校長室
【カナン再生記】緑を取り戻しゆく大地と蝕む者
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●龍の逝く穴(01):Into the Deep 一見丘のようなこの地形が、鍾乳洞の入口を隠していた。丘を登り切ったその背は、急降下するような切り立った崖となっており、飛び出す岩の鋭さは、見る者に槍の穂先を思わせた。 「こりゃ、ちょっとしたトラップだな。丘のてっぺんまで駆けっこしたりして、足でも滑らそうものなら即お陀仏だ。うはははははは!」 崖下に首を突き出して、ドン・マルドゥークは豪快に笑った。少々ブラックなことを口にしているにもかかわらず、からっと乾いた彼の口調だと、まるで恐ろしいことのようには聞こえなかった。 「だがこの地形のおかげで、この場所は静けさを保っているわけだ」マルドゥークは笑うのをやめ、束にしたロープを解いた。ロープには随所に、手がかりにするための結び目が取り付けてあった。「そこに土足で踏み込もうってんだからな、ちと覚悟が必要だろう」ロープの端を岩にくくりつけ、しっかり固定させて反対側を崖下に垂らした。 「女神様、レディファーストと参りたいところですが、どのような危険が待ち受けているやわかりません。お先、失礼しますぞ」と言うなり、ドン・マルドゥークはロープを掴んで降りていった。 「気をつけて」という豊穣と戦の女神イナンナの声に片手を振って応えると、この西カナン・ウヌグの領主はするするとロープを伝い、着地したのである。崖の上に呼びかけた。「女神様、待ち受けている者はなさそうです。飛行能力を有している者の手を借りておいで下さい!」 ほどなくして鍾乳洞――『龍の逝く穴』の入口に達した緋桜 ケイ(ひおう・けい)は、畏敬の念を抱いてこの雄大な地形を見上げた。「これが……」 「荘厳な雰囲気があるな」悠久ノ カナタ(とわの・かなた)が応じた。霊所とでも呼べばいいだろうか、神聖な場所というのが一目で分かった。暗い穴から霊気が洩れてくるようである。ケイとカナタだけではない。降りてきたメンバーは皆、多かれ少なかれ入口を見上げて固唾を呑んだ。 しかし女神イナンナは動じなかった。入口に殆ど目もくれず、「メンバーは揃った?」とマルドゥークに問うたのだった。 「はっ、間違いないかと」 「では、各人小部隊に別れて探索を開始ね」女神は命じた。 この整然とした姿勢に、(「さすがはアーデルハイトの妹……」)とケイは舌を巻いていた。そして彼女は、イナンナを護衛すべくその前に立ったのだ。「同行させてもらうよ」 「ありがとう」お願いね、とイナンナは会釈を返した。 (「さて、シャンバラでアーデルハイトがどんな生徒たちを育ててきたのか……イナンナのその目で確かめてもらおう」)ケイはカナタと並んで、先陣切って洞窟に足を踏み入れた。