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遺跡探検!

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遺跡探検!

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第一幕 突入! 第一階層!

 総勢二十八名の靴の音が響いていた。 
 ここは遺跡第一階層。
 巨大な通路には、永い時を経た荘厳な空気が充満していた。遺跡の中ではあるが、闇はそれほど濃くはない。天窓から漏れる光が、ぼんやりと辺りを包んでいる。
 靴の音を響かせているのは、有志によって編成された探索隊。その名も『E捜索隊』である。今回の依頼に参加した最大規模の一団だ。その目的は一つではなく、多岐に及んでいる。
「やはり民間組織と言えども規律を守るため、隊員名簿の作成を希望するであります」
 との昴コウジの提案により、作成された名簿をここで紹介しよう。

まずドラゴーレム捜索を目的に掲げるメンバー。
桐生円(きりゅう・まどか)オリヴィア・レベンクロン(おりう゛ぃあ・れべんくろん)
島村幸(しまむら・さち)ガートナ・トライストル(がーとな・とらいすとる)
エリオット・グライアス(えりおっと・ぐらいあす)メリエル・ウェインレイド(めりえる・うぇいんれいど)
クルード・フォルスマイヤー(くるーど・ふぉるすまいやー)ユニ・ウェスペルタティア(ゆに・うぇすぺるたてぃあ)
変熊仮面(へんくま・かめん)

そして、バイト君救出を目的とするメンバー。
倉田由香(くらた・ゆか)ルーク・クライド(るーく・くらいど)
葉山龍壱(はやま・りゅういち)空菜雪(そらな・ゆき)
デゼル・レイナード(でぜる・れいなーど)ルケト・ツーレ(るけと・つーれ)
神代正義(かみしろ・まさよし)
クロセル・ラインツァート(くろせる・らいんつぁーと)
昴コウジ&ライラプス・オライオン。
橘恭司(たちばな・きょうじ)

遺跡の踏破を目指す二人。
楠見陽太郎(くすみ・ようたろう)イブ・チェンバース(いぶ・ちぇんばーす)

撮影班を務めるのは勿論、彼ら。
ミヒャエル・ゲルデラー博士&アマーリエ・ホーエンハイム
棚畑亞狗理&バウエル・トオル。

最後に紹介するのは彼女達。
ガートルード・ハーレック(がーとるーど・はーれっく)シルヴェスター・ウィッカー(しるう゛ぇすたー・うぃっかー)

