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≪スプリングカラー・オニオン≫と魔法学校の編入試験

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≪スプリングカラー・オニオン≫と魔法学校の編入試験

リアクション

「お、いい匂い。私にも頂戴♪」

 ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)の作ったオニオンスープの匂いに誘われて、弓彩妃美がやってきた。
 
「ほら、どうぞ」
「ありがとー」

 妃美は熱々のオニオンスープを、ちびちびと飲み始めた。

「そういえば、妃美。キリエのことなんだが、治療は無事に成功した。
 当分は安静にしてなければならないが、近いうちに戻ってくるだろう。
 まぁ、それまでは見舞いにでも行ってやるといい」
「そっか、了解。無事に回復中か。よかった。よかった」

 キリエは、以前生徒達が廃墟から連れ出したボロボロの機晶姫だった。
 現在は、その身体を治すための治療を、ちゃんとした施設で行っている途中なのである。
 妃美は嬉しそうにニコニコ笑っていた。

「うーん。このスープ絶品ですなぁ。
 やはり恋人にするなら、料理がうまい相手に限るね」
「へぇ、そんなに美味しいんのですか」

 エッツェル・アザトース(えっつぇる・あざとーす)が妃美の隣の席に座る。

「私にもいただけますか?」
「ああ、いいぞ」

 ダリルがオニオンスープをエッツェルにも差し出した。
 まったりとオニオンスープをいただきながら、妃美はエッツェルに尋ねた。

「そういえば聞いたよ。ポミエラに告白したんだって?」
「はい。と、いっても途中で先送りにされましたけど」
「ふぅん……それで、私にはしないの?」
「してほしかったのですか?」

 エッツェルは驚いた様子で、妃美を見つめていた。
 問い返された妃美は、腕を組んで考えてみた。

「う〜む……特にしてほしくはないかな。
 男には興味ないし、どちらかというと『頼りがいのあるお姉さま』からの方がいいかな」

 笑って答える妃美。
 エッツェルはダリルの入れてくれたオニオンスープを一口飲むと、ため息を吐いていた。
 すると、食堂の扉を勢いよく開いて神代 明日香(かみしろ・あすか)が入ってくる。

「ただいまなのですぅ。
 見てくださぁい。感謝状もらって来ましたぁ♪」

 自慢げな明日香の手にはザンスカール家の感謝状を広げられていた。
 ザンスカール家の感謝状は、≪カメレオンハンター≫を動かしていた悪徳商人を捕まえるのに貢献した明日香に送られたものだった。
 親しい人達に見せにいく明日香。 

 その様子を見ていたエッツェルが、妃美に尋ねる。

「あんな感じ?」
「う〜ん。いや、やっぱり身長は高い方が好みかな……」

 妃美は恍惚の表情で虚空を見つめていた。


「うっ、今なんか悪寒を感じたような……」
「あなたもですが、実は私も感じました……」

 同じテーブルに座っていた魔法少女ろざりぃぬ(九条 ジェライザ・ローズ(くじょう・じぇらいざろーず))とルシェン・グライシス(るしぇん・ぐらいしす)は、ほぼ同時に背筋を走る冷たい感覚に襲われた。
 背後を振り返るが、誰がいるわけでもない。
 二人は再度訪れた悪寒にブルッと身体を震わせた。
 そこへ榊 朝斗(さかき・あさと)が料理を持って戻ってきた。

「どうしたの、二人とも? 風邪?」
「いいえ、問題ありません。多分気のせいですから」
「そうなの……?」

 特に体調が悪そうには見えないルシェン。
 本人が大丈夫だと言っているので、朝斗も気にしないことにした。
 アイビス・エメラルド(あいびす・えめらるど)も心配して、ろざりぃぬに声をかけた。

