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■猫寄せ学校

 魔法学校の大広間。
 数々の生徒達が集う場所でもあるが、そんな生徒達よりも大量に居座る猫。
「猫は猫の居る家に引き寄せられて居付くっていうけど、どうしてこうなったんだろね」
「猫ちゃんが学校に居なかったわけでもないですけど、うーん……」
 とりあえず猫が多く集まっていそうな大広間にやってきた涼介・フォレスト(りょうすけ・ふぉれすと)が苦笑いすると、同行していたミーミルは何か考え込んでしまう。
「ねぇ、猫さん。貴方達はどこからきたの?」
 しゃがみ込んで、床に寝そべる猫に問いかけるミリィ・フォレスト(みりぃ・ふぉれすと)に猫は「にゃあ」と軽く返事をすると丸まってしまう。
「うーん、皆普通の猫みたいですわ」
 今回の事件は魔法学校であるがゆえに魔法に起因するのではないかと考えたミリィ。
 ここにたどり着くまでの間、話の通じる猫を探して話しかけ続けていたのだが何れも返事はにゃあか無視のどちらかだ。
「うーん、普通の子でも言葉がわかればなぁ」
「成程、それならば任せてもらおう」
「わっ」
 突然、ミリィの横にしゃがみ込んだのはダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)
「ミーミル、久しぶり!」
「ルカさん!」
 遅れてやってきたルカルカ・ルー(るかるか・るー)はミーミルと涼介に向かってその手を振りながら駆け寄ってきた。
 もう片方の腕には猫が抱えられており、彼女も猫を相手に遊んでいたのかもしれない。
「にゃー、にゃー」
 ルカルカが駆け寄り、話が始まるかと思いきや、唐突に猫の鳴き真似をし始めたダリルの行動でその場の全員が凍り付く。
 しかし、猫だけはダリルの呼び掛けを理解したかのように何度かにゃあと返事をし返す。
 それに対してダリルも再び猫の言葉で問いかけている。
「だ、だめ……っ」
 そんな、奇異な場面に耐えられなかったのか、ミーミルはお腹を抱えて屈み込む。
「ちょっとミーミル、笑っちゃダメだって……」
 ルカルカもくっくっ、と笑いをこらえているようで、涼介もミリィも同じように笑いを堪えている。
 そんな様子に気づいたダリルは不機嫌そうな顔をする。
「……笑うなよ」
「す、すみませ……ふふっ」
 普段の行動から予想できなかった行動がツボに入ったのか、ミーミルはしばらく動きそうにない。
「そ、それで猫さん達は?」
「ふぅ、どうにもここに居ると『気持ちいい』という事らしいが」
 笑いを堪えながらミリィが聞くと、ダリルはため息をついてから答える。
「ここに居ると『気持ちいい』? やっぱり学園になにかあるのか」
 猫の言った言葉は、少なくともこの学園に要因があることを示している。
 ここ最近学校では猫を呼び寄せる魔法や道具などあっただろうか。
「あったとしても、どうやって猫を呼び寄せているんだろうか」
 ううん、と悩む涼介だが答えはまだ見えてこない。
「……ああもう、来たいのはここじゃないのよ!」
 悩む彼らの思考を吹き飛ばすように、辺りにセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)の叫び声が響く。
「猫を追いかければ『引き付けるモノ』にわかると思ったのに、もう……」
 彼女達の周りでは猫が転がっているが、どうやらアレが追ってきた猫のようだ。
 全身毛だらけになっているセレンはだいぶ苦労したのか、がっくりとうな垂れている。
「帰ったらシャワーに入りましょう? とりあえずは大広間を調べてもいいと思うんだけど」
 そうセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)がセレンの肩を叩くと、彼女はダリルに視線を向ける。
「それにしても、面白かったわ」
「う、煩い」
 先ほどの行動を見ていたのだろうか、セレアナはクスリと笑う。
「何か分かった? もう私は勘弁願いたいわ……」
 普段から薄着な彼女だが、露出した肌に猫の毛が付着し、汗と混じり合って相当気持ちが悪いのだろう。
 いつもの強気な様子が少しげんなりしているようにも見える。
「どうやら、学園に何かがあるというのはわかったんだけど」
「それがどこにあるか、よねぇ」 
 涼介とセレンがううんと唸ると、辺りに12時を告げるチャイムが鳴り響く。
「あれ、もうこんな時間」
 ルカルカが時計に視線を送ると、抱えていた猫がするりと腕から抜け落ち、走り去っていく。
「えっ?」
「……使い魔が主人の元から去るってのは怪しいわね、追って!」
 あっけに取られるルカルカの様子を見たセレアナが叫ぶとそれぞれにルカルカの猫を追いかける。
「……猫がこんなに」
 ルカルカの猫は、大広間の中央へたどり着くと他の猫達と共にごろごろと喉を鳴らして寝転がっていた。
 猫の数は先程よりも多く、部屋中の猫が集まってきたようだと涼介は思う。
「けど、なんで部屋の真ん中に?」
「……あれじゃないかしら?」
 頭を捻る涼介の横でミリィが天井に『ある物』を指さす。
「ああ、もしかして……」
 天井に『ある物』を見たセレンは、猫を『引き付ける』物を排除する為には物理的な手段では難しいだろうという事を理解していた。
 それは学園全体に音を響かせる音響スピーカーだった。