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【ロリオとジュエリン】愛とは奪い合うもの

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【ロリオとジュエリン】愛とは奪い合うもの
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リアクション


第2章 Parce qu’il s’’echappe, je veux courir apr‘es il.-逃げるから追いかけたくなる-

 ドンドンッ。
 扉を叩く音が響き、弥十郎がサッと開けてやる。
 フィンが屋敷の中から出た隙に・・・。
 ブゥウウウンッ。
 妖怪たちが中に入り込んでしまう。
「うわぁあ、しまった!」
「退いてください!」
 ドフッ。
「ぎゃふうっ!?」
 リリ・ケーラメリス(りり・けーらめりす)に突き飛ばされた弥十郎は、ベシャッと地面へ顔面直下する。
 細かいことを気にしている余裕なんてまったくない。
「清潔感を破壊する宿敵の存在です!」
 侵入者を排除しようとリリは般若の形相で、スプレーとハエ叩きを手に突入する。
「なっ、何か箱が食い破られていますよ!?」
「え・・・?うわぁああぁあっ!?」
 レイナ・ミルトリア(れいな・みるとりあ)の声に弥十郎が慌てて飛び起きると、妖怪たちにバーガーとクッキーを食べられてしまった。
「しかもなんか、美味しそうに食べられちゃってる・・・」
「形あるものは、いずれなくなる運命だ」
「う〜ん。何ていうか・・・ドンマイッ!」
 へこむ彼を直実とフィンが慰めてやる。
「そこの漫才トリオ、さっさと退けっ」
 扉の前にいる3人に油虫のツラでずいっと詰め寄る。
「2人とも、これを!」
 必殺兵器を直実と弥十郎に、フィンがポイッと投げ渡す。
「これが、目に入らないか」
 スバァアンッ。
「うぐっ、それは!?」
 直実に洗剤を見せつけられた妖怪どもが慄く。
「これがある限り、屋敷に入らせないよっ」
「あたしは中に入ったやつで遊ぶか。久々に童心に返ってみるのもアリだよな」
 訓練にもなるかとウルフィオナ・ガルム(うるふぃおな・がるむ)は台所へ駆ける。
「中に侵入されたなら、一刻も早く始末しませんと!」
 気絶させた神和 綺人(かんなぎ・あやと)を連れて、妖怪を滅ぼしにきたクリス・ローゼン(くりす・ろーぜん)も屋敷の中へ飛び込んだ。



