校長室
【カナン再生記】緑を取り戻しゆく大地と蝕む者
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●龍の逝く穴(06):アンズーを求めて 「HAHAHA、お宝目指してGO! GO! GO!!!」 七刀 切(しちとう・きり)は威勢良く、洞窟内を駆け巡っていた。比喩ではない。文字通り走り回っていたのだ。 「おい、どこに行く気だ。そっちはさっき通ったであろう」 相方の黒之衣 音穏(くろのい・ねおん)は少々呆れ気味だ。それでも影のように彼に寄り添い、しかも四方に警戒を行っていた。 「え? ……っと、そうだったっけ?」切はぴたりと足を止めて首をかしげる。 「確かだ。それから、さっきも龍に『うるさい!』と怒られたばかりだろう。もう少し静かに行動できんのか」ただしその龍は、怒っただけで攻撃はしてこなかった。 といっても難しいのだと切は言う。「知り合いのほとんどは現地住民と交流してるらしいから、今回の冒険はワイに懸かってるというねぇ……その責任感というかワクワク感というか、そういうものがワイを刺激してやまないんだ!」 「やまないのは結構だが、それと、静かにすることは同時にこなせんのか」 「そうは言うけど音穏さん、この気持ちをハートに押し込めておくことなんてできないよ?」 「なんだその言い回しは……わかったから、もう少し意識的にするのだぞ。ほら、次はどちらに進む?」 「こっち!」切は直感的にとある方角を指さした。 「だからそっちはさっき通ったであろうが」 「じゃあこっちだ!」 「そっちは来た方向だ!」 思わず音穏は声を上げてしまうのだった。 (「無事出られるかすら不安だ……」)思わず溜息する彼女である。 影野 陽太(かげの・ようた)もイコン探索の途にあった。最初はアンズーを集団で探していたものの、階層が深まり、道が分岐するたび、一行は別れて数を減じていた。現在では陽太も、ノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)と二人きりである。 「おっとと」ノーンがだしぬけに声を出したので、陽太はぎょっとして、寸前まで眺めていた大切なロケットから顔を上げた。 「おにーちゃん!」ノーンはパタパタと手を振った。 「まさかアンズーが!?」 「ううん、ドラゴンさん」 「ドラ……」 陽太も息を呑むことになった。曲がり角の向こう、濃い橙色の鱗を持つ立派な姿のドラゴンが歩んでくるのだ。身を隠そうとするも間に合わず、二人は龍の視界に入ってしまった。 「小癪な人間が、我が同胞を殺して名を上げようとしている!」お前らもか、と龍は二人を睨め付けた。格別に巨大なドラゴンだった。筋骨隆々、肩の肉はまるで岩のようだ。すぐに攻撃するつもりはないようだが、返答次第によっては、と龍の表情は告げていた。 「ドラゴンさんをなだめるよー」ここでノーンがぴょんと飛び出し、龍の前脚に近づいていった。 「頼みます」陽太は彼女を信用している。口出しせず、黙って行かせた。(「こうやって話してくれるドラゴンは、怒っているようでも冷静です。誠意を見せれば、大丈夫……」)彼は大切なロケットの蓋を閉じた。御神楽環菜の笑顔が、パチンと音を立てて蓋の裏に隠れた。 「陽太、あなたと、あなたのパートナーには、人の警戒心を減じる力があるわ」かつて彼の胸に背を預けつつ、環菜は言ったものだ。「それは長所よ、相手の心に触れやすいのだから……」 環菜の言葉に間違いはなかった。それからほどなくして、ノーンは竪琴を奏で、龍の怒りを静めたのだ。 「ドラゴンさんというだけで、ケンカをふっかける悪い子、たしかにいないわけじゃないよ……でも、ほとんどの人はそうじゃないんだよー。さがしているものについておしえてほしいだけなんだもん」 「そうか……何を探している?」龍はまるで、孫をあやす祖母のように(どうやら女性の龍らしい)ノーンを前脚に乗せていた。 「『あんずー』っていう『いこん』、どこにあるか知ってる?」 「それは……」橙の龍は、少々困ったような声を出した。「守護者のもとにある。悪いことは言わぬ。行くのはやめておけ」 命の危険があるぞ、とドラゴンは警告した。