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序章 狼煙

「透乃ちゃん、こちらは≪プテラノトプュス≫の姿を確認しました。そちらはどうですか?」
 緋柱 陽子(ひばしら・ようこ)はスナイパーライフルを構え、数キロ先に見えている≪プテラノトプュス≫を睨みながらハートの機晶石ペンダントで婚約者の緋柱 透乃(ひばしら・とうの)と連絡を取る。
「こっちも岩を食べている≪プテラノトプュス≫を確認したよん」
 ペンダントから明るい楽しそうな透乃の声が聞えてきた。
 ≪プテラノトプュス≫は機晶石を含んだ岩石を胃に溜めることによって、強烈な咆哮を可能にしているようだ。
「他のみんなも気づかれずに無事に配置につけたみたい。準備万端。いつでもオッケー。ちゃちゃっと一発かましちゃっていいよ〜」
 近接戦闘に特化した多くの仲間達は、山脈周辺の林を抜けて、岩を削り食う≪プテラノトプュス≫を囲むように近づいていた。
 ≪プテラノトプュス≫は自身の強烈な咆哮のために聴覚が退化した生き物だった。そのこともあってか、透乃達が近づいていることに今の所気づく気配はない。
 陽子は深呼吸して、トリガーに指をかけると、背後の大木に体重をかける。
 肺が水分を含んだ森の空気で満たされる。
 落ち着いた気持ちになった陽子は、もう一度≪プテラノトプュス≫を照準で確認した。
「それでは――撃ちます!」
 陽子がトリガーを引くと大地を震撼させるほどの衝撃と共に、大魔弾『コキュートス』が発射された。
「くっ――」
 陽子は歯を噛みしめ、反動に耐える。
 背中に触れた大木が大きく揺れた。
 そして、大魔弾『コキュートス』が命中する。
「次弾装填します!」 
 陽子は先端から白い煙を上げるスナイパーライフルに、急いで次の弾を装填しだした。
 立ちこめる硝煙の中、≪プテラノトプュス≫が怒りの咆哮を上げ、羽を広げて今にも飛び立とうとしていた。
 すると、両翼の翼に閃光と共に稲妻が駆けた。
 ≪プテラノトプュス≫の周辺の木々の隙間から神代 明日香(かみしろ・あすか)と、タルタル特製・気付け薬で魔法少女ツカサに変身した月詠 司(つくよみ・つかさ)が魔法を放ったのだ。
「油断大敵ですぅ。ツカサちゃん。一緒に援護をしますよぉ〜」
「わかったの。――悪いけど、ソコで大人しくして欲しいの!」
 ツカサがレイハさんEXを構える。
 すると、≪プテラノトプュス≫が咆哮を放ち、皆が耳を塞いだ。
「あうぅ、やっかいな咆哮ですねぇ。仕方がありません。これで行くのですよぅ」
 明日香が魔道銃を手に、銃弾を≪プテラノトプュス≫に撃ち込みながら駆けていく。
 その横では咆哮によって二度目の変身が解除された司が、戸惑いの表情を浮かべていた。
「あ、あれ、私は――」
「ツカサ! はいコレ!」
「――うぐっ!?」
 そこへ走ってきたシオン・エヴァンジェリウス(しおん・えう゛ぁんじぇりうす)が、司の口に容器ごと押し込むようにタルタル特製・気付け薬を飲ませた。
 司の姿が、魔法少女ツカサへと再び変わっていく。
「うぅぅぅ、あの咆哮が耳障りですの〜」
「あ、うん。そうだね」
 シオンは司に逃げられる前に、無事魔法少女化させられて一安心した。
「ここはみなさんと協力して……あれ? ねぇ、シオンさん、緑さんと優雨さんはどこ行ったの、なの?」
「ん?」
 あゆむのためにも真剣に≪プテラノトプュス≫と戦おうとするツカサは、すでに地面から突き出した岩肌に腰を下ろしてサボる気満々のシオンに尋ねた。
 ツカサは頬を膨らませる。
「少しは働いたらどうなの〜?」
「ちゃんと働いているわよ〜。ちょっと、走り疲れたから休憩中なだけよ。それより二人なら、卵を探しに山脈を昇りに行ったわよ。まぁ、苦戦しそうな相手だし、そっちの方が早いかもね〜」
 シオンはコロコロと笑いながら、視線をツカサから≪プテラノトプュス≫へと移動させる。
 すると、飛び立とうとした≪プテラノトプュス≫に魔鎧となったアウレウス・アルゲンテウス(あうれうす・あるげんてうす)を装着したグラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)が攻撃を仕掛けようとしていた。
「そう簡単に逃げられると思うなよ。行くぞ、アウレウス!」
「了知しました。この身は主と共に!」
 ワイバーンのガディからグラキエスが≪プテラノトプュス≫に向けて飛び降りる。
「これでも食らえぇぇぇぇ!!」
 振りかざしたレプリカディックルビーを、自身の身体の倍以上の面積がある≪プテラノトプュス≫の頭へと叩きつけた。
 だが、グラキエスが渾身の力で叩きつけた一撃をもってしても、傷をつけることさえできない。
 ≪プテラノトプュス≫が振り払うように首を振ると、グラキエスは易々と空中へと放り出されてしまう。
「ちぃ、ゴルガイス!」
「任せろ! はぁぁぁぁぁ――!」
 ガディの背にどうにか飛び乗ったグラキエスが叫ぶと、ゴルガイス・アラバンディット(ごるがいす・あらばんでぃっと)が≪プテラノトプュス≫の懐へと潜り込んだ。
 ゴルガイスは比較的皮膚が柔らかそうな腹に一撃を放つ。
 それでもやはり≪プテラノトプュス≫に有効な一撃を与えるには至らなかった。
「なんという硬い皮膚なのだ。……仕方ない。壊れるまで攻撃を続けるしかあるまいな」
 ゴルガイスは続けて攻撃しようとするが、咆哮を警戒して一端≪プテラノトプュス≫から距離を置かざるをえなかった。

 ――山脈に潜む巨大な怪鳥。
 騨と一緒に親子丼を食べたいというあゆむの願いを叶えるため、あるいはそれぞれの思惑のために、生徒達は走り回るのだった。