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だいすきっ

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だいすきっ

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第1部 錯誤


「んぱ。んぱぱぱぱー」
 脳みそをトコロテンにされてまともに歩けなくなったメガネの男子生徒、通称“トコロテン・メガネ”がスッテンコロリン。正門前で転んでいた。
 彼は目つきの悪い男で、ラリラリに向かって剣を振り回していて、トコロテンにされたらしい。
 おかげで、今ではすっかり目がとろーんとしている。これなら、まあ、かわいいか。


 さて、透明な物が見える薬イデスエルエを持っているという噂で注目を集めているトメさんだが、既にそのトメさんをじーっと熱い眼差しで見つめる者がいた。
 プレナ・アップルトン(ぷれな・あっぷるとん)だ。
 この情熱的な見つめ方は、噂の惚れ薬ドピースをくらったかのようだが、そうではない。
 プレナは、トメさんのモップ捌きに見取れていたのだ。
 サッササササッサッ。
 洗剤のついたモップで廊下を掃除したと思ったら、超高速旋回で洗剤と汚れを空気中で除去し、ゴミ袋に落とし、そのまま新品同様になったモップにワックスをつける。
 プレナは激しく感動していた。モップ捌きには自信のあったプレナだが、これには脱帽した。
「この行程を1本のモップでやるなんてぇ〜」
 そして、次の瞬間、もう走っていた。
 もちろんワックス仕上げの床を踏まないように、気をつけて、
「師匠!」
「え……?」
 トメさんが振り向くと、唖然。
「な、なんだあ……?」
 プレナの背後から巨大な影が迫ってきた!
 それは、ドン・カイザー(どん・かいざー)に肩車されたラーフィン・エリッド(らーふぃん・えりっど)だった。
「ボ、ボクも、弟子にして!」
「くぇー」
 プレナはトメさんのモップ掃除術に、ラーフィンはモップ戦闘術に憧れていた。
 いきなり2人の弟子入り志願が来て、困ったトメさんは黙ってしまった。
 弟子志願者は黙って答えを待ち、ドンが「くぇーくぇー」と鳴いていた。
 トメさんが何も言わずに去っていき、2人はあきらめかけた。
「いい仕事に、口は要らない。くぇー」
 プレナは、すかさずトメさんのバケツを持って、アピールする。
「お持ちします!」
 ラーフィンは用務員室に先回りして、ドアを開けてアピールする。
「ささ、どうぞ」
 2人をじっと見つめるトメさん。
「中に、入れば……」
 入室許可をいただいた!
 ドンは外でぶらぶらしていた。
「くぇー」


 用務員室は、校舎から少し離れたところにある独立した小屋だ。
 出入口は2つあり、1つはいつも使ってる表口。その前には広場があり、トメさんが修行に使ってるスペースだ。裏口の前は、小さなスペースくらいしかなく、3メートル後ろには木が生い茂っている。林を抜けると、プールや校庭に繋がっている。
 用務員室の中には、先客がいた。筑摩 彩(ちくま・いろどり)イグテシア・ミュドリャゼンカ(いぐてしあ・みゅどりゃぜんか)がちゃぶ台を囲んでいた。
「できたー!」
 手芸部の彩は、トメさんの休息タイムに使ってもらおうとクッションカバーに乙女な花柄の刺繍を施している。
 ハゲでデブの職人トメさんが、そのピンクの花柄をじっと見つめて黙り込み……ポツリと呟く。
「かわいい……」
 トメさんはクッションを背中に当てず、お腹に抱っこして座った。ニコニコしながら、テレビを見始める。
「よかった。気に入ってくれて」
 彩はホッと胸をなで下ろした。
 プレナがお茶を淹れてきて、
「お友達なんですか〜?」
「トメさんって、こう見えて乙女だから気が合うんです」
「へえ。師匠が乙女ねぇ〜」
 トメさんの凄まじいモップ捌きを見たばかりのプレナとラーフィンは、驚いて顔を見合わせた。
「とは言っても、今日はじめて会ったのよ。お茶、ありがとう」
 彩の隣で見守っていたイグテシアが、澄まし顔で補足して、お茶を口にし――
「あっつっ!」
 イグテシアは猫舌だった。
 しかし、驚くべきはこの後だ。イグテシアがお茶をこぼしたその瞬間――!
 プレナとラーフィンがすぐさま台拭きを手にしたんだが……
 拭こうと思ったそのときにはもう、こぼれたお茶は拭き取られていたのだ。もちろんトメさんの技だ。
「師匠……!」
 ラーフィンは、イデスエルエをもらいに来たことなぞ忘れていた。


