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砂漠の脅威

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砂漠の脅威

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 その頃、別の場所では、九条 瀬良(くじょう・せら)とパートナーのラティ・クローデル(らてぃ・くろーでる)がスナジゴクと戦おうとしていた。二人も砂避け日除けのための外套を着込み、ゴーグルをつけて準備万端だ。
 「よし、行くか!」
 瀬良はわざとザクザクと足音を立てて歩き出した。ラティは小型飛空艇に乗って、少し離れた場所で待機する。しばらく歩き回っていると、砂柱と共に足元の砂が陥没し始めた。
 「そう簡単には捕まらな……わぷっ!」
 顔に激しく砂を浴びせられて、瀬良は一瞬逃げるのが遅れた。しかも、思っていた以上に砂が陥没する速度が速いし、砂が吹き上がる勢いも強い。徐々にすり鉢状に深くなる穴の中心に向かって、体がずるずると滑り落ちて行く。ゴーグルをつけていても、降って来る砂で視界は決して良くない中、何とか踏ん張りながらリターニングダガーを放とうとするが、姿勢が安定せず、上手く狙いをつけることができない。
 「瀬良さん!」
 見かねて、ラティは瀬良で飛び出した。
 「掴まって下さいませ!」
 斜面すれすれに小型飛空艇を寄せる。瀬良は腕を伸ばし、飛空艇に掴まった。砂を蹴って、ラティの後ろに飛び乗る。
 「最初っからこうすりゃ良かったかな……足音や振動に反応するんなら、飛空艇から何か落としたって良かったんだろうし」
 瀬良は大きく息を吐き出した。
 「ラティ、いったん穴の外へ出よう!」
 「わかりました!」
 二人乗りの飛空艇は、ふらふらと穴の外へ向かう。それと入れ違いに、
 「ベア、行くよ!」
 「うおおおおおおおお!」
 パートナーの剣の花嫁マナ・ファクトリ(まな・ふぁくとり)にパワーブレスをかけてもらった{ベア・ヘルロット#SFM0000036}が、叫び声と共に斜面を駆け下りて来て、スナジゴクの口めがけてカルスノウトを突き立てた。
 ずぼっ。
 確かに、カルスノウトは見事にスナジゴクの口に突き立った。ただ、攻撃力も勢いも強すぎて、そのままずぶずぶと腕ごと口の中に潜って行ってしまった。気がついた時には、肩までスナジゴクの口にめりこんで、目の前で牙がきらーん♪と光っている、という状態だ。しかも、大きな傷を負わされたスナジゴクは、穴の底でじったんばったんと大暴れを始めた。
 「くそっ、抜けねえ!」
 ベアは力任せに腕を引っ張ったが、どこかで妙な風に引っかかっているらしく、なかなか抜けない。これでは必殺技の「ソニックブレード」も宝の持ち腐れだ。穴の外まで出た瀬良とラティはそれぞれ、リターニングダガーと拳銃型の光条兵器でスナジゴクを狙うが、暴れているスナジゴクの関節を狙うのは、精密射撃の技能なしには厳しい。ましてや、こちらから見て一番近く狙いやすい頭部にはベアがひっついているのである。誤射したら「ごめん」では済まされない。
 「ど、どうしよう……」
 マナはおろおろするばかりだ。
 「こんちくしょぉぉぉぉ!!」
 ベアはスナジゴクの頭に足を込めて踏ん張り、渾身の力を込めて、もう一度腕を引いた。すると
 ずこっ! 
