空京

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【カナン再生記】決着を付ける秋(とき)

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【カナン再生記】決着を付ける秋(とき)
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リアクション


闇が翼を広げる

 古代戦艦ルミナスヴァルキリーの腹の中。「必ず道を切り開いてみせる」と言った友を信じてひたすら時を待つ薄暗い闇にいて、東カナン領主バァル・ハダドは静かに目を閉じていた。
 外部からの攻撃で、あるいはルミナスヴァルキリー自身の砲撃の反動によって、戦艦内は静けさとは無縁の振動と耳をふさぎたくなるような轟音が絶え間なく起きていたが、それでも彼を包む空気だけはしんと静まり返っているように見えた。
「……そうか。おまえはこれが初陣だったな」
 添えていた手から伝わる黒馬グラニの興奮に、ぽつっとつぶやく。
 この馬は、先日シャンバラ人から贈られた馬である。本来であればまだ軍馬として調教の最中であるはずだったのだが、この黒馬はまるでこの時が来ることが分かっていたかのように、驚異的なスピードで調教の最終過程まで終わらせてしまった。馬は賢い生き物と言うが、それでもこれは群を抜いている。グラニは、城の調教師たちを驚嘆どころか畏怖させた。まさにこの馬が、女神イナンナより賜った伝説の黒馬グラニではないかとランサーたちに賞賛されてきた所以だろう。グラニは城の厩舎で後世に語り継がれる伝説を生んだ。
 その豪放快活にして怜悧な馬が今、間近に迫った時を感知して、わずかに落ち着きを失っている。並の軍馬のように蹄で床を打ったり、尾を振り動かして興奮を表したりはしなかったが、鼓動は早く、肌がじっとりと汗ばんでいた。
「おまえもこのカナンの危機を見過ごしてはおけないのだろう」その気持ちは分かると、首をさすって伝える。「もうすぐだ。その時が来たら、やつらにおまえの力を存分に知らしめてやるといい」
 直後、これまでにない重い振動が起きた。固い物同士がぶつかり合い、ガリガリと何かがこすれ、押しつぶされるような音が足下でしていた。足元をすくわれそうになるその縦揺れを、踏ん張ってどうにか耐える。わずかに傾いで止まった床はもはや不安定に揺れることはなく、ルミナスヴァルキリーがついに着陸を果たしたことを告げていた。
 正面、青い光が点灯する。
「全兵騎乗せよ!」
 バァルの鋭い命令が走り、格納デッキフロアを埋め尽くしていた東カナン軍兵士たちが一斉に馬上へと乗り上がる。
 バァルもまた、先にイナンナをグラニに乗せ、その後ろにまたがった。
「これよりわが軍は西軍・南軍と連携をとり、漆黒の神殿制圧に入る。各騎馬軍兵は神殿入り口より敵を一掃した後、方円の陣をとって神殿前面部を掌握、これを確保せよ! 1兵たりとも侵入を許すな! 今この時こそがわれら東カナン騎馬軍団の力を女神様にご照覧いただく時と知れ! どのような敵と相対しようとも、一歩たりと退くことはならん!」
 おお! という低く重い気迫にあふれた声と、それに続く鎧の擦れ合う金属音が格納デッキフロアを満たした。
 軋音をたてながら鋼鉄の格納扉が下り、外界のまぶしい光が差し込むと同時に、彼らを迎え撃つべく集まっていた神官戦士たちの姿が面前に展開する。
 その数数百。
 バァルの剣は振り下ろされた。
「突撃!」
「うおおおおおーーーーーっ!!」
