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誘う妖しき音色

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誘う妖しき音色

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第5章 喰らう浅ましき存在

-PM22:00-

「結局・・・笛の音のことはよく分からなかったな」
 子供の人数を再確認しながら零は、残った疑問について考えていた。
「お菓子とか・・・玩具で誘ったとは考えられないかしら?受けた傷も本当にあの吸血鬼からなのでしょうか」
「子供たちの怯えようからすると、それはないかと・・・。ソアさんたちが言うには、音色に操られて連れてこられたみたいですよ」
「そうそう、結構な深手を負わされた子もいるみたいだよ。しかも他の子が逃げ出すと、捕らえられているその子の友達が変わりに罰を受けたり・・・」
 真剣な眼差しで考えるように言うさけに、陽太と北都が答える。
「そうですわね・・・怖い思い出を消し去りたいならいっそ・・・」
「いっそ存在ごと消えてしまえばいい」
 さけの言葉に続けるように、どこからともなく若い男の声が辺りに響く。
「だっ・・・誰だ、でてこい!」
「―・・・この状況からしてマグスだな・・・」
「まずは・・・石橋のところでなめた真似をしてくれたそこのヤツ」
 林の中からケイに向かって電術が放たれる。
「避けるのじゃケイ!」
 カナタが叫んだのと同時にとっさに義純が庇い、その拍子に2人は地面に倒れてしまう。
「もう1発食らわせてやろう・・・うぐっ!?」
 暗闇の中から放たれた1本の弓矢が、マグスに命中した。
「連絡を貰ってやってきたら、なんともいいタイミングであります!」
 聖水をかけた矢を比島 真紀(ひしま・まき)が吸血鬼の脇腹へ命中させた。
 さらに真が放った2本目の矢が突き刺さる。
「意外と簡単に当たったな」
「もう1本いっとく?」
 真紀のパートナーのサイモン・アームストロング(さいもん・あーむすとろんぐ)が、聖水で清めた矢を真紀に手渡す。
「えぇいまったくっ、町で邪魔をしてきたガキといい・・・なんとも腹立たしい!」
「あぁっ逃げたー!」
 吸血鬼と思われる影が移動した方向を、アリシアが指差す。
「逃げる・・・このわたくしが?なめるなガキどもめ、勝手に家の中に進入して無事で帰れるとおもうなよ!」
「こんな大勢の子供たちを攫っといてよく言いますね」
 草むらから現れたウィングがマグスを睨む。
「何を言っているのだ。この子たちは自分の意思でいたのだぞ、貴様にとやかく言われる筋合いはない」
「フンッ、吸血鬼マグス。キミのその手口もすでに解明済みです」
「何だと・・・?」
「特殊な魔法や道具は一切使用していない、フルートの音色を使った一種の催眠術なんですよ。一定のメロディーを耳から脳に認識させて操っているのです」
「音だけでそんなことが可能なのか!?」
「えぇ、大人と子供の聞こえる音域の差を利用した方法なんです。しかも12歳と13歳では興味対象が変わり、感受性の高さも変化するのです。そこを巧みに利用した催眠術なんですよ」
 ウィングの推理の続きを陽太が説明する。
「そうです、操って誘導しやすい年齢・・・つまり影響しやすいのが12歳くらいまでなんです!」
「なるほど・・・魔法を使わないことで犯行の方法を隠すことができるのか」
「たしかに魔法使っちゃうと、発動の痕跡とか残ったらばれやすいもんね」
「おのれぇ・・・貴様らを生かして帰すわけにはいかなくなったな・・・」
「吸血鬼の正体見たりですわね」
 残酷な吸血鬼を見据え、どうやって倒そうか各々思考を廻らせる。
「さぁて・・・貴様らはどんな最後がお好みかな?そうだな・・・こんなのはどうだ」
 攻撃の隙を与えまいとマグスは手の平から炎を発し、さけたちの周囲に火炎の嵐で囲う。



