蒼空学園

リアクション

第二章　ゴアドー
　

「ボクの好奇心ゲージがいきなり最高潮だよ！」
　カレン・クレスティア（かれん・くれすてぃあ）が嬉々として崖の端から身を投げ出し、吹き上がる風の中をゴアドーの背に向けて落下していく。
「”ちゅー”の件がうやむやになって元の調子に戻ったかと思えば――この浮かれよう」
　カレンの後を追って崖端を蹴ったパートナーのジュレール・リーヴェンディ（じゅれーる・りーべんでぃ）は、ウキウキとゴアドーの背中へと落下していくカレンの姿を半眼で見やりながら呆れていた。
「これが空京に辿り着いたら、一大事になると言うのに……」
　カレンに遅れて、ゴアドーの背へと着地する。
「浮かれるよ！！　だって、大怪獣だよ！？」
　カレンが、たしたし、と怪獣の背の感触を確かめるように踏み締める。
　それから、くいっとゴアドーの頭の方へと顔を向けた。
「それに、――様が降臨するってお告げがあったからね！　これは見逃せない！」
「……誰が降臨するって？」　
「一番良いとこで見るんだー！」
　ジュレールが問い返している間に、カレンはたったとゴアドーの頭の方を目指して駆けていってしまう。
　ジュレールはそれを見送り、かくっと頭を傾げながら剣を抜いた。
　とりあえず、頭方面の怪人払いはカレンに任せておくことにする。

　ヒゥ、と風を切って感じる落下感。
　宇都宮　祥子（うつのみや・さちこ）は、いっそ爽快なダイブの末にゴアドーの背中に広がる黒毛の平原へと着地した。
「――想像していたよりずっと硬いわね。でも、安定は、悪くない」
　体勢を立て直しながら呟く彼女の隣にパートナーのセリエ・パウエル（せりえ・ぱうえる）が降り立つ。
「お姉さま」
　セリエが着地した格好から槍を構え直しながら、短く言う。
　セリエの見据えた先、ゴアドーの体から不自然に盛り上がった肉瘤の表面がグヌリグヌリと蠢き始めていた。
「アレから怪人が……」
　緋桜　遙遠（ひざくら・ようえん）が既に魔術を組み上げながら、別の肉瘤を見据える。
　遙遠のパートナーの紫桜　遥遠（しざくら・ようえん）が、剣を構え、足場を確かめるように毛並みに足裏を滑らせる。
　蠢いていたコブの一部の鱗がズルリと爬虫類の腕めいたものへと形を整えながら伸び上がった。
　そこからは、ほとんど一瞬で人型爬虫類の姿へと膨れ上がる。
　それは両手をゴアドーの体へと突き立て、身を捩りながら姿を確立していく。
　紫の鱗に包まれたドラゴニュートの廉価版のように見える。
　それが、黒毛の間を四つん這いになって蠢く。
　角張った腕と脚の先には鋭い鍵爪を持ち、赤紫の長い舌の先をゴアドーの背へと垂らしていた。
　それが次々と溢れ出してきている。
　そして、祥子らの背後には次々と力の欠片を宿した仲間達がゴアドーの背に降下してきていた。
　祥子が槍を握る手に力を込め。
「諸君、もはや特攻しかあるまい。他にどんな選択肢があると――」
「お姉様、お姉様」
　祥子の肘の袖を、ついついと引っ張りながらセリエが首を振っていた。
「今時、そのネタわかる人いるんですか？」
　言われて、祥子は軽く思案するような間を取ってから。
「じゃあ――突撃だぁ！　皆が印を打つための時間を作ってやろう――とか」
「ええと……」
　少し困ったように頬を掻くセリエの向こうで、
「了解です――」
　遥遠が剣を抜き放ちながらゴアドーの背を蹴った。
「まずは、頭部への道筋の確保を！」
　遙遠がアシッドミストを構成しながら遥遠の後を追う。
　確認用に力の欠片を宿していているため、二人はゴアドー頭部のポイントの位置がしっかりと把握していた。
　真っ直ぐに、その道を切り開いていく。