「暖かいお茶いりますか?」
「じゃあ、もらおうかな」

 ろざりぃぬはアイビスからお茶をもらい、手の温めた。
 すると、ケイ・フリグ(けい・ふりぐ)がやってくる。

「やっほー。サラダ持ってきたよぉ」
「ケイさん、ありがとうございます。
 あれ、このドレッシング……」
「それはファブニルが作った特製ドレッシングなんだよ♪」

 ケイは笑顔でサラダを届けると、クロイス・シド(くろいす・しど)達の所へ戻っていった。

 そしてテーブルにサラダを含めた料理が並べられる。
 その頃にはルシェンとろざりぃぬの悪寒は収まっていた。

「じゃあ、食べようか。
 ……いただきます」

 四人は手を合わせた後、箸を動かし始めた。
 最初に四人は、ケイからもらったサラダを回して、自分の皿に取り分けていく。
 そして、箸で摘まんで、一斉にサラダを口にし――

「「「「……あまっ!?」」」」

 同じ感想を述べた。


「はい! 牛肉と玉ねぎのバター醤油炒め完成!」

 遠野 歌菜(とおの・かな)月崎 羽純(つきざき・はすみ)に出来立て料理を持ってくる。 桜の花びらのような≪スプリングカラー・オニオン≫が、料理を色鮮やかにしていた。

「おお、うまそうだな」
「あれ、ポミエラはどこに行ったの?」
「ん? グラルダの所に行くとか言ってたぞ」

 羽純が箸で料理を摘まもうとする。
 すると、その手を歌菜が叩いてきた。

「羽純くん! ちゃんと「いただきます」しなきゃだめだよ……」

 歌菜に怒られ、羽純は渋々手を合わせた。

 その頃、歌菜達のテーブルを離れたポミエラは、グラルダ・アマティー(ぐらるだ・あまてぃー)の所へ来ていた。

「どうかしたの?」

 椅子に座っていたグラルダは、栄養調整食品を飲むのをやめてポミエラを見上げる。
 ポミエラは真っ直ぐグラルダを見つめ、話し始めた。

「賭けの話ですが、あれはなかったことにしますわ」
「あら、どうして?
 まさか勝つ自信がないとか?」
「違いますわ。
 今回の賭けは、わたくしが試験をパスできるかどうかですわよね」
「ええ、そうよ」
「しかし、わたくしは今回多くの人達の力を借りましたわ。
 他の方の力を借りて、試験をパスしてみせますわ。
 でも、それは賭けとして反則に思えますの」
「ふぅん」

 グラルダはテーブルに肩肘をついて、話を続けた。

「なるほど。言いたいことはわかったわ。
 だけど、それも承知で賭けを挑んだのだから、気にしなくていいのよ」
「いいえ! わたくしが気にしますわ!」

 ポミエラは勢いよく、テーブルを叩いていた
 グラルダが目を見開いて驚く。

「何が何でも賭けは無効にしますの!
 それだけ、伝えに来ましたの」

 それだけ告げて、ポミエラは立ち去っていく。
 グラルダがニヤリと笑う。

「やれやれ……」
「ふふ、頼もしい後輩ね」

 様子を見ていたシィシャ・グリムへイル(しぃしゃ・ぐりむへいる)が優雅にティーカップを持ち上げながら、呟いていた。



「がぅがぅがががぅぐぐごぉげげげぇぃ!」

 テラー・ダイノサウラス(てらー・だいのさうらす)は出された料理を、皿ごと飲み込む勢いで平らげていく。
 品など気にせず、欲望のままに次から次へと食べていく。
 その様子をレオニダス・スパルタ(れおにだす・すぱるた)は、笑みを浮かべながら見つめていた。

