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大怪獣と星槍の巫女~後編~

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大怪獣と星槍の巫女~後編~

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第七章 星槍

■テーマパーク 観覧車付近
 携帯に着信するメール。
 そこにあった指示の通りに、義純、真紀、サイモン、ウィルネストは観覧車の方へと抜けていく。
 そこからテーマーパークの外へは一直線に出られる道がある。
 その道で葉月、ミーナ、ケイ、カナタ、紅龍、熊猫たちと合流する予定だった。
 しかし、そこでバッタリ鉢合わせたのは、若い黒鎧を先頭とした寺院の一派だった。
 反射的に、真紀がアサルトカービンの引き金を引く。
 向こうも、ほぼ同時に引き金を引いた。
 交錯する弾丸の端々で、各々、物陰に飛び込んだり、敵方へ駆けたり、と唐突な混戦状態。
 ウィルネストとサイモンの発現させたアシッドミストが、ジァとその場へカーテンを引くように走り。
 義純と真紀がアシッドミストに悶えたホブゴブリン達へと弾丸を叩き込んでいく。



「ジェニファー! こっちは駄目だ、寺院の連中が居よった!」
 星槍を抱えた義純が、コンテナを積んだトラックを遮蔽にしながら携帯電話に吼える。
「合流場所を変更――」
『その必要は無いわ』
 携帯から返ってきたのは、知らぬ声だった。
「……誰だ?」
「知った所で何も変わらないと思うけど」
 カツーン、と義純のそばの地面に落ちる携帯電話。
 それは、ジェニファーのもの。
 見上げれば空飛ぶ箒に腰掛けたメニエスが、うっすらと細めた目で義純を見下ろしていた。
「状況は、今あなたが想像した通り――私は星槍を求める。ねぇ、果たしてあなたはどうするのかしら?」
 メニエスの顔がからかうように傾げられる。

 刹那。
 大きな爆発音が響き渡った。
 巨大な鉄骨が軋みを上げ、ワイヤーが重量に耐えきれずに銃声のような音を立てて弾け切れていく。
 根元の地面と支柱とを破壊された観覧車が、交戦中の生徒と寺院らの頭上へと倒れ込んできたのだ。

 ◇

 倒れ込んだ観覧車は諸々の施設の屋根と上階を破壊しながら、ひとまずは上空に張り出した蜘蛛の巣のような格好で留まった。
 観覧車崩壊の影響で、クレーン車が倒れ、観覧車に押し潰された施設の瓦礫が降り注ぐ。
 崩壊し行くエリアから逃れようとする生徒らや寺院の連中へと、オリヴィアのサンダーブラストが走る。
 観覧車が落とす影の外。
「はろはろー」
 ととん、と道の真ん中へとオリヴィアが躍り出る。
 次いで、円のアサルトカービンが鳴り連なる。
 カツカツとオリヴィアの前に立ったのは円。
「こんにちは聖人共――」
 二人の目の前で、生徒達やホブゴブリンや魔術師達の頭上で崩落が進んでいく。
 観覧車の根元を破壊したのは円だった。
 仕掛けにはかなりの時間を要したが、絶好のタイミングには間に合った。
 くすくすと笑うオリヴィアを背に、円は再びアサルトカービンの引き金を引く。
「そしてさようなら」
 確か、当初の目的は星槍だった。
 だが――もうそんなモノには興味が無い。
 なにせこの恍惚。

 ◇

「く――ぅっ」
 次々と降り落ちてくる瓦礫の間を抜け切れず、メニエスが地面に落下し倒れ、その上へと更に巨大な瓦礫が降る。
「――チッ!!」
 義純は星槍を捨て、メニエスを引き抱えながら地面に転がった。
 紙一重の間で地に落ち崩れる瓦礫。
 そして。
 地に転がった星槍を拾い上げたのはカガチだった。
 カガチは星槍を手に、崩壊しいくエリアを駆けていく。

 ◇

 カガチは、響く崩壊音を背に、とつとつと軽い駆け足で適当な方向へと向かっていた。
 へー、へー、と興味があるんだか無いんだか分からない調子で星槍を色々な角度から見回していく。
 と。
「……あー……見た。超見た。なにかとっても物凄く見た」
 何やらコクコク頷いてから、「あー」と何か考えるようにして、ふと、足を止める。
 そして、手の中でくるくるフラフラと星槍を弄び――
「飽きたなぁ……」
 ぽつり、と零した。
 と、目の前の路地から、駆け出てきた人影を見やる。
 寺院の魔術師だ。
 それがこっちを見て、一寸ばかり目を丸くして、それから、銃をカガチへと付き付けた。
「大人しく渡しては……くれんよなあ、やっぱり?」
 へらん、と笑い掛けられて、カガチは、へらん、と笑い返した。
「はい、あげる」
「は?」
 ぽいっと、相手の方へ星槍を放る。
 と、同時に剣を抜きながら、距離を詰めていく。
 星槍に意識を取られていた魔術師が、慌ててカガチへと引き金を引いたが、銃弾が的外れな方へと火花を散らす。
 結局、星槍は地面に落ちて、カガチの剣が魔術師を撫でた。
 魔術師の身のこなしはそれなりに良いらしく、剣は致命傷を与え損ねた。
 魔術師がすぐさま、距離を取りながら火術を組み立て放ってくる。
 それをまともに受けて、たたらを踏みながらも、カガチの顔はちょっと笑っていた。
 チリチリと魔術の残り火が散っていく。
 戦闘が楽しくなっちゃう五秒前。