 正門前で、イルミンスールの水神 樹(みなかみ・いつき)が困っていた。
「用務員室って、どこですか」
「んぱぱぱ。んぱ」
「……」
 トコロテン・メガネに聞いてみたが、無駄だ。
 近くでケーキをむしゃむしゃ食ってるリュース・ティアーレ(りゅーす・てぃあーれ)を発見し、訊いてみる。
「用務員室、どこですか」
 リュースは、ケーキの最後の一口を食べて、さらに紙についた生クリームをペロリとして、ようやく質問に答える。
「用務員室なら、今から行くところだから、案内しますよ」
「ありがとう。ところで、どうしてこんなところでケーキを?」
「どうしてって――ああ!」
 リュースは突然崩れ落ちた。
「このケーキ、用務員のトメさんに持ってく手土産だったのに。つい、食べてしまった……」
「ついって……」
 正門の外から、リュースのパートナーグロリア・リヒト(ぐろりあ・りひと)がやってきた。
「ごめん。グロリア。食べちゃいました」
「そんなことだろうと思って、また買ってきたよ。今度は食べないでよ」
「もう大丈夫ですよ。ところで、その箱見たことないけど、新しいケーキ屋? おいしそうですね。ちょっと中を見せて――」
「ダメ」
「いや、見るだけですよ」
「ダメ」
 リュースが不憫だと思った水神が、グロリアに提案してみる。
「見るくらい、いいんじゃないかな」
「ダメ。用務員室はこっちよ」
 無下もなかった。それもそのはず。ケーキの前は鯛焼き、煎餅、羊羹、たこ焼き、どら焼き、ゼリー……とさっきからこのやりとりを10回以上繰り返しているのだから、この対応は当然なのだ。


 コンコン。
 すっかりトメさんの弟子になりきってるプレナが、ドアを開ける。
 水神が丁寧に挨拶をして、
「トメさんに、お話がありまして」
 すかさずリュースが、「これ、つまらないものですが」とケーキを差し出す。
「みなさんで一緒にどうぞ」
 トメさんは黙って頷き、入室が許された。
 トメさんは花柄クッションを抱きしめてはいるものの、やはりその威厳は凄まじく、そうそうイデスエルエのことをお願いする雰囲気ではない。
 まずは、和んでからだ。
 水神もリュースも、とりあえず一緒にテレビを見ることにした。みんなでケーキを食べながら見た番組は昼ドラで、嫉妬に嫉妬を重ねた愛憎劇『牡丹とシャンバラ』だ。
 画面では、黒髪の怖い女がブリッコ女に対して「この泥棒猫!」と叫んでいて、みんな苦笑する。
「今どき、泥棒猫なんて言うかな?」
 と、トメさんは、唐突にテレビを切った。
 トメさんには、大人の恋愛がわからなかったのだ。白馬の王子を夢見ているという噂は本当のようだ。
「トメさん、ケーキのお味はいかがですか」
「……おいしい」
 苺をペロペロペロペロ幸せそうに、舐めていた。


 その頃、図書室では揉め事が起こっていた。
 スーツを着た大人の女性が、司書になにやら訴えているようだ。
 この女性は、実はパラ実の生徒で、ガートルード・ハーレック(がーとるーど・はーれっく)である。
「ラリラリは絶対幽霊なんです! だから線香の煙が嫌なんです」
「それで?」
「だから、お経を読んで退治するんです。お経を貸してください」
「なんと言われようと、身分証明書を持参していない外部の方に貸出はできません。ここは蒼空学園の図書室ですから」
 冷たい態度の司書に、パートナーのシルヴェスター・ウィッカー(しるう゛ぇすたー・うぃっかー)も参戦する。
「ラリラリ退治のためじゃ。ちょっと借りるくらいええじゃろう。なあ」
 調べ物が必要な宿題が多いのか、今日は図書室がやけに混んでいた。ガートルードたちが揉めてるおかげで本を借りたい人の行列が狭いカウンター前でグチャグチャになっている。
 愛川 みちる(あいかわ・みちる)も、その中の1人だった。
 キュー・ディスティン(きゅー・でぃすてぃん)は、この混乱の間にパートナーリカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)を見失っていた。キューはカウンターから離れ、トイレを探しにいく。
「それにしてもリカインの奴、いったい何処行ったんだ? 真面目に宿題やってりゃいいんだけど」
 ものの数分のことだった。
 トイレから戻ったキューは絶句した。
 本を片手に、みんな「んぱんぱ」言っている。
 ガートルードも、ウィッカーも、みちるも、みんな脳みそがトコロテンになっているのだ。
 キューは慌ててリカインを捜したが、既にその姿はなかった。
「ど、どこだよ……?」


