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【蒼空に架ける橋】第4話の裏 終末へのアジェンダ

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【蒼空に架ける橋】第4話の裏 終末へのアジェンダ

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第一章 強硬な手段は犠牲を伴う

――弐ノ島、集落。
 ウヅ・キオミ・ナが居る部屋へと向かっていた。
 少し前、ウヅ・キは参ノ島への通信に成功。副官であるメ・イリ・クスとの話し合いの場を設ける事になったのである。
 ところがその事に気付かれてしまい、何名かのコントラクターが同行を名乗り出たのである。

「何はともあれ、オミ・ナに一言言っておいた方がいいんじゃないか?」
「うむ、それはそうだろう。もし止められるようならばやめた方がいいだろう」
「そうねぇ……それにちょっと借りたいものもあるし」

 紫月 唯斗(しづき・ゆいと)コア・ハーティオン(こあ・はーてぃおん)フレイア・ヴァナディーズ(ふれいあ・ぶぁなでぃーず)の意見により一度オミ・ナに話をするという事になった。
 その報告は自分がすべき、と思ったウヅ・キは自ら役割を志願したのだが、
「……い、いざとなったら怖くなってきた」
オミ・ナの部屋に近づくにつれて、段々と気が重くなってきたのである。
 もし、自分のやった事を咎められ、迷惑になる事となったら……そう考えるとウヅ・キの足取りは枷で鉄球でもつけられたかのように自然と重い物になる。
 だが今更やってしまった事は取り返せない。重い足取りを引き摺りつつ漸く扉の前に着く。
 ノックしようと手を伸ばすがその手を止めてしまう。色々と負の方向に思考が向いてしまうが、頭を振って気を取り直し扉を叩く。
「……失礼しまあああああああああああ!?」
 ウヅ・キの口から今まで……いや、今回の件で結構出てる変な声が上がった。
「ん? ああ、何か用かい?」
 ウヅ・キの来訪に気付いたのか、振り返ったオミ・ナが笑みを向ける。

――その隣には、波のような突起が出ている大きな石の板の上に幾重もの石の板を抱かされ正座させられている富永 佐那(とみなが・さな)エレナ・リューリク(えれな・りゅーりく)ソフィア・ヴァトゥーツィナ(そふぃあ・う゛ぁとぅーつぃな)の姿があった。
 縄で縛られ、石抱きの刑の苦痛に表情を歪ませ口から苦悶の声が漏れている。というか泡を吹きそうである。
 そんな佐那達を、オミ・ナの側近達が囲んでいた。佐那達が変な動きをしないか見張っているようでもある。
「あ、あの、な、何を……」
 漸くウヅ・キが振り絞るかのように声を発する。その視線の先が拷問光景という事に気付いたオミ・ナが「ああ」と声を漏らす。
「アイツらかい? 碌な事してないからとっ捕まえてお仕置きしてるところさ。あまり気にしないでおくれ」

――今から少し前。ナオシが眠る診療所に佐那はエレナとソフィアを伴い訪れていた。
「ん? アンタらか。何か用かい?」
 甲斐甲斐しくナオシの看病をする数人の部下達が、来訪者である佐那達にそう問いかけた。
「ええ、お見舞いに来ました……ちょっと彼に用があるので、皆さん少しばかり席を外してもらえませんか?」
 佐那が笑みを浮かべてそう言うと、部下が訝しげな表情になる。未だ目を覚まさないナオシに一体何の用があるというのだ、と。
 だが何か言おうと口を開く前に、エレナが口を開く。
 その口から奏でられたのは【悲しみの歌】であった。まともに聴いてしまった部下達は意気消沈となり、そのまま促され部屋から放られるように追い出されてしまう。
 更にソフィアが【グラビティコントロール】で部下達の身動きをとれなくさせると、【アブソリュート・ゼロ】を用いて出入り口を塞いだ。
「さて、邪魔は無くなりましたし準備は整いましたか……」
 満足げに頷き、佐那がベッドに歩み寄りかかっている布を取り払う。そこに居たのは、包帯姿が痛々しいナオシの姿。息こそしている物の、意識はまだない。
「――無様ですねぇ」
 佐那が口の端を吊り上げ笑みを浮かべる。
――佐那も、ウヅ・キの行動に気付いた一人であった。
 参ノ島副官の説得に参加する事を考えた佐那は、その為には相応の材料が必要だと考えた。
 着目したのはナオシがつけられた傷である。
「私は……そうですね、【命の伊吹】を使ってみます」
「ではわたくしは【復活】と【命のうねり】を試してみましょう」
 佐那とエレナが互いに頷き、ナオシに目を向ける。傷に対し、スキルを使う事で回復するかどうかを試すというのである。
 これで効果が無ければ単なる刃物などで付いた傷ではなく、自分達には到底できない犯行だと証明出来ると考えたのだ。
「いいですか、よく見ているんですよ?」
 佐那がそう言うと、ソフィアは「わかりました」と頷く。ソフィアの役割は傷口の念写である。後程【ソードグラフィ】を使い念写する為、状態をよく見ている必要があるのだ。
 早速包帯を外そうと佐那が手を伸ばそうとした瞬間であった――窓ガラスが大破し、何者かが飛び込んできたのである。
 飛び込んできた者――オミ・ナは勢いそのままに佐那を押し倒し、持っていたハンドガンを額に付きつける。
「外にゃ兄貴の手下共が転がってる上に戸は開かない、おまけにやらかした野郎は兄貴に何かしようとしてるときた――これは一体どういう事かねぇ?」
 ハンドガンの銃口を突きつけたまま、オミ・ナは顔を上げエレナとソフィアを睨み付ける。
 エレナが反抗しようと動いたが、もう片方の手で持っていたハンドガンから放たれた弾丸が頬を掠めると直ぐに動きを止めた。
「次、変な事したら当てるから。話、じっくり聞かせてもらおうか?」
 そうオミ・ナに言われたエレナとソフィアはただ頷く事しかできなかった。

