空京

校長室

戦乱の絆 第二部 最終回

リアクション公開中!

戦乱の絆 第二部 最終回
戦乱の絆 第二部 最終回 戦乱の絆 第二部 最終回 戦乱の絆 第二部 最終回 戦乱の絆 第二部 最終回 戦乱の絆 第二部 最終回 戦乱の絆 第二部 最終回

リアクション

ヴァイシャリーへ3
 
 アイン・ブラウ(あいん・ぶらう)メイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)が駆けつけたのは、ヒラニプラの合流地点だった。
「皆疲労困憊で、動けない者達もいる」との情報が、飛び交っている中でのことだ。

「これに、乗せて下さい」
 2人とも自分の輸送用トラックを一行の近くに止める。
 怪我人や遅れがちな人々に同行していた国軍の兵士は、
「助かる、リュース達のトラックやペガサスだけでは、手に余るところだったんですよ」
 丁重に礼を述べた後、彼女達に人々を預けるのであった。
 
 彼女達に遅れて、幾人かの学生達も、人々をイコンや軍用バイク等の乗り物に乗せて、ヴァイシャリーへの輸送をはじめる。
 
「良かった、これで弱い者たちも救われるわ。
 未来のより良い……シャンバラの……為に……」
 そう言って、ノルト・リヒトの荷台から淡く微笑する蓮見 朱里(はすみ・しゅり)の顔は、心なしか青い。
「どうしたんですぅ? 朱里。
 大丈夫」
 メイベルは心配そうにのぞき込む。
「歴戦の回復術」に、特技の「医術」。
 怪我人や病人の治療に負われて、疲れてしまったのだろうか?
「大丈夫よ……メイベル。
 そんなことより、みんなの安全を……」
「無理するな、朱里」
 夫のアインがエンジンをかけたまま、しばらく出発を見送る。
「2人の子が、腹の中から朱里を応援していると。
 そういう訳だ、メイベル」
 メイベルは、あ、と言ったきり、口元が緩むのを感じた。
「良い子が生まれると良いですね。
 お祈り申し上げますですぅ!」
「ありがとう。あなたは、どうぞお先に」
「ええ、ヴァイシャリーでお会いしましょう!」
 そうして、メイベルの汎用移動基地 出動さん一号は緩やかにスタートする。
 
 朱里の回復を待って、アインは避難民と物資を積み込めるだけ積むと、トラックを走らせた。
 荷台から朱里の歌声と、朱里達を気遣う人々の温かな声が流れてくる。
 
 ■
 
 ヒラニプラからの大行進は、間もなくシャンバラ大荒野に差しかかる。
 砂嵐と、悪名高き地名に、人々の不安は頂点に達する。
 
 ■
 
「大丈夫だって! みんなが護ってくれるしね!」
 元気な明るい声が流れた。
 エルフィ・フェアリーム(えるふぃ・ふぇありーむ)だ。
「ね? アシュリーくん?」
「う……ん、え?」
 話しかけられたアシュリー・クインテット(あしゅりー・くいんてっと)は、ハッとして周囲を忙しなく見回す。
「え? うん、そうね。大丈夫よ! ハハハ……」
「……て、本当は半分寝こけていたくせに」
 神無月 桔夜(かんなづき・きつや)は周囲を警戒しつつ、アシュリーに代わって、エルフィに応えるのであった。
「大丈夫だが、ここから離れるなよ。
 危険が迫ったら、これで護ってやるからな」
 光条兵器・タクティカルアームズを取り出し、右側のアームガードを掲げる。
 拡大されているそれは、盾の様にも見える。
 強そうな武器の存在に、大人たちは安堵するのであった。

 だが子供達は、何となく不安な様子だ。
 べそをかき始める者もいる。
 
「しかたがないなあ、それ!」
 エルフィは不安そうな子供達の手を引いて、大人たちの周りをまわり始める。
「鬼ごっこだよ! 君、鬼ね?」
「え! ずるいや! エルフィ!」
「やーい、鬼だ!」
 子供達は瞬く間に、鬼ごっこに夢中になる。
「もう、エルフィってば!」
 セルフィーナ・クレセント(せるふぃーな・くれせんと)は、手当の手をとめて、エルフィをたしなめようとする。
「いいんですよ、セルフィーナ」
 看護婦が笑いながら言った。
「だって、あんなに楽しそうなんだもの、ふふ……」
「そう、ですの?」
 セルフィーナは周囲を見た。
 エルフィ達を眺めて、大人も子供もみんな笑顔だ。
(エルフィ……ひょっとして……わざと?)
 そっとエルフィを見ると、エルフィはセルフィーナに片目をつぶった。
(そう、でしたの……わかりましたわ)
 セルフィーナは赤子をあやす。
「わたくしも頑張らなくっちゃ! ですわね?」
 ぐずり始めた赤子は、セルフィーナの腕の中ですやすやと眠るのであった。

 ■
 
 どこからか、少女の柔らかな歌声が流れてくる。
 
 教導団の歌姫が、人々を慰問しているようだ。
 人々の心は、その美しい歌声に癒される。
 
 ある者は、食料を配り始めた。
 歩き疲れたの者達は空腹を満たされて、もう一度気力を奮い立たせる。
 
 ある者は避難を渋るものに、サドっけたっぷりに脅しつつも、避難を進めた。
 人々は顔をしかめつつも、その学生の内面の優しさに感謝する。
 
 ある者は不満の声をなだめつつ、レポートにまとめていった。
 上に伝えるからという言葉で、人々の行き場のない怒りは、次第に安らいでゆく……。
 
 ……そうして、人々から不安や混乱が去り始めた頃を見計らって、「敵」は学生達の気遣いをあざ笑うかのごとく、襲撃して来たのだった。