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都市伝説「闇から覗く目」

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都市伝説「闇から覗く目」

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SCENE・8 『夜華』  

 光零の中央から離れた路地裏にひっそり佇む店『夜華』。
 昴コウジと相棒のライラプス・オライオンは覆面をして、店の傍で待機していた。
「高潮女史の話では、この店のオーナーが議長の賛同者であるということでありますか? 人間一人の命を自らの私利私欲のために、踏みにじったかもしれない者が、店のオーナーでありますか」
 昴は皮肉っぽく笑うが、普段でも悪い目つきが完全に座っている。昴と向かい合って話していた藍澤黎は、昴を宥めるように肩を叩く。今の黎は金銀刺繍入りの白いチャイナドレスに化粧もしている。この美女と呼べる完璧な女装では、普段の黎を想像することはできない。
「怒りを覚えるのは、我も高潮殿も同じ。だからこそ、こうして【天誅マスク】という名の下に集まったのだ。しかし、高潮殿の話では相手は戦闘など縁のない一般人らしい。あまり乱暴なことはしないように言われた。最初は我が客として入り、様子を調べよう」
「……了解であります。ライラプス、尋問機動は中止だ」
 隣で話を聞いていたライラプスは頷く。
「尋問機動停止しました。再度、起動するときは言ってください」
「それでは、行ってくる」
 黎は店の中に入って行った。
 
 数分後、黎はドアから顔を出して手招きをする。
「……昴殿、黎殿がお呼びのようですが……」
 昴は一応警戒し、店に入る前にライラプスに言っておく。
「ライラプス、念のため警戒モードにしておいてくれ」
 店の中は薄暗く、カウンター席しかない。黎はカウンターに座っている。カウンターの中には、年の頃は三十前後の柔和な感じの美女がいた。 
 美女は覆面をしたままの昴たちに驚いたが、黎が紹介する。
「我の仲間の昴殿とライラプス殿だ。彼女はオーナーのイブ殿」
「まあ、ごめんなさい。貴方達のような学生まで巻き込んでしまって。わたしも議長に賛同するなんて、どうかしてたわ」
 イブは深々と頭を下げる。昴はぎこちない動きで首を横に振った。
「い、いえ。だ、大丈夫であります。その……」
 ライラプスは昴の言動に首を傾げ言う。
「昴殿、警戒モードは引き続き稼働しておいた方が良いですか?」
「いや! 大丈夫!」
 昴は慌てたようにはっきり言う。実は昴は母性的な女性に頗る弱い。相棒のライラプスも日常では慈母のようであり、イブも包み込むような母性を感じさせる女性だった。
 イブは昴たちに酒を勧めたが、それは何とか断る。イブだけがお酒を飲みながら話し始めた。
「ここに来るまで、時間がかかったでしょう? それに、場所もこんな路地裏で、正直お客さんも少ないわ。
 いつも青楽亭さんが学生で賑わっていて、羨ましくてしかたなかったわ。そしたら、議長がね、自分の賛同者になれば優先的に開発してくれて、観光客がたくさん来るようにしてあげようと言われたの。本当にごめんなさいね」
「い、いいえ!」
 イブが目を潤ませ昴を見るので、昴は視線のやり場に困って横を向いたとき、カウンターに顔を伏せて寝ている連中に気づいた。薄暗い中よく目を凝らしてみれば、イレブン・オーヴィルとカッティ・スタードロップ、ラルク・クローディスとアイン・ディスガイスだった。
 イブは昴の視線に気づき、困ったように微笑んだ。
「あの子たち、開店前のお昼過ぎからいるんだけど、お酒が強過ぎたみたいで起きないのよ」
 そこで、一同の顔を見渡し訊いた。
「お友達?」
『いいえ。違います』
 三人の声が見事に重なった。



カタカタカタ……
 マンホールを張り込んでいた四方天唯乃とエラノール・シュレイク、メイベル・ポーターとセシリア・ライトは、マンホールがカタカタ音を立て、震えているのに気づく。
「と、とうとう地下水路の化け物が暴れ始めているかもです」
 メイベルはセシリアの手をぎゅっと握りしめる。
「早く葉月ちゃんたちに電話しないと!」
 セシリアは慌てて携帯を取り出したが、四方天が止める。
「待って! 何か声が聞こえない?」
 じっとマンホールに耳を傾けると、
「……あけて下さい!」
 はっきり少女の声が聞こえた。さらに少年の声で、
「イルミンスールの緋桜ケイだ! 化け物じゃねえよ!」
「大変だ! 開けなきゃ! 鍵ないよ!」
 セシリアは焦って叫び、空飛ぶ箒を持っていた四方天とエラノールは人を呼びに飛んで行った。