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リアクション
第三章 ゴアドー2
少し前――。
「なんかバカデカイのと戦ってる奴らがいるぞ」
パートナーとのトレーニング中だった田桐 顕(たぎり・けん)は目の上に手のひさしを作りながら、遠くのゴアドーと、それや怪人達と戦う生徒達を見つけていた。
「ふぅん? 丁度いい。お前、あのデカイのとちょっと戦ってきなさい」
パートナーのリリス・チェンバース(りりす・ちぇんばーす)が事もなげに言う。
「は? いや、ムリムリあんなデカイの」
「いいから行け! 行かなきゃワタシがお前をヤルぞ!」
「なんでそうなる!?」
「とにかく近くに行くだけ行くぞ! 早く来い!」
リリスがハンッと息吐いて、ゴアドー達の方へと向かい出す。
「……あのなあ」
顕は仕方なしにリリスの後を追った。
■渓谷下
ズォオオオ、とゴアドーが上半身を持ち上げる。
一瞬の静けさ。その後に、ゴアドーの咆哮が渡った。
そして、またゴアドーの上半身が折り曲げられ、その掌が地面に打ち付けられる。
地を割って響く衝撃。
巻き起こった旋風に吹き付けられながら、
「大怪獣っ! 格好いい! あれほしいでありますマスター!」
ファタ・オルガナ(ふぁた・おるがな)のパートナーのジェーン・ドゥ(じぇーん・どぅ)が、それはもう大喜びでハシャいでいた。
アホ毛がびょんこびょんこ全開に跳ねている。
「また阿呆な事を」
ファタが、くつりと口端に笑みを取りながら言って、ゴアドーを見上げた。
彼方高い所にゴアドーの顎が見える。
「んふ、紛う事無き大怪獣じゃな。傍で見るに中々立派――」
地面に打ち付けられたゴアドーの両の手からは怪人達が生み出され、わらわらと渓谷の間に溢れ出していた。
それらがファタ達へと淀んだ目玉を転がし、地を駆る。
「一つ、力試しといくかのう」
手に編み上げた火球をゴゥと振り出せば、空中に散り舞った土埃を焦がしながら怪人を吹き飛ばした。
火球に吹き飛ばされた怪人の横を駆っていた別の怪人が、地を叩いてファタへと飛び上がる。
「了解っ! であります!」
ファタの前へと踏み込んだジェーンの剣が怪人の腹を斬り上げて、撫で裂きながらも力任せに怪人を叩き飛ばす。
■渓谷下 ゴアドー足元
見上げれば岸壁は身が竦む程に高く、ゴアドーはそれ以上に巨大だった。
「でっけぇ……大怪獣は伊達じゃねぇな……」
ゴアドーが歩を進める度に、地面が揺れ軋む。
轟 雷蔵(とどろき・らいぞう)は、吹き付ける砂粒と土塊の中で、眼前を腕で庇いながら土煙に霞むゴアドーを見上げた。
力の欠片を宿した拳を握る。
雷蔵の隣で、肩にフック付きのロープを巻き付けた駿河 北斗(するが・ほくと)が、グゥと顰めた目で、同じようにゴアドーを見上げていた。
彼もまた力の欠片を宿している。
「こんな化け物に立ち向かおうってんだな――俺たちは」
ゴゥ、と低く響く音と共に影の下に入る。
ゴアドーの傾げた上半身の下に入ったのだ。
垂れ下げられたゴアドーの腕が、その冗談じみた体積を崖端へと擦り上げながら向こうを行き去っていく。
「ああ。だがよ、こいつに街へ突っ込まれりゃ、とんでもねぇことになる。何としても、ここで食い止めるぜ」
「ンなこたぁどうでも良いんだよ」
「あン?」
「後ろに誰が居て、どんな被害が出て、何でそれを恐れてるのかなんて――俺には、ンな細けぇこたぁどうでも良いんだよ!!」
「なんだと?」
「ただ俺は馬鹿が好きなんだ!! 見てみやがれ!」
突き上げた北斗の指の先。
彼方の上空でゴアドーへと飛び移っていく生徒達が見えた。
「こんな大怪獣なんてもんにぶつかろうとする馬鹿だらけだ! 俺はそんな猪突猛進な馬鹿どもが大好きだ!! だから行くぜ! 行って――」
突き上げていた北斗の指先がゴアドーの身体へと巡る。
「馬鹿な人間どものでかさってのを叩き付けてやる!!」
ゴアドーの脚部ポイントを目指す二人の目の前には、ゴアドーから産まれ落ちてきた怪人どもが蠢き始めていた。
雷蔵が北斗へと小さく笑い掛けて。