 リカインは正門前にいた。トコロテン・メガネを見物していた。
「はぁ……バカだわねぇ〜。何だかぼーっとしちゃって」
 と笑っている。
「ん〜? ありゃなんだ〜?」
 何やら聞き慣れない音が聞こえてくる。
 パカッパカッパカッ。
 馬の蹄の音だ。現れたのは、美しい白馬だ。
 白馬に乗っているのは清泉 北都(いずみ・ほくと)
 なんだか注目を浴びているような気がして、北都は降りた。
「どうして白馬で?」
 北都のパートナークナイ・アヤシ(くない・あやし)が尋ねた。
「用務員のトメさんが、白馬の王子を待っているんだよ。ほら。乗った乗った」
「え? 私が?」
「クナイ。君こそ王子にピッタリだよ」
 クナイが白馬に乗ると、見ていたリカインも、うんうんと頷いた。
「さすがは薔薇学。白馬が似合うわ〜」
 北都とクナイがいなくなると、また馬の音が聞こえてくる。
「ええ〜! また〜!」
 ビシッと白い制服を着て、まさに白馬の王子という雰囲気の藍澤 黎(あいざわ・れい)だ。
 黎はトコロテン・メガネを見て、「お気の毒に」と声をかけ、気遣った。
「誰しもトコロテンになどなりたくない。イフィイ、覚悟はできてるか」
 と愛馬イフィイの顔を、そっと撫でる。
 じーっと見ていたリカインに気がつき、紳士的に声をかける。
「お嬢さん。用務員室はこの道を行けばいいのかな」
「そ、そうだよ……つーか、お嬢さんって」
 黎は意を決して前を見る。
「イフィイ。行こう」
 どこまでもカッコよかった。リカインは、その後ろ姿を見て感心した。
「ああいうのを白馬の王子って言うのねえ〜」
 と、そのとき。
 またしても馬の蹄の音が聞こえてくる。
 リカインは「もう驚かないよ」と顔を上げ……
「ウギャア!」
 驚いた。
「は、白馬の王子様〜?」
 次に来たのは、自分の口で「パカパカ」と言っている白塗りのドラゴニュートジゼル・フォスター(じぜる・ふぉすたー)。そして、その上に乗ってる城定 英希(じょうじょう・えいき)。カボチャパンツに白タイツという、実際に見るとコントにしか見えない王子様ルックだ。
 絶句するリカインをよそに、城定とジゼルのコントコンビは去っていった。
「ヒヒーン。パカパカ。ヒヒーン。パカパカ」


 その頃、用務員室では水神がガラスケースをじろじろ見ていた。
 鍵が2箇所かけられていて、中には透明な液体の入った瓶が2つ見える。瓶はどちらも190グラムの缶コーヒーサイズで、瓶の上にはそれぞれ「イデスエルエ」「ドピース」と書かれた紙が置いてある。
「トメさん……ドピースは何に使うんですか?」
 水神に訊かれて、トメさんの顔がみるみる上気していく。
「ナイショ」
 トメさんはクッションを抱きしめて、恥ずかしがっている。あくまで乙女だ……。
 水神はさすがにトメさんの乙女にはついていけないと思ったのか、核心に触れる。
「トメさん。イデスエルエを譲って欲しいんですが」
 みんなが言えなかったことを言い、用務員室の空気がピーンと張りつめる。
 トメさんが、重みのある声で問う。
「断ると言ったら?」
「……あなたと一戦交えてでも、いただく覚悟です」
 トメさんが、水神の目をじっと見つめる。
 緊張が走る。
 水神が徐ろに戦闘態勢に入る、そのとき――
「待ちな!」
 外から声が響いた。
 用務員室のドアが開くと、葉月 ショウ(はづき・しょう)が立っていた。
「トメさんと戦うのは、このオレだ」
 常に強さを求めるショウは、モップ使いのトメさんに対抗して、箒の特訓をしてきたのだ。
「この勝負、なんとしても受けてもらおう」
 一方的な宣戦布告に、トメさんも困り顔だ。
「師匠。ここはボクが」
 とラーフィンが前に出る。
「ひっこんでな。オレがやりたいのは最強モップ戦士トメさんだけだ」
 ラーフィンはムッとして、つっかかる。
「ボクだって、トメさんの技を見て学んだんだ」
「お前を倒さないとトメさんとやれないというのなら、……仕方ないな」
「ここじゃ師匠に迷惑がかかる。表でやろう」
 みんな、決闘を見るために外に出て行く。
「あれ? ケーキ食べないんですか……?」
 リュースは1人残って、他の人のケーキに手を出していた……。


