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フロンティア ヴュー after

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 夏休みの宿題は順調? とトオルにメールを送ると、皆でプールに行く、というレスが返ってきて、ニキータ・エリザロフ(にきーた・えりざろふ)は笑った。
「ザンスカール・ウォーターパーク? いいわねぇ」
 その日は非番じゃないので、遊びにいけないのが残念だ。
『ぱらみい達と遊んでる所、写メしてね』
とメールを送り、顔を上げて、通りがかったテオフィロスを見かける。
「丁度よかったわ。
 中佐のお祝いをしたいんだけど、今夜二人とも時間あるかしら?
 いいお店があるのよ。中佐に訊いてみてよ」
「都築のことなら、都築に訊け」
「つれないわねえ」
 ニキータは苦笑した。
 大熊丈二達が彼等の関係を心配していたが、その後関係は進展したのだろうか。
「……私の予定なら、空いている」
 ぽつりとそう付け足して、テオフィロスは歩いて行く。
 ニキータはくすくすと笑って、是非今夜、行きつけの店で二人から話を聞いてみたいと思った。



 ルカルカ・ルー(るかるか・るー)は、都築は射撃場にいると聞いて向かってみた。
 都築は上半身タンクトップで腕を剥き出しに、左手で射撃をしている。
 弾込めをしないところを見ると、エアリアルか何か、その必要の無い銃か。
 横には長曽禰が立ち、ノートパソコンを開いたアルベリッヒ・サー・ヴァレンシュタインがデータ取りをしていた。
「まあこんなものか」
「いい加減休ませろ」
 呟く長曽禰に、都築が恨み言を言い、ルカルカ達に気付いた。
「お邪魔ではないですか?」
「いや。何だ?」
「義手の調子はいいようですね」
 ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)が言う。都築は苦笑した。
「普通でいいって念を押したら、こんなもんを入れてきやがって」
「格好いいだろう」
 長曽禰はふふんと笑い、アルベリッヒは軽く肩を竦めた。
 余計な機能は付けなかったが、義手の始点から肘まで、その腕にはびっしりとタトゥーが彫り込まれている。

「ところで、『門の遺跡』の件なんですが」
 休憩に入った都築に、ルカルカが本題を切り出した。
「教導団が、遺跡の修復と保全に力添えができたらと思うのですが。
 中佐の許可が得られましたら、提案書を提出しようかと。
 修復も早まり、ドワーフとの友好が深まり、負担も軽減させられると思うのです」
 門の遺跡は文化遺産だと思うし、シャンバラに生きる者としてはこのままにはしておけない、とルカルカは思っていた。
「ああ、こないだドワーフ達が、ヒラニプラに旅行に来たとかで、俺の所にもついでに寄って行ったが……」
 都築は苦笑する。
 ドワーフは義務ではなく趣味で遺跡の修復をするようで、特に負担とも思っていないようだというのが都築の感想だ。
「基本的に巨人族の技術で作られたものじゃし、我等に直せるか解らんが、気長にやるとするよ。
 必要なら援助するとミュケナイの選帝神も言ってくれたしのう。頼るかどうかは解らんが」
 と、挨拶に来たアンドヴァリは言っていた。
 あれは、余計な気は回さなくてもいいぞ、という意味だったのだろう。
「まあ、申請するのは止めないが、向こうが必要としていないものを、上が承認するかは解らないぞ」
「そうですか……」
 都築の話に、ルカルカは残念そうに頷いた。


◇ ◇ ◇


 布袋 佳奈子(ほてい・かなこ)が、浮上した『門の遺跡』の舞台の上で歌ってみたい、と言って、パートナーのエレノア・グランクルス(えれのあ・ぐらんくるす)
「どうして?」
と訊ねた。
「秘宝の歌には、まだものすごい力が隠されていると思うよ。
 もしかしたら、舞台の上で歌ったら、遺跡が元に戻る力を秘めているかもしれないって」
「……それはどうかしら……。
 ドワーフ達も、一朝一夕では直らない、って言ってたじゃない」
「でも、遺跡も舞台も、想定された力を発揮して今ある状態になっているんだとしたら、元に戻す方法もあるかもしれないよね」
 無理ではないかとエレノアは思ったが、
「……まあ、ひょっとしたら、ということもあるしね」
と付き合うことにした。

 浮上した舞台は、大きな生簀のようなもので一箇所に集められて、バラバラに流れて行かないようになっていた。
 数人のドワーフの有志と、叶 白竜(よう・ぱいろん)アキラ・セイルーン(あきら・せいるーん)が、その一つの上で何やら相談している。
 まだ本格的な修復作業には入っていないらしく、世間話、といった様子だ。
 佳奈子は空を見上げた。
 抜けるような青空である。
 あの何処かに、『空の遺跡』があるんだわ、と思った。


