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誘う妖しき音色

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第2章 静寂へ誘う音色

-PM20:20-

「敵を知るなら、まず潜入捜査だよねー」
 マグスが家にいない時間帯を見計らい、立川 るる(たちかわ・るる)単独捜査を試みる。
 暖炉が使われてないことを1階の窓から確認し、空飛ぶ箒に乗って屋根の上に着地した。
 煙突から小屋の中に進入する。
「耳の聞こえない町の人が見たっていう、意味あり気な本や絵画があったのは2階だったよね」
 るるは木製の階段を登って室内に進入した。
「この手のヤツって何度も同じこと繰り返しそう・・・。あっ、これかな」
 壁にかけられた2枚の絵画と、テーブルの上に置かれた3つの本を、念のため携帯のシャメで撮る。
「えーっと絵のタイトルは・・・天を支配し悪魔。その隣に邪悪なる魂を打ち砕きし大地の聖者・・・か」
 2枚の絵画をじーっと見つめて考え込む。
「あれっ?どこかで見たようなタイトル。もしかして・・・」
 テーブルの上に置かれた本を手にとり、表紙の絵柄を見る。
 呻りながら本と絵画の関連について考えていると、何者かが家の扉を開ける音が聞こえた。
「そんなっ、まだ戻ってくる時間じゃないのに!」
 見つからないように、るるはクローゼットの中に隠れた。



-PM21:00-

 幼い子供たちを吸血鬼が連れ去っていく時刻。
 彼らが通る大通りの中心に、ゆうとアラン・ブラック(あらん・ぶらっく)待ち構えていた。
「むっ何者だ!?」
 30人くらいの幼い子供たちを連れた、黒いマントを羽織った若い男が声を上げる。
「キミが吸血鬼マグスですね?」
 赤色の双眸で相手を見据え、アランは冷静な口調で問う。
「・・・その子たちを返してもらいましょうか」
「それはできない相談だ・・・な!」
 言葉を言い終えたのと同時に走り出し、マグスは鋭く尖った爪でアランに襲いかかる。
 アランは半身ずらしでかわし、ランスで攻撃を受け流す。
「反撃するなんてますます怪しいですね!」
 ゆうは聖水の入った小瓶の蓋を開け、バシャアッとマグスにかけた。
 身体全体にかからないようにマントで防ぐが、聖水が引っかかってしまった左手の甲はシュウシュウと音を立てて焦げる。
「・・・まぁ、もう返してもらいましたけどね」
 くすっと笑うアランの表情を見て、はっとしたマグスは子供たちの方へ振り返った。
「無事確保できましたよー」
 片手を振って高谷 智矢(こうたに・ともや)が、少年たちを保護したことを知らせる。
「―・・・くっ・・・おのれぇえ!」
「あわわっ!」
 襲いかかる吸血鬼に対して智矢はその場から動かずに、防ぐように両腕で眼前を覆う。
「はははっ、なーんて♪」
 首筋に吸血鬼の爪が届きそうなところで、智矢は口元を笑わせた。
「もらったー!」
 木の上で身を潜めていた羽瀬川 セト(はせがわ・せと)が、マグスに向かってランスで突きを繰り出す。
 奇襲を避けられてしまい、脇腹を僅かに掠っただけだった。
「邪魔をするな小僧がぁあっ」
 踏みとどまったマグスは、セトへ雷術を放つ。
「大丈夫かのう・・・?セト」
 後方へ身体を投げ出されたセトを、パートナーのエレミア・ファフニール(えれみあ・ふぁふにーる)が小さな身体で受け止めた。
「えぇ、なんとか。エレミアの方がオレを庇ったせいで怪我をしたのでは・・・?」
「わらわはこれくらい平気じゃ」
 心配そうに見るセトに、エレミアは笑ってみせる。
「そうだ、自分の心配をした方がいいぞ」
 マグスはゆっくり歩み寄りセトたちへもう1度、雷術を放とうとしていた。
「キミの方がであろう?」
 どこからともなく少女の声が辺りから響き、マグスへ無数の銃弾が降り注ぐ。
 何発かくらいながらも、マグスは素早い身のこなしで致命傷を避ける。
「蜂の巣よりも・・・オリヴィアの火術で焦げる方がお好み?」
 オリヴィアと円は、ビルの屋上からクスクスと笑う。
「くうっ、だが・・・この子供たちはもらっていくぞ!」
 銃弾で起こった灰色の土煙に紛れ、数人の少年少女たちを連れてマグスは姿を消した。
「げほっ・・・ちょっとやりすぎなんじゃないですか。他の子たちが無傷だったからよかったですけどね」
 粉々になって空気中に漂うコンクリートの粉を吸い込んでしまった智矢はむせてしまう。
「彼らを子供たちの中に紛れされるためなんですから仕方ないですよ」
 アランが片手で口を抑えながら言う。
「さて、この子たちを親元に返してあげませんといけませんよね・・・」
「ちょっと質問ー」
「何でしょうか?」
 片手を上げてゆうが智矢に質問する。
「吸血鬼が攫うのって人間の子供だけ・・・?」
「さぁ・・・どうでしょうね。先ほど連れて行ったのは人間の子だけだった気がしますけど」
「ドラゴンニュートが混ざっていたような気がするんだけど。うーん・・・」
 智矢は眉間に皺を寄せて、さらなる謎について考え込む。