「さぁて、どこに隠れたんだろうな・・・」
 物音が聞こえてこないか、ウルフィオナが耳をぴくぴくと動かす。
「略奪愛なんて許せませんっ。あいつらが1匹でも残って、私たちが帰った隙に連れ去っていくに違いありませんからね」
 スリッパを握り締めたクリスは、周囲を睨みつけ警戒する。
「2人の愛が引き裂かれるだけじゃなくって、私の楽しみもなくなってしまいます!」
「―・・・楽しみって?」
「それはもちろん、着てもらいたいからですよ」
 きょとんとした顔で首をウルフィオナ傾げるに言う。
「なるほどね・・・」
 クリスが連れてきた彼を見て、楽しみの意味を理解した。
「う・・・またここに!?」
 目を覚ました綺人が慌てて飛び起きる。
「何だか、皆殺気立ってるけど・・・。どうしたのかな?」
 慌しい屋敷の様子を眺めるものの、何が起こっているのか分からない綺人は目をぱちくりさせる。
「アヤ、気がつきましたか?ジュエリンさんと屋敷を奪おうとする・・・なんとうかアレに似たやつが攻め込んできたんです」
「アレ・・・って?」
「それはですね・・・、そこっ!」
「うわっ、何!?」
 突然のクリスのスリッパ攻撃に、綺人が慌てて飛び退く。
 スパァアンッ。
「まずは1匹ですね」
 クリスはゴミを掴む掃除道具で死骸を摘み、ぽいっと袋に放り込む。
「えっと、アレってそれ?」
「そうです。それが今回の騒動の妖怪なんです」
「基本的に妖怪は悪いことが好きって聞くけど。これは・・・本当に迷惑なやつだよね」
「増えたらかなり恐ろしいことになります、何でも食べますから。ジュエリンさんも屋敷も、そいつらのターゲットにされてしまったんですよ」
「ジュエリンさんをターゲットって。―・・・どういうこと?」
「嫁に・・・もらいたいとかなんとか、いってましたね」
 考えただけでも寒気がするとクリスは身震いをする。
「へっ?嫁に!?」
「ですから、何としてでも全滅させてやらないと!」
「うん、そうだね。Gに似てるっていうか、ほぼそれが妖怪化してるんだろうけど。確かそれを蜘蛛が主食にしてるよね」
「でも蜘蛛にいすわられても、虫嫌いな子にとってはそれも恐怖ですよ」
「あぁ〜そっか。じゃあ、地道にスリッパとかで倒すしかないかな。・・・そこにもっ!」
 パシイイィインッ。
「あ、ミィちゃん。狩ったGで遊ばないでね。一撃で止め刺さないとだめだよ。逃げるから」
 ちょろちょろと動くからと面白そうに追いかけるミィに言う。
「―・・・アヤ、それ・・・!」
「ん?あぁ!?ミィちゃん、それは僕が倒すからちょっと待って!―・・・うあぁあ!?」
 ゾロロロロッ。
 袋持ちのメスをミィが攻撃してしまい、メスが死亡した瞬間、子供が生まれてしまう。
「ママ・・・?」
「えぇ・・・・・・?」
「おなかすいたよぅ、ママー」
 綺人をママだと思い込んだ子供が寄ってくる。
「僕ママなんかじゃないよ!性別的にもありえないからっ」
「じゃあ、パパ?」
「誰が・・・・・・パパですってぇええ!!?」
 その一言にぶちキレたクリスが子供をぶっ叩き始める。
 ベシッ、ビタンッ、ベチッ。
「綺人が、あなたたちのような妖怪のパパなわけないじゃないですか!!」
 これでもかっ!というほど、完膚なきまでに叩く・・・叩く・・・叩く・・・!
「あの〜、クリス?」
「―・・・アヤ、全然気にしていませんよ」
 平静を装いながらも、腸が煮えくり返りそうなほど明らかに怒っている。
「認識間違いですし・・・フッフフフッ」
 クリスは憎しみを込めて死骸を投げ込んだ。



