空京

校長室

【カナン再生記】決着を付ける秋(とき)

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【カナン再生記】決着を付ける秋(とき)
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リアクション


エンディング〜それぞれのあした(1)

 ネルガルは斃れた。
 覆っていたイナゴが死滅したことにより、世界樹セフィロトは全き姿を取り戻した。
 アバドンの消滅によりイナンナも石版から解放され、己の肉体を取り戻している。
 カナンにおける、長い長い戦いが、ついに終わったのだ。
 セフィロトとイナンナが本来の姿を取り戻した今、神殿は昔の輝きを取り戻していた。柱1本1本、床板1枚にいたるまで、内側からにじみ出ているような、清らかな輝きを発している。見る者の心を高揚させる光輝が周囲に満ちあふれ、それはまるでこの神聖都キシュ全体をあまねく照らすかのようだ。強い光でありながら、優しい。心地よい光。この輝きの前に、不浄なる影はどこにも存在することはできない。

 光の神殿――まさにその名こそがふさわしい。

 どうしてもこうしても解けなかった特別な石化、石像のままの人質たち。
 貴婦人の間に安置されているそれらの石像が、突然、一斉に生気を取り戻していった。生身の体を取り戻し、次第に意識もはっきりとしていった。
御空……」
「おかえり、奏音
 刻が止まる、それが石化。だから何も感じない、何も見えない、何も思えない。
 久方ぶりの再会のはずに、白滝 奏音(しらたき・かのん)にとっては今し方。目の前に立ったネルガル、その手に乗った黒水晶、そして放たれた光りに視界を遮られ、ようやく晴れたが今の光景。
 見たこともない部屋、沸き上がる喜声に抱き合い泣く姿、そんな中に縄で縛られた天司 御空(あまつかさ・みそら)の姿があった。
「「『……敗軍の将なんて、碌な物ではありませんよ』」」
 『精神感応』でそう告げた。受けた御空は瞼を上げてこれに驚いた。解除されてすぐだというのにすでにこの状況を把握している、……まったく恐れ入る。
「「『せっかく人質になったというのに。もっと綺麗な終わらせ方は出来なかったのですか?』」」
 小さく肩を竦めて応える御空、小さな歩幅で歩み寄る奏音、そして2人に滲み寄る『カメラっ娘』が一人。シェルドリルド・シザーズ(しぇるどりるど・しざーず)のレンズが2人のもとへ。
 パシャっ!
 奏音は拳をグーに御空の眉間にコツンとパンチ。
 パシャシャっ!
 ぃ痛てっ、と御空は雫して見上げる。刹那であれど笑みあう2人―――
 パシャっ! パシャシャシャシャっ!
「止めぃ」
「あだっ」
 蔵部 食人(くらべ・はみと)の手刀がドンと落ちてきた。それはもう溜め息つきの優しい手刀で。
「うるさいよ。つか、空気を読めよ。邪魔すんな」
「何を言うかね食人は。言葉を介さない再会なんてロマンティックすぎるでしょ? 撮らないと損です、そうです損です」
 そう言って地面に這いつくばって。今度はローアングルから狙うようだ………… だから邪魔になるだろっての。
「あ〜!! あっちも良い顔っ!!!」
「あっ、ちょっ、シェル!!」
 次なる被写体を見つけたようで、シェルドリルドは跳び寄っていった。
「やぁやぁギルベルトーギルベルトー」
「痛いぞ、止めろ」
 ギルベルト・アークウェイ(ぎるべると・あーくうぇい)の背をヤジロ アイリ(やじろ・あいり)がバシバシと叩いている。
「いやぁ、痛みがあるんなら大丈夫だ、ちゃんと解除されたみてーだな」
「見れば分かるだろう、すっかり生身だ」
「かっはっはっ、そいつは良かった良かったじゃねーか」
「いっ、痛いと言っている。なぜ叩く」
 笑顔でバシバシと続けるヤジロのように再会を喜ぶ者も居れば、ヴァレリー・ウェイン(う゛ぁれりー・うぇいん)のようにパートナーを見つけられない者も居た。
「……………… つかさ」
 パートナーの秋葉 つかさ(あきば・つかさ)ネルガルに仕官の申し入れてをしている。これまでも、きっと今も彼の為に彼の力になろうと奮闘している事だろう。
 あぁ見えて愚直で尽くすタイプだ………… いや見た目どおりか。
 勝ち鬨は上がっていない? それならば今も交戦中の戦場があるという事だろうか。
(つかさ)
 思わず足が動いた体は駆けだしていた。
 ヴァレリーが貴婦人の間を飛び出した時、入れ違いで飛び込んできた姿があった。
「ザルバ! どこだ! ザルバぁ!!」
 軍兵、人質、人質、軍兵。再会を喜ぶ人混みの中に、遂にジバルラザルバを見つけた。
「ザルバ!!」
「ジバルラ……」
 そして何より血の通った肌。確かに石化は解除されている。
「貴方………… なぜここに?」
 気付いて男は視線を外した。
 外の神官兵共は全て片付けた、もちろん一人の力じゃない、マルドゥークの軍兵やシャンバラの生徒たちと一緒になってだ。
 挑んできた白津 竜造(しらつ・りゅうぞう)も……組み伏した、実際にはニビルが横槍入れて踏みつけちまったんだが、勝ちは勝ちだ。
「かーさまー、この人だぁれ?」
 小さな視線がザルバの足下から。ザルバマルドゥークの娘、メートゥが彼を見上げていた。
 その視線からも更に外して、
「奴が今どうしているかは知らねぇ」
「えっ?」と訊くザルバに向けて、
「マルドゥークだよ! マルドゥーク!! ネルガルと戦ってんのかもしんねぇし、どっかでのたれ死んでるかもしれねぇ」
 言いながらに背を向けた。『メメント銛』に付いた返り血を払って拭う。
「行けよ。んな簡単に死ぬような奴じゃ無い。案内させる」
「いいえ、ここに居るわ」
 ザルバはそっとメートゥの頭を撫でた。
「私は負傷者の手当てをします。戦いが終わるその時まで、立ち止まるわけにはいきませんわ」
「………………ふんっ。勝手にしろ」
 ザルバメートゥが兵衆の中に消えるまで、ジバルラは最後まで背を向けていた。
「あんた、ほんとに筋金入りね」
 と、並び言った伏見 明子(ふしみ・めいこ)に、ジバルラは「うるせぇよ」とだけ小さく返して鼻息を吐いた。