「燃えるのぉ……」
　邪堂が、すぅおおおっとオーラというか呼気というかを掻き混ぜるように構えを取る間に、怪人がゴアドーの背を四足で捉えながら、加速して邪堂へと迫る。
　すぅ、と整う構え。
「水洛邪堂、いざ参るッ！」
　カッ、と音が爆ぜるが如く邪堂の目が見開かれる。
　と同時に放たれたドラゴンアーツが、何故か邪堂の上半身の服を散り散りに破りながら、怪人の体を吹き飛ばした。
「そぉりゃそりゃぁぁぁあああ！！！」
　その勢いのまま、遥遠達が切り開いていく道を頭部目指して、
「ずおらっしゃぁぁぁあ！！！」
　てな具合に怪人へラリアットをかましたりしつつ駆け抜けていく。

「すげぇ爺さんが居るな――っしゃあ、負けてらんねぇ！！　マナ！　いつも通りでいくぞ！」
「ねえ、ベア。それは賛成なんだけど――」
　邪堂に続いてテンション高くゴアドーの背を頭部に向かうベアを追って、マナが駆けて行く。
「力の欠片の使い方、ちゃんと分かってるのよね？」
「なんか感動だぜ！！　俺は今、怪獣の背を駆けている！！　もう、火を噴くとか噴かねぇとかどうでもいいな！」
「ねえっ！　ちょっと！！　聞けぇえええ！！」
　マナの声は届かない。

　と。
　頭部のポイントを目指す、もう一組。
「空飛ぶ箒で咆哮外の上空からホワイトの爆炎波で勢いを付けて一気にゴアドー頭部へと落下し力の欠片を打ち込む大活躍でエメネアちゃんから『ちゅー』をゲットする作戦はゴアドーの咆哮の範囲があんまりにも広かったために断念したわけだけど！！」
　エル・ウィンド（える・うぃんど）が、そこまでを一息で言い切って、ぜぃはぁと思い切り呼吸をする。
　パートナーのホワイト・カラー（ほわいと・からー）は、その呼吸の間を縫って、鎮痛な溜め息を付いた。
「もっとましな作戦をたてられなかったのでしょうか……」
「ああ、なかった！」
　エルが輝く笑顔で、ホワイトの方へ親指を立ててみせてから。
「かくなる上は小賢しい作戦など捨てて、この身一貫、根性の限りに突き進むのみさ！　行くぞホワイト！　エメネアちゃん、ちゅーの準備をして待っててねー」
　うきうき突き進んでいくエルを追うホワイトの目が、ひくんっと怒りに痙攣する。
　彼を追ってゴアドーの背を登りつつ。
「……はぁ」
　溜め息が出る。
「でも、こういう時って、どうせ”ちゅー”なんてしてもらえないんでしょうね」
　なんとなく、ホワイトは考え得るエルのどうしようもない結末を頭の中に浮かべた。
　そうなったら……後で自分がしてやろうかな、とか考える。考えて。
　ふと。
（それにしても……私はこういう人が大切な人でいいんでしょうか……？）
　うううん、と考えれば顰めた目元が渋くなる。
　前方では、エルが突然湧き出た怪人にギャーギャー悲鳴を上げながら逃げたり撃退したりをし始めている。
「……まあ」
　ホワイトは、スンとカルスノゥトを抜き、ゴアドーの背を爪先で捉えながら駆けつつ。
「退屈はしないですし――いい、のかな」
　なんて、呟いた。

　◇　

「ここからは、登攀するしかありませんね」
　ロザリンドは、黒く揺れるゴアドーの後頭部の毛へと手を伸ばした。
　ゴアドーの首後ろから先は、ゴアドーが顔を上げているため、それをよじ登る事になる。
　伸ばした手に毛をしっかりと巻きつけて、そこ支点にして、ゴアドーの後頭部へと足を掛けながらグゥッと身体を持ち上げる。
　もう片方の手で更に上の毛を取り、やはり、しっかりと巻き付けて――
　というように、ロザリンドはゆっくりと、だが確実に登っていく。

　その後方。
　飛び掛ってきた怪人の爪の先を剣の腹に滑らせながら、
「お相手するんは、も少し後ですぇ」
　一乗谷　燕（いちじょうだに・つばめ）は、怪人と体を入れ替えるように黒原を低く跳んだ。
「まずは先へ行かせてもらう！」
　燕にやり過ごされた怪人が着地の寸前で、燕のパートナーの宮本　紫織（みやもと・しおり）の剣先に掬いあげられるように弾き上げられる。
　そして、紫織は弾き上げた怪人の下を抜けて、燕の後を追って駆けていく。