 勇猛な雄叫がびりびりと北カナンの大気を震わせた。重厚な蹄の音を響かせて、東カナン騎馬軍団が怒涛のごとく参道に雪崩を打つ。装甲の厚い重騎馬兵が強引に割り入って前列を乱れさせ、速騎馬兵が体勢の崩れた兵を斬り伏せるべく疾風のごとく駆け巡る。しかしそれは縦横無尽にではない。彼らは意図的に神官戦士たちの戦列を崩し、主君たちの駆ける道を切り開いた。
「女神様、少々荒っぽく行きます。できる限り身を伏せて、グラニにお掴まりください」
「ええ」
 イナンナが指示に従い、グラニのたてがみに顔をつけると同時にグラニに指示を出す。グラニは初めての実戦に対する騎馬がよく見せる、勇み足のパフォーマンスは一切とらなかった。イナンナを乗せているのだと知っているからかもしれない。荒々しい気性を思えば敬虔とも言える謙虚さで、グラニは目前に開けた道を、ただ黒き弾丸のように駆け抜けていく。
「ふわぁ……すごい」
 黒馬の疾駆する様を見て、ミリィ・アメアラ(みりぃ・あめあら)は素直に感嘆の声を発した。
「さあ俺たちも行くよ、ミリィ」
 追うように次々と走り出した仲間たちを見ながらセルマ・アリス(せるま・ありす)がウルクの剣を抜く。
「あ、うん」
 ちょっともたつきながらもスナイパーライフルを構え、ミリィはセルマのすぐ後ろに続いた。
 道が切り開かれたといっても、安全な大道ではない。突き出される剣、飛来する矢が、彼らの神殿への接近を阻もうとしている。走る馬を操りながら敵を撃つ技術はあいにくとミリィにはなかったが、発動させたスキル・シャープシューターがそれを補ってくれた。
 彼らの不意をつこうと脇から現れる剣あるいは槍を撃ち砕く銃声が、剣げきの音に混じって戦場に響く。
「行かぬのか?」
 全く動く素振りを見せず、駆ける仲間の背を見ているだけの八神 誠一(やがみ・せいいち)に、伊東 一刀斎(いとう・いっとうさい)が眉をひそめた。誠一は戦場から一刀斎へと目を移し、ん? と見る。
「行きますよ、もちろん」
 のんきな声で答える誠一の横を、最後の1人が通り過ぎる。これで格納デッキに残ったのは誠一と一刀斎だけだ。
 そうなって初めて誠一は手綱を引き、馬首を巡らせた。
「じゃあ先生、そろそろ行きましょうかねぇ」
「殿軍というわけじゃな?」
 誠一の意図を悟った一刀斎が片頬を緩める。
「です」
 2人は得物を抜き、馬を走らせた。
 東カナン軍兵がいかに果敢とはいえ、地の色も見えないほどあふれた敵を相手にいつまでもこうした道を確保し続けるのは難しい。時間切れが迫り、急速にしぼみ始めた道を強引に押し入って開いた誠一と一刀斎は、後方の敵を警戒しつつ、左右からの攻撃をいなしていく。敵側も、馬上の者を相手とする場合を心得ていた。足を止めようと執拗に馬を狙ってくる。誠一は、前を走る馬めがけて突き出された槍や剣が刺さる寸前、ワイヤークローで絡め取り、これを砕いていった。
「マルドゥーク!」
 神殿の階段を駆け上がったバァルがグラニからイナンナを降ろしながら名を呼ぶ。
「わたしたちはこれから奥神殿へと向かう! ここは頼んだ!」
 マルドゥークはその声に応じるように振り返り、手を挙げた。だが次の瞬間にはもう周囲の兵士たちに指示を出し、自身は他の者たちとともにネルガルの居室のある宮へ向かって走って行く。
「さぁおまえも行け」
 グラニから鞍を落とす。身軽になったグラニは一度だけイナンナの肩に軽く鼻先を押しつけると即座に身をひるがえし、階段を駆け下りて行った。敵を踏み砕き、蹴り飛ばし、噛み千切る――北カナンにおけるこの戦いで、黒き悪魔として長くその名を馳せるために。
「バァルさん」
 命令通り敵兵を押し返し、着実に築かれ始めた陣を見下ろしていた彼に、殿を務めた誠一が声をかける。
 遊撃隊に志願した全員が集結しているのを見て、バァルは頷いた。
「よし。行こう」

