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真女の子伝説

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真女の子伝説

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    ☆    ☆    ☆
 
「いたー、あそこだよー」
 玖瀬 まや(くぜ・まや)が、逃げていく六本木優希たちを見つけて叫んだ。
「はーい、まっかせてくださいませー。やりますよ、アリス」
 葉月 可憐(はづき・かれん)に言われて、アリス・テスタイン(ありす・てすたいん)が背中を向けて背後に立った。葉月可憐は後ろに手を回すと、アリス・テスタインの背中からガトリングガン型の光条兵器を取り出し、クルリと回転させて構えた。そのまま、問答無用で六本木優希たちにむかって乱射する。
「ちょ、ちょっと、なんですか!?」
「危ない、ユーキ」
 とっさに、アレクセイ・ヴァングライドが六本木優希の盾になって、降り注ぐ光弾をその身で防いだ。幸いなことに、光条兵器の設定が人体以外になっているので、服がぼろぼろになる以外は怪我はなかった。
「まやちゃん、エリアスさん、アリス、ゴーですっ♪」
 葉月可憐が叫んだ。
「そうはさせるか!」
 アレクセイ・ヴァングライドが、氷術で葉月可憐の腰から下を凍らせた。光条兵器も凍りつき、攻撃できなくなる。
「いやだ。冷え性になったらどうするんです」
 わめいてはみるが、もはや身動きができない。
「大丈夫?」
 ぼろぼろになったアレクセイ・ヴァングライドを、六本木優希が心配して駆けよる。
「今よ、かかれぇ!」
 エリアス・テスタロッサ(えりあす・てすたろっさ)が叫んだ。六本木優希を取り囲むようにして近づいていた玖瀬まやとアリス・テスタインも一斉に飛びかかる。
 六本木優希はあっけなく押し倒され、五人入り乱れての取っ組み合いになった。
「お姉ちゃんをいじめちゃいやあ」
 突然の幼女の泣き声に、女の子四人がピタリと止まる。おかっぱ姿のアレクセイ・ヴァングライドが、しくしくと泣いていた。
「アレク!?」
 さすがにあまりに予想外の変身に、六本木優希が呆然とする。
「取ったあ。逃げますよ、まや」
 争奪戦に勝ったエリアス・テスタロッサが叫んで走りだした。
「うん」
 玖瀬まやたちは、用意してあった一台の自転車の所へむかうと、素早くそれに乗って走りだした。
「やっぱり、女の子には、さらに女らしくなるっていう効果はないのかあ」
 自転車を豪快に漕ぎながら、エリアス・テスタロッサは言った。
「でも、さっきみたく小さくなっちゃうよりはいいよね。さあ、このままカジノへゴー。なるべく高く売って、コトブッキーいっぱいに小銭を貯めるんだもん」
 頭の上に載せた子豚の貯金箱をちゃりんちゃりん言わせながら、荷台に乗った玖瀬まやは言った。
「うーん、このポーズかしらあ」
 新しいポーズをとる国頭武尊の前を二人の乗った自転車が猛スピードで走り抜けようとした。とたん、自転車が大きく跳ねる。
「ああ、私のカメラがぁ」
 自転車に轢かれてバラバラになって吹っ飛んだビデオカメラを見て、国頭武尊が絶句した。
「この程度のバウンドで……」
 エリアス・テスタロッサが、ハンドルを力任せに握ると、なんとか自転車を押さえ込んだ。
「ふう」
 暴れる自転車をなんとかしたとエリアス・テスタロッサが思った瞬間、真横からジュスティーヌ・デスリンク(じゅすてぃーぬ・ですりんく)の乗った自転車が突っ込んできた。
「あわわわわわわ、ごめんなさいですわー!!」
 避ける間もなく、二台の自転車が激突した。三人が吹っ飛ばされて気絶する。
「お上手ですわよ、ジュスティーヌ。さすがは、わたくしの鉄砲玉ですわ。さあ、行きますわよ、アンドレ」
 満を持して、自転車に乗ったジュリエット・デスリンク(じゅりえっと・ですりんく)が同様に自転車を漕ぐアンドレ・マッセナ(あんどれ・まっせな)とともに現れた。楽々と真珠を手に入れ、その場から走り去る。
「こーんな楽しい−−いえ、危険なアイテムは、ラズィーヤお姉様に悪用−−いえいえ、厳重に保管していただかねば。きっと、素敵にカオスな場所においてくださるに違いありませんわ」
 いつぞやラズィーヤ・ヴァイシャリーに世話になったことを思い出しつつ、ジュリエット・デスリンクは自転車を走らせた。変なところが律儀なジュリエット・デスリンクではある。
 百合園女学院に辿り着くまでに他の者に襲われては元も子もない。ジュリエット・デスリンクたちは、全力疾走ではばたき広場を走り抜けていった。
「はあ、はあ、はあ……。この速さなら、百合園女学院は……すぐ……ですわ……。うっぷ」
 思いっきり息を切らしながら、ジュリエット・デスリンクは嘔吐(えず)いた。普段からたいていの肉体仕事はジュスティーヌ・デスリンクにやらせているので、日頃の運動不足がよりによって今たたったのである。
「ぜいぜい……」
 北の大橋が見えてくるころには、何も知らない通行人がジュリエット・デスリンクの自転車を歩いて追い抜くほどのスピードにまで落ちていた。その横を、アンドレ・マッセナが猛スピードで走り抜ける。
「鍛え方が違うじゃん! こっちはまだまだ元気じゃん! マッセナは奪うじゃん!」
 気がつくと、ジュリエット・デスリンクの手から真珠がなくなっていた。
「はあはあ、これ、なに……するんです……の」
 言いながらも力尽きて、ジュリエット・デスリンクの自転車はぱったりと横に倒れた。
 
