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魔女のお宅のハロウィン

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魔女のお宅のハロウィン
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第3章 ずっといっしょに


 前にサキュバスの仮装をした泉 美緒(いずみ・みお)は、今年は何の仮装をするのだろうと泉 小夜子(いずみ・さよこ)は楽しみにしていた。
 お互いあえて教えずに今日に臨んだのだ。
 庭の入口で待ち合わせだ。
 先に着替えをすませた小夜子が賑やかな庭を眺めていると、ようやく着替え終わった美緒に後ろから呼びかけられた。
「お待たせしました……」
 仮装への楽しさと恥ずかしさが同居したような顔で、美緒は赤いフードを軽く下げる。
「赤ずきんちゃんですわね。とってもよく似合ってますわ」
「ありがとうございます。小夜子もとても美しい魔女になりましたわね」
「ふふ……かわいくて純粋な赤ずきんちゃんを誘惑する悪い魔女かもしれませんわよ」
 妖しい笑みを浮かべて美緒と距離を詰め瑞々しい唇をなぞると、とたんに美緒は真っ赤になって一歩下がった。
 恥ずかしがり屋の美緒らしい反応に、小夜子はくすくす笑う。
「あんまり赤くなっていると目立ちますわよ」
「もう、誰のせいだとお思いですの?」
「冗談ですわ。さあ、お庭に出て皆さんと一緒に楽しみましょう」
 お菓子がたっぷり詰まった籠を持った小夜子が、美緒に手を差し出す。
 美緒は、その手を取って庭に下りた。
 すでに大騒ぎとなっているそこに入ると、二人はすぐに子供達に囲まれた。
「とりっく・おあ・とりーと!」
 の大合唱だ。
 どの子の目も、新しいお菓子への期待に輝いている。
「かわいらしい子達ですわね。パンプキンクッキーにパンプキンミニマフィンの詰め合わせをあげましょう」
「やったー! いたずらは勘弁してやるぜ!」
「ふふっ、いい子ですわ」
 小夜子に頭を撫でられると、男の子は真っ赤になって照れた。
 美緒も小夜子の籠からお菓子の包みを取り出して子供達に手渡していた。
 お菓子を選んだのは小夜子である。彼女がカボチャを使った食べ物が好きだからだ。
 子供達の群が一段落つくと、小夜子は庭にある木のテーブルに美緒を誘った。
「私達もお菓子をいただきましょう。ちゃんと紅茶も用意してありますのよ」
「さすがですわ。その籠にはナプキンも入っていそうですわね」
「もちろんですわ」
 籠の中から取り出したナプキンを美緒が受け取り、小夜子の前と自分の前に広げた。
 小夜子が魔法瓶からカップに紅茶を注ぐと、芳醇な香りが立ち上った。
 綺麗な花柄の紙皿にクッキーとミニマフィンが盛り付けられる。
 あっという間に準備は終わり、二人だけのお茶会が始まった。
「皆さん、仮装や薬での変身をとても楽しんでいらっしゃいますわね」
 美緒が庭ではしゃぐ子供達を見て言った。
「美緒は? 楽しんでいらっしゃいますの?」
「ええ、とっても!」
 綺麗な微笑みに、小夜子も満足した。
 そこに、また子供達がやって来た。
「あ、あら……お菓子はもうなくなってしまいましたの。ごめんなさいね」
 すまなそうに小夜子が言うと、パラ実生らしいその子達は、
「じゃあ、いたずらだなっ」
 と、やる気満々の笑顔を見せた。
「きれーなねーちゃんとくれば、やっぱスカートめくりだよなー!」
「ぱんつの色は、なにいろだー?」
「ちょ、ちょっと、スカートめくりは……」
 小夜子の抜群のプロポーションを誇張するデザインの魔女服だけに、スカートがめくり上げられていく様子は何とも艶めかしい。
 一方の赤ずきんな美緒も、チビオオカミと化したパラ実生達の魔の手が伸びていた。
 ふわりとふくらんだスカートは簡単にめくられてしまいそうだ。
 伴侶として、さすがに小夜子は容認できなかった。
 軽く雷術を飛ばす。
「魔女らしく、反撃しますわよ……?」
 子供達はぎゃあぎゃあ騒ぎながら散っていった。