*       *       *

「クク……イナンナにバァル、マルドゥーク、それにシャンバラ人どもか」
 午後の日差しが差し込む室内で女神官アバドンがつぶやいた。窓の向こうからは、ぶつかり合う大勢の人間の怒声と剣げきが風に乗ってかすかにしている。小刻みに石床を震わせる深刻な破壊音と振動も届いていたが、彼女が危機感を感じている様子はまるで見えない。肘かけで頬杖をつき、神殿内に侵入した彼らの姿をめまぐるしく映す卓上の黒水晶を見やりながら、くつくつ笑っている。ゆるりとかざした手の下で応じるように黒水晶は輝き、映像をバァルたちのグループに固定すると、より鮮明に彼らの姿を映し出した。
 彼らはイナンナとバァルを先頭に、イナンナの神殿である奥神殿目指して薄暗い回廊を走っている。
「ふん。思ったとおりだ。やはりマルドゥークがネルガル、そしてイナンナがきさまというわけだな、バァル」
 とん、と爪で黒水晶の中のバァルを打ったとき。
  ――ヤメテ、ヤメテ。
 小さな赤い火花が頭の中で散った。
 楽しい気分に水を差された気がして笑みが消える。
  ――コレ以上バァル様ヲ、傷ツケナイデ…。
「ニンフ、またおまえか」
 ぽつっとつぶやいたその声は、呆れを多大に含んでいた。
「こりもせず、うっとうしいやつだ。おとなしくひっこんでいろ」
  ――アア…。
 ため息のような悲鳴とともに、闇の中をまっさかさまに落ちていく意識が感じられた。
 闇の深遠、暗い暗い淵。一片の光もぬくもりもない闇の牢獄。そこがおまえの居場所だ、ニンフ。そこにいて、もう二度と這い上がってこようなどと思うな。
 アバドンはさっと黒水晶の上で手を振り、次に魔女モレクを映した。
 どこともしれないレンガ製の床と壁。薄暗いそこに座を構えて、あいかわらず退屈そうに座っている。そしてその傍らにはセテカ・タイフォン――バァルの側近であり、互いを半身と呼ぶ男が立っていた。
「いまいましいバァルめ。ナハルのやつに追われるか、堕落していればよかったものを。ことごとく邪魔してくれたきさまのために、わざわざこの趣向をこらしてやったのだ。来るならさっさと来い」
 まるで彼女が見ているのが分かったかのように、セテカがこちらを振り仰ぐ。バァルと同じ青灰色の瞳――しかしそれは冷たく無感動で、闇の気配を濃くまとわらせていた――それを見て、アバドンは込み上げる嗤いを抑えることができなかった。