「では、こちらで処理させて頂きます」
　水神　幽也（みかみ・ゆうや）が空中にアンバランスに浮き上がった怪人の腹元へと潜り込み、腕を突き上げるようにデリンジャーの銃口を、そのザラついた皮膚へと擦りつけた。
　爆ぜた音と共に怪人の体が、空へと腰から勢い良く吊り上げられるように飛んで、それは弧を描いて遥か下方の地面へ力無く落下していく。
「さて、まずはコレを何処かに繋いで……」
　と、幽也が肩に担いだザイルに視線を滑らせると同時に、ゴアドーの上半身が持ち上げられた。
「ッ――！？」
　それはつまり、幽也達の立っている地面がほぼ垂直になるという事。
　慌てて伸ばした手がゴアドーの毛の一房を取るが、支え切れず、毛があれよという間に手の中から抜ける。
（しまっ――）
「幽也ッ！」
　カラッポになって空中に泳いだ幽也の手を強く握ったのはパートナーのアリシア・スターク（ありしあ・すたーく）だった。
　そこで繋ぎ支えられて、グンッと肩に負荷が掛かる。
　追って、耳を塞ぎたくなるようなゴアドーの咆哮が鳴り渡り、空間をたゆませた。
　宙吊りになった勇也の近くや遠くを空を引っ掻く怪人どもがバラバラと落ちていく。
　それらが落ちていく先は細い奈落だ。
「これは……助かりました」
　遠い地面にベシャベシャと体液を撒き散らす怪人どもを見下ろしてから、勇也は自分の手を握るアリシアを見上げた。
「下僕が主人の世話になるなんて、減点ものですわ」
「大変だ。それは急いで返上しなければいけません、ね」
　言って、幽也はザイルを固定するために固定具をゴアドーの背へと打ち込んだ。

「ぬきゃー！　びっくりさせおってからにー！」
　セシリア・ファフレータ（せしりあ・ふぁふれーた）はアラン・ブラック（あらん・ぶらっく）に体を支えられた状態で、ぶんぶかワンドを降っていた。
「そう暴れられると、落としてしまいそうだ」
　アランが柔らかに言う。
　片手にゴアドーの毛を掴み、もう片方のランスを持った腕でファフレータを抱いた格好で。
「わ、わわ」
　その言葉にファフレータは、むんっと声を引っ込めて体を縮こまらせた。
　アランの隣で同じようにゴアドーの毛を掴んで体を支えていたセス・ヘルムズ（せす・へるむず）がくすくすと楽しそうに笑って、ファフレータの恨めしげな視線が向けられる。
「あ、ご、ごめんなさい」
　セスがバツ悪そうに片手で口を抑えている間に、ゴアドーの体が元の前傾姿勢へと戻っていく。
「はい、お疲れ様」
　アランが、ファフレータをゴアドーの背へと返す。
　ファフレータは、少しよろけながらアランの方へと向き直り。
「ふん、ありがとー、と言ってやらんでもないぞ」
「どういたしまして」
　アランは微笑みながらそれを受けて、ランスを構え直した。
　ファフレータは、うむと頷いてから、ぐるんっと体の向きをセスの方へと向け。
「そして、おぬしには後で火術の刑じゃ！」
　ずびしっと指差しながら言い切った。
「え、僕っ？　な、なんでっ？」
　セスがただオロオロとしている横でアランが、「さて」と視線を巡らせて。
「ここからゴアドーの腹部のポイントへ向かいたい所だけど……」
　ゴアドーのコブからは、また新たな怪人が生み出され、溢れだしてきている。
　しかも、先ほどゴアドーの背が垂直状態になっている時にゴアドーの背に張り付いていた怪人も見かけた。
　これから、ほぼ無防備な状態でゴアドーの腹へ向かうというのに、この怪人どもは危険だ。
　と、ファフレータの火術が近付いてきた怪人を吹き飛ばす。
「まったく――怪獣といったらもうちとこう、恐竜みたいなカッコいいものを期待しておったというのに」
　ファフレータが更に魔術を編み上げながら、アラン達に視線を走らせ。
「行け。こんなけむくじゃらはとっとと封印するに限るのじゃ！」
　言って、怪人の駆け込んで来たラインへと氷術を構築した。
　つるーん、と怪人は足元を滑らせ、バランスを失い、怪獣の背から空中へと転がり落ちていく。
「ふふん――」
　ファフレータが鼻で笑って、間合いを計る怪人達へと視線を返した。
「この私がいる限り、おぬし達などに邪魔はさせないのじゃ！」

