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第6章 闇が潰える序曲

3Day

AM0:00

「吸血鬼が生き物の血飲んで何が悪いのよ!フフン妨害してやるんだわ」
「そうです、そうです!吸血種族のわたくしに飢えろといってるようなもんです!」
 小屋の屋根の上からメイベルたちを指差しながら抗議するメニエス・レイン(めにえす・れいん)の言葉に、パートナーのミストラル・フォーセット(みすとらる・ふぉーせっと)は傍で賛同するように言う。
「ククク・・・このあたしが、あいつらの邪魔してやるんだから」
「あははっ。やっちゃいましょう、やっちゃいましょう♪」
「アシッドミストで世界は真っ白。どんな黒さもこの白い霧であーら不思議、たちまち見えなくなったよ」
 メニエスが発動させたアシッドミストによって、小屋の周囲が白い霧で覆われる。
「なっ・・・何・・・急に霧が・・・!」
「周りの景色がまったく見えないですぅー・・・」
 視界を遮られたメイベルたちは、辺りをキョロキョロと見回す。
「あれれ、さっきまでここにいたのに何人かいなくなったような・・・」
 ミーナは慌てて視界の悪い中、いなくなった子を探す。
「どうしたんですか?まさか・・・」
「いっいなくなってないよ、皆いるよ・・・うん・・・」
「仕方ないですね、一緒に探しましょう」
「うぅ・・・ごめんねぇ」
 霧の影響で逸れてしまった子を、ミーナと葉月は一緒に探すことにした。
 そんな彼女たちの隙をついてマグスが子供たちに忍び寄り、傷を癒すために首筋に噛みつこうとしていた。
「ざまーみろだわー、あーっははは!―・・・わぁあっ!?」
 状況を一変させたメニエスは屋根の上で高笑いしていると、突然起こった地響きで足元がふらつき、危うく落ちそうになる。
「今度は何でありますか!このような場所にトラック!?」
 転びそうになりながらも、なんとか踏み止まった真紀の視線の先には、大人が100人乗っても大丈夫そうな大型のトラックが小屋の近くに止まっていた。
「少し道が混雑していて待たせてしまったようじゃのう」
「子供たちを救出にきました」
 シルヴェスター・ウィッカー(しるう゛ぇすたー・うぃっかー)の運転でやってきたガートルード・ハーレック(がーとるーど・はーれっく)は、車から降りて子供たちを運ぶ準備をする。
「あっ、辺りの様子が見えてきました!いっきまーすぅ」
 メイベルは手にしているモーニングスターで、再びマグスに殴りかかる。
 気配に気づいたマグスは、慌てて後方へ飛び退く。
「あーっ!いたいた」
「そんなところにいたんですか・・・」
 葉月とミーナは、ようやく背の高い草の中に隠れていた子たちを見つけた。
「押さないで順番に乗ってねー」
 まだ薄っすら霧の晴れない状況に乗じて、東條 カガチ(とうじょう・かがち)は子供たちをトラックの中へ誘導してやる。
「やぁ、屋根の上のお2人さん。アシッドミストの効果、利用させてもらったよ」
 カガチはメニエスたちへ軽く手を振った。
 術を利用されたメニエスは、悔しそうにカガチを睨みつける。
 視線を向かってこようとする犯人へ向け、ガートルードはリターニングダガーの柄を握る。
「ウィッカー・・・こっちへ」
「わしの出番じゃのう」
 車から降りてきたウィッカーは、ガートルードにSPリチャージしてもらいながらマグスへ連続で爆炎波を放つ。
「今のうちに早く・・・」
「急ぐのじゃー!」
 セトとエレミアも協力して、子供たちをトラックの中へ乗せてやる。
「この子たちは別の位置にお願いしますね・・・」
 亡くなってしまった子をフィルがセトへ手渡す。
「えぇ・・・その方がいいでしょう」
「私が敷居つくっておくね」
 トラックの中に乗り込んだセラは、生存者から見えないように金属のプレートで敷居を作ってやる。
「やっとお家に帰れることができるんですよね」
「親からしたらちゃんと生きたまま戻ってきた欲しいのが一番の願いなんじゃろうな」
「それはそうでしょう」
「戻ってこないまま生存の望みをかけるのとどっちがいいんでしょうね」
「うーん・・・それは・・・」
「準備できたよ」
 セラが呼ぶ声でエレミアの言葉は途中で遮られ、フィルたちは奥の敷居の中にそっと子供の亡骸を置いてやる。
「やっぱクラシックは合わねぇぜ!ロックこそ最高の音楽だぁあー!!」
 林の中から機会を窺っていた高崎 悠司(たかさき・ゆうじ)は、リターニングダガーで標的へ突きを繰り出す。
「まだまだいくぞーっ」
 盗賊特有の素早い身のこなしで、行動力を削ぐために足元を斬りつていく。
「くっ・・・ここは一先ず退いてやる・・・」
「さぁてな、そう簡単にいかないだろうぜ。なんつったて、今夜が貴様の命日なんだからよ」
 逃げていく吸血鬼の背を見ながら、悠司は不適な笑みを浮かべる。



