛けてきやがった。恥ずかしい話だが、それで酔っ払っちまってな。それですっころんでこのザマだ」
「それしきで酔うとは……一体どんな酒を扱っていたんだ?」
「なぁ鋭峰さんよ……何を考えてるか知らないが、普通の酒だ。俺は酒に弱くてね……ああ、そうだ。その時酒とかかなり持っていかれちまったんだ……くそ、大損害だ」
 忌々しく、吐き捨てるように亮司は言った。
「あんたらも気をつけろよ。何されるかわからんぜ」
 そう言うと、亮司は大きな溜息を吐いて去っていった。
「……至る所で被害が出ているようですね」
 ラナが眉を顰める。
「そのようですわ……あら?」
 美緒の目に芦原 郁乃(あはら・いくの)秋月 桃花(あきづき・とうか)の姿が入ってきた。
「桃花……ね、大丈夫だから……」
「う、うぅ……」
 桃花が泣いており、その横で郁乃が慰めている。
「どうしました、美緒?」
「いえ、あの二人が泣いているので……あの、お二人ともどうかなさったのでしょうか?」
「え? ああ、美緒達……」
「桃花さん……どうかしたのでしょうか?」
 そうラナが聞くと、桃花が顔を伏せる。その様子を見た郁乃が、口を開いた。
「……実は、今日アルバイトに来ていたんだ」
 
――少し前に話を遡る。
 郁乃と桃花は、プールの係員のアルバイトとしてワイハーに来ていた。
 ある時、客がプールの異変を訴えてきたので見に行くと、プールからはアルコールの強烈な臭いが漂っていた。赤モンキーが、酒を流し込んだのだ。
 酔った客を救助している最中、背後から押された郁乃と桃花。郁乃は無事であったが、桃花はプールの水を飲んでしまった。
「桃花! しっかり!」
 プールサイドに横たわる桃花に、郁乃が必死に声をかける。
「い、いくのさま……と、とうかはなんだかねむく……」
 アルコールの臭いがする息を吐きながら、桃花は睡魔と必死で戦っていた。
「ど、どうしよう……ん?」
 そんな中、郁乃の目に赤毛の猿が映った。手に酒瓶を持ち、こちらを見て笑っている。
「あ、あいつが犯人だなぁ! 桃花、ちょっとゴメン!」
 郁乃はそう言って桃花を抱えると、近くの茂みに入り横たわらせる。 
「桃花ちょっと待ってて! 犯人、捕まえてくる!」
「い、いくのさまぁ……」
 駆け出す郁乃の姿を目にした桃花は、そこで酔いからくる睡魔に負け意識を手放した。
――近くに、猿が居る事にも気づかずに。
 
「くっそぉ……すばしっこい奴だ……」
 猿を見失ってしまった郁乃が、桃花の元へ戻ると、変わり果てた彼女の姿があった。
「……そ、そんな……桃花ぁ!」
 郁乃が、叫ぶ。
 そこには、猿達の手により水着を剥ぎ取られた桃花が横たわっていた。

「あのような恥ずかしい姿を郁乃さまに曝すだなんて……私、もう生きていけません……」
 桃花が顔を抑えて涙を流す。
「だ、大丈夫だよ桃花! 恥ずかしくなんて無いよ! それに見たのは私だけだし!」
「で、ですが……あのようなはしたない真似を……郁乃さまに嫌われてしまいます」
「そんなくらいで桃花のことを嫌いになんてならないよ!」
「い、郁乃さまぁ……」
 桃花が郁乃の胸で泣き出す。そんな桃花を、郁乃は優しく抱き締める。
「……さっきオーナーが捕獲に人を雇ったらしいけど、美緒達も気をつけた方がいいよ」
 そういうと、郁乃は桃花を抱き締めたまま去っていった。
「……乙女を辱めるとは、許せません!」
 その姿を見た美緒が、怒りに肩を震わせる。
「こうしてはいられません! 私も捕獲に協力します! ラナ、協力してくれますか?」
「勿論よ、美緒。金さんも協力してくれますね?」
「うむ……いや、しかしだな」
 ラナの言葉に歯切れ悪く、鋭峰が答える。
「どうしたのですか、金さん?」
「この成りでは、な」
「「あ」」
 あまりにも自然だったので忘れていたが、鋭峰は現在葉を巻いているだけなのだ。
 勿論葉の下は何も無いわけで、下手をすると鋭峰は猥褻物陳列罪としてブタ箱行きである。
「団長、その点に関してはご安心を!」
「我々が衣服を持って来ました!」
「む、ルカルカと一条か」
 ルカルカ・ルー(るかるか・るー)一条 アリーセ(いちじょう・ありーせ)が現れた。何故か一条の横には無かったはずの『アマ○ン』の段ボールが置いてあった
「ただ今着替えの場所の準備をいたします。少々お待ち下さい」
 そう言うと、ルカルカは何処かへと行ってしまった。
「すまないな、助かる」
 鋭峰が一条へ言うと、彼は敬礼のポーズを取った。
「いいえ、団長の為ならばこれしきの事……ところで、何故猿に水着を?」
「それは私も気になりますね……貴方程の方なら、奪われるなんて事は無いと思いますが」
「ああ、無理矢理奪われたということは無い」
 ラナの言葉に鋭峰が頷く。
「ではどうして……まさか、お猿さんに騙されて水着を差し出した、とか?」
 美緒が言うが、鋭峰は首を振る。
「いや、水着は自分で脱いだ」
「「「……え?」」」
 美緒、ラナ、一条がハモった。
「だ、団長が……団長が露出趣味があったとは……!」
 一条がわなわなと震える。ショックが大きいようだ。
「失礼な。その様な趣味は無い」
「な、ならば何故あのような場所で脱いでいたのです!?」
 ラナがそう言うと、鋭峰は目を細め言った。