「熱いな……だが、嫌いじゃねぇぜ、そういうの」
槍を構え、怪人達を見据える。
「よっしゃ! 行くぜ!」
そんな熱い男二人の後ろ姿を、北斗のパートナーのベルフェンティータ・フォン・ミストリカ(べるふぇんてぃーた・ふぉんみすとりか)が、
「……イヤね。熱血馬鹿が二人」
冷ややかな瞳で見送っていた。
「私はイイと思うけどね」
十六夜 泡(いざよい・うたかた)が隣で笑って、己の拳をパシリと掌に打ち合わせた。
「あなたも熱血かぶれ、というわけ?」
ベルフェンティータが薄く顎を傾けながら、十六夜を見やり、
「どうだろう?」
十六夜は八重歯を覗かせて笑ってから、自身もゴアドーの脚部ポイントを目指して、地を蹴った。
■渓谷下 ゴアドー背後
ガートルード・ハーレック(がーとるーど・はーれっく)と、パートナーのシルヴェスター・ウィッカー(しるう゛ぇすたー・うぃっかー)はゴアドーの背後から足元へと駆けていた。
「『足止め』となれば神話の時代から狙うとこぁ決まっとるけんのぉ!」
目の前にはゴアドーの巨大な足と、ジラジラと動き回る怪人ども。
「ええな、親分! わしがヤツの”腱”をヤる。親分は――」
「邪魔の排除および補給を、ですね」
ガートルードがリターニングダガーを、シィンと抜き去りながら言う。
シルヴェスターが満足そうに笑み。
「怪人もそうじゃが、踏まれんように気ぃつけろよ」
「はい、先生」
言って、ガートルードが跳躍し。
シルヴェスターが、迫る怪人へと踏み込んで、剣を抜きざまにそれを斬り上げた。
■渓谷上
渓谷の端からゴアドーの巨大な顔を見る。
それは、おそらくザトウクジラだとか航空母艦だとかといったものを間近で見ているような感覚に似ている。
実際にはもっと得体の知れない災厄なのだけれど。
その突き出した大きな顎部の表面が、時折り、内側を蟲が走るように細かく波打ち蠢いていた。
そして、身体のあちらこちらのコブからは、今もモロモロと怪人を産み落とし続けている。
「怖い?」
喉を鳴らした陽太の裾を、トゥルペが、ついっと引っ張りながら小首を傾げた。
「あ……ええ、怖いです」
陽太は小さく苦笑を零しながらトゥルペへ正直に言った。
「怖気づいている割には……なにか、こう――楽しそうだな?」
いつの間にか隣に居たらしいイリーナに顔を伺われながら言われて、
「え?」
影野 陽太(かげの・ようた)は、パチと瞬きをした。
「アレだ」
銃を担いだ隆光が、陽太の顔の方に指を向けて、
「その顔。アレに似てる――台風が来た時のガキの顔」
ニィと笑う。
◇
ゴアドーの足止めを狙う清泉 北都(いずみ・ほくと)は、渓谷の上からデリンジャーで何発かゴアドーに向けて弾丸を放ってみていた。
「やっぱり全然駄目だねぇ」
弾を込め代えながらボヤく北都の横で、パートナーのクナイ・アヤシ(くない・あやし)が己の顎に指先を滑らせ。
「距離が有り過ぎますし、生半可な攻撃は無意味な様ですね」
「乗り込んで至近距離からやるしかないね。効果がありそうな所だと――目、は無いみたいだから、口とか角かな」
「あとは耳孔とか、な」
椎名 真(しいな・まこと)が、ウンと思案するように目を細めながら言う。
北都はバレルをチンと戻して、椎名の方を見やった。
「耳?」
「もし、あの毛の奥にあったならば、な」
椎名が肩を竦めながら言って、ロープを担ぎ直す。
「まあ、とにかく色々試すしか無いよな」
「そうだね。じゃあ、ゴアドーに飛び乗ろうか。――クナイ」
「はい?」
「禁猟区、忘れないでね」
「かしこまりました」
「――痛いのは嫌だからねぇ」
言って、北都は半眼ほどに細めた瞳でゴアドーと、その背上を行く人達を見据えた。
■ゴアドー正面付近
「特撮の撮影かと思って期待して見に来たら、ガチでパラミタの危機だったとはな……!」
神代 正義(かみしろ・まさよし)は迫るゴアドーを見上げていた。
そして、眼下の怪人達の群れへと視線を滑らせる。
「やるしかない、な」
「え……数、多くないですか……?」
パートナーの大神 愛(おおかみ・あい)が、ゴアドーから尚もドンドンと溢れ蠢く怪人達の方も見つつ、明らかに若干引いていた。
