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起木保の究極の選択~更生or協力大作戦~

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起木保の究極の選択~更生or協力大作戦~

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第二章 危険と進展

 溜池キャンパスの体育館前の電子掲示板に、『起木保教諭実績発表会』という表示がされた。
 それを満足げに椎名真が見遣る。
『蒼空学園生徒と教員の皆様に連絡です。
本日18時より、体育館にて養護教諭起木保による講演が行われます。どうぞご参加ください』
「頼んでおいた放送、しっかりやってくれたみたいだね」
 彼の手には、発表会の告知チラシの束がある。
「場は整ったから、あとは告知だね。凄腕の執事さん、手伝ってくれないかな」
 従者である凄腕の執事が頷き、チラシを手にとって配り始めた。
 その様子を認めて、椎名真は携帯電話を手にとった。
「もしもし、カガチ? こっちはほとんど整ったよ。告知が終わればもう、こっちはいつでも大丈夫だ」
「椎名くんお疲れ〜。こっちもなんとかやってるよ」
 保健室に辿り着いた東條カガチは、起木保の資料集めを手伝うため、バタバタと働いていた。
「起木センセ。これもっと資料つけた方がいいんじゃねぇかなぁ?」
「ふむ……しかし手元に資料がないからな……」
「じゃあ俺が資料つけとくよー」
「頼んだ」
 東條カガチも、起木保も、書類の束と格闘している。そんな二人を背に、高峰雫澄と日比谷皐月は周囲を警戒し睨みを利かせている。
「すっごい! すっごい! 機械がいっぱい!」
 室内の緊張感を裂くように、無邪気な声を上げる水ノ瀬ナギ。金の瞳を爛々と輝かせて、起木保の作品達を見渡す。
「ねぇねぇ先生、どれがバッサイーン?」
「これだ」
 水ノ瀬ナギが示されたロボットに、飛びつくように近寄る。
「うわぁー! バラした……じゃない、動かしてみたいな!」
「そうだ、バッサイーンの資料も出さないとな」
 気付いた起木保が、机の上をがさごそやって、紙の束を新たに取り出した。バッサイーンの設計図だ。
「すっごい! 先生、絵が上手いね。いいなぁー」
「そうか? 僕としては絵を描いているというより、図面を書いている感覚なのだが……」
「!」
 高峰雫澄がドアの外を凝視する。【殺気看破】が察知した危険。
 ガラガラッ
 同時に保健室のドアが乱暴に開けられた。
「ここにいたぞ!」
 現れたのは、一般男子生徒の集団。
「起木保、この学校から出ていけ!」
 そう言って、紙を丸めたボールや、ゴムボールが一斉に投げられた。
「うわっ!」
 思わず目をつぶる起木保。その前に高峰雫澄が立つ。
「先生、下がってろ!」
 日比谷皐月が飛び出し、氷槍白蓮でボールを払い落とす。槍を掲げ、起木保を護るように立ちはだかる。
 高峰雫澄も手でボールを払い落とす。
「邪魔をするな!」
 憤る生徒達。
「やめよう? こんなことは」
 柔らかく語りかける高峰雫澄。
「無理に追い出したりしないで、困る部分は少しずつ変えていく……それじゃあ、ダメなのかな?」
 特技の説得も生かし、語りかける……。
「トラブルを止めるには、やめさせる以外にない!」
 断固拒否する男子生徒達。
 さらに飛んできたボール。しかし、高峰雫澄と日比谷皐月がそれを阻む。
「オレ達が守る限り、先生に危害は加えられない。諦めろよ」
 槍を掲げ、生徒達を睨みつける。
「それでも諦めないっていうんなら、どうなっても知らねぇよ?」
 日比谷皐月が槍の切っ先を男達に向けた。
「うおぉおおお!」
 ボールではどうにもならないと察知した生徒達がなだれ込んできた。
「こらー! 機械の邪魔をする悪物は、ボクが許さないよっ!」
 水ノ瀬ナギが叫び、【トラッパー】により仕掛けてあった罠が発動。
 張ってあったピアノ線にかかった男生徒達は、起木保の作ったバッティングロボットに脛をヒットされてうずくまる。
「大成功っ!」
 楽しそうに微笑む水ノ瀬ナギ。
「起木様!」
 駆けつけたのは【禁猟区】により危険を察知した本郷翔。
「危害を加えるなら、容赦しません!」
 一歩踏み込み、拳を突き出す。ボールを投げようとした手にクリーンヒットして痛がる男生徒。
「諦めてください!」
 構えたまま男生徒達を見る。
「あ、先生!」
 近くを通りかかったソア・ウェンボリスが駆け寄って来た。
「くっ、なぜ、なぜこんな奴の味方するんだ!?」
 唸って更に殴りかかろうとする男生徒達。
「暴力反対、です!」
 叫びつつ【光術】発動。
「うわっ!」
 まばゆい光が保健室全体を包み、男達の目をくらませる。
「保健室から出て行ってください!」
 更に【風術】発動。強風が男達だけを保健室の外へ押し出す。
「わああああぁあ!」
 廊下の壁にぶつかり、もんどり打つ男生徒達。
「……先生を改善しようと動いてるところなんだから、邪魔しないでくれるかなぁ?」
 のんびりとした口調とは裏腹に、鋭い視線を男達に向け、東條カガチがぴしゃりとドアを閉めた。
「…………」
 言葉をなくした男達。と、そのごく近くに人影が現れた。
「……それで、貴方達は誰に言われてこんなことをしているのですか?」
 腕を組んで冷たく言い放つ、本郷翔。
「お、俺達は……」
「チラシを見て集まった方々でしょう? 首謀者は誰ですか?」
「詳しいことは知らないんだ! に頼まれただけで――」
「女?」
 本郷翔の黒い瞳がきらりと光る。
「詳しく教えてください」
 怒涛の攻撃にすっかりひるんだ男達は、素直に語り始めた……。