 ◇

 で、星槍はこそこそっと若い黒鎧に回収されていた。
「なァんか、オレってこんな役回りばっかじゃーねーッスかァ?」

 ◇

上空。
「ユーキ、居たぜ!」
 アレクセイが言って、優希は慌てて視線を巡らせ、頷いた。
「は、はいっ」
 小型飛空艇で路地を上から見下ろす彼らの視線の先には、星槍を抱えて走る黒鎧の姿があった。
「それじゃあ、打ち合わせ通り――いけるか?」
「だ、大丈夫です……いけますっ」
 優希が携帯電話をぐっと握りながら、アレクセイの方を見やる。
 アレクセイが頷く。
「無茶すんじゃねぇぞ」
「アレクさんこそ……」
「ばーか、俺様を誰だと思ってんだよ。っし、行くか」
 言って、二人は別々の方向へと軌道を取って大回りに降下していった。

 ◇

「――場所はOK? じゃァ、超特急でお願い。……はァ? グダクと連絡が取れねェ?」
 携帯の向こうと会話しながら、若い黒鎧は路地を駆けていた。
「あー、はいはァい、グダク”様”ね。やー。やられちゃったんじゃねェの? ややや、オレは知らなァい。だって囮役だったもォーん」
 路地を抜けて、水の無いスプラッシュアトラクションの端へと出る。
 出た所で、崩壊した観覧車方面へと駆けていた紅龍、熊猫、ケイ、カナタ、葉月、ミーナ達と思い切り目が合った。
「――また、掛け直しまァっす」
 黒鎧は携帯を仕舞って、星槍を構えた。

 ◇

 葉月は黒鎧の死角を求めて移動していた。
 ケイとカナタの火術が黒鎧を撃つが、効果はそこそこ。
 そして、紅龍が鋭い踏み込みと共に突き出した切っ先は、巡らされた星槍によって受け流され、そのまま円を描くように星槍の穂先が紅龍を叩き払う。
 不可思議な力の乗った強烈な一撃に吹き飛ばされて、紅龍が地に滑らされる。
「ッ……ハッ」
 紅龍がかすかに痙攣してから、それでもなんとか体を起こす。
 黒鎧の視線と、星槍の切っ先は、
「見えてンだわァ」
 回りこもうとしていた葉月を追って巡らされる。
 そこへ、熊猫の銃撃が走り、ミーナが氷術で組み立てた氷塊が黒鎧に撃ち当たって砕けた。
「――葉月を傷つけるやつは許さない」
 ミーナの目に、グゥと睨みつけられながらも黒鎧は、ギィと歯を食い縛りながら星槍を振るった。
「ックゥ!?」
「葉月ッッ!!」
「このッ!!」
 葉月の体を星槍の先が掠め、ケイとカナタが氷術と雷術をそれぞれ組み上げ――
 その刹那。
「ちょーっと待ったーー!!」
 小型飛空艇に乗ったアレクセイが物陰から飛び出してくる。
「疾風の吸血鬼ッ、アレクセイ・ヴァングライド様が相手だ!!」
 アレクセイが名乗りあげながら放った雷術が、ケイとカナタの魔術に続いた。
 そして、アレクセイはそのまま黒鎧に向かって突撃していく。
「大層な名乗りをどォーもー!」
 黒鎧が少しばか、足元をふらつかせつつ、アレクセイの方へと星槍を振り出していく。
 その一方で。
 ザンッと、後方の物陰から飛び出す影。
 それは優希を乗せた小型飛空艇。
 タイミングは携帯電話で合わせていた。
 アレクセイが陽動で、本命はこちら。
 黒鎧の星槍によってアレクセイが飛空艇ごと吹き飛ばされる。
 その一瞬の後、優希の槍先が黒鎧の手元を狙って突き出された。
 星槍が弾き飛ばされる。
 追った黒鎧を熊猫の銃弾が走り、葉月が駆け跳んで星槍を抱え取った。
「――取った!」
 と。
 地面を激しく抉った銃弾の二本線。
 それが葉月、紅龍、アレクの上を走る。
 上空に姿を現していた寺院のヘリが、ホバリングしながら更に銃口を巡らせていく。
 葉月の手を離れ、地を擦った星槍をケイが拾い上げて、
「エメネアにッ!!」
 優希へと投げる。
「後は任せるアル!」
 熊猫が、優希の方へ動こうとした黒鎧を銃弾で牽制する。
「――で、でも――」
 星槍を受け取り、優希はオロオロとアレクの方を見やった。
 アレクは銃弾を受けた辺りを抑えながら、優希を見上げる。
「ッ、ばーか、俺様を誰だと思ってんだよ――行けッ!!」
「は、はい!!」
 優希が星槍を抱えながら、飛空艇の先を巡らせる。
「頼むぜ! エメネアを助けてやってくれ!!」
 ケイの声を背中に受けながら、優希はフルスロットルで飛空艇を駆った。
 その後をヘリが追っていく。

 取り残されて。
「……いやァ、どうしましょ」
 黒鎧の口元がヒクリと揺れる。
「どうしましょうも、こうしましょうも無かろう?」
 カナタが魔術を組み上げながら目を細め、ミーナが静かに声を零す。
「ワタシ言ったよね?」
 コォオオ、とミーナの手元と瞳に灯る火気。
「葉月を傷つけるやつは許さない、って」