 マグスは倉庫が立ち並ぶ地帯へ逃げるように駆けていく。
「やつがやって来たであります!」
 マジックミストの効果に乗じて、マグスが逃走すると思われる経路に待機していた真紀が対象の姿を発見する。
「それじゃあ、ここで待っていよう・・・。よぉし・・・今だっ、この矢を使って!」
 聖水で清めた残りの数本の弓矢をサイモンから受け取った真紀はマグスに向かって放ち、標的の肩と足部分に命中させた。
「そっちばかり気を取られていると、あっという間にあの世へ召されますよ?」
 笛の音防止に音楽プレイヤーで曲を聞きながら、橘 恭司(たちばな・きょうじ)が地面を蹴って上空から斬りかかる。
 カルスノウトの刃が、マグスの右肩を斬りつけた。
「純粋な命に手を出した者が、どういう罰を受けるか・・・知っていますか」
 自然回復の間を与えまいと、恭司はもう一度同じ箇所へ突く。
「くそ・・・このわたくしが・・・こんなガキどもに」
「敗因が何だか、まだ理解していないようですね」
 剣を向けながら恭司はマグスとの間合いを詰める。
「絶対負けることはないという、その傲慢さにあるんですよ」
「そしてあんたは1点に気取られすぎで、傷め目に遭うっていうことだ!」
 ゆうは倉庫の上から飛び降り、突きの構えで恭司が傷つけた吸血鬼の逆側の肩へ剣を刺す。
 マグスは突然、ゆうが引き抜こうとする剣の刃を握り締めた。
「小僧が・・・燃やし尽くしてくれる!」
「幼い子供が受けた腕の傷はこの辺でしたっけ?」
 隙をついたカティア・グレイス(かてぃあ・ぐれいす)が懐に飛び込み、マグスが握っている剣の刃を自分の剣で押し上げた。
 痛みに耐えかねた彼は掴んでいた刃を放してしまう。
 ゆうとカティアは返り血を回避するために後方へ飛び退いた。
「痛いでしょうね。ですけど、小さな子供はもっと苦しんだんですよ」
 彼女は慈悲を一切与えない、冷酷な視線を吸血鬼へ向ける。
 なんとか立ち上がったマグスは、必死に逃げていく。
「いいんですか?あのような者を逃がしても」
「逃げられれば・・・ですけどね。無理でしょうけど」
 ゆうは青色の瞳に逃亡者の死相を映しながら、生存確率を予想する。
「これだけの罪を犯したヤツの運命なんて、すでに決まっているでしょう」
 剣についた血を振り払った恭司は、命運を予知するような言葉を言う。