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起木保の究極の選択~更生or協力大作戦~

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起木保の究極の選択~更生or協力大作戦~

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 校門前。
 色々と行動を始める生徒達を見て、起木保は立ち上がった。
「悩んでいてもしょうがないな。僕も何かしないと――」
 歩き出した起木保の目に、見知った顔が映る。
 屈強な男達を背にやってくる、スーツ姿の女性と、ブルドッグに酷似したドラゴニュート。
 ガートルード・ハーレック(がーとるーど・はーれっく)ネヴィル・ブレイロック(ねう゛ぃる・ぶれいろっく)だ。
「お困りのようですね、起木保先生?」
「ハーレック興業が手を貸してやるぜ」
 頼もしく微笑む二人に、起木保は頭を下げる。
「ありがとう、ございます」
「後始末は私達、ハーレック興業が請け負います。全力で行動しなさい」
「……全力で……! わかりました」
 力強く頷いた起木保は、はっと気付いて、白衣のポケットに手を入れた。
「そうだ、そういえば……コレ」
 取り出したのは円状の機械。上に放り投げると四角い筒状の物になった。
「白雪に危機が及んだら、彼女を助けに行く機械だ! これがあれば白雪を……」
 期待に眼鏡を光らせ、機械を起動させる。
 ウィイイイイイイン
 大きな音を立て起動した機械は……高速回転し、地面に大穴をあけて進んでいく。
「うわああぁ!?」
「……やはりこうなりましたか」
 ぽつりと呟いて、不敵に笑うガートルード・ハーレック。
「さあ野郎共! 気合い入れて直すぜ!」
「おう!」

 雄々しく叫んだ声と共に、ガートルード・ハーレックとネヴィル・ブレイロックがハーレック興業の面々を引き連れて駆け出した。
 集団を見送り、起木保は再び肩をがっくりと落とした。
「また……どうして僕は……」
「落ち込まないで、先生」
 そう言って近寄るのは遠野 歌菜(とおの・かな)だ。
「私達が力になるから! ね、羽純くん」
「ああ」
 応じるのは月崎 羽純(つきざき・はすみ)
 遠野歌菜の輝く笑顔と、二人の力強い言葉に、起木保の沈みかけた心も明るくなる。
「すまないな」
「気にしないで! さ、目には目を、よ!」
 そう言って彼女がとりだしたのは紙の束。
「チラシ、か?」
「先生を糾弾するチラシがまかれたって聞いたから、その逆をやるのよ!」
 ぐっと拳を掲げ、チラシを月崎羽純にも渡す。
「手分けして配ろう」
「わかった」
 頷いた月崎羽純が、キャンパス内に歩いていく。その姿を見届けて、遠野歌菜がチラシをまき始めた。
「起木保先生を、助けてくれる人を募集してるよッ! みんな協力してー」
 言いながら、生徒に手渡す。
 そのチラシの内容は……。

『起木保先生を助けてくれる人・募集』
 起木保先生を、一緒に助けてあげませんか?
 先生は学校を辞めろと脅迫を受けていて、
 パートナーの白雪ちゃんがさらわれてしまったようなのです。
 起木保先生は、養護教諭としてしっかり仕事を果たしています。
 バッサイーンを使って、樹木を管理したり、溜池の水質を管理したりもしています。
 学校に欠かせない存在なのに、こんな仕打ちを受け、学校をやめなければならないなんて、おかしいと思いませんか?
 少しでも賛同してくれる方、ご協力をお願いします。

