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都市伝説「闇から覗く目」

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都市伝説「闇から覗く目」

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SCENE・5 再び黒喜館にて   

「ここはゴーストタウンか。人影がまったくないなんて……樹が面倒事に巻き込まれていなければいいが」
 フォルクス・カーネリアは空飛ぶ箒に乗り、街の上空を飛びながら呟く。気づいた時には相棒の和原樹の姿がなく、フォルクスは最初は歩いて探していたが、日が暮れるにつれて不安になり、今は空飛ぶ箒でより早く広い範囲が見れる上空を旋回していた。
「ん? あれはなんだ?」
 フォルクスは前方からぞろぞろ歩く集団の背に気が付く。身形からしてガラの悪い傭兵の集団のようだが、黙々とフォルクスが行く道と同じ方向に向かって歩いている。フォルクスは傭兵達の雰囲気が殺気立っているのに気づき、なるべく関わり合いにならないように静かに離れようとしたが、探していた者の声が飛ぶ。
「フォルクス! どこで迷子になってたんだ!」
「樹!」 
 ちょうど傭兵の集団の前の横道から樹が飛び出してくる。
 まずいっ! 最悪のタイミングだ!
 フォルクスは地面スレスレの低空飛行で、驚く傭兵達を横をすり抜け、
「樹! 我に掴まれ!」
「え? ええ?」
 戸惑う樹だが、反射的にフォルクスの首にしがみつく。
 フォルクスはそのまま後ろを見ずに、樹を片手で抱きしめたまま、空飛ぶ箒を全力で飛ばした。
「フォルクス、あいつらは何者なんだ?」
「……おそらく議長が雇った傭兵達だろう」

 太陽が沈み始めた夕暮れ時、『黒喜館』の重い扉を再び押す者たちがいた。
「いらっしゃい。やっと来たね」
 黒喜館の店主は笑顔で出迎える。
「おう! 待たせたな!」
 ベア・ヘルロットを先頭にマナ・ファクトリ、葉月ショウ、椎名真、菅野葉月、ミーナ・コーミア、高潮津波、ナトレア・アトレアが続いて入ってくる。
「……狭い店だが君たちも入れるぐらいはあるよ」
 店主は入口の外にいる譲葉大和とラキシス・ファナティックを呼ぶが、大和は断る。
「いや、気にしないでください。この子が閉所恐怖症なもので。困った子供ですよ。ははははっ……いたっ!」
 大和はラキシスを指差して笑って誤魔化したが、店主の見えない後ろから、思いっきりラキシスに足を蹴られていた。
 
