校長室
黄昏の救出作戦
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本物の関羽はそのころ潜入に成功していた。 サミュエル・ハワード(さみゅえる・はわーど)は関羽の隣で任務に就けることに幸せを感じていた。 (任務に志願してヨカッタ) 金 鋭峰(じん・るいふぉん)と関羽は、サミュエルにとって尊敬の対象である。心酔していると言ってもいいほどだ。「噂をすれば金鋭峰」と言われる教導団で、未だに金鋭峰の姿を見たことがないのをサミュエルは残念に思っていた。 そんなサミュエルにとって今回の任務は念願かなったと言える。鏖殺寺院の兵士から身を挺して関羽をかばう覚悟が出来ていた。 一方、相沢 洋(あいざわ・ひろし)は、今回の作戦にサミュエルとは違った喜びを感じていた。 (テロリストを排除することこそノイエ・シュテルンの名をあげることになる……) 野望を胸に抱いて、洋は不敵に笑った。戦いは望むところ。作戦への参加理由も、人質の救助というよりは鏖殺寺院の殲滅を目的にしていた。 「関羽閣下と共に戦えるとは光栄の極みです。シャンバラ教導団、ノイエ・シュテルンの名に恥じぬ戦いをして見せます!」 関羽に敬礼をする洋の胸には、もう一つの思いもあった。 洋は銃をこよなく愛していた。親が勧めた機甲科を蹴って歩兵科に志願するほどの入れ込みようだった。 (テロリストには人権なんぞないからな。銃身が焼きつくまで撃ちまくってやる) 訓練では味わえない高揚感を洋は味わっていた。 サミュエルはちらちらと雄々しい関羽の姿を盗み見る。視線に気付いて関羽が口を開いた。 「いかがした?」 「なんでも……いやヤッパリ、生きて帰れたらそのヒゲさわら――」 褐色の肌をうっすらと上気させたサミュエルの言葉は最後まで終わらなかった。 関羽が青龍刀を振るうと、電撃と弾丸がはじき飛ばされた。 あらかじめ禁猟区のスキルをかけていた者が「危ない」と注意を促すのとほぼ同時だった。雷術と銃による奇襲。それを関羽はなんなくかわしてみせた。 「あーらら、あっさり失敗」 「マスター、引きますか?」 「そうねぇ。こんな辺鄙な場所まで来たんだから、もう少し楽しみたかったけど」 奇襲が失敗したというのに、のんびりと構えるオリヴィア・レベンクロン(おりう゛ぃあ・れべんくろん)の言葉に桐生 円(きりゅう・まどか)は頷いた。 「お主らなにを目論んでおる?」 「はろはろー。別に目論みというほど大層なものじゃないけど。英霊クラスの力がどんなものか知りたいじゃない?」 「我らの邪魔をするのならば捨て置けぬ。相手をしてくれよう」 「名高き英霊・関羽の手をわずらわすほどでもないヨ! ここは任せて皆を助けてあげてホシイ!」 サミュエルの言葉に同意した教導団の生徒が数人、関羽の前に出る。 「ここは任せて先へお進み下さい」 「あら、番犬の登場?」 「お前ら関羽になにさらすカー! 関羽に手を出すなら容赦しないヨ!」 「つまんなくなってきたわね。適当にばっくれるわよ」 「了解ですよ、マスター」 「あいわかった。この場は任せても良いのだな?」 「任されたヨ!」 自分に尻尾があれば確実に振っている、とサミュエルは思った。 関羽が率いる殲滅部隊は鏖殺寺院の裏をかいて潜入に成功した。 「そこまでだ鏖殺寺院! 観念するが良い!」 関羽の号令と共に殲滅部隊は鏖殺寺院の兵士たちへ向かう。 しかし、おくれを取ったと気付いても、簡単に諦める鏖殺寺院ではなかった。スティグマータは操った人質を殲滅部隊へ差し向ける。 「こちらにはまだ手駒がいる。罪のない生徒たちを攻撃できるかな?」 「これ以上、好きにはさせぬ!」 関羽は人質と対するように一歩前へでた。 「生徒たちと兵士は私が引き受けよう」 関羽の言葉を受けてクレア・シュミットはアサルトカービンを握る手に力をこめた。 「あれがスティグマータ! あれを止めれば!」 「人質が解放される!」 緋桜遙遠がクレアの言葉を継ぐ。 「投降しろ! さもなくば殲滅も辞さない」 スティグマータへと油断なく銃を向け、相沢洋は叫んだ。 スティグマータはそれには答えず右手を振った。その手から氷の刃が飛び出す。刃は洋へと襲い掛かった。 遙遠がとっさに雷術を唱える。雷は刃に命中するが、砕かれずに残った破片が洋の腕や足をかすった。 「問題ない!」 駆け寄ろうとする遙遠とクレアを洋は手で制する。 その間にスティグマータは部屋の奥にある魔方陣へと向かって走っていた。 「投降の意思なしと見なす! 逃がさん!」 洋の声に応えてクレアはスティグマータへ狙いを定めた。シュープシューターがスティグマータの足を捉える。 そして洋がスプレーショットを叩き込んだ。最後に遙遠の火術がスティグマータを焼き、スティグマータは倒れた。 エピローグ 絆 ケガを負った洋はクレアの手で包帯を巻かれていた。クレアのパートナー、ハンスもその側で忙しく働いている。 人質は全員、無事に闇の刻印から解き放たれたが、それで何もかもが元通りというわけにはいかなかった。 鏖殺寺院によってケガを負った者ももちろんだが、仲間の手によって傷つけられた者も少なくない。同士討ちが起きてしまったことこそ、最大の被害と言えた。 「身体に負った傷なら手当てもできるが目に見えない傷は」 手は休めずにクレアは独りごちた。 「きっと大丈夫。一度つながった絆なら」 そこにはないものを見ようとしているかのように、遠くを見つめた遙遠が答えた。 「絆か……」 遙遠の視線の先を追って、クレアはつぶやいた。
▼担当マスター
ゆずき
▼マスターコメント
はじめまして。マスターのゆずきと申します。このたびはシナリオへのご参加ありがとうございました。 未熟者ではありますが、夢に見るほど頭を悩ませてできあがったシナリオです。いかがでしたでしょうか。少しでも楽しんでいただけたでしょうか。ドキドキしております。 また別のシナリオでお会いできることを願っております。 ご参加ありがとうございました。 ※紫痕の形状を特に指定していない方はおそろいで【薔薇の紫痕】とさせていただきました。