「美味しい?」
「ぎぃごぅぅぅぐぐぐぅぅぅぅ!」
「おかわりね。はい、どうぞ」

 テラーの返事に、レオニダスは自分の分の料理も分け与えた。

「ぐぅがぁ……」

 目の前に置かれた料理を平らげるテラー。
 恐竜の着ぐるみが、どこか幸せそうな表情しているように見えた。
 レオニダスはテラーの頭を部分を、そっと撫でる。

「来てよかったね」
「ごがぅぎぃぃがぁぁぁぐぅぅぅ!」
「はいはい。ちょっと待っててね」

 次の料理を取りにいくため、レオニダスが席を立つ。
 残されたテラーは、皿の料理を米粒一つ残さず食べつくしていく。
 そこへ、ポミエラがやってきた。

「あ、ドラゴン発見ですわ!」
「ぐぅぅ?」
「勝負ですわ!」

 ポミエラはフォークと鍋の蓋を手に、テラーと対峙していた。
 テラーは不思議そうにしながら、ポミエラに近づく。
 
「ぐぎぃぃぃぃぃぃ」
「むぅぅぅぅ」

 低い声を上げるテラー。ポミエラも負けまいと声を発する。
 そして――

「ぎゃぁぁぁぁ――!!!!」

 テラーがフォークごとポミエラの手に噛み付いた。
 涙目になりながら、ポミエラがブンブンと手を振るがなかなか外れない。
 ポミエラがどうしていいかわからず困っていると、レオニダスが大量の料理をカートで運んできた。

「テラー、持ってきたわよ。
 あれ? 何やってるの?」
「ぎぃぃがごぅぅぅ」

 テラーが料理に誘われて、ポミエラの手を離した。
 新たな料理にがっつくテラー。
 ポミエラは逃げ出すと、慌ててテーブルの下へと隠れた。

「あぅ、あぅ、わたくしの手が……」

 ポミエラは噛まれた手を涙目で見つめる。
 すると、テーブルクロスを捲って、想詠 夢悠(おもなが・ゆめちか)が様子を見に来た。

「ポミエラ、大丈夫?」

 夢悠は、ポミエラの涎たっぷりになった手を取り、心配そうに見つめる。
 手の甲に歯型がついていたが、血もなければ骨が折れた様子もなかった。

「うん。噛まれただけだね。
 とりあえず、手を洗ってきなよ」

 夢悠は想詠 瑠兎子(おもなが・るうね)にお手洗いへの付き添いを頼んだ。


 先に手を洗い終わった夢悠は、ポミエラが出てくるのを待っていた。
 その間、夢悠は綺麗にラッピングされた箱をポケットから取り出す。
 外見を確認して汚れを、ラッピングのリボンに触れて解れがないか、何度も確認した。
 そうこうしているうちに、扉が開かれポミエラと瑠兎子が戻ってくる。
 夢悠は気づかれぬように箱を背中に隠した。心臓の鼓動が早くなる。

「ポミエラ、ちょっといいかな?」
「はい? 何か御用ですの?」
「実は渡したいものがあって……」
「はい! 皆さん、御注目!」

 瑠兎子がいきなり声をあげる。

「今から夢悠が、ポミエラちゃんにプレゼントを渡すそうよ!」
「ちょ、瑠兎姉!?」

 瑠兎子の声に食堂の生徒達の視線が、夢悠とポミエラに集まる。
 
「ほらほら、今更引けないでしょ。
 男ならシャキッとしなさい」
「うぅ、いじめだ……」

 緊張でダラダラと嫌な汗が流れ始めた。
 食堂が静まり返る。
 ポミエラが期待の眼差しを向けていた。
 今更「何でもありません」などと言って、ポミエラに恥をかかせるわけにもいかない。
 ――夢悠は覚悟を決めた。

「ポミエラ、ヘアピンのお返し、遅れてごめん!」

 夢悠は背中に隠していた箱をポミエラに差し出した。
 ポミエラは受け取ったプレゼントと夢悠を交互に見つめる。 

「開けてもいいですの?」

 夢悠が首肯する。
 ポミエラは、ゆっくりと包装を取っていく。
 すると、中から紺色の四角いケースが現れた。
 右下には金色の文字で 『Dear my friend』 と書かれている。
 ポミエラは胸がじんわりと熱くなった。
 じっくり眺めていたい衝動にかられながらも、ケースを開いた。
 そこには赤い布に包まれた、手の平に乗るサイズのオルゴールが入っていた。

 ポミエラがオルゴールを取り出す。
 オルゴールの表面には、白猫が乗った三日月。それを囲むように幾つもの星たち輝いている。
 ポミエラはゼンマイを見つけて、壊さぬようにゆっくりと巻いた。
 すると、優しいメロディーに合わせて、中央の三日月がユラユラ揺れていた。
 それはまるで、静寂な夜に水面上に映った月を見ている気分だった。

