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リアクション
■□ 試練 その1 □■
【東エリアに5つのスイッチが隠されています。ただいまから5分以内にその全てを押して下さい。】
【スイッチはオニの凍結スイッチになっています。スイッチを押せなかった場合、一つに付き一体のオニが活動を開始します】
「始まってしまいましたわね」
メールに目を通した雅羅は、ブラックコートを羽織ったまま東エリアにたどり着いていた。
こうなったら腹をくくって参加するしかない、そう判断して隠されたスイッチを探すために走り始める。と。
「ねえ、もうスイッチ見付けた?」
小学生くらいの、雅羅と同じ制服を纏った少女が、おそらくはリストバンドを見てだろう、声を掛けてきた。
「いえ、まだですわ」
「それなら一緒に探さない?」
「え、ええ……構いませんわ」
どう見ても年下の少女にいきなりタメ口を遣われた事に些か面食らいながらも雅羅は頷く。味方が居るに越したことはない。
「じゃああっちから探そう!」
少女――近衛シェリンフォード ヴィクトリカ(このえしぇりんふぉーど・う゛ぃくとりか)が指さした方向に向かい、雅羅と、ヴィクトリカのパートナー、アーサー・ペンドラゴン(あーさー・ぺんどらごん)が走り出す。
「無いなー」
「そんなに分かりやすいところには無いと思いますが」
ただきょろきょろと辺りを見回すヴィクトリカに対し、冷静なアーサーは物影を中心に丹念に調べる。が、なかなかスイッチらしきものを見付けることが出来ない。
そこへ。
「ひゅぅ、可愛い子発見ー!」
野太い声が響いた。
ハッとして三人が顔を上げた先には、オニの目印である黒いサングラスを掛けて……セーラー服にタイツとパンプスを身につけた……なんというか、ガッシリを通り越してムキっとした体型の女……性? が仁王立ちしていた。
捕まる、という危険を通り越してなんかもう本能的な恐怖を感じた三人は悲鳴を上げることも忘れて一目散に逃げ出した。
しかしそのオニ……天空寺 鬼羅(てんくうじ・きら)は、ここぞとばかりに何故か身につけていた洋服を全て取り去った。下着も含めて、全て。
隆々と鍛えられた男性の裸体が、高いお天道様の下に露わになる。若い女性には目の毒極まりないが、メンタルアサルトとしての威力は十二分だ。
オニとの距離を測ろうとちらりと振り向いたヴィクトリカの顔がぼんっと真っ赤になる。慌てて前を向いて足を動かす速度を上げるヴィクトリカ。
「巨乳高校生とつるぺた小学生! 実に良い、実に良いぞ……特に巨乳! わんだほー!」
が、次の一言がいけなかった。
日頃背丈と胸の小さいのを気にしているヴィクトリカは鬼羅の発した「つるぺた小学生」の一言を聞き逃さなかった。
ヴィクトリカの隣で、アーサーがあちゃ、という顔をする。
「な、ん、で、す、っ、てぇーーーーーーーーーッ!」
が、アーサーが止める間も無くヴィクトリカの堪忍袋の緒があっさり切れた。
「誰が小学生ですって? 私は花の17歳よっ!」
隣で雅羅が、え、そうだったの、という顔をした。
隣でアーサーが、やっぱりそう見えますよね、と呟いた。
「あったまきたぁあ!」
「ヴィクトリカ! 立ち止まっては……」
ぷちん、と切れたヴィクトリカは足を止めると鬼羅の方を振り返る。
が、それにつられて足を止めたアーサー共々、次の瞬間鬼羅の腕の中だった。
「スイッチ……スイッチか……」
朝霧 垂(あさぎり・しづり)は、『黒麒麟』の名を冠した、プロミネンストリックに似た形状の、しかし漆黒のそれを駆って、東エリアを探索していた。
ベルフラマントを被って気配を断ち、オニを警戒しながら物影から物影へと移動する。いつオニが現れるか解らない緊迫感が、自然とその足を急がせる。
