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リアクション
■■■ リアクションB ■■■
第1章 月の砂漠をはるばると
ミャオル族のアイリが助けを求めて倒れこんできた翌日から、空京にある冒険好きの生徒が集まる店……「ミス・スウェンソンのドーナツ屋」(通称・ミスド)は、ミャオル族のために募金を集める生徒や、救援の計画を練る生徒たちで、蜂の巣をつついたような騒ぎになった。
「え? 募金するだけじゃなくて、ミャオル族の村まで行く?」
パートナーの剣の花嫁マリーア・プフィルズィヒ(まりーあ・ぷふぃるずぃひ)の発言を聞いて、シャンバラ教導団の橘 カオル(たちばな・かおる)は、思わず募金のために開けていた財布を取り落としてしまった。チャリンチャリーン!とコインが床に散らばるのを、募金を呼びかけていた蒼空学園の女子生徒が拾ってくれる。
「あ、いいよ、それも募金箱に入れて。……マリーア、ちょっと」
財布を拾ったカオルは、女子生徒に声をかけると、マリーアの手を引いてフロアの隅に行った。
「募金だけじゃダメなのか? わざわざオレたちが行かなくても、他に行く奴がいっぱいいるみたいだし」
「……だって、にゃんこさんを助けたいんだもの」
マリーアは目をうるうるさせて、カオルを見上げる。
「たった一人で砂漠を越えて、助けを求めて来たのよ? そういう人を助けるのも、カオルがいつも言ってる『武士道』じゃないの?」
そう言われて、カオルはぐっと言葉に詰まった。
「……わかったよ……」
「ありがとう、カオル!」
マリーアに礼を言われ、カオルはむっつりと答えた。
「しょーがないだろ、キミ一人で行かせられないし……」
そんな「ミスド」の一角で、東條 カガチ(とうじょう・かがち)とパートナーの柳尾 なぎこ(やなお・なぎこ)、風森 巽(かぜもり・たつみ)とパートナーのティア・ユースティ(てぃあ・ゆーすてぃ)、そして御凪 真人(みなぎ・まこと)は、頭を寄せ集めて持って行く救援物資について相談していた。「ミスド」に入って注文したのはそれぞれアイスコーヒやジュースを一杯ずつで、もうかれこれ二時間以上も居座っているが、オーナーのミス・スウェンソンは、そばかすの散った顔ににこにこと笑みを浮かべ、そんな彼らを見守っていた。
「結局、砂漠の入口までは馬車で、その先は空飛ぶ箒と小型飛空挺に小分けにすることになるんだよなぁ……。これは、『こまけぇこたぁいいんだよー』とは言ってられないな」
カガチは眉間に某眉毛の太いスナイパーばりの皺を寄せて、テーブルに置かれた物資のリストを睨んだ。
「優先するのは、自分たちの食料と水、ミャオル族宛ての救援物資が食料と、あと医薬品や包帯でしょうか。アイリの話だと、スナジゴクと戦って怪我をしたミャオル族も居るそうですから」
巽は、募金箱を持っている生徒の隣でぺこぺことおじぎをしているアイリを見た。彼は「ミスド」に置いてもらうかわりにウェイターをして店を手伝っており、数日ですっかり「ミスド」の看板猫と化している。
「えーっと、鯖缶とイワシ缶とツナ缶と……それから……」
一方、巽の向かい側では、真人がなぜか魚の缶詰ばかりをリストに入れていた。
「ちょっと待って、何で魚缶ばっかり?」
ティアが真人に訊ねる。
「何でって、猫さんには魚でしょ?」
なぎこが不思議そうにティアに訊ね返す。
「でも、ミャオル族はゆる族で、猫じゃないよ? 砂漠に住んでるんだから、お魚は食べないんじゃない?」
「いままで食べたことがなくても、食べられないものじゃなきゃいいんじゃないかなあ。さすがに、猫缶を持って行ったら失礼だろうけど」
ティアの反論に、カガチが『こまけぇこたぁいいんだよー』の本領を発揮して言った。
「……でも真人、魚缶ばっかりじゃなくて、レトルトも入れようよー。缶詰の方が重たいから、数が多いと運ぶの大変だよ?」
返す刀でバッサリ言われて、真人はリストに書き込んでいた手を止めてうーん、と唸った。
そんなこんなで、出発の日がやって来た。「ミスド」の前は、朝からたくさんの学生たちでごった返した。ミス・スウェンソンの伝手で借りた馬車に、小分けにされた荷物が次々に積み込まれて行く。
馬車を貸してくれたのは、運送業を営んでいるフォッカーという青年だった。学生時代に冒険で得た財産を元手にして運送業を始め、今では空京を中心に結構手広くやっているが、学生時代は「ミスド」の常連の一人だったらしい。
「ごめんなさいね、急にお願いして」
「いえ、ミス・スウェンソンには昔さんざんお世話になりましたから! それに、現役の学生なら、俺にとっては後輩ですからね」
申し訳なさそうにしているミス・スウェンソンに向かって、フォッカーは爽やかに微笑んで見せる。
「そう言ってもらえると助かるわ、フォッカー君。ありがとう」
ミス・スウェンソンがにっこりと笑い、気をつけて行ってらっしゃい、帰りに寄って行ってねと手を振ると、フォッカーは照れくさそうに頭を掻いた。
(……ミス・スウェンソン……ひょっとして、天然の魔性……?)
その光景を目にした生徒たちの頭に、ふとそんな言葉が過ぎった。
「オーナーさん、本当にお世話になりましたニャ。学生さん、フォッカーさん、よろしくおニャがいしますニャ」
ミス・スウェンソンにぺこりと一つ、そして学生たちにもおじぎをして、アイリが馬車の御者台で手綱を持つフォッカーの隣に乗り込む。
「ようし、じゃあ出発しようか」
フォッカーが手綱をパシン!と鳴らすと、馬車はゆっくりと進み始めた。
砂漠の入口に着いたのは、午後遅くなってからだった。真夏の砂漠を昼間渡ると体力の消耗が激しいので、日が傾いてから出発した方が良い、とアイリとフォッカーに言われたのだ。
馬車が進める所まで進んだ後、一行は馬車から荷物を降ろし、魔法の箒や小型飛空艇にくくりつけた。
「じゃ、俺は戻るから。明後日また、第二便の荷物を持って来るよ。みんな、頑張れよな!」
フォッカーは学生たちにそう言って、来た道を戻って行った。
「本当に、地図がなくて大丈夫なんですか?」
小型飛空挺に乗り、自分の足の間にアイリを乗せながら、巽は訊ねた。
「来る時も、地図は使わなかったニャ。風の匂いをかげば、どっちにどんなものがあるか判るニャ」
巽とタンデムしたアイリは、しきりに鼻をひくひくさせながら答える。
「巽さんいいなぁ〜、後でなぎさんもアイリと一緒に乗りたいなぁ〜」
「巽もずっとタンデムだと疲れるだろうから、後で俺たちも替わってあげようね」
騒ぐなぎこに言いながら、内心、
(道案内が一緒ならなぎさんも迷わないだろうし、俺も心ゆくまでもふもふを堪能……)
などと思うカガチを置いて、仲間たちの魔法の箒や小型飛空挺が空に浮かんで行く。
「あっ、ほら、なぎさんたちも行こう!」
なぎこが小型飛空挺を発進させる。カガチは慌てて、なぎこの前に出た。
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