　一方、ゴアドーの側面に連なる岸壁。
　ウィング・ヴォルフリート（うぃんぐ・う゛ぉるふりーと）は、崖のなだらかな所を滑り降りながらゴアドーの腹を目指していた。
　ズザァアアと壁肌に滑らせた足裏から膝に伝わる断続的な衝撃。
　頃合を見て足を踏み出し、数歩ほど崖を垂直に走り抜けるようにしながら、ゴアドーの腹部方面へと跳ぶ。
　風を切った浮遊感の後、
「――っと」
　伸ばした手がゴアドーの脇腹の毛に届く。
　ぐぅっと体が宙吊りで揺れて、手と肩に掛かる自身の重み。
　下ではゴアドーの動きと己の揺られ具合に合わせて地面が揺れていた。
　黒い毛束をしっかりと握り直して、ひとまず一息、落とす。
「さて。これから、ですね」

■ゴアドー背中
「――ッチ、素直に近付かせちゃくれねぇか！」
　力の欠片を見に宿したラルクは、腕のポイントへ力を打ち込むために、まずは肩を目指していた。
「いやぁ、困ったねぇ」
　同じく腕を目指す佐々良がラルクと共にアサルトカービンを鳴らす。
　ラルク達の銃弾が叩き込まれていく先へと、
「こんな所で止まってる場合じゃ無いってのに！」
　同じく力の欠片を宿したシルバ・フォード（しるば・ふぉーど）が駆け抜けて、切っ先を滑らせる。
　黒い毛の先が舞う中で怪人の爪と切り結び、その傍らで雨宮　夏希（あまみや・なつき）がメイスで、もう一体の怪人を牽制していた。
　四人は完全に囲まれていた。
　そして、もう一方から夏希に這い迫る怪人の姿。
　と。
「全く、次々と――」
　支倉　遥（はせくら・はるか）が、ゴアドーの背中を四つんばいでカサカサと這い回る怪人の頭を踏んだ。
　それを踏み台に、遥の体が跳んで、空中に身を翻す。
　体の巡りに合わせて、スゥッと遥の視界が引っ繰り返っていく。
　ちょうど真っ逆さまで空を見下ろし、黒い平原を見上げる形になったところで、御厨　縁（みくりや・えにし）が夏希をカバーする形でメイスで怪人の頭に一撃を入れている所を見る。
　そして、ダガーを持った腕をくゆらせて、遥は別方向から御厨に飛び掛ってきた怪人へと放った。
　怪人が体液を散らしながら怯んだ所を藍澤　黎（あいざわ・れい）が駆け込み一閃の槍先で、それを突き上げてゴアドーの体の外へと放り捨てていく。
　その間に遥がゴアドーの毛の中に着地する。
「兄者ッ！」
　警告を滲ませた御厨の声。
　次いで。
「頭下げぇ！」
「っと」
　黒く長い毛並みにグッと沈んだ遥の頭上を、悠のパートナーのフィルラント・アッシュワース（ふぃるらんと・あっしゅ）のメイスが掠めて、遥の後方から襲い掛かってきていた怪人の顔面にジャストヒットする。
　そして、毛元を薙ぎ倒しながらさっさと転進していた遥のダガーが、伸び上がった怪人の首元へと突き刺さった。
　ロープを担いでいるフィルラントが更に踏み込んで、怪人の爪先に頬の皮膚を削られながらも、二撃目を叩き込む。　
「ええい、次から次へとキリがあらへん！」
　フィルラントのメイスに打ち飛ばされた怪人が、身軽にゴアドーの上を捉え、回転しながら体勢を立て直す。
　その後ろのコブではまた新たな怪人が姿を現し始めていた。
「突き落としたヤツ数えて、数を競わな、やってられへんわ！！」
　フィルラントが頬の血を拭いながら、ひゅるんっとメイスの先を返す。
「良いですね、それ」
　遥が手元に返ったダガーの血だか体液だかを払いながら、フィルラントの傍らに、くらりと立って笑う。
　悠がシルバと斬り結んでいた怪人を打ち弾いて、更に一歩深く。
　そして、突き上げ引っ掛けてゴアドーの外へと捨て去った。
「我らが護衛する――貴殿らを必ずや送り届けよう」
「という事なのじゃ！」
　悠と御厨が言って、行く手を遮る怪人達の方へとそれぞれ向かう。
　ラルクが火薬の匂いを撒き散らす銃口を振って。
「そりゃ助かるな――っしゃ！　一気に翔るぜ！」
「行きますかぁ」
　佐々良と共に右肩方面へと抜けていく。
　そして。
「夏希ッ！」
「はい……」
　シルバと夏希は悠達の切り開いた道を駆けてゴアドーの左肩を目指していく。