「ど、どうかな?」
「とっても素敵ですの。宝物にしますわ!」

 ポミエラは予想外のプレゼントに、とても興奮した様子だった。
 夢悠はホッと胸を撫で下ろす。

「学校でも宜しくね。
 皆と一緒に頑張ったんだ、学校に絶対入れるから」
「はい! 学校に入ったら夢悠さんや皆さんと一緒…………」

 ポミエラの言葉が途切れ、表情が段々と暗くなる。
 夢悠は焦った。

「どうしたの、ポミエラ?
 オレなんか気に障ることでも言ったかな?」

 ポミエラは小さく首を左右に振っていた。
 黙りこむポミエラ。
 暫く生徒達が見守っていると、ポミエラはゆっくりと話し出した。

「わたくし、皆さんとは一緒にいられないですの」
「え? それ、どういうこと?」
「学校に入ったら、今みたいに自由な時間が減ってしまいますの。
 そしたら他の学校の方と一緒にいられれる機会が、ほとんどなくなってしまいますの。
 ……それはとても寂しいですの」

 ポミエラが唇を噛みしめる。
 言葉を口にするたびに嗚咽が漏れ始める。

「わたくし、学校には、行きたく……」

 ポミエラは今日一日、生徒達と一緒に過ごせた時間をとても楽しいと感じていた。
 こんな日々が続くならなんて幸せなんだろう。
 だけど学校に入ったら、せっかく知り合いになれた他校の生徒とは一緒に過ごす機会が減ってしまうかもしれない。
 それはとても寂しかった。
 
 だったら、このままでいいのではないだろうか。

 このままだったら、今日みたいな日がこれからも続けられる。
 ――でも、それだけじゃない。

「…………」

 確かに、行きたくないと気持ちがあった。
 けれど学校生活への憧れも、確かに残っていた。
 知らないことを学び、毎日たくさんの友達と過ごす日々。
 ずっと夢だった世界。
 
 ポミエラの人生でこれほど親しくなった存在はいなかった。
 ましてや、別れなど経験したことなどなかった。
 だから、どちらの友達を選ぶかなど、ポミエラには選択できなかった、

 ポミエラの目から涙が止まらない。
 すると、雪住 六花(ゆきすみ・ろっか)がポミエラを後ろからそっと抱きしめた。
  
「大丈夫よ」
「……六花さん?」
「確かに私達と会える機会は減るかもしれない。
 けど、一生に会えないわけじゃないの」

 六花が優しく笑いかけ、ポミエラの身体を食堂にいる生徒達の方へ向けた。

「そうだよ、ポミー。学校から出れないならルカの方から突撃するし♪」
「困った時はろざりぃぬにお任せだよ! どこでも駆けつけるからね!」
「行きたくないなんて言わないで。ミニライブ一緒にやる約束でしょ」
「ルカさん……ろざりぃぬさん……歌菜さん……」

 ルカルカ・ルー(るかるか・るー)、ろざりぃぬ、歌菜を始め、皆がポミエラを応援していた。

「イルミンスールに行けば新しいお友達ができる。
 そしたら寂しいなんて思えないくらい、毎日が楽しくなるわ。
 けけど、ポミエラは忘れたりしないでしょう?」

 ポミエラが力強く首肯する。

「うん。私達もポミエラを忘れたりしない。
 だから、迷ったりしなくていいの」

 六花が、ポミエラの背中を軽く押して離れた。
 生徒達の視線がポミエラに集中する。
 皆、笑顔でポミエラを見ている。
 ポミエラは袖で涙を拭き取ると、ぐしゃぐしゃの笑顔を見せる。
 大丈夫、一生の別れじゃない。

「わたくし、ポミエラ・ヴェスティンは、今日皆さんに励まされたことを一生忘れませんわ。
 そして、学校に入ったらたくさんお友達を作り、楽しい学校生活を送ることをここに誓いますの」

 語り終わり、また泣き出すポミエラの頭を、六花がそっと撫でていた。

「じゃあ、記念撮影と行きますか!」

 瑠兎子がデジカメを手に明るい声で言う。
 反対意見はなく、皆がぞろぞろとポミエラ中心に集まっていく。

「あの誰か、朝斗さん達を知りませんか?」

 そんな中、生徒たちは榊 朝斗(さかき・あさと)達数名がいないことに気づいた。