「さあ、平和になりましたわ。もう大丈夫ですわよ」
「助かりました……。びっくりしましたわ」
 美緒が胸をなで下ろし、そしてどちらからともなく笑い合った。

 荒野の孤児院からも遊びに来ていた。
 全員仮装していて、一際目立つのがフランケンシュタインになった王 大鋸(わん・だーじゅ)だ。
「王さーん、差し入れだぞぅ!」
 そう言ってジュースを持ってきたのはパラ実生達。
 大鋸は月見里 迦耶(やまなし・かや)に誘われて、孤児院の子供達と共にハロウィンパーティに来たのだ。
 ジュースはちゃんと子供達の分もあった。
「おお、ありがとな。気が利くな」
「王さんは憧れの先輩っスから! それじゃ〜」
 パラ実生達は空になった盆を持って戻っていった。
「着いたばかりで喉がかわいていましたから、お気遣い嬉しいですね」
「そうだな。──てめぇら、飲む前にちゃんと手を拭けよ」
 大鋸は担いできたクーラーボックスを開け、子供達におしぼりを渡していく。
「なんだ、アイスとかじゃないのか」
 残念がる声は無視だ。
 迦耶はシートを広げると、バスケットに詰めてきたハロウィンクッキーの包みを開いた。みんなで作ったものだ。
 なかなか凝ったクッキーでいつくも種類がある。
 蝙蝠型のココア味、南瓜型の南瓜味、竹炭パウダーが入った猫型、魔女帽子型の紫芋味などだ。
「待ってました! いただきまーす!」
 狼男になったアキラが楽しそうにはしゃぎながらクッキーに手を伸ばした。
 ちなみに迦耶は魔法少女だ。
 そして食べて飲んで笑って……と思ったら、隣の大鋸が縮んでいた。
 迦耶は何度も瞬きするが、五歳くらいになった大鋸の姿は変わらない。
「あの、王さん……」
「ん? 何だ……うお!? 迦耶、成長期か?」
「はい?」
 何のことだからわからないながらも、迦耶は自分の顔に触れたり手を見たりした。
 しかし、よくわからない。
「ちょっと、大きくなったな。十五歳くらいか?」
「そう言うおまえはテアンか?」
「それ以外の誰に見える? ……ん、レッテ? レッテか?」
「おお? でかくなってる!?」
「何で俺様だけガキになってるんだ……?」
 迦耶も含め孤児院の子供達は全員大きくなっていたのに対し、大鋸だけは子供化していたのだ。
「ふふっ。王さんが子供化すると、そういう感じなんですね」
「あ、あんま見るなよ。恥ずかしいだろ。──と、ところで、でかくなった気分はどうだ?」
 聞かれた迦耶は少し考え……。
「よくわからないですね。皆さんはどうですか?」
 子供達に尋ねると、
「これでお酒が飲めるなっ」
「何でもできそうな気がする〜」
「競馬で当ててくるぞ!」
 など様々な答えが返ってきた。
 と、大鋸が人の悪い笑みを浮かべて立ち上がる。
「ふっふふふ……そうかそうか、俺様だけ子供か。じゃあてめぇら覚悟しろよ。トリック・オア・トリート!」
「マジか!?」
「ずりぃ〜」
「ほらほら、出すもん出さねぇといたずらするぜぇ〜」
「か、迦耶っ、任せたっ」
 大きくなった子供達に大鋸の前に押し出される迦耶。
「え、え!?」
 迦耶が戸惑っている間に、子供達は散って行ってしまったのだった。
 後には、
「だらしねぇなあ!」
 と、大笑いする大鋸がいた。

 すると、迦耶に追い打ちをかけるようにオモチャの銃を構えた六歳くらいの男の子と女の子が現れた。
 格好からしてギャングの仮装だ。
「……えっと、おかしをくれないといたずら……します」
 と、男の子が格好の割に遠慮がちに言った。
 対して、女の子のほうは淡々と脅し文句を突きつける。
「早く出さないと、その額、撃ち抜くわよ。私の弾丸は……特別製よ」
「そ、それは痛そうですね……今、クッキーを包みますね」
「ケチったら……痛いですよ」
 念を入れる男の子に思わず笑みをこぼしながら、迦耶は綺麗な柄の紙ナプキンにクッキーを包んだ。
「はい、どうぞ。撃ったら嫌ですよ」
「もらうものもらったら、すみやかに撤収です。行きましょう、環菜」
 チビッ子ギャングは仲良く手を繋いで次の獲物を求めていった。
「環菜さんだったんですか……」
 迦耶は意外な気持ちで小さな背を見送った。