「あの場所に看板があったのだよ。『ここでは着物を脱いでください』という、な」

「……あの、聞きたいのですがそれは平仮名で書いてありましたか?」
「おや、何故わかるのだ?」
 鋭峰の言葉に、ラナが溜息を吐く。
「それ、きっと『ここで履物を脱いでください』と書いてあったんですよ」
「……成程、道理でおかしいと思った」
 鋭峰は真剣に感心しているようだった。
「団長、お茶目です!」
 そんな鋭峰を見て、一条はそう言った。
 ラナは他人事なのに、教導団の未来が不安になった。
「……ところで、だ。君は何をしているのだ?」
 鋭峰が、一条達の横にあった段ボールに声をかける。
「ふっふっふ……流石団長。良くぞ気づかれました」
 段ボールからちょこんと、夜住 彩蓮(やずみ・さいれん)が顔を出す。手には虫取り網のような物が握られている。
「猿の捕獲と聞きまして、色々と勉強してきました!」
「勉強?」
「はい、お猿の捕獲と聞いて色々と文献を参考にしました。お猿の捕獲は網、というのが相場のようです」
「それで、何故段ボールを?」
「蛇の名を持つ伝説の傭兵が言っていました。潜入任務(スニーキングミッション)の必需品の一つであると!」
 そう言って『アマ○ン』と書かれた段ボールを誇らしげに見せる。
「……ひとつ言わせてくれ」
 少し考える素振を見せた後、鋭峰が言う。
「何でしょうか?」
「目立ちすぎだ」
「なん……ですと……!?」
 ガーン、と効果音が聞き取れるくらい夜住はショックを受けたようだった。
「お待たせいたしました、団長! 準備が整いました……あれ? 彩蓮が落ち込んでるけど、何で?」
「いや、そっとしておいてあげてください」
 あまりの落ち込み具合に、一条がルカルカにそう言った。彩蓮本人はどうやら真剣だったらしい。
「それよりもさあ、早く着替えてください団長! あちらのかまくらの中に置いてあります!」
 ルカルカが示す先には、彼女の【かまくら】があった。
「そうか、助かる」
 鋭峰はかまくらの中に入っていった。だが、鋭峰はすぐに出てきた。
「無理だ」
「な、何故ですか!? お気に召さなかったのですか!?」
「いや、中に何も無かったからな」
「な、なんですと!?」
「ルカルカ……僕の水着を置いておいたんじゃないんですか?」
「そ、そんなはずは……ルカだって手持ちのズボンとか置いたよ!」
「ああ、そう言えば入る前に近くを赤モンキーが走って行くのを見たぞ」
「「何故それを早く言わないのですか!!」」
「……教導団、本当に大丈夫かしら」
 ラナが溜息を吐く。
「こ、こうしてはいられないわ! アリーセ、探すわよ!」
「了解!」
 そう言って、二人が駆け出す。
「あの、何故それほどまでに余裕なのですか?」
 美緒が言うと、鋭峰は口の端を僅かに上げ、笑った。
「ああ、心配する必要が無さそうだからな」
 そう言う鋭峰の視線の先には、空っぽの『アマ○ン』の段ボールがあった。

 鋭峰の着替えを盗んだ猿の背後を、彩蓮が追っていた。盗んでいた現場を目撃していたのだ。
 猿は身軽に木々を飛び越えていくが、【軽気功】で身軽になった彩蓮にとって障害ではない。
「先程の汚名、返上させていただきますッ!」
 行動を加速させ、一気に猿との距離を縮めた彩蓮は猿に網を振るうと、強引に押さえつける。
「捕獲完了! さあ、着替えを――え?」
 彩蓮が着替えを取り返そうとしたその瞬間、正体不明の何かが背後から襲ってきていた。
 
「撃ぇーッ!!」
 猿を見つけたルカルカは、【エンドゲーム】を猿に放っていた。
「流石ルカルカ、猿相手でも容赦というのが一切ありませんね」
 着弾点を見た一条が呟く。
「ふっふっふ……このルカルカ、手加減などという単語は忘れてきたわ! まだまだぁーッ!」
「ルカルカ、止めろ」
 追撃を行なおうとするルカルカを、鋭峰が制止する。
「は、はいッ!」
 追撃を止め、ルカルカが敬礼する。
「な、何故お止めになるのですか団長! 今でしたらあの猿めを殲滅できるというのに!」
「今、猿を追ってた夜住も撃墜したぞ」
「え゛」
 ギギギ、と油の切れたように撃墜した箇所へ首を向ける。何者かが、歩いてきた。 
「さ、彩蓮……無事だったのね?」
 そこにいたのは、直撃を受けボロボロになった彩蓮だった。
「ふ、ふふふふ……」
 ボロボロになりながらも、彩蓮は笑っていた。だが、確実にその笑みの裏には怒りが潜んでいる。
「あ、あの……彩蓮……さん? き、着替えは?」
 ルカルカが話を逸らすかのように問いかけると、彩蓮は燃えカスを差し出した。
「……あ、あはは……」
 誤魔化すように、ルカルカが笑ったが、その笑いは引きつっていた。
「ルカルカさん……おいたがすぎ……はふぅ」
 ぱたんと、彩蓮が倒れた。
「や、夜住さんー!?」
「衛生兵……でなくて救護室ーッ!」
 そのまま彩蓮は救護室へ直行したが、目を覚ます事無くリタイアとなった。