「くぇー」
 表の広場で、ドンが心配そうに見つめる中、ラーフィンが仕込み竹箒を構える。
 対するショウは、長さ70cmの短い箒の二刀流だ。
 箒対箒の決闘は、いきなりラーフィンが突っ込んで始まった。
 が、この日のために修行を積んできたショウの集中力は半端じゃない。
 あっさりスウェーでかわした。
「うおおお!」
 ラーフィンはすかさずトメさんの超高速モップ旋回を真似て竹箒をグルンと回転、ショウの脳天に柄についた刀を突き刺す――
 バッキーーーーン!!!!
 が、阻まれた。ショウはクロスした箒の二刀流で受け止めた。
 そしてそのままラーフィンの腹を蹴り上げる。
「どぼううう」
 ラーフィンはぶっ飛び、勝負あった。
 ドンは、ラーフィンを支え、呟く。
「ローマは一日にしてならず」
「ちくしょうっ……!」
 プレナは、トメさんの前に跪いてモップを差し出す。
「師匠!」
 しかし、トメさんはそれを受け取らない。
 プレナの手は震えていた。トメさんのモップが帯びる凄まじい年季と誇り、師匠の“気”を感じていたのだ……。
 広場には緊迫した空気が張りつめている。
 痺れを切らしたショウが提案する。
「トメさん。俺が負けたら薔薇の学舎に連れて行く。薔薇学ならここよりいい男がいるぜ」
 ピクッ。トメさんが反応を示した。
 ショウがここぞとばかりに駄目を押す。
「トメさんの白馬の王子様……見つかるかもしれないぜ」
 ついに、ついに、トメさんがモップを握った!

 2人の戦いはかれこれ3分経っているが、全く動きがない。
 トメさんは目をつむって微動だにしない。ショウは目に見えない圧力を受けているのか、異常に汗を掻いている。
 ショウは思った。――勝負は一瞬だ。
 そこで、箒を一つ捨てた。持てる力全てを次の一撃にぶつける覚悟だ。
 ショウはじりじりと近寄り、間合いを詰める。
 そして、一閃!
 音速を超えたスピードで箒が唸る! ソニックホーキブレードだ!!!
 が、遅い! 遅すぎる! 音速程度では、トメさんのモップの前では遅すぎる!!!
 本気を出したトメさんのモップは光速を超える。
 モップはとっくにショウのみぞおちを一突きしていた。
「うごおおおお!!!!!!!」
「またつまらないものを掃除してしまった……」
 トメさんはモップの柄を、渋い目をしてさすっている。
 ショウは、倒れたままトメさんに手を伸ばし、
「し、師匠……!」
 弟子入り志願者が、また1人増えた。

 トメさんの顔は、すぐに格闘家から乙女のそれに戻っていた。つぶらな瞳で遠くを見ている――
 視線の先から、白馬に乗ったイケメン男子がやってきた。
 北都が馬を引く、クナイだ。
 トメさんの瞳がキラキラ輝き……しかし、また曇る。
 北都とクナイの後ろから、白馬の王子がもう1人現れたのだ。白い制服の黎だ。
「……どういうことだ?」
 トメさんがツルツルの頭を抱えていると、さらにまた白馬の王子がやってきた。
「ヒヒーン。パカパカ。ヒヒーン。パカパカ」
 ジゼルのインチキ白馬に乗った英希だ。
 生徒たちにおちょくられてると思ったトメさんは、用務員室へと引き返す――
 そのときだった!
「トメさん、ごっめーーーーーんッ!!!」
 どこから飛んできたのか、樹月 刀真(きづき・とうま)はいきなりトメさんの延髄にドロップキックをかます――
 が、それを受けるのはトメさんではなかった。
 間一髪2人の間に割り込んだ文月 唯(ふみづき・ゆい)が、見事に顔面ブロック!!!
「うどぼげしゃっ!」
 トメさんは軽くかわして、唯と刀真の2人がゴロゴロと転がった。
「いたたたた」
「おっかしいな」
 刀真のパートナー漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)は、無謀な攻撃をした刀真に「おかしくないよ……」と呆れていた。
 唯はすかさず立ち上がって、
「トメさん! お怪我はありませんか!? 俺が来たからにはもう大丈夫です!」
 唯のパートナー九条院 京(くじょういん・みやこ)は慌てて進言する。
「トメさん。見てください。今、あなたを守りました。こいつが本物の白馬の王子です! かっこいいでしょう?」
 トメさんは唯を一瞥し……
「……かっこいいかも」
 集まっていた生徒たちの目つきが変わる。それぞれ思惑はいろいろあるが、イデスエルエを狙ってることには間違いないのだ。唯が気に入られれば、譲ってもらえるかもしれない。みんな、そう考えていた。
 しかし、トメさんは……
「でも……ちょっと違う」
 生徒たちは、ガックリと肩を落とした。
 そんなやりとりを、校舎の影からこそこそとのぞいている者がいた。
「やっぱり薬を手に入れることができるのは、我々しかいないでござるな」
 ツルツルの頭を生かして、トメさんそっくりに変装した椿 薫(つばき・かおる)がニヤリと笑った。
 薫のパートナーイリス・カンター(いりす・かんたー)は疑っている。
「本当に世のためになるんでしょうね」
「これが世界平和につながるでござるよ」
「うーん。それなら手伝うんですけど……この人達がねえ……」
 と周囲の仲間たちを見回す。
 秋葉 つかさ(あきば・つかさ)シルエット・ミンコフスキー(しるえっと・みんこふすきー)エルゴ・ペンローズ(えるご・ぺんろーず)瀬島 壮太(せじま・そうた)黒脛巾 にゃん丸(くろはばき・にゃんまる)リリィ・エルモア(りりぃ・えるもあ)、そして鈴木 周(すずき・しゅう)というのぞき部系の面々が揃っている。
 イリスには、何か悪巧みをしているようにしか思えなかった。