 戦利品を手にした御神楽 環菜(みかぐら・かんな)御神楽 陽太(みかぐら・ようた)を見て薄く笑う。
「よくやったわ陽太。あの人、たくさん包んでくれたわよ」
「そうですか」
 陽太は誇らしげな笑みを浮かべた。
「次のカモを探しましょう」
「環菜、楽しそうですね」
「ええ。だって、そのためにここに来たんだもの」
 このパーティに行こうと誘ったのは環菜のほうだった。
「今日はとことんやるわよ」
 環菜はギャングの真似事がすっかり気に入ってしまったようだった。
 子供化してハロウィンを楽しむ祖先の姿を、御神楽 舞花(みかぐら・まいか)がデジカメで撮る。
 リーアに撮影の許可をもらっていたため、陽太と環菜に限らず庭をところ狭しと駆け回る子供達を何枚かカメラに収めていた。
 ポーズを決めた子供達を撮ることもあり、撮った写真は本人達の携帯などに送信している。
 さて次の場所へ……と歩き出した時、背中に棒状のものと思われる何かが押しつけられた。
「お菓子を出せ。さもないと、ノミに変身させてプチッとやっちゃうぞ」
「そんな怖いこと言うのは誰ですか?」
 振り向くと、ゴスロリ魔女に仮装したチョウコがいた。
「世界を震撼させる魔女のチョウコ様だ! 舞花も来てたんだな。あのラブラブ夫婦もいるのか?」
「ええ。先ほどお菓子を巻き上げていましたよ」
「あっはっは! 景気よくやってんなぁ」
「こんな感じです」
 舞花はデジカメに撮った画像を再生させてチョウコに見せた。
「ギャングか。こりゃあたしも負けてらんないな。──さあ、舞花。お菓子かノミか?」
「もちろんお菓子です」
 舞花がチョウコにあげたのは、高級お菓子セットだった。
 受け取ったチョウコは目をまん丸にして凝視している。
「あの、どうかしましたか? 苦手なお菓子でも入ってました?」
「まさかこんなたっけーお菓子もらえるとはな。あたしのほうが震撼させられちまった」
 荒野育ちのチョウコでも知っている高級お菓子メーカーのお菓子が出てきたことに驚いていたが、彼女はすぐに「得したぜ」と満面の笑顔になった。
 さっそくマドレーヌの袋を開けてかぶりつく。
「うまい! よぅし、HPもSPも満タンだ。じゃあ、次に行くよ。ありがとな」
「はい、またです」
 手を振って駆け去っていくチョウコを、舞花は微笑みながら見送った。

「たくさんお菓子をもらいましたね!」
 両手いっぱいにハロウィンのお菓子を抱える吸血鬼の少女 アイシャ(きゅうけつきのしょうじょ・あいしゃ)
「いたずらの紙吹雪も大成功でした!」
 お菓子を持っていない大人には、周りを走りながら紙吹雪をたくさん降らせた。
「写真も撮ってもらいましたし」
「楽しい?」
「ええ、とっても!」
 屈託なく笑うアイシャに、リア・レオニス(りあ・れおにす)は嬉しく思った。
 二人は子供化して、共に吸血鬼の仮装をしている。
 衣装はリアは黒系をアイシャは白系を対になるように選んだ。
 アイシャに至っては仮装ではないとも言えるが、地球の文化であるハロウィンのための吸血鬼の仮装というのはおもしろいものらしい。
 楽しそうなアイシャを眩しい思いで見つめているリアだったが、突然手を引かれて驚く。
 手を引くのはアイシャで、
「あそこに魔女がいますよ。きっと魔女っぽいお菓子をくれるはずです」
 と、膝にドラゴニュートを乗せて優雅に椅子に腰かける魔女を指さしている。
「魔女っぽいお菓子って?」
「えーと……食べると口からシャボン玉が出てくるガムとか?」
「あはは、忙しそうなガムだね」
「ふふっ。でも、魔女っぽいでしょう?」
 二人が魔女に仮装した黒崎 天音(くろさき・あまね)のもとに駆け寄ると、種もみ学院のチョウコとカンゾーもお菓子をもらいに来ていた。
「おう、魔女さんよぅ、お菓子よこさねーとスカートめくっちまうぜぇ」
 オオカミの着ぐるみを着たカンゾーが凄む横で、チョウコは天音の膝にちょこんと収まっているブルーズ・アッシュワース(ぶるーず・あっしゅわーす)をつついている。
「縮んだ?」
「例の薬を飲んだらこんな具合だ」
「ぬいぐるみみたいでいいんじゃないか?」
「……」