遠野歌菜
とある。
 それを読んだ起木保は天を仰ぎ、目元を拭った。
「遠野歌菜君……ありがとう。僕のために、ここまで……」
「先生が辞めたら面白くないですから」
 微笑んで、チラシ配りを続ける。
「私にも、手伝わせてください」
 そう言って進み出たのは本郷 翔(ほんごう・かける)
「本当? ありがと」
 本郷翔はチラシを受け取り、起木保に微笑みかけつつ禁猟区のお守りを差し出した。
「一応ボディーガードということで、近くにいますから」
「すまないな」
「礼には及びません」
 首を振って周囲を見渡す。さらに【根回し】を発動。
「先生をこのままやめさせるわけにはいきません。ご協力をお願い致します」
 一枚一枚丁寧に、チラシを差し出していく。スキルも相まって、チラシはどんどんなくなっていく。
「凄い凄い! 私も頑張らないと」
 遠野歌菜が一層気合いを入れて、チラシを配り始めた。
 生徒達の精力的な活動に胸を熱くして、起木保は手を伸ばした。
「僕も……僕も何か手伝おう。チラシ配りを一緒に――」
 言いかけた時、彼の肩が叩かれた。
「起木センセ。あんたには別にやるべきことがあるんじゃねえか?」
 ニッと笑みを見せるのは東條 カガチ(とうじょう・かがち)だ。
 黒髪に角を生やした東條 葵(とうじょう・あおい)を伴って、起木保の傍らに立っている。
「やるべきこと?」
「変なレッテル貼られたまま、白雪ちゃんが戻っても、また何かあるかもしれないよねぇ。だから、もっと表に出たらどうかな」
 東條カガチの提案にピンとこないのか、起木保は顔をしかめる。
「表に……」
「植物の管理やら機械の作成やら……ちゃんと研究してやってきたんなら、記録をまとめて発表してみようぜ」
「どういうことをやっていたか分かれば、皆少しは見直すだろう」
 東條葵も賛同する。
「そう……だろうか?」
「大丈夫大丈夫ー。俺もサポートするし、訳分からんことやってる危ない人から、たまに危ないけど凄いことやってる人になろうぜ」
「……わかった。やってみよう」
「そうと決まったら、早速行動だ」
 二人の言葉に力強く頷いて、起木保は保健室へと歩き始めた。
 その姿を後ろから追いながら、東條カガチは携帯電話をとりだした。
「もしもーし、椎名くん?」
 電話先では、東條カガチ達と同じ【起木保教諭実績発表会】のメンバーである椎名 真(しいな・まこと)が応じる。
「カガチ。そっちの話はまとまった?」
 椎名真は、溜池キャンパスの校舎入口で電話に応じていた。
「そうか。じゃあ、こっちも動くよ。また連絡する」
 電話を切って、校舎の中へ。【根回し】を発動後、キャンパス長の部屋を訪れる。
「起木保教諭の誤解を解くために、研究発表会を開催したい」
 そう伝えて、頭を下げるつもりなのだ。
 他にも、教諭全員に伝える必要がある。やることは山のよう。しかし彼の顔には笑みが浮かんでいた。
「さて、行こうかな」
 深呼吸して、椎名真はドアをノックした。

 起木保達が保健室へ向かう途中、足音が近付いて、彼に声をかけた。
「先生、助けてやるよ!」
「危険が迫ったら、僕も守りますよ」
「先生! 機械の話を聞かせてよ!」
 遠野歌菜がまいたチラシを持ってやって来た三名。
 日比谷 皐月(ひびや・さつき)高峰 雫澄(たかみね・なすみ)水ノ瀬 ナギ(みずのせ・なぎ)だ。
「ありがとう、助かる」
 日比谷皐月と高峰雫澄に頭を下げ、そして水ノ瀬ナギへと目を向ける。
「水ノ瀬ナギ君。キミは機械が好きなのか?」
「うん! 機械好きに悪い人はいないから、ボクは先生も悪い人じゃないって思ってるよ!」
 可愛らしくも力強い言葉に、笑みがこぼれる。
「だから、色々きかせて?」
「分かった、話そう」
 瞳をキラキラさせる少女に、怏々に頷く起木保。
「ナギ……」 
 その様子に苦笑する高峰雫澄。
 和気あいあいとしながら、一行は保健室へと向かっていく。
「……ここにいたのね、起木さん」
 ベルフラマントで身を隠し、こっそりと起木保を覗き見るのはルカルカ・ルー(るかるか・るー)だ。
「このまま、様子を見てみましょう」
 犯人と起木保の接触を待ちつつ、監視を続ける。
 様々な人々が動き出している中、携帯電話を片手にエヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)が話していた。
「じゃあ佐々良さん、何か分かったら、連絡してくれ」
 そう言って電話を切る。
 真剣な瞳は、注意深く周囲に向けられる。
「さて、首謀者はどこにいるんやろ?」
 同じく周囲に視線を走らせるのは、七枷 陣(ななかせ・じん)だ。
「白雪ちゃんの誘拐までするんはやり過ぎや。バシッと言ってやらんとな」
 決意を言葉にして、歩き出した。

 一方、溜池キャンパス内、調理室。
 軽快な包丁のリズムと、油の爆ぜるパチパチという音が響く。
 エプロン姿で調理をするのは芦原 郁乃(あはら・いくの)だ。キャベツを刻み、炊いた白米の上へ。
「ここまでは、普通なのにな……」
 廊下から覗きこむアンタル・アタテュルク(あんたる・あたてゅるく)が、ため息をつく。
「ここからが問題ですね」
 十束 千種(とくさ・ちぐさ)が固唾をのんで見守る。
「今日はどんなものが出来上がるんでしょう……」
 蒼天の書 マビノギオン(そうてんのしょ・まびのぎおん)は身体を震わせ、芦原 郁乃の調理の様子を見た。
 彼女は鼻歌交じりに、楽しそうに調理を続けている。
「ちょ、そ、それを入れたら……!」
「抑えてください。今回はコレを使うんですから」
「千種さん……なんて恐ろしい尋問方法を思いついたことでしょう……」
 あわあわ、ぶるぶるしながら、パートナー達は芦原郁乃の調理の様子を見守っていた。