「やあ、遅かったね。待つのを止めて、話を進めようか迷っていたところだよ」
 奥へと案内されたベアたちに、軽く片手を上げて挨拶したのは、黒崎天音だった。黒塗りのロッキングチェアに腰掛け、足を組んでいる。まるで店の主のようである。その横には疲れた顔のブルーズ・アッシュワースが立っている。
「……どういうことだ?」
「君たちもお昼過ぎに来た子たちと一緒だろう? 私の事を探りに来たんだね?」
 戸惑うベアたちに、店主は謝罪と苦笑いを交えて昼過ぎの問答を説明する。
「つまり店主と青楽亭の主人は議員で、今の議長を今回の事件で潰したいけど、外部の警察とかが関与してくるのを嫌だ。だから、何も権力のない学生に解決してもらうってことだったのか」
 ショウは呆れた顔で言う。
「だったら、最初からそう言ってくれよ〜。外にいる大和とラキシスなんて、何時間も黒喜館の聞き込みをしたんだぜ。……大した話は全くなかった……ていうか、通行人ゼロの空き家か留守ばかりだったけどよ」
「ベア! 失礼よ!」
 ベアは最後の言葉だけ小声で呟くが、隣のマナには聞かれていて、同じく小声で注意される。
「そうなると、私達の【天誅マスク】も必要がないかもしれません。脅して証拠を掴むなら、やっぱりダンロードさんを捕まえたほうがいいでしょうし……どうしましょうか」
 高潮は連絡を待つ黎と昴たちを考え、携帯片手に考え込む。店主は高潮の話を聞き、
「天誅マスクの名前からして想像がつくけど、君の仲間が別の所で待機しているのかい?」
「はい。黒喜館は街の奥にあるので、私の協力者二名には街の中央で待機してもらっています。本当は最終的に議長に協力した議員を脅して証拠をつかむはずだったんですけど……」
「……そういうことなら、今回の議会に限り『夜華』という名のバーをしている議員が議長の賛同者だよ。ここからは正反対の場所にある。ここからでは遠すぎるけど、街の中央だったらそれほど遠くないだろう。そこで話を聞いてみても面白いだろう。戦いとは縁遠い一般人だから、乱暴はしないで欲しいけどね」
「『夜華』……」
 高潮は考え込み、携帯を掛ける。しばらくやりとりをした後、
「私の仲間が『夜華』に行ってみますので、道を教えてほしいです。仲間たちが『夜華』に行った後、青楽亭で話を聞くことになっていますので、私たちは青楽亭で仲間を信じて待つことにします」
 高潮の言葉にナトレアも頷く。
「地図は持っている?」
 高潮は青楽亭の主人に描いてもらった地図を店主に渡すが、店主は困った顔になる。
「できれば、ちゃんとした地図があれば簡単に説明できるんだが……」
 すると、椎名がポケットから光零の全体図を取り出す。
「コレ、青楽亭の主人に全体図がないか聞いたら貸し出してくれたんだ。一枚しかないから、絶対に返すようにって」
「ほぅ……よく貸してくれましたね。光零の正式な全体図は、住民の一世帯に一枚しか配布されないから貴重なんだよ」
 店主はそう言って、地図に『夜華』の場所に印をつけて高潮に渡す。
 高潮はその地図を受け取ると、ヴァーナーに青楽亭の主人からもらった地図を返し、ナトレアと一緒に店の外に出て行く。
「えっ? そうなんですか……。確かに必ず返すように念は押されたけど、そんなに大事なんだ」
 椎名は頭を掻きながら、青楽亭を出る直前に借りた時のことを思い出す。
「全体図……あることにはあるが……わかった。お前を信用して貸そう。必ず明日までに戻って来い」
 いま思い返すと、青楽亭の主人は少し迷っていた気がする。店主は小さく笑って言う。
「まあ、彼も人が良いからね。君は人を騙しそうには見えなかったんだろう」
 再び店内が静かになる。唯一、黒崎のロッキングチェアだけがキィキィと耳障りな音を立てていた。
「あのっ!」
 ヴァーナーは意を決して店主に言う。
「ボク達は前に地下水路で闇の化け物に会いました。オジちゃんも何かあの化け物とあったんじゃないですか?
 教えてほしいです。オジちゃんはこの街に住んで長いんですよね? ボク……何もわからないままなのは……とっても怖いんです」
 ヴァーナーはそこまで言って、傍にいた椎名の腰にしがみつく。椎名はヴァーナーの震える肩を抱き締めた。
キィキィキィ……トン
 黒崎がロッキグチェアを降り、ヴァーナーに訊く。
「その前に僕は地下水路の事件に直接関わった君たちに訊きたいことがある。化け物は実体があったのかい? 僕は最初に幻覚を起こして、錯乱させる装置か何かがあると思ったんだが」
 錯乱した過去を消したい椎名は俯く。錯乱した姿を見たヴァーナーと実際にクロスボウを向けられた菅野とミーナは気まずくて、なんて答えようか迷う。仕方なく、ショウが代わりに答える。
「ああ。実際に遭遇していない俺が説明するのもおかしいが、遭遇した者たちの話を聞く限りでは、確かに実体があったと思う。実際にそこにいる椎名の携帯が奪われたのは事実だし、化け物に掴まれた箇所が赤く腫れていた者もいた」
「なるほど。それなら、僕の幻覚装置は却下だな。それでは、店主に訊こう」
 黒崎は店主に微笑む。
「化け物は地下水路の先にある『何か』を守るために存在するんじゃないかい? 古くから街の秘密を守る存在。おそらく古の契約で、秘密を守る代わりに人間の恐怖を食べることを黙認してきた。共存していたんだね。だけど、最近になって街の共同体に亀裂が走り、議長は化け物を疎ましく思い、外部の人間の手を借りてでも退治しようとしている。それに反対しているのが、保守派とでも言おうか? 君たちだろう」
 店主は無言になる。日が沈んだらしく、店主の表情は黒い影に覆われ見えない。重苦しい雰囲気の中、管野葉月は隣のミーナがいないことに気づく。今回の事件に興味のないミーナは、店に入るなり店内の商品を物色し始め、話している間もうろうろしていたはずだった。辺りを見回していると、管野葉月の様子に気づいたベアが目で扉を示す。ベアは声は出さずに口を動かす。
「ソ・ト・ニ・デ・タ・ゼ」
 管野葉月は軽く頭を下げてベアに感謝を示すと、忍び足で扉から出て行った。

 外はすでに夜になっていた。今夜は新月なので、月明かりもない。
 ミーナは大和とラキシスに両腕を捕まえられていた。ミーナは放して欲しいらしく、もがいていた。大和とラキシスは交互に言う。
「もう夜だから、一人で行動したら危ないですよ!」
「そうだよ! 化け物が出る時間なんだよ!」
 ミーナはもがきながら言う。
「もうっ! ちょっとそこらへんを散歩してくるだけだから、大丈夫だって!」
「……ミーナ、どこへ行く? 方向音痴なのだから、そこらへんで迷子になるだろう」
「あっ! 葉月! もう話は終わったの?」
 管野葉月の声にミーナは嬉しそうに振り返り、そのまま抱きついてくる。管野葉月は自然にミーナを受け止める。その光景を大和とラキシスはじっと見ている 
「いいなぁ〜……」
 ラキシスではなく大和が呟いた。ラキシスは首を傾げ、
「大和ちゃん、どっちが羨ましいの?」
「えっ? そ、それは……あっ! 誰か走ってきますよ!」
 大和が指差す先にを向くと、村雨焔が走ってくる。
 焔は大和たちの所まで来ると切羽詰まった様子で訊く。
「他の連中はどこだっ?」
「あ、中にいるけど、どうしたんですか?
 焔は黒喜館の扉を開けながら叫んだ。
「武装した奴らがこっちに向かって来ている! おい! 早く逃げろ!」
 
 黒喜館にいた者たちは、焔の言葉に驚く。しかし、黒喜館の店主は落ち着いていた。
「……とうとう議長の手がここにも来たようだね。尾行は上手く撒いたと思ったんだけど、仕方無い。
 君たちも一緒においで」
 そう言うと、黒喜館の店主はロッキングチェアを退かし、一か所だけ赤い石の部分を抜くと、地下へ続く階段が出現した。