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リアクション
もちろん、猫たちを止めようと動き出したのは彼らだけでは無い。
「よーし、悪い猫さんたちを止めますよ!」
独自の調査により騒動の原因を探り当てた神崎 輝(かんざき・ひかる)とたちは、物陰から様子を伺って居た。
折しも到着したのはコードやブルーズ、レス達が猫化させられた直後。付近でまったりしてしまっている彼らを見つけて、ああ新たな被害者が……! と拳を握りしめるのは堂島 結(どうじま・ゆい)だ。
「悪い猫さんには、お説教ですっ!」
「待ってよ結、ちゃんとタイミングを考えないと。見つかって呪いを受けちゃ意味が…………って結!」
パートナーであるプレシア・クライン(ぷれしあ・くらいん)の制止を振り切って、結は後先考えず猫たちの前に飛び出した!
「あ、結さぁん!」
輝と、そのパートナー神崎 瑠奈(かんざき・るな)の呼びかけもむなしく、結は猫たちの前に仁王立ち。
突然飛び出して来て、しかし攻撃してくる気配もないニンゲンに、猫たちも一瞬戸惑ったのか、動きを止める。
「猫さん達! その怪しい呪いをかけるのをやめてください! みんなが迷惑して……」
「……にゃんにゃんにゃー」
朗々と説教を始める結の姿を数秒だまって見詰めていた猫たちだったが、徐にポーズを決めると、胸の前で合わせた手を高々と空へ突き上げた。
「…………にゃーん」
「にゃっ! にゃにゃ……にゃー」
「にゃー?」
「ふにゅー……」
その結果。結はもちろん、物陰に居たはずの輝や瑠奈、プレシアまでもが黒猫耳の餌食となった。
「にゃー……」
「にゃーん」
四人はとろーんとした瞳でその場にしゃがみ込むと、ごろごろと転がりながらいつの間にか一カ所に集まって、並んでひなたぼっこを始める。
「にゃんにゃん」
時折、結がプレシアの背中を小突いたり、瑠奈の背中を輝が毛繕いよろしく撫でていたりするが、基本は四人とももう何もしたくないようだ。ごろごろしてはにゃーんと鳴いて、陽だまりのぽかぽかを楽しんで居るばかり。
「にゃんにゃんにゃー!」
「すべてのにんげんのにゃんにゃん化はじゅんちょうにすすんでいるのにゃー!」
「にゃんにゃんにゃー!」
四人の姿を見た黒猫たちは得意げににゃんにゃん言うと、再び輪になって踊り始める。
「怪しい猫の集団っていうのは、これね!」
黒猫たちの儀式が続く中、続いて現れたのはレオーナ・ニムラヴス(れおーな・にむらゔす)だ。その後ろには猫耳を生やしたクレア・ラントレット(くれあ・らんとれっと)の姿もある。
クレアが妙なことになったので、その原因を探しに来たのだ。が。
「うん、実に怪しいわね!」
レオーナは嬉しそうに言うと、懐から猫耳の付いたヘアバンドを取り出して、すちゃっと装着。そして、猫たちの輪の中へとごく自然に飛び込んで行った。
「にゃぁん」
まだ辛うじて理性の欠片があるらしいクレアが、戻って来てくださいと言いたげに鳴いているが、レオーナは気にしない。
「にゃんにゃんにゃー!」
「こうするのね、にゃんにゃんにゃー! これで可愛い女の子がみんな猫耳になるのね!」
レオーナは嬉しそうに踊り、さらには懐からサバ缶・めざし・マタタビなどのお供え物を取り出して、祭壇に並べ出す始末。猫たちのほうも、邪魔をするつもりがないのなら敵対するつもりもないのか、レオーナの排除には動かない。それどころか、お供えを持ってきたレオーナを仲間と思って居る節さえある。
「にゃー……」
クレアの理性もいい加減怪しいらしい。だんだんサバ缶やめざしがとても魅惑的に見えてきた。いけないいけないと頭の片隅では思っているのにゃーん。
「にゃー!」
クレアは地面を蹴ると、レオーナが祭壇に置いためざしめがけて飛びかかった。が、その進路には明々と燃えるかがり火。
「ギニャーッ!」
どうも、炎が怖いらしい。さすがは猫。
「うふふ、クレアも踊りなさーい!」
「にゃんにゃんにゃー!」
レオーナが言うと、クレアもその意思に反し、猫たちと一緒になって踊り始めてしまう。
「にゃんにゃんにゃー」
猫たちの儀式は、レオーナとクレアを巻き込んでまだ続く。
「……あれ?」
公園の前を通りがかった騎沙良 詩穂(きさら・しほ)は、知った顔が道ばたで寝転んでいるのを見つけて足を止めた。
「レク研の……だよね?」
何度か見たことのある顔だ。しかし、道ばたで寝っ転がるようなタイプの人間には見えないと思ったのだが。
よく見ればその頭には黒い猫耳。どうやら何か起きているようだ、と判断した詩穂は公園の中へ足を踏み入れた。
ざっと探索するうち、そう苦労せず中央の桜の大木――つまり、猫たちが儀式を行っている広場へとたどり着いた。
怪しい雰囲気を察して物陰から様子を伺う。
石像、かがり火、祭壇、踊り狂う猫(と、猫耳のついた人間ふたり)。
――黒魔術だよこれー!