「馬鹿野郎! それでも正義のヒーローか! いいかヒーローってのはなぁ……」
「あ、あああの、行きます、やりますから」
神代の長いヒーロー談義が始まりそうだったので、大神はコクコクと頷きながら、ぐぐっと寄った神代の身体を押し返した。
「はぁ……仕方ないですよね……実際、戦わなくちゃいけないですし」
肩をこけさせる大神を横に、神代が力強く変身ポーズを取り、
「行くぞ怪人共! 蒸着!!」
お面を装着し高らかに叫ぶ。
「パラミタ刑事シャンバラン!!」
「ぷりちーらぶりーしゃんばらら〜ん! うぅ……これ、やらなきゃ駄目ですか?」
神代と同じお面を被りながら、大神は、とほほぅと恥ずかしそうに首を傾げていた。
そんなヒーロー達の下では。
「――様、ゴアドーを抑えパラミタを救いたまえ!」
ゴザルザ ゲッコー(ござるざ・げっこー)が、ゴアドーとは違う……何かしら恐ろしくも巨大な存在へと祈りを捧げながら、怪人達と戦っていた。
一方、ゴザルザと死角を補うように怪人と斬り結ぶパートナーのイリスキュスティス・ルーフェンムーン(いりすきゅすてぃす・るーふぇんむーん)も、
「うううう、――様、どうか私の前にお金持ちのIKEMENをお遣わしください……!」
明らかに間違った祈りを捧げて、何かしら恐ろしくも巨大で不快な存在の出現を願っていた。
「いや、しかしそれはともかく……戦況は絶賛不利でござるな」
ゴザルザが、群がる怪人の中で剣を閃かせながらボヤく。
既に彼の身体の所々には怪人の爪や牙に寄る傷が幾つも走っている。
ゴアドーを正面にした渓谷の谷底。
ここにはゴアドーから生み出され、先んじて空京へ向かおうとしている怪人達で溢れていた。
「んんんんんん! はぁぁぁぁぁああっ!!」
イリスが怪人を斬って、蹴り飛ばしてから両手を空に向かって掲げて唸る。
「……何をやってるでござるか? イリス」
「私のエナジーを送っているの――早く降臨してくださるかと思って」
とか言ってる場合では勿論無くて。
怪人達はお構いなく飛び掛って来る。
刹那。
声は上空から聞こえた。
「シャンバランクラァァァッシュ!!」
大神を背負った神代が剣に爆炎波の炎を迸らせながら、怪人の群れの中に飛び込んでくる。
大神のパワーブレスで強化されている神代の剣が、ゴォウ、と炎の音を散らせながら、着地と同時に一体の怪人は斬り伏せた。
大神が神代の背中から飛び降りる。
そして、飛び退っていた他の怪人達へと神代が駆け、大神がメイスを構えながら彼の後を追った。
◇
怪人に突き飛ばされて、ゴザルザは空を仰ぎ見ながら血と息を散らした。
「ここまで、か……後のことは頼むぞ皆の衆!」
叫びながら地に落ちいく彼の目は、そのまま静かに閉じ――
「こんな所で死に真似してたら本当に死んじまうぞ?」
ぐっ、と神代に襟首を持たれて「ぐぇっ」となる。
「少しは休憩したいでござるよ」
ゴザルザは剣を構え直しながら、とっぷりと溜め息を付いた。
■渓谷上 ???地点
レロシャン・カプティアティ(れろしゃん・かぷてぃあてぃ)は輸送機から渓谷付近に降りた後、しばらく身を潜めていた。
ある目的のために。
そして、今、レロシャンは高く連なる渓谷の頂きの中でも、特別、高く突出した頂きに立っていた。
「ここですか、例の場所は……」
腕を組んだ格好で、静かに、吹く風へと零した呟き。
余り掛け慣れた感じのしないサングラスの奥の目が、ゴアドーと怪人達、そして、それらと戦う生徒達を見下ろしていた。
これらは全て、『遅れてやってきた頼りになる助っ人』となるための演出だ。レロシャン的に。
折角の怪獣騒ぎなのだ。
此処へは”かっこいいこと”をしようと思ってやってきていた。
だから――
「そんな所に居ると危ないですわよーっ?」
下の方から心配そうに声を掛けてきてくれるロザリィヌ・フォン・メルローゼ(ろざりぃぬ・ふぉんめるろーぜ)は、この際、無視させてもらう事にしていた。
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