-PM23:00-

 木々は赤々と燃え盛り、力の差を見せつけられた彼らは地面に倒れこんでしまう。
「お次はどうしてほしいかね?」
「そんな・・・おじいちゃんみたいに吸血鬼は皆優しいと思ってたのに・・・」
「とんだ勘違いだったようだな小娘。黄泉路で後悔するんだな」
「君が・・・な」
 声が聞こえた背後へマグスは振り返ったのと同時に、声の主高月 芳樹(たかつき・よしき)から雷術をくらう。
「どうやら間に合ったようだぜ」
「そうね、倒しがいがありそうだわ」
 芳樹を守るように剣を構えたアメリア・ストークス(あめりあ・すとーくす)は瞳に闘志を宿す。
「相手がいつどこから襲ってくるかわからない恐怖の味はどうだ?」
 林の暗闇の中からネイト・フェザー(ねいと・ふぇざー)が、マグスの背を目掛けて斬りかかる。
「ほぉおそうか・・・本当の地獄というのを知らないようだな」
 刺されながらも表情を崩さずに、マグスはネイトの襟首を掴んだ。
「私たちは多少の痛みなど、すでに覚悟しています」
 ネイトの後ろに隠れていたニース・ウインド(にーす・ういんど)は、パートナーの彼ごと吸血鬼の腹を剣で突き上げた。
 パタタッ
 土が真っ赤な血を吸い込み、赤黒く変色する。
「仲間ごと斬る・・・だと!?」
「だが絶対に死なないという確信があっての行動だ」
「互いの信頼があればこそなんですよ」
 ニースはネイトへヒールをかけてやりながら、吸血鬼が襲ってこないか注意を計る。
「(よし・・・これでそう簡単には軽々動けないだろうぜ)」
 痛みを堪えながらネイトは勝利へ近づいた笑みを浮かべた。
「皆の怪我も、私たちのヒールで治しましたですぅ」
 応戦に現れたメイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)セシリア・ライト(せしりあ・らいと)が、こころたちの傷をヒールで治していく。
「音対策のために耳栓いっぱい持ってきましたよ」
「順番に配りますー」
 黒水 一晶(くろみ・かずあき)関貫 円(かんぬき・まどか)の2人は、メイベルたちに耳栓を配っていく。
「これでもう眠ってしまうことはありませんね」
 笛の音色を聞いてしまわないように、一晶は耳栓をする。
「これだけでかなり回りの音をシャットアウトできるんですね・・・」
 円は耳栓の効力を実感した。
「さらにこの大音量の音楽で妨害してやりましょう!」
 MDデッキを抱えてやってきた樹月 刀真(きづき・とうま)は、デッキを平らな地面に置いた。
「えい、ぽちっとスイッチオン」
 刀真が持ってきたデッキのスイッチを漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)が入れる。
 デッキから空気を振動させて爆音が轟く。
「さらにこっちの音もスイッチオンするわよ」
「ワタシに押させて。えいっどーぉおん」
 伽耶が持っているラジカセのスイッチをアルラミナが押した。
 凄まじい騒音となって、辺りに鳴り響く。
「えぇい、やかましい。そんな物、破壊してやる」
「そうはさせないですぅー!」
 術を発動しようとするマグスに向かって、メイベルはホーリーメイスで殴りかかる。
「そんな武器程度が、このわたくしに通じると思っているのかね?」
 攻撃を避けたマグスは、メイベルがメイスを持つ手を掴む。
「メイベルちゃーんキャッチしてー!」
 セシリアは光条兵器、モーニングスターを身体から取り出してメイベルに投げ渡す。
「ウフフフ♪あなたは少しは痛い目に合った方がいいようですねぇ」
 キャッチしたモーニングスターを握り、メイベルはニッコリと笑う。
 パートナーのパワーブレスによって増幅されたメイベルの打撃が、標的の脇腹を叩きつけた。
 ゴキンッと骨を砕いた鈍い音が辺りに響く。
「ただのか弱い女の子だと思ってると、こういう目に遭うんですよぉ」
「あははっ、メイベルちゃんの力を侮らないことだねー」
 クスクスと笑いながら、セシリアは地面に膝をつく吸血鬼を見下ろす。
「余所見している余裕があるんですか?」
 メイベルの後ろから現れた菅野 葉月(すがの・はづき)が彼の膝をランスで突く。
「もうそろそろ終幕ですね」
「子供たちの守りはワタシたちにまかせて、おもいっきりやってよ」
 守りやすいように子供たちを一箇所に集めたミーナ・コーミア(みーな・こーみあ)が葉月たちにエールを送る。
「まずは行動力を削いでいかないといな」
 芳樹は相手の動向を見ながら言う。
「確実に仕留めるには・・・やっぱり足を狙った方がいいの?」
「あぁそうだろうな」
 集中力を高めようと芳樹は相手の視線の先を確認しながら、ズリッと足を一歩前に出して手の平から雷術を放つ。
「それじゃあいくわよ」
 地を蹴って上空からアメリアがマグスへ剣を突き降ろす。
「うまくよけたようね」
「一筋縄じゃいかないようだぜ」
 なかなか倒せない相手に、芳樹は表情に焦りの色を生じていた。