「1匹たりとも逃しませんよ!」
 リリの方はというと憤怒のオーラを発し、殺気立っている。
 カリッカリカリカリ。
 気泡を含ませたポリスチレンの塊の箱をかじる音が響く。
「この音は・・・やつらが食事をしている音に違いありません。台所の隅っこに積まれていることがありますから。おそらく、それを狙ったんでしょう」
「やっぱりそこにいったのか!」
 ウルフィオナは尻尾を嬉しそうにフリフリと振って走る。
「こっちに気づいていないようだな」
 金色の双眸をギラつかせ、狩りの目つきになる。
 キュピーン、シュタッ。
「ちっ、逃げられたか」
 ブゥウウウンッ。
 身の危険を察知した妖怪は彼女の爪から逃れて飛ぶ。
「あわわ!?」
 ガタガタッ。
 飛び乗った衝撃で箱の雪崩が起きてしまう。
「叩き落としてやりますっ」
「うわぁああ、待て!!そいつ卵持っているぞっ」
「へ!?―・・・ふぅ、危ないところでした・・・」
 ウルフィオナの声で叩く寸前で止める。
 その瞬間にメスが卵入りの袋を離し、子供がぞろぞろとその袋から出てしまうのだ。
「それなら、卵ごと死滅させるスプレーで仕留めてやります!」
 シュウゥウウウッ。
 ポトンッ。
「うぐぐっ、私の可愛い子供たちまで・・・。おのれぇ、獣人め・・・よくもっ」
 床に落ちたメスが手足をばたつかせて苦しむ。
「黙りなさい、掃除や調理する者の敵。いえ、それだけでなく・・・。家のものを食い荒らす害虫は、この私が徹底的に排除してやります!」
 害虫を見下ろし冷酷に言い放つと、死のスプレーのスイッチを押す。
 プシュゥウーーーッ。
「うぎゃぁああっ!―・・・・・・げふっ」
 子供と共に母親のメスは絶命してしまった。
「そこに隠れているのはわかっているんですよっ」
 シュアァアッ。
 冷蔵庫の隙間にスプレーを発射すると、その裏から“ぎょぇえええ!”と悲鳴が響く。
「おや、出てきましたね?でも何度でもかけてやりますよ」
「容赦ないですね・・・」
 しぶとく逃げようとする者たちを排除する彼女の姿に、レイナは目を丸くする。
「くくっ。この隙間に逃げようとしているね?」
 流し台の裏に逃げようとする者を見つけたウルフィオナが、獣の眼差しでギロリと睨む。
 逃げ場の前に立ちはだかり、じりじりと近づいていく。
 にゃぁ〜らん。
「ねっ猫だと!?」
 獣人の彼女にビビった兵が後退りする。
 にゃぁあらん〜。
「とぉおうっ」
 にゃららららっ、ベチッ!
 飛び去ろうとする獲物を両手でキャッチした瞬間、手の中で潰してしまった。
「げっ、ばっちー・・・」
 残骸がくっついた両手を見つめて顔を顰める。
「ねぇねぇ、君たち。足1本と触覚2つくれない?あ、羽1枚もあるとなお嬉しいな〜☆」
 魔法薬や錬金アイテムの材料が尽きそうだからと、ここで調達しようとアルフォニア・ディーゼ(あるふぉにあ・でぃーぜ)が妖怪たちに話しかける。
「羽?飛べなくなるのにやるわけないだろ。しかも・・・どこの小娘かもわからんヤツに、誰がやるか!」
 ツンとした態度を取られ即、断られてしまう。
「家だとリリっちが駆除しちゃうからいないんだよね。別に足は1本なくなっても、6つあるんだからいいでしょ?あ、触覚は2本だけか〜、んじゃ1本でいいからさ〜、ね?」
「しつこいぞ!」
「(持ち帰って何を作ろうとしているんでしょうか・・・)」
 不気味なもので何を作り出そうとしているのか、レイナには想像もつかない。
「え〜?じゃあ、力づくだーっ!」
 捕まえて奪い取ってやろうと襲いかかる。
「ぁあ!?メスはやめてください!」
「へっ、どうして?」
 リリが声を上げて止めようとしたがすでに遅く、掴んだメスが卵の袋を離し、アルフォニアの手の中で絶命した。
 ゾロゾロゾロ・・・。
 そのせいか・・・袋から子供たちが何匹も出てきてしまった。
 原型から人間の子供の姿になった妖怪がアルフォニアをわらわらと囲む。
「ママー」
 1匹の子供が彼女を見上げえて、そう呼ぶと・・・。
「ママーだ〜」
「ねぇ、ママー」
「ママ〜」
「一緒に遊んで〜ママ〜」
「ちっ、違う!ママじゃない!」
 最初にアルフォニアを見てしまったため、彼女を母親だと思ってしまったようだ。
「ずいぶんと、・・・子沢山ですね・・・」
「だから違うってば!!ほら、よく見てよ。全然似てないじゃないっ」
 ぽそっと言うレイナに全力で否定する。
「でも、ママって呼んでるけど?」
「違う・・・。ボクはママなんかじゃ・・・」
 ウルフィオナにからかうように言われ、ぶんぶんと首を振り否定する。
「必殺、害虫駆除!!」
 プシュウゥウウーーッ。
 バタバタバタンッ。
 アルフォニアを“ママ”と呼んでいた子供たちが、リリが放ったスプレーの餌食になってしまう。
「ありゃ〜。お子さん全滅だね」
 虫の姿に戻った幼い子供をウルフィオナが見下ろす。
「―・・・ていうか、ボクの子じゃないしっ!丁度いいからこれを材料に・・・うわっ!?」
 シュッ。
 拾い集めようとした瞬間、リリにハエ叩きで遮られる。
「そんな汚いものを持ち帰るなんて、許しません!もし息を吹き返して、増えたらどうするんですかっ」
「うぅ〜そんなぁ〜。こんなにいっぱい材料があるのに、持って返らないなんて。あんまりだよ〜!」
 アルフォニアは床にへなへなとへたり込み、しょんぼりと項垂れた。