First Previous |
7 |
8 |
9 |
10 |
11 |
12 |
13 |
14 |
15 |
16 |
17 |
Next Last
リアクション
ツァンダ/イコン戦
雲海の下は、雨。
エリュシオンから襲来する龍騎士達は、雲海の上を飛来する。
それを見越して、和泉 直哉(いずみ・なおや)もまた、パートナーの強化人間、妹の和泉 結奈(いずみ・ゆいな)と共に愛機スプリングを駆り、雨雲の上にいた。
「雨の中に誘いこんじゃった方が、有利じゃないかな?」
状況を肉眼で認識する龍騎士達にとって、雨の中、視界は狭められて上からの攻撃などには弱いだろうと結奈は言ったが、
「それは、別の奴等の担当だ。俺達はこっち」
と言う直哉に頷いた。
イコン部隊は複数に分かれている。
直哉達のいる場所は、ツァンダ防衛における最前線――最初に龍騎士達とまみえる場所なのだ。
やがて前方の空に、じわりと染みのように見え始める影があり、スプリングはビームサーベルを抜いた。
「敵影を確認。先制攻撃に入る!」
濃い灰色に渦巻く雲海の下で、時折、低く雷鳴が轟く。
微妙な表情で足元を気にしているパートナーの強化人間、サイファス・ロークライド(さいふぁす・ろーくらいど)を藤堂 裄人(とうどう・ゆきと)はちらりと見た。
「雷は雲の上には来ないよ。……多分」
「わかっています」
サイファスはふいとそっぽを向いた。彼は雷が苦手なのだ。
気を取り直すようにひとつ息をつく。
「龍騎士はイコン相手とは勝手が違うでしょうね。
接近戦は避けた方が無難でしょう」
サイファスの言葉に、
「そうだね」
と裄人も頷いた。
襲来する龍騎士が近付いて来ると、直哉機のスプリングを始め、何機かが飛び出して行く。
「臨機応変型のようですね」
「援護する!」
距離を確認しながら言ったサイファスに、裄人もそう言ってアサルトライフルを構え持つ。
強くなりたい。もっと、もっと。
イコンで、シャンバラを守れるように。
「これ以上、シャンバラで好き勝手はさせませんよ」
操縦桿を引きながら、サイファスは前方の龍騎士達をひたと見据えた。
裄人達のケルベロス・ゼロは、龍騎士達の進行方向を上空へ躱しつつ、ライフルによる遠距離からの攻撃を仕掛ける。
そして接近戦を仕掛けるイコンが龍騎士部隊と激突してからは、その援護に回った。
「まともにやりあうには数が多い。翼を狙って行くぜ!」
飛べなくしてしまえば。そう思った直哉は、裄人ら後方からの援護を受けながら、飛行能力を奪うことを意識した攻撃を仕掛けて行く。
かっと龍が口を開けるのを見て、素早く操縦桿を傾けた。
まるで糸が切れたかのように、スプリングが落下し、龍のブレスは空を貫く。
その間にスプリングは、素早く下方から背後に回りこんだ。
龍騎士は素早く反応したが、龍を転回させるのは間に合わない。
スプリングのビームサーベルは、龍の翼を斬り捨てた。
雲海の中。
時折静電気のような稲妻を走らせる雨雲の中に、桐生 理知(きりゅう・りち)を始めとする者達が潜んでいる。
グリフォンの操縦席で、理知は目を閉じ、お守りを握り締めて、大切な景色を思い出した。
戦う前に必ずやる決まりごとだ。
これから自分が守るもの。守らなくてはならない大切なもの。それらを決して壊させないと、誓う。
「――来たみたい」
雲海の上を伺って、パートナーのヴァルキリー、北月 智緒(きげつ・ちお)が囁いた。
「うん」
と理知も目を開ける。
やがて、数に任せて最前線を突破した龍騎士達が、雨雲の中へ突っ込んできた。
理知達のグリフォンは、大型ビームキャノンを構えてそれを迎え撃つ。
「敵数は多いみたいだけど惑わされないで。一体一体、確実に仕留めてくよ」
「解ってる!」
理知の指示に、智緒は不敵に笑いながら頷いた。
「……翔君。遠くから見守っててね!」
引き金を引く寸前、理知は別働隊で働いている辻永 翔(つじなが・しょう)へ想いを馳せる。
「え、それちょっと、何か微妙に意味が違ってない?」
智緒が首を傾げて突っ込みを入れた。
霧の中にいるような視界の悪さを、ダークビジョンでカバーする。
火村 加夜(ひむら・かや)は、両手にビームサーベルを持ったイーグリット・アサルト、アクア・スノーで接近戦を仕掛け、確実に敵の急所を狙いつつ戦った。
「ここから先へは進ませません。覚悟してください!」
ツァンダを護る、盾となる。
操縦を担当するパートナーの強化人間、ノア・サフィルス(のあ・さふぃるす)がぐん、と機体を持ち上げた。
「前方。敵しかいないよ〜」
加夜は、言葉と同時に素早くビームサーベルを収め、バズーカを構える。
そして龍騎士達にバズーカを放つとすぐさま再びサーベルを取り、同時にノアは、ばらけた龍騎士の一体に狙いを定め、漂う雨粒を弾き散らしながら飛び込んだ。
引ききらない爆音の中、落下して行く龍騎士の姿を視界の端に捉えたが、既にそれには注意を払わない。
