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ねこぬこぱにっく!

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■玄関口制圧セリ

「にゃんこさーん、こっちだよー!」
 涼しいはずの空間で、アーデルハイトがうな垂れていると、赤嶺 深優(あかみね・みゆ)の可愛らしい声が辺りに響く。
 気が付けば学園の玄関で深優が口笛を吹くと、それに寄せられて猫達が集まってきていた。
「おおっ! やるじゃねーですかぁ!」
「えへへっ、凄いでしょ。さぁ、遊ぼう!」
「……へ? うひゃあ!?」
 猫が集まりに集まった次の瞬間、深優は狐の姿に変身したかと思うと、手近にいたエリザベートに大量の猫達と共に飛びついた。
「ああー、遊んじゃってるなぁ」
 遅れてやってきた赤嶺 霜月(あかみね・そうげつ)は困ったような事を言っているが、楽しそうにエリザベートにじゃれ付く深優と猫達の姿を写真に収めている。
「うん、可愛い……」
 霜月の傍で、猫の目線まで腰を落とし、猫じゃらしを振るジン・アライマル(じん・あらいまる)の頬は緩みっぱなしだ。
 彼女が揺らす猫じゃらしに合わせて、尻尾を、目線を動かして手を伸ばす猫の様子に釘付けな彼女の後ろでは七つの大罪を意味する娘達がそれぞれにぎゃあぎゃあと騒ぎながら猫と深優の姿を写真に写している。
 それぞれに意味する悪意の感情を表に出しているものの、それぞれが猫が可愛いだのどうのと口論しており、大罪はどこかへ行ってしまっているようだ。
「ふふっ……」
 ごろごろと転がり、喉を鳴らす猫を見ているジンからしばらく笑顔が絶えることはないのだろう。
「って、いい加減助けてくれですぅ……」
「大丈夫?」
 毛むくじゃらの遊び相手になり、埋もれていたエリザベートがか細い声を上げるとソーマ・赤嶺(そうま・あかみね)がその手を取って引き上げた。
「助かるですぅ……」
 引き上げられたエリザベートはぐったりとしており、その様子を見たアーデルハイトは遠くで腹を抱えて笑い転げている。
「しかし、皆この仕事を片付ける気ないんじゃ……って、苦笑いしてるじゃないですか」
 玄関一面猫だらけのこの状態で飽きもせず猫を愛でる面々を見ながらソーマが呟くと霜月は苦笑いを返しつつも、只管に写真を撮り続ける。
 その顔はジンと同じで常時緩んでおり、完全に親バカ状態だ。
「全くもう……」
 自体が自体なだけに、早期解決をしなくてもいいのだが、それでもソーマは頭が痛い。
「えへへーっお兄ちゃん遊ぼう!」
「わっ、姉さん?」
 いつの間にか人型に戻っていた深優は猫と仲良くなったのか、周囲に引き連れながらソーマの裾を引っ張っていた。
 猫達はソーマとエリザベートを取り囲んでおり、全力で遊べと目で訴えているようだ。
「……これは、骨が折れそうですねぇ」
 姉と猫による包囲網、父やジンからの救援が望めない状態でどうやって突破するか、ソーマの頭には解決策は浮かばないでいた。


「で、なんだあれ」
「猫の群れ、少し甘ったるいがのぅ」
 大量のマタタビを担ぎながら戻ってきた垂は玄関で繰り広げられる現状を見てアーデルハイトに問いかけていた。
「はぁ、確かに、ね」
 方や阿鼻叫喚の猫の海、方や夫婦のいちゃつく空間。
 確かに甘ったるいのはわかるが、完全に巻き込まれているエリザベートは放っておいてもいいのだろうか。
 まぁ、いいのだろう。
「そういえば、腹に鍵の刺さった二足歩行の猫を見た気がしたんだが」
「なんじゃそりゃ、そんなもん聞いたことないぞ?」
 確かに、マタタビを採ってる間に見たような気がしたが見間違いだったのだろう。
「ところでアーデルハイトさ、もしかして滋養強壮の薬作るため、魔法釜にマタタビ入れてそのまま放置して、冷たいもん食べてた……なんて事はないよな?」
「……ち、違うぞ! 決してそんなことは……ない、はずじゃ!」
 声を震わせながらいうアーデルハイトだが、図星だったようだ。
「ま、そんな程度でこんな広範囲に影響出るわけないしなぁ」
 だとしても、影響が出るのはせいぜい学園の一部程度。
 学園全てが猫だらけになる原因とは程遠いだろうと考えながらも、新しいマタタビ酒を楽しみにしながら垂は学園を後にするのだった。