-PM21:30-

 古びた戸をウィング・ヴォルフリート(うぃんぐ・う゛ぉるふりーと)が慎重に開き、僅かに開いた隙間から室内を覗く。
「こんばんわ・・・誰かいますか?誰もいませんよねー・・・」
 中に誰もいないことを確認すると、ほっと安堵の息をついて進入する。
「大丈夫なら早く入ってよ。後がつっかえているんだから!」
 入り口付近でもたついているウィングを、三笠 のぞみ(みかさ・のぞみ)が両手で小屋の中へ押し入れた。
「おっと、すみません」
「まったくもう・・・」
 眉間に皺を寄せ、のぞみは深いため息をつく。
「想像してたより中はそんなに広くないんだね」
 のぞみの後から入ってきた九弓・フゥ・リュィソー(くゅみ・ )が室内を見回しながら言う。
「ますたぁー、こっちに本がいっぱいありますわ☆」
 3mほどの高さの大きな本棚の前でマネット・エェル( ・ )がはしゃぐ。
「へぇー結構量あるね」
「どんな内容なんでしょう?」
「無闇にいじらない方がいいぞ」
 本棚から本を取ろうとするマネットを、クレア・シュミット(くれあ・しゅみっと)が静止する。
「何が起こるか分かりませんからね。多少は用心したほうがいいでしょう」
 クレアの傍にいるハンス・ティーレマン(はんす・てぃーれまん)が注意の言葉をつけ加えた。
「うぅ・・・すみませんー」
 二人の言葉にマネットはしょんぼりする。
「でも結構気になりますよね・・・こういうのって」
 どんな内容か本を読んでみたい志位 大地(しい・だいち)は、本棚をじーっと見つめる。
「みんなー、こっちに何かあるよー!」
 2階の階段付近から、のぞみが大きな声で呼ぶ。
 呼ばれた5人は2階へと登っていった。
「なんだか不気味な絵画が飾ってありますね・・・」
 暗い雰囲気の絵柄を見ながら、ウィングが顔を顰める。
「こっちの方は綺麗な感じだよ。タイトルもそれにピッタリな雰囲気だよね」
 九弓が絵を見入っていると、クローゼットの方からガタガタと物音が聞こえてきた。
「誰か・・・そこにいるのか?」
 クレアは慎重にクローゼットの方へ近寄る。
「・・・その声は・・・人・・・?」
 小さな声で中から少女の声が聞こえてきた。
「よかった吸血鬼が帰ってきたのかと思ったよ」
 クローゼットを開き、るるがひょこっと顔を出す。
「あなたも潜入捜査にきたのか?」
「うん、そうだよ」
「あたしたちさっき来たばかりなんだけど、何か分かった?」
「そうだなぁ・・・るる的にはそこの絵画と本が気になるかな」
「やっぱり何か関係があるんでしょうか・・・」
 腕を組んで考えながらウィングが呻る。
「読んだ本を出しっぱなしにしてるようですね」
 だらしないと思った大地は、ため息をついた。
「だめですよね、読みっぱなし。本は本棚にちゃんとしまわないと・・・」
「それだよ!」
 マネットの言葉に、のぞみはピンと閃いたように言う。
「絵のタイトルと本は確実に関係あるよ」
「この3つの本を本棚にしまうと、きっと何かが起こるんだよね」
 のぞみに続けて九弓が推理する。
「ますたぁ、何かってなんですか?」
「それは・・・私たちに知られたら困るようなことだろう」
 横からクレアが口を挟む。
「えぇそうかもしれませんよ・・・」
「一見、無造作に置かれているが・・・それは他者の目を欺くため・・・ということではないだろうか」
「そしてこの3冊の本と絵画が関係しているということだね」
「じゃあ、本を棚に戻したら何か分かるかもしれませんね☆」