 そして今、この部屋には彼女のほかに3人の人間がいた。
 1人はメニエス・レイン(めにえす・れいん)。その傍らには「東・西・南が総力を結して最終決戦に臨んできた今、戦力を自ら封じるのは得策ではない」という進言から、石化刑を一時的に解かれたミストラル・フォーセット(みすとらる・ふぉーせっと)が立っている。
 はっきり言えば、意外だった。たしかに3国の襲撃は厄介だが、まだ追い詰められたというわけでもない。2つの巨大戦艦はモンスター軍団や闇の力によってその力を半ば以上失い、侵入されたとはいえ戦力はこちらが上だ。たとえ向こうに勢いがあろうとも、この程度であれば、指揮官であるバァルやマルドゥークを討ちさえすればいくらでもひっくり返すことはできる。
 劣勢であるならともかく、そんな状態のときにまさかアバドンが応じるとは思ってもいなかったのだ。しかし彼女はふたつ返事でミストラルや九段 沙酉(くだん・さとり)たちを黒水晶を用いて解除した。まるで、どうでもいいことだと言わんばかりに。
 そしてそれきり、彼女たちの存在すら忘れてしまったかのようだった。
 黒水晶の上で振られるアバドンの手に、目を眇める。――気に入らない。何もかも。
「――ここで待機っていうのもそろそろ飽きてきたわね」
 組んでいた腕をほどき、メニエスは壁から離れた。
「どこへ行くんです?」
 ミストラルを伴い、扉に歩み寄る彼女に、ガーゴイルの上で片胡坐を組んだ東園寺 雄軒(とうえんじ・ゆうけん)が問うた。立てた足の方には痛々しく白布が巻かれている。
「退屈しなくてすむ場所へ。どうせあの女は、あたしたちがどこにいようと気にもかけないでしょうしね。それこそ何かの拍子にでも思い出さない限りは」
 その思い出すときというのも、どうせ彼女の邪魔をしたときだけに違いない。
「あなたは?」
 部屋を出る間際、ちらと肩越しに振り返る。雄軒は肩をすくめた。
「私はこの足ですから。おとなしくここで待機していますよ。彼女が思い出すまでね」