 背中に小さな魔法の羽根をはやし、妖精のような格好をしたブルーズは、確かにぬいぐるみのようであった。
 そこにリアとアイシャも、
「トリック・オア・トリート!」
 と、声をそろえて混ざっていった。
「おや、増えてしまったね。これはグズグズしていると大変なことになりそうだよ」
 天音はのんびりとそう言うと、用意してきたハロウィンのお菓子をそれぞれに手渡す。
 もともとあふれんばかりだったアイシャは、ポケットにも入れてもらった。
 さあ次だ、と行きかけた子供達を不意に天音が引き留めた。
「実は、いたずらはされるよりするほうが好きなんだよねぇ……」
 立ち上がると、ブルーズがころんと転がり落ちた。
 天音はゆっくりと子供達へと歩み寄ると、たまたま目が合ったカンゾーの前で立ち止まり、顔を近づけて妖しく微笑んだ。
「……そのお菓子、まるごと寄越さないといたずらするよ?」
「な、なんだとぅ!? カツアゲか……あひゃははははは!」
 戦利品を守るためカンゾーが攻撃の姿勢をとったが、天音にくすぐられてあえなく崩れた。
 その隙に天音はカンゾーがこぼしたお菓子をひょいと拾い上げる。
 そして、テーブルに戻るとカンゾーのお菓子を真ん中に置き、その横にさらに倍の量は詰まっていそうなお菓子の袋を並べた。
「魔女にゲームで勝ったらこのお菓子、全て与えようじゃないか」
 挑戦的にカンゾー達を見渡した。
 天音の膝から落とされ、いまだ地面に座り込んでいるブルーズが呆れ顔でパートナーを見上げている。
「妖怪おいてけ魔女か……」
 そんな呟きを天音は聞こえないふりをした。
「よーし、お菓子は全部俺のもんだ!」
 挑戦を受けたカンゾーだが、天音の言うゲームがゲーセンにあるようなゲームの類でないことは明らかだ。
 格闘ゲームなら負ける気がしないカンゾーも、カードゲームやボードゲームとなるとあまり自信がない。
 カンゾーはチョウコやリア、アイシャに助けを求めた。
 真っ先に協力を申し出たのはアイシャだ。
「私でよければ力を貸しましょう。リアさんはどうしますか?」
「アイシャが戦うのに俺が行かないわけないだろう」
「んじゃ、あたしもやるしかないな。このお菓子も賭けてやる。全員でこのラスボスを倒すぞー!」
 チョウコによりラスボスにされた天音は、ラスボスっぽい笑みでカードを切り始めた。
 アイシャとリアも手持ちのお菓子をテーブルに置く。
「大貧民でいいかな。ルールわからない人いる?」
 天音の確認に戸惑うアイシャにリアが寄り添った。
「俺達は二人一組でいかせてもらうよ」
 天音は頷くと、それぞれの前にカードを配っていく。
 そして、ゲームは始まり……。
「……カンゾー、アンタ……」
 チョウコが哀れみの目を向ける。
 カンゾーは三連敗中だ。
 チョウコもアイシャもリアも、自分のお菓子は取り戻している。
「なんで勝てねーんだぁ!?」
「ゴリ押しでは魔女に勝てないと思うよ」
 リアの指摘にアイシャも頷く。
 始めのうちはリアの説明を受けながら彼の方法を見ていたアイシャも、ルールを理解すると自分でカードを選びリアの同意を得てカードを切るようになっていた。
「くっそー、こうなったらババ抜きで勝負だ! これなら小細工はできねーだろ!」
「あたしはもういいよ」
 チョウコはそう言うと、飲み物を取りに行こうとしているブルーズを手伝いに行った。
 アイシャが何か言いたそうにリアを見る。
「もしかして、ババ抜きやりたい?」
「ええ。カードゲームっておもしろいですね。もう少し、遊んでもいいですか?」
「もちろん。じゃあ、俺も参加しようかな」
「よかった!」
 アイシャは、嬉しそうに微笑んだ。
 飲み物をもらった帰り、ブルーズはチョウコに提案をした。
「来年は種もみ学院でハロウィンをしないか?」
「そりゃいいな。管理人に相談して60階全部使ってやろうか。手伝ってくれよ」
「ああ」
「天音はまたラスボスやってくれるかなぁ。よし、さっそく聞いてみよう」
「おい、飲み物持って走るな。転ぶぞ」
 ブルーズの注意を聞き流し、チョウコは走っていってしまった。
 ため息を吐きつつも、ブルーズは気が早いと思いながら来年のハロウィンは何をしようかと考えを巡らせたのだった。