がびーん、という書き文字を入れたら似合いそうな表情で、詩穂は思いっきり突っ込んだ。口に出さなかったのは契約者としての積んだ経験の賜物か。
「にゃんにゃんにゃー!」
「にゃんにゃんにゃー!」
猫たちの踊りは大盛り上がりを見せている。どう見てもこのまま放置していて良いわけがない。
「むむ……猫には猫で対抗だね!」
そう言うと詩穂はえいやと気合いを入れ、超感覚を発動する。
すると頭に生えてきたのは白虎の耳。ネコ科といえばネコ科。
それから手には巨大な鰹節――殴節を構えて、のしのしと猫たちの前に現れる。
「あなたたち!」
凜とした詩穂の声に、猫たちは動きをとめて振り返る。
掴みはオッケー、とばかり、詩穂は手にした殴節を振り上げ、中央の石像へ突きつけた。
「この石像を壊されたくなかったら――」
「にゃんにゃんにゃー!」
だがしかし、詩穂の「説得」が終わる前に、猫たちの声が響き渡る!
「にゃにゃにゃ、にゃん……にゃーん?」
にゃ、しか言えなくなった詩穂は一瞬アレッ、という顔をしたが、しかし時既に遅し。
すっかり蕩けた顔をして、陽だまりで丸くなってしまうのだった。
大陽は南中を過ぎ西の空にある。
猫たちの踊りは、まだ続いている。
「……あれは、なんじゃろな」
そんな所にのんびりと、お弁当など持ってやってきたのは神凪 深月(かんなぎ・みづき)と深夜・イロウメンド(みや・いろうめんど)のふたりだ。
空京の黒猫耳率もかなり高くなってきた中、まだこの二人は猫耳に冒されていなかった。
「にゃんにゃんにゃー!」
「にゃんにゃんにゃー!」
「……猫の声さー?」
聞こえてきた鳴き声に、深夜が敏感に反応する。深月があそこじゃ、と指差した先では黒猫たちが輪になって踊っている。さらにその周囲には、黒猫耳を生やして丸まっている人々が見て取れる。
どう見ても、あの黒猫たちが何かしているとしか思えない。
「なるほど、これはワタシに対する挑戦とみたさー!」
本体は黒猫の姿をして居る深夜、どうやら黒猫達に対して何か思うところがあるらしい。
「良い度胸だよー、ワタシの黒猫アイデンティティーにかけて、負けないさー!」
「なんじゃ、黒猫アイデンティティーとは……」
深月のツッコミは聞き流し、深夜は自分の影から、無数の黒猫たちを呼び出す。この「影」が深夜の本体なのだが――このような形態変化が出来るということは多分、ポータラカ人なのだろう。
「行くよワタシ達! どっちが黒猫の頂点か、教えてやるんだよー!」
そう言うと深夜は黒猫状のナノマシンを操って黒猫たちに向かって突っ込んで行く。
流石に数で押されると、黒猫たちも踊りを中断せざるを得ないようだ。
にゃーとかしゃーとか、互いに威嚇する声が響き渡り、それはあっという間に取っ組み合いへと発展した。
「これこそ本当のキャットファイト、じゃのぅ……」
少し離れた所に腰を下ろした深月は、荷物からお茶とお弁当を取り出してすっかり暢気に観戦モードだ。
「がんばるのじゃぞー、深夜ー」
にゃーにゃー言いながら飛び回っている深夜に、深月は時折はたはたと手を振る。それからお茶を一口。
「ふぅ。平和じゃのぅ……」
キャットファイトはまだまだ続く――
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