「だ、だからあれは傷を治そうと思ってやったことですよ! 包帯だって変えなくてはいけないでしょう!?」
 苦痛に喘ぎつつ、佐那がオミ・ナに向かって叫ぶ。確かに行為的には治療にはなるだろう。目的は証拠集めであるが。
「ほぉ、治療ねぇ……」
 オミ・ナは振り返り、笑みを浮かべると佐那に顔を近づける。笑みこそ浮かべている物の、目が笑っていない。
「治療するのに何で看病してた兄貴の手下共追い出して変なことして身動き取れなくさせた上に、入り口まで塞がなきゃならないんだい? 誰かいると不都合なのかい?」
 その問いに、佐那は答えず眼を逸らす。一つ溜息を吐くと、オミ・ナは再度ウヅ・キへと向き直る。
「……で、何か用? アレは気にしない方向で」
 落ち着かせようと笑みを向けるオミ・ナであったが、時折悲鳴が上がるこの状況を気にするなという方が無茶であろう。
 ウヅ・キはそのまま「何でもありませんでした」と引き返しそうになるが、その気持ちを押し留めぽつぽつと目的の件について話し始める。
「……成程ね」
 少しオミ・ナの目が鋭くなる。
「も、申し訳ありません私如きが勝手に出しゃばった真似をして! 駄目だというのならば――」
「ん? いや駄目じゃないよ」
 あっさりと答えるオミ・ナにウヅ・キは「へ?」と呆気にとられたように口を開く。
「確かに事前に一言言ってくれれば何か策は練れたかもしれないんだけどねぇ……やっちゃったもんは仕方ないし、出来る事なら参ノ島の連中を味方につけておきたいしねぇ。奴ら、戦闘に関しては利用できるし」
 オミ・ナが小さく「利用できるものは利用したいし」と呟く。
「まぁ条件はあるけど、それ守れるならいいよ」
 そう言うとオミ・ナは条件を述べる。
 それはこの集落から離れた場所で行うという事である。現段階で仲間になるかどうかわからない状況で、この集落の存在がバレたくないからである。
「何を話すかは知らないけど、あたしや集落の事は伏せて話しといて頂戴な。それと……」
 次に同行する唯斗とマルティナがナオシの傷を撮影したいという意見が出ているのであるが、オミ・ナの部下同行であるなら許可するという事。
 そしてその話し合いにオミ・ナは参加できないと言った。これから用があるというのである。
「それじゃあたしも出なきゃならないんでね。そっちも頑張って……ああ、そいつは適当に痛めつけたら集落の外転がしておいて。身内の事襲っておいてここに置いておけないからね」
 オミ・ナは佐那達に拷問をかけている部下にそう指示を出すと、そのまま部屋を出て行ってしまった。
 慌ててウヅ・キも外へ出る。新たに石を追加される佐那達を見ないようにしながら。

「おー帰ってきた……ってどうした?」
 戻ってきたウヅ・キの顔を見て、話し合いに同行する一人であるメルキアデス・ベルティ(めるきあです・べるてぃ)が驚いたように声を上げる。
「許可、下りなかったんですか?」
 マルティナ・エイスハンマー(まるてぃな・えいすはんまー)が尋ねるが、ウヅ・キは首を横に振る。
「いえ、許可は下りました……いくつか条件はありますが、傷を撮影するのもいいと」
「……何かあったんですか?」
 マルティナの言葉に、ウヅ・キは少し考えてこう言った。
「……知らない方が良いです」と。