 その頃。
 リュースしかいなくなった用務員室には、既に忍び込んでいる者がいた。ガラスケースの鍵をピッキングで開けようとしている、ローグの久世 沙幸(くぜ・さゆき)だ。
 しかし鍵は2つあり、1つだけでも非常に解錠しづらいタイプで、沙幸は苦戦している。
 パートナーの藍玉 美海(あいだま・みうみ)は手伝いもせず、沙幸が両手を離せないのをいいことに、あっちこっちに手を這わせ、身体を弄んでいた。
「ちょ……ねーさま。やめ……あっ……」
 ちなみに、リュースはケーキやお茶菓子を食べるのに夢中で全然気がついてなかった。色気より食い気なのだ。
「ねーさま。ちょっ……、ほんとに……おねがいっ! トメさんがきちゃう!」
 美海は仕方なく、沙幸から離れる。
 表口で待ち伏せ、戻ってきたトメさんに言う。
「トメさん。あちらから白馬の王子が来ますわよ」
 トメさんが振り向くと、周が立っていた。
「トメさん!」
 真剣な眼差しで呼ばれ、トメさんはグラつく。
「な、なに……?」
「実は、2人きりで話したいことがあるんだ」
「2人きりで?」
 トメさんは、2人きりという言葉に反応して照れている。なんだかもう恥ずかしくて前を向けず、もじもじと下を向いている。
 周は、そんなトメさんの手にそっと触れる。
「えっ……」
 トメさんは思わず顔を上げ、2人は超至近距離で見つめ合う。
 周は近づいて改めて思い知らされた。トメさんはいくら乙女とはいっても、体はおっさん。加齢臭がふわっと香った。つ、つらい……!
 トメさんは、まじまじと周の目を見つめる。
 周は次の作戦を待って、のぞき部の連中の方を気にしている。
(シルエット! つかさちゃん! 早く来てくれ〜!)
 しかし、シルエットとつかさはワンセグで昼ドラ『牡丹とシャンバラ』を見ていた。
「やっぱりこれね」
「うん。これ」
 周はもう、最後の一言を言うしかない。
「トメさん……ずっと愛してたんだ! 俺と付き合ってくれ!!」
 トメさんはキョトンとしたまま動かず、集まった連中も、みんな静まりかえった。


 その頃、正門前。
 キューは、トコロテン・メガネを見物中のリカインを見つけた。
「リカイン! 帰るぞ。今日はどこでトコロテンになるかわかんないんだからな」
 と引っ張るが、リカインは抵抗する。
「帰りたくないよ〜。私なら大丈夫。トコロテンなんかにならないよ。絶対シラフのまま今日という一日を乗り切ってやるんだから」
「ええ〜!」
 果たして、乗り切れるのかどうか……。
 トコロテン・メガネを見ている者は、もう1人いた。小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)だ。
 目立ちたがりの美羽は、トメさんに注目が集まっていることを快く思わなかった。だが、イデスエルエを譲ってもらうためには自分も近づくしかない。そこで、考えた。
「生け贄が必要だわ」
 トコロテン・メガネは顔がふにゃふにゃになっていて、イケメンかどうかよくわからないが、
「こいつでいいや」
 と肩に担いで、歩いていった。


