天御柱学院へ

蒼空学園

校長室

イルミンスール魔法学校へ

起木保の究極の選択~更生or協力大作戦~

リアクション公開中!

起木保の究極の選択~更生or協力大作戦~

リアクション


第三章〜終幕

 空が、橙色に染まりかけたころ。
 溜池キャンパスの体育館に、生徒と教師達が集まった。
「それでは起木保教諭、お願いします」
 椎名真の紹介により、壇上に上がる起木保。
 起木保実績発表会が、始まるのだ。
 傍らには東條葵が立っている。
「えー、この度は、お集まりいただきありがとうございます。
 今日は皆様に、僕が行ってきた活動と、研究についてお話したいと思います」
 緊張のため表情の硬いまま、続ける。
 学校の樹木、溜池の管理をしてきたこと、伐採ロボットバッサイーンの構造と研究、学校の環境を良くするための機械あれこれ。
 やや棒読みながら、説明を続けていく……。
「で、それが今まで起こしてきたトラブルの言いわけってわけか? 被害を受けた人の事を考えたことがあるのかよ!?」
「そうだそうだ!」
 男生徒達が、演説を遮って叫ぶ。しかし、そこで東條葵が前へ進み出た。【演説】を活用する。
「トラブル? 当然でしょう」
 男達の声を一蹴するように、冷たく言った。
「彼はこの広大なキャンパスを、それを手入れするための機械を、たった一人でメンテナンスしてきたンだ」
 ホワイトボードに貼られた資料を手で示して、告げる。
「しかも彼の本職は養護教諭だ。当然手も目も足りぬだろう」
 壇上を歩き、続ける。
「ところでそれを君達が顧みた事は? 彼の本当にしようとした事を知ろうとした者は?」
 問いかけに応える生徒はいない。
「彼の携わる物が一体何であるのか? この自然を、この学校の範囲だけでも守って来た、保とうとしてきたのは誰か、言えるか?」
 刺すような瞳で、男達を見据える。
「食や生活を、命を支えるのは自然だ。それを忘れてはならない」
 言われた男達は押し黙り、座るしかなかった。
 バタン
 同時に体育館のドアが開いた。
 拘束された羽田美保と、白雪を救出にいったメンバー、そして白雪が姿を現した。
「白雪!」
「保……!」
 二人の笑みが、場の悪くなりかけた空気を一蹴する。
 と、羽田美保が前に押し出された。
「ほら、言いたいこと、全部言っちゃって」
 ルカルカ・ルーに促され、羽田美保は口を開く。
「兄さんは、ずるいよ! 騒動を起こしてもずっと先生続けてるし、パートナーも手に入れて……私は、私は……」
 目元を拭い、彼女は続けた。
「たった一回の失敗で、仕事を辞めさせられて一人ぼっち」
 そして、鋭い瞳で起木保を見た。
「昔みたいに、子供のころ一緒に紙飛行機を折っていたあの頃みたいに、一緒に働けると思ったのに……」
「……すまない。多くの人に迷惑かけているのも分かってる。僕自身、こうしてまだ養護教諭として働けているのが不思議だ。でも」
 起木保は、体育館に集まった人々に視線を向ける。
「僕にはこの学校を管理する仕事がある。白雪も養っていかなければならない。怪我の治療を待っている生徒達もいる」
 そしてまっすぐ、妹を見つめた。
「だから、やめるわけにはいかないんだ」
「起木保先生は、この学校に必要な先生ですっ!」
「やめられたら、困るんだよ!」
 ソア・ウェンボリスと日比谷皐月が叫ぶ。起木保のために尽力したメンバーも頷く。
「……でも、このままだと兄さんはまた迷惑かけると思う……それでも?」
「だったら、こうしましょう」
 ルカルカ・ルーが進み出た。
「悪意はなくても、損害出したり迷惑かけてるのは確かみたいね。でも、彼がいなくなると困る人もいるんだよね」
 彼女の言葉に、その場にいる全ての人が頷いた。
「監視をつけたらどうかな? で、彼が原因の損害は給料から引くの。涼司にも許可はとってあるわ」
「監視……?」
「貴女が監視役をしてもいいし、白雪さんにしてもらってもいい。
 給料から引かれたら機械いじりもしにくくなるし、気をつけてくれるんじゃない?」
「……ああ、気をつけよう。だから……監視役は美保、頼む」
「……うん!」
 羽田美保は、しっかりと頷いた。
 それを確認した起木保は、一歩前に進み出て、床に手をついた。
「今まで、迷惑かけた皆様方、本当に申し訳ありませんでした」
「兄さん……」
「これから僕は、僕の仕事をしっかりとこなし、さらにこの地が食や自然について学べる場所になるよう力を尽くします」
 溜池キャンパス内外の人々が見つめる中、起木保は心からの言葉を紡ぎだした。
「だから……これからも僕を、この溜池キャンパスの養護教諭として働かせてください」
 一瞬、静寂に包まれた。
 そのあと、体育館を包んだのは、承諾の拍手。
 先生も、生徒もみんな。起木保のために尽力したメンバーも、みんな。
 割れんばかりの拍手。
 起木保顔を上げ、床に着くほど頭を深く下げた。
「ありがとう」