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リアクション
「お茶でもしませんか?」
エレオノール・ベルドロップ(えれおのーる・べるどろっぷ)が、通りがかった国頭 武尊(くにがみ・たける)に声を掛けた。
何処から出したものか、レジャーシートにティーセットを広げて優雅なティータイムを楽しんでいるエレオノールの姿に、武尊は一瞬何を言われたのか理解に困ったようだ。が、差し出されたティーカップを見て、いやそんな場合じゃないだろう、と断る。
「ここは見通しが良いですから、鬼も見つけやすいので大丈夫ですよ」
「いや……いらん」
なにせエレオノールがシートを広げているのは芝生のど真ん中、捕まえてくれと言っているようなものだ。
さっさと立ち去ろうとしたその時。
殺気を感じ、武尊は来し方を振り向いた。
そこには、サングラスに黒いスーツを纏った強殖魔装鬼 キメラ・アンジェ(きょうしょくまそうき・きめらあんじぇ)の姿。
「っ、やべえ!」
アンジェの姿を認めた武尊は、慌ててミラージュを展開し、腕に嵌めたアクセルギアをオンにすると出力を絞って発動させ、その場から慌てて離脱する。
「あら……?」
その姿を見送ったエレオノールがゆったりとアンジェの方を振り向いた。
「うー、お腹すいたなぁ……」
アンジェがそう呟いた瞬間、エレオノールとアンジェの目が合う。
「……おいしそー!」
エレオノールをターゲットに定めたアンジェが、猛然とダッシュしてエレオノールに襲いかかる。
あらあら、と押っ取り刀で立ち上がろうとしたエレオノールをあっさり捕まえると、いただきまぁす、と口を開く。
え、と呆然としているエレオノールの首筋にアンジェの牙が……
「はい、そこまでよっ!」
あわや、というところで響いたのは、リカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)の声。と、同時にリカインがアンジェを取り押さえる。
リカイン自身もサングラスを掛けている。何故オニに捕まえられるのか、とアンジェはリカインを不満そうな目で見上げる。
「オニも参加者への物理攻撃は禁止でしょう?」
「えー、攻撃じゃなくてごはん……」
「よりダメよ! お腹が空いたなら本部に食べるものくらいあるんじゃないかしら」
リカインの言葉に、アンジェはくるりと踵を返して本部の方へと走っていく。
アンジェを見送ったリカインは、シートの上にへたり込んでいるエレオノールの方を振り向くとにっこり笑い、
「じゃあ、『ろうや』へいきましょうか」
と、言った。
さてこちらは、無事に脱出した武尊。光学迷彩を発動させ木陰に身を隠していた。
「……やべぇな……」
が、どこから沸いたのか、数頭の狼に包囲されてしまっていた。
光学迷彩なら見つからないと踏んでいたのだが、どうやら野生の嗅覚は誤魔化しきれないらしい。
「そこにいるのね?」
武尊が冷や汗をかいている中、す、と姿を現したのは、サングラスを掛けてパラミタ虎に跨ったライラック・ヴォルテール(らいらっく・う゛ぉるてーる)だ。
サングラスの下で赤い瞳がキラリと光る。
「包囲縮めて。合図したら掛かるよ」
ライラックが小さな声で狼たちに合図を出すと、じり、じり、と武尊を包囲する輪が小さくなっていく。
この数の狼に囲まれては光学迷彩は意味を成さないだろう。問題はいつ光学迷彩を解除するか――どの方角へ逃げるか――おそらく、チャンスは一瞬……
「いくよ」
ライラックの声が小さく、しかし確実に響く。
武尊が光学迷彩を解除した、まさにその時。
「そこまでです!」
朗々とした男の声が響き、一体の影が狼たちの輪の中へ飛び込んできた。
突然の出来事に、ライラックは咄嗟に足を止める。すると狼たちもその場に足を止めた。
「……何?」
「参加者に危害を加えるような真似は禁止ですよ?」
ニッコリと笑ってライラックを見据えるのは、リカインのパートナー、空京稲荷 狐樹廊(くうきょういなり・こじゅろう)だ。
「……そんなつもり、ないよ」
「しかし、狼さんを使うのは感心できません。危ないでしょう?」
「……」
さっ、とライラックが手を振ると、狼たちはライラックの乗った虎の回りに集まる。
「この子達は大丈夫だよ」
「……の、ようですね……」
一糸乱れぬ動きを見せる狼たちの姿に、狐樹廊は申し訳なさそうに肩を竦めた。
「これは申し訳ないことをしました」
「……逃げちゃった」
狐樹廊の言葉には応えず、ライラックは先ほどまで包囲していた木の陰を目で指す。
二人が言い争いをしている間に、武尊はすたこらと逃げてしまっていた。今更光学迷彩を展開するのも無意味か、とそのまま逃げていたのだが、二人の眼中には入らなかったようだ。
「まてまてー!」
二人の遣り取りを横で見ていた童子 華花(どうじ・はな)だけが、逃げる武尊に気付いて楽しそうに追いかけていた。オニの証のサングラスがいささか大きい。
が、しかし頭二つ三つ分身長の違う華花と武尊ではコンパスが違う。なかなか追いつくことが出来ず、華花は次第に半べそになっていく。
「まっ……まってよぉ……えぐ……」
「待てと言われて誰が待つかよ」
しかし武尊は無情にも走る速度を落とさない。
「華花を泣かすなんて……許しません!」
その様子を見ていた狐樹廊が、怒りに拳を握りしめる。そして、武尊の後を猛烈な勢いで追いかけ始める。
追ってくる気配が増えたことに気付いた武尊がちらりと後を振り向いた、その時。
狐樹廊は非物質化していた最終兵器を物質化させた。
ひげめがね・サングラス仕様。
整った顔立ちの上に突然現れた、膨らんだ鼻に間抜けな髭。思わず武尊は噴き出した。
そのタイミングを刹那も逃さず、狐樹廊は追撃のメンタルアサルトを発動させる!
ぷぴー
鼻の下から二本伸びるふきもどし! 息を吹くとくるくる丸まった紙の筒がぴろー、と伸びるアレ!
ぶほっ、と思いっきり噴き出してバランスを崩す武尊だったが、なんとか転倒することは避けて体勢を整えると、再び光学迷彩を発動させて虚空へと溶けた。
【現在捕縛された人数:西;九名、東;三名。新たに捕縛されたのは、八日市 あうら、夏野 日景、深沢 ごまりん、神条 和麻、本宇治 華音、ウィーラン・カフガイツ、エレオノール・ベルドロップ。試練2を開始します。】
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