「っと、あれか?」
垂の視線が、木の幹に縛り付けられた怪しい紐を捉えた。
黒麒麟の出力を上げ、ぐるりとその木の反対側まで回り込んでみると案の定、そこには黄色と黒の斜め縞模様の台座の中央に、赤くて円いボタンがくっついている、「いかにも」なスイッチが括り付けられていた。
「みーっけ!」
垂がぴ、とスイッチを押し込む。
すると、ぴんぽーん!と思わず気が抜けるチャイムの音が響き渡り、同時に銃型HCがメールの着信を告げた。
【ひとつめのスイッチが押されました。残り四つ】
垂がスイッチを発見していた頃、風森 巽(かぜもり・たつみ)もまたスイッチ探しに奔走していた。
その姿は、まるでどこかのおこさま向けテレビ番組に出てきそうな、大きな目が特徴的なヒーローのそれだ。ただしコスプレ。
「スイッチ探しは、この仮面ツァンダーソークー1に任せておけ!」
誰も見ていないのだが、びしっ、びしっ、とほれぼれするような決めポーズを取ると、神速と軽身功、ついでに超感覚も発動させ、ひゅっ、ひゅっ、と木々の間を野生の獣を彷彿とさせる俊敏さで駆け抜けていく。
「むっ、スイッチ発見!」
巽が見上げた木の上に、ぷらーん、とぶら下げられている黄色と黒の縞模様。
とうっ、とお決まりのかけ声ひとつ、ぴょんと飛び上がると、巽はスイッチをぱしっ、と掴んだ。
【ふたつめのスイッチが押されました。残り三つ】
神条 和麻(しんじょう・かずま)は、物影に隠れながら息を殺していた。
「くそっ、スイッチはどこだ……?」
ちら、ちらと顔を出しては左右を確認。オニが来ないことを確かめてから移動してスイッチを探す。
試練開始が告げられてから、三分ほどが経過している。焦りとオニへの警戒が、じりじりと和麻の心を追いつめていく。
と。背後から微かな足音を感じ、和麻はばっと振り返る。と同時に視界の端に黒いサングラスを見付け、一も二もなく物影から飛び出した。
木々の間、露店の間をすり抜けるように何度も曲がり、オニを巻こうと試みる。が、龍の瞳に鬼の角やら犬の耳やらを生やしたそのオニは、見る間に和麻との間を詰めてしまう。
「はい、捕まえたっ」
「くそっ……! こんなところで……!」
がくり、と和麻はその場に膝を折るのだった。
「スイッチねえ……」
刹那・アシュノッド(せつな・あしゅのっど)は、あまりオニを警戒する風でもなく、しかし急ぎ足であちらこちらとスイッチを探していた。
刹那のパートナーであるセファー・ラジエール(せふぁー・らじえーる)は、その後を付いて歩きながらも、オニへの警戒は怠らない。
「どんな形なのかな。色とか……解らないと探せないよね……ん?」
こつん、と何かが足に引っかかり、刹那は下を向く。すると、その足元にはスイッチです! と言わんばかりの例のスイッチ。
「……これかな?」
「……の、ようですね。しかし、もうちょっと作りようがあったのではないですかね」
セファーがやれやれ、と肩を竦める横で、刹那はよし、とスイッチに手を伸ばす。
ぴんぽーん、と気の抜ける音が響いた。
「これで、いいのかな……?」
刹那がメールを確認しようと携帯電話を取り出すと。
突然、辺りを眩い光が包んだ。一瞬刹那の視界がホワイトアウトする。
「きゃっ……!」
「刹那、こちらへ!」
悲鳴を上げる刹那の手をぱしっと掴んだセファーが、明後日の方向へ向けて走り出す。
なになに、と抗議の声を上げる刹那と、光術を放ったセファーの姿が見えなくなった後には、急な閃光に瞳を灼かれて立ち止まるオニが一人残されていた。
【みっつめのスイッチが押されました。残り二つ】
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