……この二人の目的は追々明らかになるので置いておく。






「……どうやら、例のゴーレムは真っすぐ奥へ向かってるみたいですね」
 床石の足跡を見つめながら、橘恭司は呟いた。
「そりゃそうだよ」
 恭司の背中に向かって、倉田由香は声をかけた。
「どういう事です?」
「だって、こんなに広い遺跡だもの。手当り次第に歩き回ったら、迷子になっちゃうでしょ?」
「由香にしちゃあ……、的を射た意見だな」
 そう言って感心したのは、由香のパートナー、ドラゴニュートの少年、ルーク・クライド。
「えへへ……、やっぱり人を捜す時には、その人の気持ちになって考えないとね」
 由香はルークの頭を撫でた。
「るーくんもおっきくなったら、人の気持ちも考えられるようになるよ」
「って、コラ! だから、オレを子ども扱いすんな!」
 コホンと恭司は咳払いをした。
「足跡からわかるのは、移動ルートだけではありませんよ」
 恭司は床をじっと見つめ推測した。
「見てください。この足跡の間隔、狭過ぎるとは思いませんか。おまけに形の違う足跡もある」
「えっと……、どういう事なのかな?」
 由香は首を傾げた。
「……四足歩行と言う事だ」
 眼鏡を輝かせ、エリオット・グライアスは答えた。
「人間型のゴーレムを想定していたが、それではこの痕跡と辻褄が合わない」
「……って事はどういう事なのかな? エリオット君」
 と言って、首を傾げたのは由香ではなかった。エリオットのパートナー、機晶姫のメリエル・ウェインレイドである。まあ、その隣りで由香も仲良く首を傾げているが。
「……拳のような跡も見える。ナックルウォークかもしれないな」
『それって……』
 同時に首を傾げそうになった由香とメリエル。
「……いちいち説明させないでもらえるかな、フロイライン」
 眼鏡を怪しく光らせ、エリオットは二人を睨みつけた。
 理知的な外見とは裏腹に、彼は面倒が事の外大嫌いなのである。
「ナックルウォークは、ゴリラが行う拳も使う歩行の事ですよ」
 仲裁に入るように、恭司が二人に説明した。
「背中に操縦席があると言う、ゲルデラー博士の情報もあります。背中に操縦席を取りつつ、バランスを取るのに、ゴリラのような体勢になってるのかもしれませんね」
「しかし、ゴーレムの姿形がわかったのはいいが……、これはなんとかならないのか?」
 ため息まじりに葉山龍壱は床を指差した。
 永く眠っていた遺跡である。当然、新しい痕跡ははっきりと残る。深く刻まれたゴーレムの痕跡、そしてもう一つ、はっきりと残っているのは……、無数の人間の足跡だった。
「私達は博士の情報を得てからの出発でしたから……」
 龍壱のパートナー、守護天使の空菜雪が答えた。
「おそらく先行して遺跡に入った人達のものでしょう」
「さっそく貴重な手がかりが踏み荒らされたな……」
「つまりアレか……?」
 それを聞いて、デゼル・レイナードは想像力を働かせた。
「バイト君がどこかでゴーレムと離れてたら……、足跡が混ざって、判別不能って事か?」
「そういう事になるんだろうな」
 そう言ったのは、デゼルの相棒、機晶姫ルケト・ツーレだ。
「メンドクセェ……」
「ほら、お前の嫌いなメンドクセェものが見えてきたぞ、デゼル」
 前方の通路の左右に、石像が並んでいるのが一行の目に入った。
 石像は騎士の姿を模した物である。普通の人間の等身大サイズのものだ。古い遺跡ではごくごくスタンダードな調度品と言えよう。特別珍しいものではないはずなのだが……。
「わざわざ口にするのもなんだが、めちゃくちゃ怪しいな」
「何せ壊されているからな……」
 デゼルとルケトは怪訝な顔で石像を見つめた。
 石像の何体かは破壊されていた。そして、残骸には『拳』の跡がしっかりくっきり残っているのである。そして、多くの人がそう考えるように、E捜索隊一行も同じ事を考えた。「殴らなければ拳の跡なんて残らない」そして「殴るには理由がある」加えて、記憶力には自信のあるE捜索隊は、『拳』という言葉が連想させるものについて、はっきりと心当たりがあった。
「皆、ここは俺に任せろ!」
 トレードマークの赤いマフラーをひるがえし、神代正義は石像に向かって剣を構えた。
 何を隠そう彼はパラミタの平和を守る正義のヒーロー(自称)なのである。ひとたび悪がはびこれば、自前のお面で変身し颯爽と登場するのであるが、石像が悪なのかいまいちよくわからなかっため、やめた。決して、皆の前で変身するのが恥ずかしかったわけではないのだ。
「神代さんにだけ、良い格好はさせませんよ!」
 羽織った制服をひるがえし、続いてもう一つ影が飛びだした。 
 彼の名はクロセル・ラインツァート。目元を覆う仮面をつけたお茶の間のヒーロー(自称)である。ヒーローのお約束、『高い所』から登場したかったのだが、皆の見てる前でわざわざ柱の上によじのぼるのは、ひどくプライドを傷つけられるが気がして出来なかった。
「ならば、俺様も登場せねばなるまいっ!」
 薔薇学マントに赤いマフラー。魅惑の赤い羽の仮面を装着した、彼は変熊仮面。
 優雅に薔薇学マントをひるがえした所で、どこからか激しいクラクションが鳴らされた。その音に気を取られ、誰も彼のマントの下にあるモノを目撃せずに済んだのは、今回の冒険における奇跡的な幸運の一つであった。
 クラクションの主は国頭武尊(くにがみ・たける)。スパイクバイクに股がり、不機嫌そうに眉を寄せている。
「道の真ん中で突っ立ってんじゃねぇ! 非常識だとは思わねーのか!」
 遺跡にバイクで乗り込んできた、非常識の権化とも言うべき彼に、誰もが何か一言ツッコミたかったが、ファーストインパクトのあまりのグレートさに咄嗟に言葉を紡げる者はいなかった。
「え、えーと。貴方もバイト君の捜索に来たのですか?」
 いち早く衝撃から立ち直ったのは楠見陽太郎だった。
「ああ? そんなものに興味はないね」
「では、ゴーレム探しですか?」
「何言ってんだ。お宝に決まってんだろ。こちとら慈善事業じゃねーんだよ」
 どけ、とばかりに手を払って道を空けさせると、武尊はエンジン全開で奥へと消えて行った。
「ねえ、陽太郎くん。パラミタにはすごい人がいるんだね……」
 陽太郎のパートナー、魔女のイブ・チェンバースは目を白黒させて呟いた。
「……ああ。でも、もう一人いるみたいですよ」
 床には武尊のものとは別に、タイヤの跡がくっきりと残っていた。
 と、その時だ。
 ガタンと音がして、石像が動き始めた。どうやら武尊が通ったのに反応したらしい。
 一同の予想通り、石像は『リビングスタチュー』、侵入者を排除する魔物の類いであった。
「また面倒な事を!」
 不機嫌さをあらわにするエリオットの隣りで、もう一人の面倒くさがりが呟いた。
「うげ……、またメンドクセェ事に……」
 目を合わせる二人の間に、シンパシーじみたものが生まれたかは定かではない。
「……と、とにかく。駆け抜けるぞ! オレに続け!」
 先陣を切った正義に続き、一同は全力疾走で駆け出すのであった。