 面白そうな玩具を見つけたような顔をして、マネットは本を持って1階へ降りる。
「5段目と3段目・・・そして1段目に1冊ずつ入るスペースがありますよ☆」
「待ってマネット!勝手に入れちゃだめだよ」
 適当に本を入れようとするマネットを九弓が止める。
「ひょっとして・・・本を入れる位置と絵画のタイトルと関係があるのだろうか?」
「たしかに・・・そうかもしれませんね」
 クレアの言葉にハンスが納得したように言う。
「順番通りに入れると本棚の後ろに隠された何かがわかるとか・・・ですかね」
「もしくは別の秘密が隠されているかもしれないだろう」
「一部の本を持ち帰って研究しみない?」
「さぁ・・・それはどうでしょうね。うかつに触れたら面倒なことになりそうな気がするんですけど」
「面倒なことって?」
「そうですね・・・例えば闇の世界に引きずり込まれて鬼の餌食にされるとか・・・」
 首を傾げる九弓に、ウィングがさらりと強烈なことを言う。
「ははっ・・・まさかー・・・」
「しかし用心にこしたことはないだろう」
 傍からクレアが釘を刺すように注意する。
「絵のタイトルから推測すると・・・下から1段目に地上の本、3段目に冥府の本・・・5段目に空の本ではないでしょうか」
「―・・・そうなのかな・・・?」
 ウィングの答えに九弓はうーんと呻りながら考え込む。
「俺の予想ですと・・・1段目に大地の本・・・3段目に空の本、1番上の5段目に冥府の本だと思うんですよ」
 大地も本の順番を考えながら推理する。
「それはそうと冥府にあたる絵画がないけど・・・。どこかにあるのかな?」
 冥府を思わせる風景が描かれた本を読みながら、カレン・クレスティア(かれん・くれすてぃあ)が言う。
「それがあれば、もっと分かりやすいのに」
 カレンは棺桶の中を開けたり、天井裏を覗いて探す。
「ないな・・・。元々ないのかな」
 今度は床下や壁を探って、抜け道がないかチェックする。
「うーん・・・抜け道も見つからない・・・。本の謎が解ければ、何か分かりそうな・・・」
「何がありそうなんですか?」
「例えば秘密の通路とか・・・」
「あぁ・・・たしかにそうかも」
 のぞみがこくりと頷く。
「ねぇ、本当に空の本が5段目でいいの?」
「私は1段目の本が空ではない気がするのだよ」
「あたしも同意見かな」
 うんうんとクレアたちに賛同するようにのぞみが頷く。
「どっちを先に試してみますか?俺はどっちが先でもいいんですけど」
「そうですね・・・では私からでいいですか」
「ではとりあえずそれで入れてみましょう。もしどっちも間違えても、違うパターンでもう1度やってみたらいいですわ☆」
 提案した通りに、ウィングが本棚へ本を収めていく。
「何が起こるのでしょう、わくわくしますわ」
 楽しそうに言うマネット以外は、真剣な眼差しで本棚を見つめる。
 本棚に収まった大量の本が、ガタガタと揺れる。
「―・・・なんだか・・・・・・様子がおかしくないだろうか?」
「えーっと・・・こういう場合って逃げた方がよろしいのでしょうかね」
 1歩後ずさったハンスは、頬に一筋の冷や汗を流す。
 彼らが凝視している本から灰色の煙が発生し始め、細長い触手の形を形成していく。
 触手はシュルシュルと伸び、九弓たちを捕まえようとする。
「なななっ何ですかあれは!?」
「知らない、というか知りたくもない!」
「るるたち捕まったらどうなっちゃうのー」
「そんなこと考えたくもないよ!」
 玄関の戸を勢いよく開き、のぞみたちは小屋の外へ出て行く。