*       *       *

「あー、ヤダヤダ。ほんと、ひどい湿気ー」
 じたばたじたばた。足を振り上げる。
 地下水路、源泉へと続くトンネルの設けられたフロアで、モレクはすっかりくさっていた。
 神殿内のあらゆる場所へ豊かな水を送り込むこの場所は、絶えず大量の水が流れている。汚染を防ぐため、窓のようなものはなく、せいぜい小さな通気口が天井近くに数箇所あるのみだ。同じく採光用の窓も、あることはあるが小さくて、壁に電灯が設置されていなければ真っ暗だっただろう。その電灯をつけた今ですら、どことなく薄暗いのだから。
「辛気臭いったらありゃしない。なーんで僕がこんな所で待機してなくちゃいけないのサ。アバドン様のご命令でもなきゃ、やってられないよ。まったく」
 ずるずると背凭れに沿って背中をすべらせる。肘かけに胸を押しつけ、だらーんとさせた両手をぶらぶらしていたら、視界にセテカの姿が入った。
 北カナンの神官戦士の武具をまとい、腰のバスタードソードに軽く手を添えた彼は、壁にたてかけられたイナンナの石版を見上げていた。
 重厚な石版は、石版というよりも巨大な瓦礫に見えた。宮殿かどこかの壁飾りをくり抜き、そのまま運んできたかのようだ。中央にあるのは女性の前半身――立体的なそれは、まるで今この瞬間にも冷たい石の世界からこの現実世界へ踏み出してきそうなほど、細部まで細かく彫り出されている。これが何なのか……そして彼女が何者なのか、知らなければ、これを作り上げた者を稀代の天才と褒め称えたことだろう。
 これが、この国の国家神である女神イナンナの姿とは。
 石の中のイナンナはまるで世界中の男が夢に描くほど比類なき美しさの持ち主だったが、しかし同時に無残でもあった。
 だれに手を入れられることもなく、長い間ここに放置されていたのだろう、石版はすっかり緑や茶色に苔むして、触れることもためらわれるほど汚れきっていた。処々のくぼみでは結露がたまり、流水路に近い下の方などは特に藻類の発生がひどい。
 見る者の哀れを誘う姿だが、しかしそれを見つめるセテカの目はどこまでも冷静で、面には何の感情も浮かんではいなかった。
「――前領主夫妻を殺害したのは、やはりおまえたちだったんだな」
 つぶやく。その声は平坦で、特に大きくもなかったが、しんと静まり返ったフロア内を反響し、まるですぐ隣で聞いたようにはっきりとモレクの耳へと届いた。
「なんだ、ようやく気づいたの?」
 頭を上げ、視線を合わせる。
「領主夫妻を殺害したおまえたちはさらに野心家のナハル・ハダドをたきつけ、バァルに対抗させることで東カナンに内乱を起こそうとした。それに失敗すると、今度はネルガルの下につけたバァルをさらに『アバドン』で骨抜きにしようとした。
 なぜ東カナンにそこまで?」
「東だけじゃない。西も南もずっとそうだった。ただ気づかなかっただけでね」
 ひらひらと、まとわりつくハエでも追い払うようにモレクは手を振った。
「――南カナン前領主の早すぎる死も、あるいはおまえたちの干渉によるものだということか」
「ふふ……どうかな。僕はそのころまだ封印されていたから、詳しくは知らない。興味もないしね。
 でも、なんでそんなことを?」
 おまえには関係ないじゃん、と探るようなモレクの視線を拒絶するかのように、再び背を向ける。
「不明にして、自分がこうなるまで気づけなかった。
 北カナンだとか、その属国だとか、おまえたちには全く関係なかったんだ。ただこのカナンの地に、より大きな混乱をもたらしたかっただけで、それが北だろうと東だろうと、南や西でも、どこでもよかった。ネルガルは、その過程で見つかった最適の道具だったというだけだ」
 北カナンで神官長という権威ある立場でいながら、身からあふれそうなほどの野望と不満を抱え持っていた。イナンナの信頼を得ている存在というのも好都合だった。だからそこにつけ込み、増幅させ、たがをはずさせた。
「へーえ。ずっと黙っていたと思ったら、そんなこと考えてたの、キミ。まだ東カナンに気が残ってるんだ?」
 頬杖をつき、面白そうに片眉を上げる。そんな彼をちらと肩越しに見て、セテカはふうと小さく息を吐くとそちらに向かって歩を進めた。
「当然だろう。そうでなければとうにこの胸から黒矢が出て、俺は死んでいる」
 王座と言うべき豪奢な赤張りの椅子に、自堕落な格好で掛けているモレクを見下ろす。――斬ろうと思えば斬れる距離だった。モレクの怠惰な姿勢はとっさの動きに対応できるとは思えず、武具らしき物は何ひとつまとってはいない。彼を警戒している様子もない…。
 セテカは腰の剣鞘に添えていた手を、だらりと下ろした。
「それに、だからこそおまえは俺をこうしてそばに置いているんだろう?」
「そうだよ。キミは自ら選んでこっちにいるんだ。闇に染まりきってもいないくせにね」
 もっとも、もうほとんどその心は闇に染まってしまっているようだけど。
 あらためて、横についたセテカを見上げる。完成間際の彼は本当に美しいと、つくづく思った。まるで純粋な闇の生き物が誕生する瞬間を見ているような錯覚すら起きる。羽化した瞬間、破滅する闇の獣…。
 おそらくはあとひと押し。それでこいつは堕落する。
「これ、ほしい?」
 ひらりと右手が空でひるがえる。開いた指の間には、透明な小瓶が挟まっていた。
「キミを以前のキミに戻す薬だよ。これがなければキミは多分、明日までも生きていられないだろうね。
 ねぇ、ゲームをしようよ。このフロアに最初に踏み込んだ人間をキミが殺すことができたらこれをあげる、っていうのはどう?」
「――了解した」
 応じるセテカの声も表情も、先までと変わらず平坦で、無感情だ。提案の意味が分からないはずはないのに、それをすることに対し、わずかの動揺も、ためらいも見せない。
 彼が了承した瞬間、小瓶は光に包まれ、モレクの手を離れた。ふわふわと宙に浮いている。
「ルール成立。これにより、ゲームが終了するまでこの薬はもうだれにも手が触れられなくなった。僕にも、キミにも、彼らにもね。
 ああ、楽しみだな」
 ちゃぷちゃぷと小瓶の中で揺れている治療薬を見ながら、モレクはその瞬間の訪れを待ち侘びて、くつくつと嗤った。