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図書館“を”静かに

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図書館“を”静かに

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「……っ」
桐ヶ谷 煉(きりがや・れん)は焦りを殺していた。それでいて、図書館の棚と棚の隙間まで冷静に注意を向けている。狭い場所では大振りな武装は役に立たない……彼はそう判断し、手には《光条兵器》のみが握られている。
そこまでの判断は正しかった。それ以上に、ピクシーたちが本を盾として利用してきたので、《光条兵器》の特性を利用して本を傷つけない戦いも出来た。
……それ以降が想定外である。本を守る立ち回りに感づいたピクシー達は、今度は本を盾としてではなく武器として扱ってきたのだ。今にも崩れそうなボロボロの本で、複数の仲間と同時に、死角から不意打ち気味に、だ。一撃でももらってしまったら、ダメージこそ無いが本がバラバラになってしまいかねない。煉は先程から回避を強制されていた。
「まったく、予想外だぜ」
思わず独り言を呟いてしまう。あまり強くない雑魚と聞いていたし、実際単体での強さは《光条兵器》が勿体ないと感じるほどだった。しかし、こう小賢しく立ち回られると認識をある程度改めなければならないだろう。
そこへ耳障りな羽音と気配。とっさに体を逸らすと、一体のピクシーが豪華な装飾の本を抱えて突っ込みそのまま体から数センチの場所を横切っていった。続いて二匹目、三匹目と突っ込んできたが、しっかりと回避を行う。
「今度は貴重な本か!」
修理を強要するなら、より高価な本――狡猾さに悪態をつきながらも《光条兵器》を構える。ピクシー達は天井近くまで上昇している、叩き落す事は可能だが本が落下してしまうだろう。叩き落としながら大きめの本を三冊、受け止められるかは……半々。安易に実行すべきでないと戦場での勘が囁いてくる。どうする?
「こっちだ……えーと、天御柱の人!」
 掛けられた声の主を確認する前に体が反応する。煉はピクシーの群れを引きつける程度の速度で『こっち』へと向かった。
「回収、頼むよ」
煉が横切る際にそう伝えると、声の主……猪川 勇平(いがわ・ゆうへい)は長剣型の《光条兵器》を振りかざす。何をすべきか把握した煉は、逆に《光条兵器》を一旦納めて勇平の後ろで身構えた。
「だァッ!」
光芒一閃、煉を狙い迫り来るピクシー達だけが正確に切り裂かれ、抱えていた本が取り落とされる。煉の素早い身のこなしと共に、それらは利き手を問わない彼の両手に収まっていった。
「何とかなったな……ええと、猪川 勇平だ」
「桐ヶ谷 煉だ、助かった。よく一人で対応出来たな」
 ピクシー達を振り払い、援護に入ってくれたであろう彼に煉が感心するも、勇平はどこか恥ずかしげに答える。
「あー、俺も一回パートナーに助けられたんだよ。で、こいつら相手に単独対応は難しいんじゃないかって話し合って、皆の援護をしたほうがいいって事でここまで来たんだ」
 彼等ピクシー討伐に乗り出した者達は、効率的な撃破のため各個で単独掃討の形を採っていたが、それが逆に仇となりピクシー達につけこまれているようだった。
「確かに一人では厳しいな、場所が場所というのもあるが予想以上に賢い」
 煉は自分や勇平の力量――ピクシー達よりも圧倒的に上――を鑑みながらも、冷静に、客観的に考察する。
「普段は身を隠しつつ、襲い掛かる時は最低でも三体以上でまとまって来る。その上で本の盾、誤射の誘発狙い、意図的に本の破壊を見せつける戦法……対応した所でその上をさらにつけ込んでくる狡猾さだ」
「面倒だよなぁ」
 勇平が頭を掻きながら述べる。ああ、と煉も同意した。
「ま、その割には色々と雑だけどな。狡猾な所だけ頭が回るってのも、ピクシーらしいというか何というか」
 そこまで話すと、少し離れた場所で戦闘の音と誰かの怒声が聞こえてきた。二人は示し合わせるまでもなく、声の元へ急行。
「遅いぞ、勇平!」
そう怒鳴りながらも、杖を振り回してピクシー達の応戦をするのは勇平のパートナー……魔導書『複韻魔書』(まどうしょ・ふくいんましょ)。複韻魔書も含めて何人かが、本を載せた台車を中心に円陣を展開、対応していた。
「悪い、今……って」
 しかし光条兵器を構える二人を見たピクシー達は、全員が一目散に逃げ出した。小柄な彼等は本棚の隙間を縫うように逃げ、直ぐに見失ってしまった。
「不利になると即撤退か。倒しにくそうだな、あいつら」
「貴様が不甲斐ないからじゃろう?作業の手が止まってしまう故、あまり相手にはしたくないと言うに」
先程まで複韻魔書と共に応戦していた、アキラ・セイルーン(あきら・せいるーん)ルシェイメア・フローズン(るしぇいめあ・ふろーずん)の問答に、煉が口を挟んだ。
「いや、実際にかなり厄介だぜ。一旦集合して作戦を立てた方がよさそうだな、こいつは」
「そうだよルーシェ、あいつら面倒だしこのままじゃ落ち着いて作業できない」
うんざりした表情のアキラの意見に、ルシェイメアはむぅ、と顎に手を当て考えこむ。
「皆さーん」
そこへ銀髪の剣の花嫁……セレスティア・レイン(せれすてぃあ・れいん)がやって来た。
「司書さんがお呼びですよ。今やっている作業が一段落したら一旦貸出カウンターまで来て欲しいと」
「ああ……やっぱり、各個で行動してちゃマズそうなのかな」
少し気だるそうな勇平に、複韻魔書が難しい表情で語る。
「ピクシーを駆除するだけなら誰にでもようが……今日中、しかも本達を元に戻してやらねばならんからな。力量があるからと意地張って単独行動は出来ん」
「効率重視、って事か」
オッケー、と歩き始めた煉に倣い、そのまま一団は移動を開始する。図書館全体を見渡せる場所に差し掛かると、まだまだ荒れて手付かずの箇所が嫌という程目についた。
「まだこんなにあるのかぁ。こんなの、どーやって今日中に片づけろっつーんだよ……」
「貴様の部屋と同じじゃな、片っ端から片付けていく他あるまい」
アキラルとシェイメアの問答をまぁまぁ、とセレスティアが諌める。
「二人とも、まずは司書さんにお話を聞いてみましょう。何か良い意見があるのかもしれませんから」
その後ろ、一団の最後で勇平は頭を悩ませていた。
「勇平?何をしておる」
「んー」
 複韻魔書が少し不機嫌顔で急かすものの、勇平は悩み続ける。
「……あのピクシー……何か引っかかるんだよな、何だろう」


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