 顎とその内部の組織がくっついたまま、やっと腕が抜けた。勢いでベアの体は後ろに吹き飛び、砂の斜面にめり込んだ。そこへ、やっと息絶えたスナジゴクが倒れこんで来る。砂煙が上がり、マナが悲鳴を上げる。
 「おーい、生きてるかぁ?」
 砂煙がおさまった穴の中に、瀬良はおそるおそる声をかけた。
 「頼む、掘り出してくれぇ……」
 スナジゴクの体の下から、弱々しい声が帰って来る。
 「まったくもう、無茶するんだから……!」
 マナは苦笑して浮かんだ涙をぬぐい、斜面を滑り降りた。


 『獅子小隊』のイリーナ・セルベリア(いりーな・せるべりあ)クリスフォーリル・リ・ゼルベウォント(くりすふぉーりる・りぜるべるうぉんと)セシリア・ファフレータ(せしりあ・ふぁふれーた)とパートナーのファルチェ・レクレラージュ(ふぁるちぇ・れくれらーじゅ)藍澤 黎(あいざわ・れい)クライス・クリンプト(くらいす・くりんぷと)とパートナーのヴァルキリーローレンス・ハワード(ろーれんす・はわーど)宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)とパートナーのセリエ・パウエル(せりえ・ぱうえる)、そして佐野 亮司(さの・りょうじ)は、スナジゴク出現ポイントまで来ると、何やら準備をし始めた。
 「あいつらには負けらんねーぜ!」
 それに気付いた姫宮 和希(ひめみや・かずき)は、水筒に詰めてきたアイスコーヒーをぐいっと飲むと、ゴーグルとマスク代わりのバンダナで顔を覆い、さらに学ランの上からデザートカモフラージュのフードつきマントを羽織った。アサルトカービンは砂が入るのを防ぐため、ビニールで覆って持って来た。地面が固そうな場所に陣取り、スナジゴクが現れるのを待つ構えだ。
 一方、『獅子小隊』の方は、軍用バイクのメンテナンスに時間を取られていた。
 「だいぶ砂を噛んだな……作戦中にギアやベアリングがいかれなければ良いんだが」
 教導団工兵科のイリーナが、難しい顔でギアやタイヤのあたりを覗き込む。亮司もパーツクリーナーと工具を忙しく持ち替えながら、整備に懸命だ。
 「バイクはこういう時大変だよねー」
 白馬の側で悠然と言うのはクライスだ。現地での準備が必要ない役回りなので、今のところは気楽なものである。
 「だいぶ明るくなって来たから、ちょっと急がないと……。日が高くなる前に村に着かないと、動くのが大変になりますよ」
 ローレンスが空を見上げた。到着した時にはまだ薄暗かった空が、だんだん明るくなって来ている。太陽が昇れば気温が上がり、時間と共に行動するのが厳しくなって来るだろう。
 「済まない、待たせた」
 翔子の腰から伸びる2本の命綱を自分とセリエのバイクにつけ、さらに2台のバイクの間にもロープを取り付けて、イリーナが言った。
 「こっちもOKだぜ」
 同じように、黎の腰につけた命綱をバイクに取り付けた亮司が手を挙げる。2本のうちもう片方は、セシリアの小型飛空艇に繋がれている。祥子と黎、そしてクライスを囮にして、スナジゴクをおびき出す作戦だ。
 「行くわよー!」
 祥子が歩き出すと、黎とクライスも並んで歩き出す。クリスフォーリル、ファルチェ、ローレンスはとりあえず待機だ。
 「アリジゴクはウスバカゲロウの幼虫だけど、スナジゴクも何かの幼虫なのかな?」
 クライスが暢気に黎に話しかけたその時、突然舞い上がった砂が、彼らの視界を覆った。
 「敵はどこだ!?」
 黎がランスを構えて叫ぶが、間断なく降りかかる砂に視界を遮られ、スナジゴクがどこに居るのか判らない。そうこうしているうちに、足元の砂が急速に傾ぎ、流れ始めた。三人のナイトたちは、ランスで突撃すると言うより斜面を転がり落ちると表現した方が近い形で、巣穴の底めがけて突進した。それでも一応、砂の向こうに見える姿に向かってランスを突き出したのは、さすがと言うべきか。しかし、視界が悪い中で動く敵の甲殻の継ぎ目や目を狙う余裕はない。三人とも、固い殻の部分にランスを当て、弾かれてしまった。
 「イリーナ、セリエ!」
 「佐野、セシリア、頼む!」