 用務員室の表では、周とトメさんが見つめ合っていた。
「待って!」
 トメさんが驚いて振り向くと、つかさが泣きながらやってきた。
「周! 私のことを好きだと言ったのは、嘘だったの?!」
 ボロボロと涙を流している。
「どういうことよ!」
 周の服を引っ張っている。
 トメさんは突然のつかさ襲来に、どうしていいかわからず戸惑うばかり。
 そこに、また新たな声!
「待った!」
 シルエットがドドドッと走ってきて、トメさんをなじる。
「あんた、誰よ!」
「え、いや、あの……トメタロウと申しますが……」
「周クン! トメタロウって誰!」
 シルエットは周に詰め寄って、
「ひどい!!! さっきまで! ついさっきまでボクの中、熱くて最高! とか言って、じゅ……14回も――」
「ひどい!!!!」
 つかさが割り込んで、
「昨日の夜、初めてのわたしに、じゅ……14回も――」
「ひどい!!!!!!!」
 トメさんは、この3人の間でモミクチャになって外に出られない。
「あ……えっと……」
 どうやら修羅場を演じてトメさんを引き留め、その間に仲間が薬を盗み出すという計画のようだ。
「すげえな〜、あいつ」
「ほほ〜。一晩で28回」
「モテる男はツラいね〜」
「なんて羨ましい奴なんだ。オレ、あいつもう嫌い」
 他の生徒たちは、遠巻きに見物していた。まさに昼ドラ劇場だ。
 昼ドラは進化し、大人な雰囲気のシルエットに対抗して、つかさはブリッコ路線を強調しはじめる。
 つかさは思いっ切り泣きじゃくって、
「あなたが、あなたが、あなたが初めてなのよ。あなたしか知らないのよおおおおお! わーーーん!!」
 困惑するトメさんが逃がれようとするが、そこは周が放さない。ギュッと手を握りしめて、
「トメさん。信じてくれ。オレが愛してるのはトメさんだけだ!」
 つかさは泣きながら、周の服を掴んでゆっさゆっさ。ゆっさゆっさ。
「わたしの大切なはじめての人なの〜。えーーーーん」
 それを見てシルエットは、ブチ切れ、
「かまととぶってんじゃないわよおおおおお! その手を……離しなさいよ! この、泥棒猫!!!!!」
「ひ、ひどい……!」
 泥棒猫と言われ、つかさの心の奥の“本気スイッチ”が入った。ますますブリッコになって体を揺らしながら、
「けっこんって言ったもん。言ったもん。言ったもん! 言ったもーーーーーーーーん!!!!」
 負けじとシルエットも“本気スイッチ”オン!
「泥棒猫が冗談抜かしてんじゃないわよ!」
 マジでつかさの髪を掴んであっちへこっちへ引っ張る。引っ張る。引っ張る。引っ張る。
「いったーーーーーい! 何すんのよー!!!」
 こうなると、何故か周まで“本気スイッチ”オン!
 トメさんの手を掴んで放さず、モミクチャになりながらも顔を接近させていく。
 なんかもうワケの分からないムードに押されたトメさんは、周のことを好きになり始めていて、その顔は斜め45度に上がって、目を……閉じた!
 つまり……接吻を……待っている!
 そのとき!
 昼ドラに全く似合わないハードロックが辺りに響き渡る。お馴染み、五条 武(ごじょう・たける)のテーマソングである。
 といっても、知らない者もいるだろうから解説しよう。
 
 ――五条武は、謎のパラ実・改造科過激派軍団に拉致されて改造された。それ以来、アリの改造人間「パラミアント」に変身して世界平和のために尽力している……ということである。(真偽不明)

「とおう! 君たち! 争いごとはやめな!」
 変身前の五条は、ロックなTシャツにライダージャケット、細身のボンテージパンツに鋲ベルトという出で立ちだ。
 そして、ビシッと親指を自分に向けて、景気よく叫ぶ。
「オレが、白馬の王子様だぜ!」
 ――違う。それは違う。
 みんなが白け、おかしな空気ができあがり、結果的に争いは止んだ。
 トメさんも正気に戻った。
 しかし、白馬の王子の座を狙う者は後を絶たない。どこからともなく菅野 葉月(すがの・はづき)が現れて、
「やあ、待たせたね」
 五条にはない気品を漂わせながらトメさんに近づく。
 校舎の影から様子を見ていた薫は、心配になって、
「これは、まずいでござる」
 と慌てて用務員室に向かう。中で活動中の仲間に急ぐように指示を出そうと考えたのだ。
 薫が用務員室の裏口に着き、ドアを開けようとすると……
 トントン。……肩を叩かれた。
「トーーーメさん!」
 薫が振り向くと、ブルマ姿の初島 伽耶(ういしま・かや)アルラミナ・オーガスティア(あるらみな・おーがすてぃあ)が微笑んでいた。
「え? 拙者でござるか? あ。いや……何かな? トメさんでござるよ?」
 初島とアルラミナは体操着を着ていて、体育のときに使った道具を返しにきたようだ。
「どうして、驚いてるんですか?」
「いや、別に。ちょっと……そうそう。白馬の王子様かと思って、驚いたでござるよ〜」
「もう。トメさんたら噂通り。カッコいい男に目がないんだから〜」
 とアルラミナを見て、
「ねえ。これってもしかして?」
「もしかする?」
 2人は何度も頷いた。
 リズミカルに頷く2人の頭では、もうテーマソングが流れているのだ。80年代アイドルソング風の曲が、どこからともなく聞こえてくる。

