空京

校長室

建国の絆第2部 第1回/全4回

リアクション公開中!

建国の絆第2部 第1回/全4回
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リアクション


ヒダカ
 
 だが次の瞬間。
 階段を上りかけていた者たちを、全身を撃ち抜かれる衝撃と痛みが襲った。大理石の階段を転げ落ちた学生の上に、また別の学生が落ちて重なり、呻く声叫ぶ声で周囲は騒然となる。
「……アズール様の邪魔はさせない」
 階段の上に現れたヒダカ・ラクシャーサは、暗い瞳で呟いた。それを守るように英霊真田 幸村(さなだ・ゆきむら)が傍らに抜かりなく控え、その背後では鏖殺寺院兵士が侵入者を撃退しようと武器を構えている。
「ぐっ……」
「ルドルフさん!」
 清泉 北都(いずみ・ほくと)が邪霊の攻撃に膝をついたルドルフの傷を癒し、背中に庇った。クナイ・アヤシ(くない・あやし)はルドルフを含め味方への攻撃を防ごうと、防御の姿勢を取る。
 ルドルフはその間に立ち上がり、乱れたマントを払った。
「ここは薔薇学と明倫館に任せてもらおう。他の者は隙を見て先に進め」
 階段を下りてくる兵士へと斬りかかるルドルフを、北都らがカバーする。兵士や湧き出す雑霊を切り払い、ヒダカ目指して階段を上ってゆく。
「このままじゃ、たどり着くまでにも時間かかりそうだね」
 パートナーの神尾 惣介(かみお・そうすけ)が幸村と話がしたいというので、ジョシュア・グリーン(じょしゅあ・ぐりーん)も邪魔になる相手を焼き払って道をつくっていたのだが……倒せば倒した数より多い邪霊が呼び出され進路を塞ぐ。持久戦か根比べかという様相だ。
(援護するよ)
 学生にエルのテレパシーが送られ、次の瞬間清らかな光が放射された。バニッシュよりも強力な光の力に、邪霊はたちまち捩れ消えてゆく。
 アイザック・スコット(あいざっく・すこっと)はヒダカの足下を凍り付かせ、その足止めを狙った。悪い足場を避けて下がったヒダカは、錆び付いた刀をアイザックへと振るう。刀の間合いを遙かに超えて、伸びた刀身がアイザックを貫いた。
 刺された腹を押さえてアイザックが蹲る。が、次の瞬間、ヒダカもまた肩口を押さえた。ヒダカの意識がアイザックに向いたその隙に、隠れ身で近づいていた瑞江 響(みずえ・ひびき)の綾刀が打ち込まれたのだ。
「アイザック、大丈夫か?」
「これしきの傷……俺様を誰だと思っているんだ」
 視線はヒダカに向けたまま響が問えば、背後で呻きながらもアイザックが減らず口を叩き、手近にいた兵士の血で傷を回復させにかかった。
 ヒダカが傷を負ったのを見た幸村は舌打ちして響に向かおうとする。が、その時には支倉 遥(はせくら・はるか)伊達 藤次郎正宗(だて・とうじろうまさむね)がその間に入っていた。
「真田左衛門佐幸村殿とお見受けする! 今生、ここで相見えたのもまた奇縁というもの。この伊達陸奥守政宗が手ずから一太刀馳走いたそう。遠慮なさらず受けられよ!」
 堂々と名乗りを挙げる藤次郎正宗に幸村は、
「伊達の……」
 と呟いた。過去の記憶がヒダカへの意識をわずかに逸らした隙に、遥と藤次郎正宗が連携して攻撃を打ち込んだ。
 ヒダカ確保の為には、まず幸村から引き離さねばならない。
 そう考えて分断をするように星輝銃を撃つ遥と、その考えに同意しつつも純粋に戦に沸き立つもののふの心を抱いた藤次郎正宗の掲げる雅刀。2人の息のあった攻撃に、幸村も唇を引き結んで応戦する。
 幸村を遥と藤次郎正宗が留めているうちに、他の者はヒダカを取り押さえに向かう。けれど。
「お前たちを通すわけにはいかない」
 ヒダカが召喚した邪霊が再び場に満ちる。黒い闇のこごりがヒダカとの間に立ち塞がり、幸村と戦う遥たちへも襲いかかる。倒せば減る兵士と違い、邪霊は倒してもまた呼び出される。ヒダカがどのくらい邪霊を召喚可能なのかが解らない為に、一層徒労感は募る。
「きりが無い……この邪霊何とかならないのか」
 響の言葉にヒダカは胸をそびやかした。
「霊を操るこの力はアズール様から賜ったもの。お前たち如きに太刀打ちできるはずもない」
 その言葉を聞きとがめ、ルドルフが怪訝に呟いた。
「ジェイダス校長は、あれは黄泉之防人の血筋によるものではないかと言っていたはずだが……」
 だがヒダカは完全にその力がアズールからもたらされたものだと信じている様子で、見せつけるようにまた邪霊を呼び出した。大階段に無数に浮かぶ黒い影はそれだけで心が寒くなるような光景だ。
(もう1回行くよー)
 エルの放つ聖なる光がまた邪霊を一掃した。
(時間かかりそうだね。早く先に行きたい人もいるだろうから、移動するよ。ヒダカたちと行きたい人はそう心に思って。あ、ヘンな妄想とかはまた今度にしてね〜)
 エルのテレパシーに、皆は今一度自分の目的を心に確認する。
「ヘレンはどうするのじゃ? ヒダカが心配でたまらんのじゃろう?」
「私は……」
 早瀬 重治(はやせ・しげはる)に問われ、ヘレトゥレイン・ラクシャーサ(へれとぅれいん・らくしゃーさ)は一瞬目を伏せた。が、すぐに決意してヒダカに関わる皆に向き。
「私では無理でした……。彼の心を開くには、あなた方のような人が相応しいと思いますわ。……彼と幸村様を宜しくお願い致します」
 勿論ヒダカは気になる。けれど、今は何よりもエリザベート校長の身が心配だからとヘレトゥレインは言い置き、すぐに動けるようにと階段の近くへ移動した。
「行ってくるよ」
 佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)はそれまで並び戦っていた水神樹に、そう告げる。
「私は儀式を止めに行きます。じゃないと、悲しむ人が多すぎますから」
 樹はここに来るまでも道を切り開き続けて来たし、これからも信念に基づいて儀式阻止へと向かうつもりだ。この世界が大好きだから、世界を滅ぼすような力を持ったモノの復活を見過ごす訳にはいかない。
 2人には恋人と共にいたい気持ちを抑えてでも、それぞれにやらねばならないことがある。
「必ず戻るから」
 弥十郎はそう言って樹の頬にキスをした。
「心配するな。こいつだけは絶対に帰してみせる」
「2人共どうか……」
 約束する熊谷 直実(くまがや・なおざね)に、樹が掛けた言葉を言い終わらぬうちに、ヒダカと真田幸村、それに関わろうという人々の姿は大階段から消えた。
「……無事にまた会いましょう」
 掛けられなかった言葉を最後まで言い終えると、樹は儀式場への道を塞ぐ鏖殺寺院兵士へと向かっていった。。