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東西対抗『逃亡なう』

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東西対抗『逃亡なう』

リアクション

「信長、何だか凄く楽しそうだな」
 さくらの元へと走りながら、桜葉 忍(さくらば・しのぶ)がパートナーに声を掛けた。パートナーである織田 信長(おだ・のぶなが)は脇目もふらずに東門を目指して走っている。
「うむ、忍よ!れくりえいしょん、というのは中々面白いのう」
 信長は普段の凛とした振る舞いとは打って変わって楽しそうに答える。が、その視線は前を向いたままだ。頭の中にはさくらを見付けることしかないのだろう。
「さて!我らも早く鍵を手に入れるとするか忍よ!」
「それじゃあ俺も信長に負けずに頑張って活躍しようかな!」
 楽しそうな信長の様子を見ていると、忍まで童心に返ったような気になってくる。
 二人揃ってさくらの元まで走っていくと、さくらは信長をちらっと見て、
「……今日は煙幕とか使わないでよねっ」
とチクリと釘を差しながら、二人分の鍵を差し出した。
「うむ、大丈夫だ! 忍、行くぞ!」
 が、さくらの小言など全く気にせず、信長は忍を引っ張るようにして駆けだしていく。忍が殺気看破に女王の加護、ついでに歴戦の立ち回りまで修得しているため、オニに出会うことはない。さらには信長のトレジャーセンスが冴え渡り、あっという間に二つの宝箱を発見することが出来た。

【四つ目、五つ目の宝箱が開きました。残り五個】

「ふむ……北で一つ、東に四つ……だいぶ偏っているな」
「そしたら後は西かなぁ?」
 佐野 和輝(さの・かずき)と、そのパートナーのアニス・パラス(あにす・ぱらす)が、同じく和輝のパートナーであるスノー・クライム(すのー・くらいむ)の銃型HCに宝箱の発見情報をマッピングしていた。
「いや、北にもまだあるかも知れない。鍵を受け取ってから走っても間に合わない場所には配置されないだろうから……」
 この辺りは捜索範囲から外せる、とある程度捜索する範囲を絞り込むと、和輝はアニスに情報を参加者へ配信するよう指示する。
「よし、俺達は北エリアへ行こう」
 ハンドヘルドコンピュータを畳むと、和輝は二人のパートナーに声を掛けて移動を開始した。

「オニ発見……北エリアに向かいました、っと……」
 植え込みの陰に隠れてオニの情報を携帯で送信しているのは芦原 郁乃(あはら・いくの)だ。
 東エリアへと鍵を取りに来たのだが、オニと鉢合わせそうになったため避難している。
「お姉ちゃん、オニ、行っちゃったよ」
 郁乃がメールを打っている間オニを見張っていたパートナーの荀 灌(じゅん・かん)が小さな声で告げる。
 よし、それなら行こうと郁乃が立ち上がった瞬間。
 ぴろぴろっ、とけたたましい音を立てて、郁乃の携帯がメールの着信を告げた。今し方郁乃自身が送った一斉メールだ。
「お姉ちゃーん! 携帯マナーモードにしなきゃオニさんに気づかれちゃうですっ!」
 着信音に被せるように荀灌が叫ぶ。
 すると、着信音に加えてその声に気付いたオニがぱっと振り向いた。
「しまったですぅ!」
 二人は慌てて立ち上がると、隠れる場所を変える為に走り出す。オニが追ってくるがまだ距離がある。落ち着いて木陰に身を隠し、郁乃の隠れ身と隠形の術で気配を殺す。
 すると、二人を見失ったオニは暫くキョロキョロしていたが、やがて元々目指していた北エリアの方へ向けて立ち去っていった。
 二人はそっと木陰から現れると、改めてさくらの元目指して走って行く。
 郁乃の身を隠す術はかなりの腕前で、そのお陰で、二人はオニに見つかることなく無事に西エリアで二つの宝箱を発見することが出来た。

【宝箱 残り三個】

「……スタッフ、めんどくさくなってきてないか?」
 一斉メールを受信したクロセル・ラインツァート(くろせる・らいんつぁーと)が首を傾げる。
 さくらから既に鍵は受け取っている。後は宝箱を探すだけだ。
「後は北エリアが怪しそうですね」
 佐野和輝からのメールを元に捜索範囲を北エリアに決めると、パートナーのマナ・ウィンスレット(まな・うぃんすれっと)を頭に乗せて走り出した。
 すると。
「この辺りはもう探した! あちらがまだだ!」
 先に北エリアに到着していた和輝が、後から来たクロセルに気付いて声を掛ける。その時に振られた手に、西陣営であることを示すリストバンドが着いていたことをクロセルは見落とさない。
 しかしひとまずは頷くと、クロセルとマナはそちらの方へ向かって走り出した。
 が、丁度そこへ、サングラスを掛けた橘 恭司(たちばな・きょうじ)が到着した。
「俺が囮になりましょう! 皆さんは早く宝箱を!」
 こちらです、とオニ役の恭司に向かってクロセルが声を掛けると、恭司はちらりとそちらを見て追い始めた。
 その間に、和輝が一つの宝箱を発見して解錠する。

【宝箱 残り二個】

「ふふふふふ……ヒーローたる者、逃げも隠れもしないのです!」
 そう言いながら千里走りの術を使って逃げまくり、恭司を引きつけて居たクロセルだったが、恭司も負けてはいない。鍛え上げられた肉体には十分な体力が秘められている。徐々に鈍ってくるクロセルの動きに対し、冷静に淡々と追いつめていく。
「これは些か……」
 まずいかも、と息が切れてきたクロセルが呟く。
 恭司との距離が縮まってきた。
 と、その時クロセルの目に飛び込んできたのは、和輝の二人のパートナー。
「今ですっ!」
 クロセルはアニスとスノーの方目掛けて突っ込んでいくと、直前で空蝉の術を発動させる。
 先ほどまでクロセルが居たように見えた所に今立って居るのは、ぽかんとしているアニスとスノー。
 まっすぐ突っ込んできた恭司は、そのままアニスとスノー二人を捕獲した。
「あっ……お前……!」
「はっはっは! これがぺの付く方の天使というもの!」
 パートナーを思いっきり盾にさえれたことに憤る和輝を尻目に、クロセルはすたこらと宝箱があるとおぼしき方向へ走っていく。
 が、残り時間がもう少ない。残りの宝箱は二つ。
 走るクロセル。その視線のずっと先に、それとおぼしき箱が映った。が、走っていては間に合わない。
「クロセル、私を投げるのだ!」
 とその時、ずっとクロセルの頭の上に乗っていたマナが突然叫んだ。
 その一言で何を言わんとしているのかを悟ったクロセルは、マナを頭の上から下ろすとせいやー! とかけ声ひとつ、宝箱の方向へぶん投げる。
 マナは空中でレビテートを発動させて起動を微調整する。そして、持っていた鍵を小さな手で正面に構え、宝箱へと突っ込んでいく。
 がちゃ、とカギ穴に鍵を差し込んだその時。

【只今を持って試練3を終了します】

 一斉メールが配信されたのだった。