 
5.橋
 
 
「このまま、どこかで売り払って……はう!?」
 喜び勇んで大橋を渡り始めたアンドレ・マッセナだが、突然自転車が急停車して投げ出された。どうすることもできずに、橋の欄干に顔面から激突して気絶する。
「おナイスですわ、ラムール」
「へへっ、任せておけなのじゃ」
 佐倉 留美(さくら・るみ)に褒められて、ラムール・エリスティア(らむーる・えりすてぃあ)がはにかんだ。
「これで、邪悪な真珠もやっと破壊できるのじゃな」
「も、も、も、もちろんですとも」
 ちょっとひきつりながら真珠を拾いあげる佐倉留美に、ラムール・エリスティアが思いっきり疑いのまなざしをむける。
「まさか、悪用しようなどと思って……」
「そんなことはありませんですわ」
 ヒップラインぎりぎりの短いスカートを翻しながら、佐倉留美がクルリと反転して言った。そんな佐倉留美の本心を表すように、真珠が怪しくどピンク色に輝く。
 怪しいとは思いつつも、誰にも見られてはいないだろうなとラムール・エリスティアがヒヤヒヤしていると、そこへ、如月 佑也(きさらぎ・ゆうや)たちが駆けつけてきた。
「きっとあれが呪いのアイテムです! 何か光ってるし、あからさまに怪しいです!」
 ラグナ アイン(らぐな・あいん)が、佐倉留美の持つ真珠を指さして叫ぶ。
「やれやれ。待ち伏せしていたかいがあったというものだぜ。さあ、さっさとその真珠を渡してもらおうか」
 佐倉留美の行く手に立ち塞がって、如月佑也は言った。もともと、こんな物の争奪戦に興味はない。だが、パートナーたちのたっての願いで参加しているだけなのだ。
「そう簡単には、渡さないのじゃ」
「まあまあ、相手はむさい男の方ですし。いきなり事を荒立てても……」
 臨戦態勢を取るラムール・エリスティアを、なぜか佐倉留美がなだめた。
「ここは私たちに任せてください」
 同様に、ラグナアインが如月佑也を押さえた。
 どうやら、ここは両者とも穏便にすませたいようだ。
「はいみんな注目! おとなしくアイテム渡してくれたら、この二一歳童貞のイケてるお兄さんが彼氏になってくれるよ!」
 突然、アルマ・アレフ(あるま・あれふ)が元気よく宣言した。
「ちょっと待て! なるわけないだろっ! 人の貞操をなんだと思ってるんだ!」
 予想もしていなかった展開に、如月佑也が叫んだ。
「んー、でも、わたくし、男の方は……」
 そう言いながら、佐倉留美は如月佑也ににじり寄っていった。
「でもぉ……」
 そう言いつつ、いきなり真珠を如月佑也にくっつける。
「ああ、何をなさるのぉ」
 長身の仏頂面の青年が消え、小柄で華奢な少女がそこに立っていた。
「ナイスですわ! では、いただいていきますわ」
 少女化した如月佑也をやにわに小脇にかかえると、そのまま拉致して佐倉留美は走りだした。
「きゃー」
「ちょっと、いきなりなんて面白いことをするんですか。許さないんだもん」
 悲鳴をあげる如月佑也を見て、アルマ・アレフが急いで佐倉留美を追いかけた。だが、その口許がうっすらと笑っているように見えたのは気のせいだろうか。
「ああ、私も行きますです」
 ラグナアインも後を追う。
「うー、なんとなく不本意じゃが、留美は守るのじゃ!」
 再びラムール・エリスティアが氷術で橋の上を凍らせた。
