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【猫の日】黒猫が!黒弥撒で!黒猫耳!

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【猫の日】黒猫が!黒弥撒で!黒猫耳!

リアクション

 空京の街は少しずつ猫耳に侵略されている。
「なんだか、猫耳さんが多いわね」
 買い物のため空京を訪れていた及川 翠(おいかわ・みどり)ミリア・アンドレッティ(みりあ・あんどれってぃ)もまた、そのことに気付いていた。
「獣人さんがいっぱい来てるのかなぁ?」
「それにしては黒猫耳が多すぎる――はっ、これは……!」
 ちらちらと周囲を見渡していたミリアが、突然カッと目を見開き空を振り仰いだ。その突然の反応に、翠はどうしたの、と目を白黒させる。
「この反応は――もふもふッ!」
 一匹や二匹じゃないわねぇ、と口元に狩人の様な笑みを浮かべ、ミリアは地面を強く蹴って駆け出す。
「えっ、えっ、おねえちゃーん! どこ行くのー! 置いていかないでなのー!」
 明後日の方向に向かって全力疾走を始めたミリアを追って、翠も超感覚を発動させ、慌てて走り出した。
 商店街を抜け、空京大学の前も通り過ぎ、どんどん町外れの方へと走っていく。
 そしてたどり着いたのは、空京の片隅にある桜の森公園だった。桜の名所だが、まだこの季節はただの公園。それほどの人出はなく、おさんぽの合間に立ち寄るには良い所。
 その公園の中へと、ミリアは突き進むようにして入っていく。勿論、翠も後に続く。
 公園の中にはちらほらと人の姿がある。しかも、公園の外に比べて黒猫耳の数が多い気がした。なるほどもふもふ察知が働いたか――翠は納得しつつ、ミリアを追う。
 そのまま走り抜けたミリアが足を止めたのは、公園の中央、大きな桜の木の下だった。
「なっ……なんなのなの、これは!?」
「もふもふーっ!」
 追いついた翠が驚いて足を止める。が、ミリアはその場の異様な光景など目に入っていないらしい。発見したお目当てめがけてダイブする勢いで突っ込んで行く。
 桜の木の下には、巨大な――というには少々小さいが、かといって小さいものでもない――なんとも中途半端なサイズの猫の石像が鎮座していた。それだけなら公園のモニュメントと判断できないこともないが、いくら何でも明々と焚かれたかがり火や、缶詰やら魚やらが献上された祭壇までがオブジェな訳があるまい。それから、石像を取り囲んで謎の踊りを踊っている黒猫たちも。
「お、お姉ちゃん、流石に危ないんじゃないかなと思うの……」
 踊っている黒猫の一匹をむんずと抱き上げてもふもふしているミリアに、翠はおずおずと声を掛ける。しかし、ミリアは全く聞く耳を持たない。
「はー、もふもふー……なんて可愛いのかしらもふもふ」
「にゃんにゃんにゃー!」
 猫たちが抗議の声を上げるが、ミリアはどうやら「こっちももふれ」と言っているのだと勘違いしたらしい。
「大丈夫よー、順番よー」
 猫の気持ちの良いところを熟知して居るミリア、熟練の手つきで一匹ずつ丁寧にもふもふしてやる。
「にゃんにゃんにゃー!」
 しかし、儀式(?)の邪魔をされてご立腹な黒猫たちは、今度はミリアを取り囲んで謎の踊りを踊り始めた。そして。
「にゃんにゃー!」
 ひときわ高い声で鳴くと……
「……にゃーん……?」
 翠の頭に顔を出していたスコティッシュフォールドの耳が、いつの間にか黒く染まっていた。

 公園の中は、黒猫たちの儀式の影響があるのだろう、公園の外よりも黒猫耳に冒された人の数が多い。
 しかし日当たりが良いためか、猫化した人々はその場で丸くなってひなたぼっこをして居る率が高かった。元々散歩をしていたり、ひなたぼっこをしていた人々だ。黒猫化したとて、変わったのは猫耳が生えたことだけ。大きな騒ぎにはなって居ない。
「いやー、猫は可愛いですよねー」
 そんな中、鬼龍 貴仁(きりゅう・たかひと)は公園の野良猫たちと戯れようと、猫じゃらしやまたたびなど準備して遊びに来ていた。最初はもくろみ通り公園に住み着いているらしいノラちゃんたちと戯れていたのだが。
「にょぉん」
 いつの間にか戯れている猫たちの間に一匹――もとい、一人、黒い猫耳姿の女性、美常 雪乃(みじょう・ゆきの)が混ざっていた。
「……ねこは、かわいいですよねー」
 雪乃の姿を見つけた貴仁は、思わず棒読みになった。事件のあらましを知らない貴仁は、獣人さん? それとも猫好きが高じてこんな事になった人? と内心穏やかで無い。
「ですよ、ねー?」
「にゃー」
 返事を促すように問いかけてみるが、雪乃からの返事はない。ただ猫の様に一声鳴いて、ころん、と芝生の上に寝転がってしまった。どうやら、またたびで良い気分らしい。
 ふりふり、と猫じゃらしを振ってやると、雪乃はゆるやかな手つきでちょい、と触れる。まるきり猫の動作だ。
「……いやー、可愛いですねー」
 とりあえず「これ」は猫としてカウントすることにして、貴仁は引き続き、猫じゃらしやぬいぐるみなどを取り出して猫たちと戯れ続ける。

「にゃぉん」
「なっ…………!」
 散歩の途中ベンチで一休みしていたところ、突然紫扇 香桃(しせん・こもも)の頭に黒猫耳が出現した。
 突然の出来事に香桃本人は大いに慌てて居る――かとおもいきや、にゃーん、とお気楽な鳴き声を上げて首を傾げていた。どうやら、現状を疑問には思って居るらしい。
 むしろ隣に座っていた遊離 イリヤ(ゆうり・いりや)の方が、平常心をかき乱されている。
 だって可愛い。
 周囲を見渡せば、同じような猫耳が生えた男女が多数居る。どうやら何か事件が起こっているらしい、とは察しが付いたが、もうそんなことはどうでも良かった。
「香桃、膝の上に来い」
 事件の解決は他の奴らに任せよう、と決意して、イリヤは自分の猫耳を触って首を傾げている香桃を、自分の膝の上に招く。すると香桃は嬉しそうに、ぴょん、とイリヤの膝の上に乗っかった。警戒心がまるで無く、飼い主によく懐いている猫のような動作だ。
「にゃーん」
「よし、良い子だ」
 暢気に一声鳴く香桃の頭を、イリヤはよしよしと撫でてやる。
 すると気持ちが良かったのか、香桃は目を細めて鼻を上に向けた。
「撫でられるのが好きか? よしよし、もっと撫でてやるからな」
「にゃぁん」
 喉や頬なども撫でられ、香桃はご満悦という表情でイリヤに頬を擦りつけたりする。
 無表情を崩さないが、イリヤは内心ひじょーに浮かれていた。こんな可愛らしい、しかも素直な香桃の姿、そうそう拝めるものではない。いや、いつもの恥ずかしがる姿ももちろんそれはそれで愛らしいのだが。
 そう思いながら、イリヤの手が香桃のしっぽの付け根へと伸びる。すると香桃はにゃっ、と恥ずかしそうに顔を赤らめて首を竦めた。
「元に戻るまで、たっぷり可愛がってやるからな?」
 くく、と喉の奥で笑いながら、イリヤの手が再び香桃の尻尾を掴んだ。