 佳奈子とエレノアの秘宝の歌が朗々と流れる。
 この舞台の上にいると、此処でのリューリクとの戦いが思い出されて、世 羅儀(せい・らぎ)
「どうか安らかに成仏してください……」
と両手を合わせた。
「で? あの歌で遺跡は元に戻るの?」
「戻らんじゃろうな」
 アキラの問いに、あっさりドワーフが答えて、そっかあ、と溜息を吐いた。
「歌は、遺跡の魔法を発動させる鍵じゃがの。それ自体が物凄い力を持っとるわけじゃないからのう」
「何で先に教えてやんないの」
「勿体無いじゃろうが」
「ドワ得かよ!」
 楽しげに歌を聴いているドワーフ達に、アキラは突っ込む。
「うちの庭からでも『空の遺跡』に行けるような、ゲートを作って貰えないカシラ?
 『門の遺跡』でもいいヨ」
「それは高度な魔法じゃの。わしらには無理じゃよ」
 アリス・ドロワーズ(ありす・どろわーず)の頼みに、ドワーフ達は苦笑した。
「それに、この位置に『門の遺跡』があるのはの、この真上が『空の遺跡』だからじゃよ」
 ドワーフの言葉に、アリス達は上を見上げる。
「……何も見えないネ」
「うむ。あれは馬鹿には見えな」
「嘘付け。何か仕掛けがあるんだろ」
 ドワーフの言葉を遮ってアキラが言うと、ドワーフは笑って、それ以上教えません、という仕草をした。
「まあ、元の形に戻すことは、時間は掛かるがそう難しいことじゃあないが……。
 遺跡の魔法が壊れていないといいんじゃがのう。その時は選帝神を頼ってみるかの」


 興味深く巨人族の遺跡の調査に携わった白竜は、都築の許可を得て、再びこの場所に来ていた。
 許可とは言っても、
「好意を迷惑がるような連中じゃないだろう」
という、要は好きにしろ、という返答だったのだが。
 ドワーフらの仕事にも興味があるし、もう一度『空の遺跡』に行けるのであれば行ってみたいと思った。
「何か、我々にも手伝えることはありますか」
 白竜の申し出に、
「ありがたいがの。まだ計画段階じゃよ」
 ドワーフ達は、急ぐ必要性を感じていないようで、「早く〜早く〜」とアキラが耳元で念仏のように唱えているのも、向こうで歌っている佳奈子の歌声より聞こえていない。

「まずは舞台を沈めて、天井を塞がにゃなるまいな」
「柱は全て折れてしまったんじゃろ。代用を作らねばのう」
 別のドワーフが言う。
 海の底にあった『門の遺跡』は、水圧で潰れないようにその柱で支えられていた。
 元々遺跡の柱はくり抜きで作られたもので、天井から地面まで繋がっていたが、それに代わる柱をまずは地上で作ってから、舞台と共に沈めなくてはならない。
「瓦礫の撤去作業も面倒そうじゃな。
 水没とは言っても、天井はそれなりの厚さはあった筈じゃから、実際は土砂で埋まっているはずじゃ」
「カンテミールに戻って、機龍を数機拝借して来ようかの?」
「あれは契約者用じゃろ」
「戦闘するわけじゃないんじゃし、性能が落ちても問題ないじゃろ。
 ほんのちょこっとカスタマイズすれば」

「こちらでイコンを出しましょうか?」
 あれやこれやとドワーフ達が言うのに、白竜が申し出た。
「ふむ?
 お主のイコンは手先が器用かの?」
「ちょうちょ結びが出来れば合格じゃ!」
「……それどこの機動警察ネタだよ」
 ドワーフ達の返答に、羅儀は呆れる。
「まあ、イコンじゃなくても、必要な装備を揃えるし、力仕事なら手伝えるぜ」
「ふむ。それは頼りになるのう」
「ええい、埒があかん! 俺は直接様子を見に行く!
 遺跡が今どんな状態なのか調べてくるし海水浴も出来るしもう一回『空の遺跡』に行けたらラッキー!」
 業を煮やして、アキラがすっくと立ち上がった。
 ポータラカマスク装備で水の中でも安心、移動は空飛ぶ箒エンテによる。
 アリスもジャストサイズのウェットスーツを実装済だ。
 此処に来る前にHCを防水にしてあるので、記録媒体も完璧である。
「おお! その意気やよし!」
 ドワーフ達は拍手を送る。
 どぼんと飛び込んで行ったアキラ達を見送って、
「で?」
と羅儀が訊ねた。
「行けそうなのか?」
「無理じゃろうのう」
 ドワーフ達は朗らかにそう答え、やっぱり……と羅儀は溜息を吐いた。