　背中からゴアドーの左脚を目指すメイベル・ポーター（めいべる・ぽーたー）とパートナーのセシリア・ライト（せしりあ・らいと）の行く先に立ちはだかった怪人へと、時枝　みこと（ときえだ・みこと）の切っ先が巡った。
　それが、演舞のようにしなやかな線を描く。
　みことの左手にはカルスノゥトは刀身が下向きに握られ、右手には刀身を上にした光条兵器が握られていた。
　カルスノゥトの刀身で鮮やかな閃きを走らせながら、光条兵器を怪人へと叩き込む。
　パートナーのフレア・ミラア（ふれあ・みらあ）のパワーブレスによって強化されているその剣撃により、怪人の身体が吹き飛んでいく。
「怪しい怪人どもめ！　これ以上好き勝手にさせん！」
　みことは、シャンと二つの刃を構えながら言って。
「それ。台詞になって無いですよ、みことさん」
「うん、言ってみて、自分でもそう思った」
　フレアの言葉に素直に頷いた。
　その横を、高潮　津波（たかしお・つなみ）によるパワーブレスを受けた津波のパートナーのナトレア・アトレア（なとれあ・あとれあ）が駆る。
「なにはともあれ――邪魔はさせませんわ！」
　振りかざした剣に雷気を迸らせ、ヂィと弾ける音を引き連れて怪人へと突き込んで行く。
　一方、後方から追ってくる怪人達へは高月　芳樹（たかつき・よしき）のサンダーブラストが走り。
　芳樹のパートナーのアメリア・ストークス（あめりあ・すとーくす）がカルスノゥトを手に、サンダーブラストを受けながらも尚、飛び掛って来る怪人へと剣閃を滑らせていた。
「さあ、この場は僕らに任せて先に行くんだ」
　芳樹が新たな魔術を組み上げながら言って。
「ああー……それはいわゆる『死亡ふらぐ』というものでは？」
　津波が頬に手を添えながら、何やら心配そうに呟いた。
「とにかく。ここは私たちが抑えるわ。急いで！」
　アメリアに促されて。
「はいぃ」
「うんっ」
　メイベルとライトがみこと達の切り開いていく道をゴアドーの左脚方面へと向かっていく。

■ゴアドー頭部付近
「大怪獣ゴアドー……貴殿は悪党に利用されたのでしょうが」
　ゴアドーの首筋へ辿り着いた紫織が燕と同時に剣を振りかざす。
「それがしには守らねばならないモノがあります！」
「律儀やなぁ」
　燕が細い目を苦笑させながら、構えを取り――ソニックブレードをゴアドーの延髄と思われる辺りに放った。
　閃光だけが走り、音が後を追う。
「生きもんの動き止めよ、思たらここか腱を狙うんがセオリーどすぇ」
　そして、ドス黒い体液を噴き上げたその裂け目へと紫織の爆炎波が叩き込まれる。
　ジュッと大量の体液が蒸発する音と気配、そして肉が焼けて焦げて砕ける感触。
　だが――。
　ゴアドーに反応は無かった。
　燕と紫織は互いの顔を見合わせてから、頷き、すぐに怪人退治へと意識と動きをシフトした。