「ちょ、ちょっとぉ!」
「どいてください、アルマさん。どいてぇ〜」
 つるりとすべったアルマ・アレフに、同じくすべったラグナ アインが勢いよくぶつかった。
「あ〜れ〜」
 そのまま二人とも橋から運河へと落下する。
「逃がさないんだよ!」
 佐倉留美がそのまま逃げ切るかと思われたところへ、木の上から飛び降りてきたミレイユ・グリシャム(みれいゆ・ぐりしゃむ)が、突然行く手を塞いだ。
 さすがに、佐倉留美も立ち止まるが、たいして驚くこともなく、すぐさま左右のどちらかへ避けて走り去ろうとした。だが、そのへんはミレイユ・グリシャムもぬかりなく、パートナーのシェイド・クレイン(しぇいど・くれいん)が立ち塞がる。
「わたくしの前に男は不要ですわ」
 佐倉留美は、シェイド・クレインに体あたりするように突っ込んでいった。
「ちょっと待って、うわっ、来ないでください。来ないで〜」
 佐倉留美の振り回す真珠に触れて、あっけなくシェイド・クレインが女性化する。
「ああああ、やっぱりこういう展開に……」
「きゃあ、お姉様ぁ♪」
 目の前に現れた銀髪長身の白いドレスの淑女に、佐倉留美が嬌声をあげる。喜びのあまりさらに真珠を振り回すと、突然何かにぶつかった。
「しまったぁ。触ってしまったのだぁ」
 いきなり光学迷彩が解けて、佐倉留美のそばに、バニー姿のデューイ・ホプキンス(でゅーい・ほぷきんす)の姿が現れた。
「こ、これが着ぐるみ? リアルすぎるぅ」
 どうやら元はゆる族らしい。その姿が中の人が変化した姿なのか、もの凄い薄い着ぐるみが肌に貼りついているのかはよく分からない。
「ハーレムよぉぉぉぉぉ!」
 美形の女の人に囲まれて、佐倉留美は恍惚状態だ。
「あああ、それは後でワタシがやって遊ぶ予定だったのにぃ」
 先を越されてしまったとばかりに、ミレイユ・グリシャムは叫んだ。
「なんですってー」
 それを聞いて、シェイド・クレインとデューイ・ホプキンスが声をそろえて叫ぶ。
「とにかく、それは壊させてもらうわ!」
 真珠を奪おうと、デューイ・ホプキンスが手をのばした。
「まだまだ。もっとハーレムを増殖させるまでは渡せないですわ」
 渡してなるものかと、佐倉留美が如月佑也を放り出して抵抗する。
「えーん」
 泣きながら、如月佑也はシェイド・クレインにだきついていった。
「大丈夫じゃな、留美!」
 そこへラムール・エリスティアもやってくる。当然、ミレイユ・グリシャムも加わって、六人入り乱れての争奪戦になりながら、じわじわと橋を渡っていった。
「はいはーい、こっちですよー」
 橋の終わり付近に立った七瀬 瑠菜(ななせ・るな)が、なぜか彼女たちを手招きした。とはいえ、奪い合いに夢中なミレイユ・グリシャムたちは、そんな言葉には耳を貸さずに、一団となって進んでいく。
 彼女たちが橋を渡り終わったと思った瞬間、全員の姿が一瞬にして消えた。
「きゃあー」
「何よこれ」
「穴じゃ、穴」
「暗いよ、狭いよ〜」
「こら、ごそごそ動くんじゃねえ」
「やっぱり、こういう目に遭うのよ。しくしくしく……」
 落とし穴の中の騒ぎなどいざ知らず、七瀬瑠菜は穴の外に落ちていた真珠をゆっくりと拾いあげた。
「さあ、校長室をめざすんだもん♪」
 七瀬瑠菜は、もうすぐそこにある百合園女学院をめざして走りだした。