 命綱をつけている祥子と黎は、それぞれの命綱を握っている生徒たちに声をかけた。イリーナはセリエに目配せし、タイミングをあわせてバイクを発進させて祥子を引っ張り上げた。ところが、亮司とセシリアの方は亮司がバイク、セシリアは小型飛空艇なので、同時に発進させても、初速や引っ張り上げる角度をあわせるのは難しい。
 「うわっとっとっと!」
 黎は宙を飛び、巣穴のへりに尻餅をついた。その衝撃で、ザラザラと砂が崩れる。
 「ちょっ、待っッ!!」
 一人命綱をつけず、バーストダッシュで穴から脱出しようとしていたクライスは、その崩れてきた砂に足をすくわれた。スナジゴクがかけて来る砂もあるので、いったんバランスを崩したら立て直しようがなく、ゴロゴロと巣穴の底めがけて再び転落して行く。
 「しまった!」
 セシリアが氷術でスナジゴクを攻撃してクライスを助けようと、反射的に小型飛空艇を巣穴の方へ向かわせようとする。だが、命綱はまだ黎の腰にしばりつけたままで、さらにもう一本の先には亮司がいる。
 「ごふう!!」
 「うわあッ!!」
 乗り物で別々の方向に引っ張られてはたまったものではない。黎は白目を剥き、亮司はバイクが転倒して砂に投げ出されてしまった。そしてセシリアも、バランスを崩して小型飛空艇ごと巣穴に転落する。
 「……ぐだぐだ、ですね……。ですが、私は私の仕事をするまでです」
 クリスフォーリルが巣穴に近寄り、精密射撃で足の関節の継ぎ目を狙った。砂を蹴散らしている足の動きが鈍る。
 「クライス!」
 その隙に、ローレンスがカルスノウトを抜き、果敢にも巣穴に飛び込む。クライスは何とか起き上がり、ランスを掴んでいた。しかし、斜面から流れ落ちる砂で、足がどんどん埋まって身動きが難しい。
 「私が牽制します……早くとどめを刺すのです」
 クリスフォーリルが再びアサルトカービンに取り付けたスコープをのぞく。だが、クライスとローレンスは、身動きが難しい中、迫るスナジゴクの牙を防ぐので精一杯だ。
 一方、セシリアはどうにか、墜落した小型飛空挺にしがみついていた。
 「セシリア様ーっ!」
 ファルチェはセシリアの所まで滑り降り、セシリアが手を離したり、それ以上滑り落ちてしまわないように支える。亮司が命綱を掴んで引っ張り上げようとするが、下でファルチェが支えているとは言え、一人だけでは難しい。ちなみに、黎は白目を剥いて気を失ったままだ。
 「やれやれ、しょーがねーな!」
 様子を見ていた姫宮和希は、アサルトカービンを担いで立ち上がった。とりあえず、亮司を手伝ってセシリアを引き上げてやり、アサルトカービンで巣穴の外からスナジゴクの目を狙う。
 「準備出来た! もう一回行くよ!」
 クリスフォーリルと和希の射撃の邪魔にならない位置に移動して命綱を確認し、祥子がイリーナとセリエに合図をした。再び、スナジゴクに向かって突撃を敢行する。今度は、頭と胴体の間にきれいにランスが通った。しかし、
 「ッ、抜けない!」
 甲殻の間にランスが噛み込んでしまい、抜けなくなってしまった。しかも、あちこちに傷を負ったスナジゴクが暴れ出す。
 「宇都宮、ランスは捨てていいから戻れ! こっちが持たない!」
 命綱を保持しているイリーナが叫ぶ。祥子は仕方なく、ランスから手を離した。
 「せーの!」
 イリーナとセリエは、祥子を引っ張り上げた。和希とクリスフォーリルが目や口の中を狙って射撃を重ね、クライスとローレンスも懸命に攻撃して、やっとスナジゴクは動かなくなった。
 「……今度は、ちゃんと勝負したいもんだな」
 和希は呟くように『獅子小隊』の面々に告げると、アサルトカービンを担ぎ直して立ち去った。残された生徒たちは、クライスとローレンスを巣穴から引っ張り上げた。気絶している黎には、ファルチェが気付けをする。全員大きな怪我はなく、スナジゴクも一匹仕留められたものの、全員砂まみれで疲れ切っていた。
 「……とりあえず、いったん村に向かおうか?」
 アイリの話では、スナジゴクは十匹も二十匹もは居ないはずだ、ということだった。他にもスナジゴクを倒している生徒がいれば、彼らが来る前よりかなり安全になっているはずだ。『獅子小隊』はミャオル族の村へと向かった。