「ラブリ〜ラブリ〜♪ ラブリ〜タイム〜♪
 あなたとわたしの〜♪ ハ、ハ、ハートがドッキュン♪
 ドキドキドッキュン♪ ふるえるの〜♪」

 どんどんノッていく2人の空気に戸惑う薫。その肩に、初島の手がポンポンと乗る。
「安心して。トメさん! あなたも乙女心を持っているんでしょう!」
「あ。まあ」
「でも……『見てるだけ待ってるだけ』なんて、今は流行らないの!」
 アルラミナも薫の肩に手をポン。
「流行らないの!」
 初島は鞄から蒼空学園の制服を取り出して、「ジャジャーン!」と見せる。
「男の子をオトすには、まず! キュートな魅力!」
「キュートな魅力!!」
「さあ、蒼空女子制服を着てみよー!!」
「着てみよー!!」
「あ。でも、ちょっと……」
 あっという間に、その場でミニスカートを履かされた。
 クルッと回らされて、スカートがふわっと舞う。
 イリスは木陰からのぞいて、ほとんど白目を剥いていた。
「気持ち悪い……」
 しかし、初島はご満悦だ。
「これがミニスカートの魅力よっ!!!!!」
「なるほどでござるな……」
 マジに感心している薫に、今度はナチュラル・メイクを施していく。さらに、どこにあったのか可愛いカツラもつけちゃって……
「ジャンジャカジャーン!」
 正真正銘、“乙女トメさん(偽)”の出来上がりだ。
「か、かわいいでござるか?」
 初島は感動して、
「可愛いかも!」
「可愛いかもしれない!!」
 とアルラミナも褒めちぎる。
「そうでござるか……へへ」
 薫はすっかり気に入ってしまった。
 と、そこに一度はトメさんに敗れた刀真がふらふらとやってくる。
「お、おれは、女装なんかしてる奴に負けたのか……くっそおおおお!」
 再びジャンプ一番、怒りの延髄ドロップキックをぶちかます!
「どりゃあああああ!」
 そのとき!!!
「トメさあぁぁぁぁぁあぁああああんんんん〜〜!」
 どこからともなく現れた青空 幸兔(あおぞら・ゆきと)が顔面ブロック! 持っていた薔薇の花束と一緒にはじけ飛んだ。
「ぶぼばあああああっ!」
 ぶっ倒れた幸兔はヨロヨロと立ち上がり、刀真に言ってやる。
「トメさんには、なんぴとたりとも! 髪の毛1本! 触れさせへんでええぇ! あ。トメさん。これは、苺のショートケーキです。どうぞ〜」
「……ありがたいでござる」
 こうして乙女トメさん(偽)は悪漢に襲われることもなく、偽物と見破られることもなく、事なきを得た。
 が、ぶっ倒れたままの刀真は、乙女トメさん(偽)のスカートの中が見えて、ナニカに気がついた。
「あーッ!」
 と指差す……が、女子のスカートの中をのぞくという卑劣な行為に、初島はもう無意識にその顔を踏んづけていた。
「そういうの、だめ!」
「あぐっ。踏んでる。踏んでる……」
 初島に踏まれた情けない姿を、刀真を追ってきた月夜は見てしまった。
「はあ。刀真はもうあてにならないわ……」
 月夜は刀真を置いて、去っていった。
 初島とアルラミナは、にっこり笑顔で見つめ合う。
「これで、めでたしめでたしかも!」
「めでたしめでたしかも!」
 初島が乙女トメさん(偽)に腕を組み、
「さあ、一緒に踊ろう!」
「お、踊ろう?」
 乙女トメさん(偽)をとられたアルラミナは、幸兔を指を差す。
「踊ろう!」
「ええ? オラが? なんでやねん〜」
 しかし、アルラミナがその腕をからませた瞬間、
「ほな踊ろか〜」
 幸兔はアルラミナの魔女の短衣に着替えさせられ、4人のスーパーユニット『桃色☆乙女隊』がここに結成された。
「ラブリ〜ラブリ〜♪ ラブリ〜タイム〜♪
 あなたとわたしの〜♪ ハ、ハ、ハートがドッキュン♪
 ドキドキドッキュン♪ ふるえるの〜♪」
 刀真は手拍子と合いの手を担当させられた。
 パンパパパン!
「ヴァイブレータ!!!」