まだ数多く残る敵は、目の前にある。
雨雲を突っ切ったその下は、降りしきる雨で一気に視界が暗くなる。
ツァンダに要所は幾つかあるが、ツァンダを制圧するにあたって、アイリス・ブルーエアリアル(あいりす・ぶるーえありある)が特に重要視したのは2ヶ所。
ツァンダ家と、蒼空学園だった。
龍騎士部隊の先頭に位置していたアイリスは、仕掛けられる攻撃を半ば無視して、上空のイコン部隊を一気に振り切って地上に降り立ち、龍から降りた。
他にも、上空の戦闘を切り抜け、または龍は攻撃されて墜落したものの、何とか不時着して無傷で龍を降りた龍騎士などが、ツァンダの町に到着している。
雨に紛れ、シャウラ・エピゼシー(しゃうら・えぴぜしー)とパートナーの吸血鬼、ユーシス・サダルスウド(ゆーしす・さだるすうど)はそれぞれ小型飛空艇でツァンダ上空を哨戒していた。
この季節の長雨は、結構冷える。
ユーシスは、雨具の下にカイロを仕込んで備えつつ、雨の中を降りてくる龍騎士をついに見付けて表情を暗くした。
「ついに、始まりますか……」
……それでも、甘いと言われようとも、自分の役目が戦闘ではなく哨戒であったことに安堵する。
教導団に在籍しながらも、心は軍人のつもりではないからだろうか。
「――シャウラ」
ユーシスは、まずはパートナーのシャウラに連絡した。
「こちらでも確認してる。
俺からルー少尉に連絡する。南側から周り込む敵を確認したら、ユーシスから伝えてくれ」
「解りました」
ユーシスとの連絡を終えると、シャウラは苦い顔を隠さず、イコンに搭乗して地上で待機しているルカルカ・ルーに連絡する。
「ルカルカ、ツァンダ北東から龍騎士、――一気に来るぞ」
「どこを狙って来るって!?」
教導団イコン、鋼竜、レイの操縦席で、連絡を受けたルカルカ・ルー(るかるか・るー)は訊き返す。
まんべんなく、と、それに応えが返った。
ツァンダ上空まで来て、そこから龍騎士達は一気に分かれた。
港、町の中のあちこち、ツァンダ家、そして蒼空学園。
「町の中に降り立った龍騎士は特に動いていないらしい。
こちらから攻撃を仕掛けない限り、何もしてこないつもりだろう」
「もう町を制圧したつもりでいるってこと!?
冗談じゃないわ、だったらこっちから攻撃してやるんだから!
受けて立とうじゃないの。侵略に、負けたりなんてしない!」
パートナーの剣の花嫁、ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)の言葉にルカルカは憤然として言った。
ダリルは苦笑して、
「皆に知らせる」
と、ツァンダ防衛に動く生徒達に状況を伝える。
「アイリスは蒼空学園に降りたらしい。
だが、数は港に下りた龍騎士が多い」
「……港には、避難民が!」
ルカルカははっとする。
「大丈夫だと信じよう。――まずはここだ」
ダリルの口調が変わった。
ルカルカは毅然として上空を見上げる。
2人は、ツァンダの要のひとつ、ツァンダ家の護りについていた。
シャウラの連絡の通り、そこを目指す複数の龍騎士が、雨で遮られていた視界の中に飛びこんでくる。
「西シャンバラロイヤルガード、獅子の牙・ルカルカ・ルー、やれるものならやってみなさいっ!」
射程内に入るなり、マジックカノンで攻撃を仕掛けつつ、ルカルカは自ら龍騎士に向かって行った。
アイリスは蒼空学園へ。
その報は、港に鎮座するメカうさぎ、ラーン・バディに乗る、レキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)の所にももたらされた。
「ここには来ぬか」
「アイリスさんに言いたいことがあったけど……仕方ないんだよ」
「そうじゃな。護るところを護らねば」
パートナーの魔女、ミア・マハ(みあ・まは)も、
「戦いは好まぬ、と言っている場合ではないのう。
……まあ、ツァンダには気に入りの苺タルトの店もある。わらわの至福の時を奪わせはせぬぞ」
と、共にツァンダ防衛に付き合っている。――本当は、理由など何だってよかったのだが。
同じ百合園生として、レキはアイリスも、そのパートナーの瀬蓮のことも、知っている。
アイリスを想って泣く、瀬蓮の泣き顔が、見えるような気がした。
「……側で泣いてるパートナーがいるのに……どこを見てるんだよっ!?」
蒼空学園の方を見つめて、アイリスへ、届かない言葉を、吐き出さずにはいられない。
これ以上悲しませたくない。だから今はここを、全力で護ろう。
「避難民を巻き添えにすることは無い。存分にやるがよい」
龍騎士が降り立った場所を見て、ミアが言う。
「敵は、ここだよ!」
レキはニンジンミサイルをありったけ放った。
First Previous |
7 |
8 |
9 |
10 |
11 |
12 |
13 |
14 |
15 |
16 |
17 |
Next Last