 用務員室の表にいる本物のトメさんは、本物の乙女っぷりを発揮していた。
「トメさん、はじめまして」
 日本の宝塚のような派手な衣装を着込んできた菅野葉月がクルッと回転して挨拶すると、トメさんはモップを両手で握りしめてモジモジ……。
 葉月のパートナーミーナ・コーミア(みーな・こーみあ)が恨めしく見つめる中、葉月の宝塚作戦が始まった。
 広場のスペースを十分に生かして、どこからともなく聞こえる音楽に合わせ、華麗なダンスを見せる。
 そして最後に薔薇を一本、シュッと投げる。
 薔薇は見事、トメさんのよれよれのクルーネックシャツの襟に綺麗に収った。
 そしてトメさんに近づくと……
「さあ、手を離して。君にモップは合わないよ」
 とモップに手をかけた。
「危ない!」
 トメさんの弟子、プリモとラーフィンが叫んだ。
「しーっ。観客はお静かに鑑賞願いますよ……」
 葉月は何が危ないか気がついていない。トメさんを研究しきれていなかったのだ。
 そう。モップは、なんといってもトメさんの誇りであり、トメさんの人生そのものなのだ。
 ドバババーーーーーーン!
 光速モップ捌きでぶっ飛ばされた葉月は空を舞った。
 そして、ようやく立ち上がった葉月ショウに激突し、その上にドスンと落ちた。
「あ、どうも。すみません。葉月仲間ですね」
「く、くるしい……」
 ついに、ショウは気絶した……。


 その頃、裏口。
 ドピース狙いのミーナが、こっそり忍び込もうとしていた。が、意味不明の光景を、口をポカンと開けて見ていることしかできなかった。
『桃色☆乙女隊』はさらにグレードアップしていたのだ。
 曲はいつの間にかアップテンポなディスコ調になっていて、激しいダンスが繰り広げられている。
「ヘイヘイヘイヘイ! ラブリーチャンス! ラブリーチャンス!
 ヴァヴァヴァヴァ! ヴァイブレータ! ヴァイブレータ!」
 そしてダンスがピタっと止まり、1人ずつ最後の決めポーズ。
「桃色☆乙女隊。ういうい!」
「桃色☆乙女隊。あるるん!」
「桃色☆乙女隊。ゆきゆっきい!」
「桃色☆乙女隊。とめっぴ!」
 イリスは混乱する自分の気持ちを落ち着かせようと必死だった。
「とめっぴ……と、とめっぴ……」


 用務員室の表側。
 本物のトメさんはすっかり機嫌が悪くなってしまい、誰も近づけなくなっている。
 が、1人、状況を把握していないために平気で近づく者がいた。美羽だ。
「トメさーん。イケメン連れてきたよー」
 と担いできたトコロテン・メガネを差し出す。ドサッ。
 トメさんはトコロテン・メガネの顔をじーっと見て、
「けっ! これのどこがイケメンだよっ!」
「あれ。やっぱりダメか……」
 たしかに、これでイケメンとはおかしな話だ。
 そして……集まった面々の気持ちは、1つになっていく。
「もう、おふざけはお仕舞いだ」
「トメさんは、白馬の王子を求めている」
「奴しかいねぇ!」
 クナイは、白馬に乗ってはいるが、北都にやらされている自分に自信は持てなかった。
「君の出番じゃないよ」
 誰かにそう言われて、馬を降りてしまった。
 クナイの後ろから出てきたのは、……英希&白塗りジゼルの肩車コンビだ。
「俺の出番だよ」
「パカパカ。パカパカ。ヒヒヒーン」
 英希&ジゼルが群衆の前に出て行く――
 が、みんなの冷たい視線に気がつかないほどのバカではなかった。
「す、すみませんでした……」
 すごすご……。
 そして、みんなの視線は藍澤黎1人に注がれた。
「我の出番だな。待っていろ、イフィイ」
 華麗に愛馬から降りると、ゆっくりトメさんに近づき、一礼する。
「お忙しい所、失礼致します」
「ん……?」
 みんなの期待を一身に背負い、黎はトメさんのつぶらな瞳を見つめて正直に願い出た。
「我は、藍澤黎。騎士の誇りにかけ、皆が安心して暮らせるように一枚の守護の盾になると誓いを立てました。どうか我に、我の誓いを守らんが為に、イデスエルエをお譲りいただけないでしょうか」
 黎はトメさんの瞳をじっと見つめる。
 トメさんもそれに応え、黎を見つめる。
 みんなの間に、緊張が走る。
 長い沈黙がつづく。
「藍澤くん……」
 先に口を開いたのは、トメさんだった。
「はっ」
「……ポケットの中を見せてもらってもいいかな?」
「……どうぞ」
 トメさんはまるで警察官の職務質問のように、黎の衣服をチェックしていく。
「君は、あれかな、レイヴとかは行くのかな。野外で音楽かけて踊るやつのことだけど」
「我は騎士ゆえ、ふしだらな行為は決して……。しかし、何故に?」
「後でわかる。まあ、行かないならいいんだ……」
 チェックが終わり、トメさんはニコッと笑った。
「いいよ♪ イデスエルエ、みんなで使って」
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」
 みんなの拍手喝采と歓喜の声が響き、広場は喜びに包まれた。
 その様子に、トメさんはボソッと呟いた。
「最初から『あげない』なんて言ってないんだけどな……」